書いてあること

  • 主な読者:社員の育児をサポートするための支援制度について知りたい経営者
  • 課題:育児・介護休業法の改正などもあって、支援制度の全体像が把握しにくい
  • 解決策:支援制度は7つで、「休みを与える」か「労働時間を短くする」かに分けられる

1 社員の育児をサポートする7つの支援制度

子が産まれた社員が、その後も育児をしながら働き続けるためには、会社のサポートが欠かせません。独自の制度で育児をサポートする会社はたくさんありますが、まず押さえておかなければならないのが、育児・介護休業法で定められている7つの支援制度(育児休業など)です。

7つの支援制度には、

  • 対象となる社員から請求があったら必ず実施しなければならない(請求がなければ不要)
  • サポートの方法が「休みを与える」か「労働時間を短くする」かに分けられる

という特徴があり、一覧でまとめると、図表1のようになります。

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以降で、それぞれの制度の詳細を見ていきます。なお、制度の対象者はパート等への適用も含めて最後に一覧でまとめているので、他の支援制度と比較しながらご確認ください。

2 育児休業

1)育児休業とは

育児休業とは、

社員が原則1歳未満の子を養育する場合、原則その子の1歳到達日まで休める制度

です。「1歳到達日」というのは、「1歳の誕生日の前日」という意味です(以下同じ)。

男女ともに取得でき、女性社員の場合は通常、産前・産後休業(出産のため産前6週間、産後8週間まで休める制度。労働基準法)の終了とともに育児休業が始まります。また、

2022年10月1日からは、育児休業を2回に分けて取得する「分割取得」

が認められるようになっています。例えば、図表2のように配偶者と交代で育児休業をしながら空いた時間で仕事をするといった働き方が可能です。

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また、育児休業は「子が1歳になるまで(1歳到達日まで)」が原則ですが、一定の要件を満たすと「1歳2カ月」「1歳6カ月」「2歳」までその期間を延長できます。育児休業を延長するための要件は、図表3の通りです。

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なお、図表3は育児休業を「延長」するための要件ですが、1歳6カ月、2歳までの育児休業については、この他に「再取得」というルールもあります。本来、1歳6カ月、2歳までの育児休業が認められるためには、社員が子の1歳到達日、1歳6カ月到達日の時点で育児休業を取得している必要がありますが、

2022年10月1日からは、社員が育児休業をすでに終了していても、配偶者が育児休業を取得していれば、その終了予定日の翌日以前に限り、「1歳から1歳6カ月まで」か「1歳6カ月から2歳まで」の任意のタイミングで、もう1回育児休業を取得

できるようになっています。

2)育児休業申出

育児休業を取得する社員は原則、次の期日までに、育児休業の開始予定日、終了予定日などを会社に申し出る必要があります。

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また、社員の申出が期日よりも遅れた場合、会社は次の範囲内で、育児休業の開始予定日を指定します。

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3)育児休業の開始・終了予定日の変更

社員は同一の子について休業1回につき1回だけ、

  • 育児休業の開始予定日の繰り上げ(当初の予定よりも早い時期に育児休業を開始する)
  • 育児休業の終了予定日の繰り下げ(当初の予定よりも遅い時期に育児休業を終了する)

が可能です。

繰り上げは、特別の事情(予定日より早い出産、配偶者の死亡など)がある社員が、繰り上げを希望する日の1週間前までに会社に申し出ると認められます。社員の申出が期日より遅れた場合、会社が「繰り上げを希望する日」から「実際に申出があった日の翌日から1週間を経過する日」までの間で、開始予定日を指定します。

繰り下げは、育児休業を取得している社員が、育児休業の終了予定日の1カ月前(1歳6カ月、2歳までの育児休業の場合は2週間前)までに申し出ると認められます。なお、「子が1歳から1歳6カ月に達するまで」「1歳6カ月から2歳に達するまで」の期間については、これとは別に、それぞれ1回ずつ、終了予定日の繰り下げが認められています。

4)育児休業の終了

育児休業は、社員が申し出た終了予定日に終わります。その他にも次のような場合、社員の意思にかかわらず育児休業は終了します。

  • 子を養育しなくなった場合
  • 子の1歳(育児休業の延長や再取得をするときは1歳2カ月、1歳6カ月、2歳)到達日を経過した場合
  • 育児休業中の社員が、産前・産後休業、出生時育児休業、介護休業または新たな育児休業を開始した場合
  • 1歳2カ月までの育児休業については、上記に加えて出生日以後の産前・産後休業と育児休業(出生時育児休業を含む)の期間が合計1年に達した場合

5)育児休業申出の撤回

育児休業を申し出た社員は、育児休業の開始予定日の前日までに申し出ると、育児休業申出を撤回できます。

撤回1回につき1回休業したものとみなされるため、2回撤回した場合は育児休業の申出は原則できなくなります。ただし、配偶者の死亡など特別の事情がある場合は認められます。また、育児休業の申出を撤回した場合も、1歳6カ月、2歳までの育児休業の申出は可能です。

