1 育児の支援制度は8つ、2025年度から手厚くなる!

子が生まれた社員が、その後も育児をしながら働き続けるためには、会社のサポートが欠かせません。まず押さえておくべきは、育児・介護休業法で定められている支援制度です。

育児休業をはじめとする支援制度には、

  • 対象となる社員から請求があったら必ず実施する(社員が妊娠・出産の申し出をしてきた時点で、支援制度について個別に周知し、利用の意向を確認する義務がある)
  • サポートの方法が「休みを与える」か「労働時間を短くする」かに分けられる

という特徴があり、また、2025年度からは図表1の赤字の通り、内容が手厚くなります。

画像1

以降で、それぞれの制度の詳細を見ていきます。なお、制度の対象者はパート等への適用も含めて最後に一覧でまとめているので、他の支援制度と比較しながらご確認ください。

2 育児休業

1)育児休業とは

育児休業とは、

社員が原則1歳未満の子を養育する場合、原則その子の1歳到達日まで休める制度

です。通称「育休」と呼ばれています。なお、「1歳到達日」というのは、「1歳の誕生日の前日」という意味です(以下同じ)。

男女ともに取得でき、女性社員の場合は通常、産前・産後休業(出産のため産前6週間、産後8週間まで休める制度。労働基準法)の終了とともに育児休業が始まります。なお、

育児休業は2回に分けて取得できるので、配偶者と交代で働きながら育児をする

といった働