6)育児休業期間中の就業

育児休業期間中に社員を就業させることは原則できません。ただし、子を養育する必要がない期間(配偶者も育児休業を取得している場合など)については、社員と会社が話し合うことで、一時的・臨時的に就業が認められます。

7)育児休業期間中の賃金

育児休業期間中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。無給の場合も、社員が一定の要件を満たせば、

雇用保険の育児休業給付金(最大で賃金の67%相当を支給)

を受けられます。ただし、育児休業中に社員を就業させ、就業が月10日(10日を超える場合は80時間)を超えた場合、給付は受けられません。

3 出生時育児休業

出生時育児休業とは、2022年10月1日から始まった

男性社員など(養子縁組をしたなど、一定の要件を満たす女性社員も一部対象となる)が産後8週間以内の子を養育する場合、産後8週間以内に4週間(28日)まで休める制度

で、通称「産後パパ育休」と呼ばれています。

基本的なイメージは育児休業と同じですが、出生時育児休業は、男性社員が出生直後の配偶者をサポートするための制度なので、育児休業とは少しルールが違います。

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「1.休業の申出」については、原則休業開始の2週間前までに申し出ればよく、男性社員は直前まで休業を取得するかどうかを熟考できます。なお、雇用環境の整備などについて一定の要件を満たせば、申出期限を労使協定で締結する日(2週間超1カ月以内)とすることが可能です。

「2.休業期間」については、制度の趣旨が出生直後の配偶者のサポートにある関係で、育児休業よりも短く設定されています。

「3.休業中の就業」については、労使協定を締結した上で休業開始前に男性社員と会社が個別に合意すると、休業中に男性社員を就業させることができます。ただし、休業中の就業に関しては、就労可能な日数・時間の上限があります(あくまで休業することが目的のため)。

「4.休業中の賃金」については、育児休業と同じく賃金の支払い義務はありません。また、男性社員が一定の要件を満たすと、

雇用保険の出生時育児休業給付金(最大で賃金の67%相当を支給)

を受けられます。

「5.休業の分割取得」については、育児休業と同じく2回までの分割取得が可能です。なお、

出生時育児休業と育児休業は別々に取得できる

ので、男性社員の場合、両者を組み合わせることで、仕事と育児のスケジューリングがしやすくなります。

4 子の看護休暇

子の看護休暇とは、

社員が小学校就学前の子を養育する場合、看護などのために1年度に5日(対象となる子が2人以上の場合は10日)まで休める制度

です。例えば、子が病気になった場合の看病や、予防接種・健康診断を受けさせるためなどに取得できます。

休暇は1日単位だけでなく、1時間単位でも取得可能

です。また、休暇中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。

5 所定外労働の制限

所定外労働の制限とは、

社員が3歳未満の子を養育する場合、所定外労働を免除される制度

です。所定外労働とは、所定労働時間(法定労働時間の範囲内で、会社が就業規則等で定める労働時間の上限)を超える労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

6 時間外労働の制限

時間外労働の制限とは、

社員が小学校就学前の子を養育する場合、月24時間、年150時間を超える時間外労働を免除される制度

です。時間外労働とは、法定労働時間(労働基準法で定める労働時間の上限。原則1日8時間、週40時間)を超える労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

7 深夜業の制限

深夜業の制限とは、

社員が小学校就学前の子を養育する場合、深夜業を免除される制度

です。深夜業とは、原則として午後10時から午前5時までの労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上6カ月以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

8 所定労働時間の短縮措置等

所定労働時間の短縮措置等とは、

社員が3歳に満たない子を養育する場合、1日の所定労働時間を短縮する(例:6時間以内)などの措置を受けられる

制度です。業務の都合などで所定労働時間の短縮が困難な社員については、

労使協定により短縮措置の対象から除外した上で、代替策として「フレックスタイム制」「時差出勤」「保育施設の設置運営など」といった、子を養育しやすくするための措置

を実施しなければなりません。

9 子を養育する社員のための支援制度の一覧

ここまで、社員の育児をサポートする7つの支援制度について紹介してきましたが、

一部、雇用継続の見込みや勤続年数、所定労働日数などの関係で、制度を適用しなくてもよいとされている社員

がいます。具体的には、

  • 育児・介護休業法上、対象者にならない社員
  • 労使協定の締結により、対象者から除外できる社員

です。

最後に、7つの支援制度の種類と対象者の一覧を紹介します。「●」が付いている社員が、制度を適用しなくてもよい人です。

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以上(2023年8月更新)
(監修 シンシア総合労務事務所 特定社会保険労務士 白石和之)

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画像:pixabay

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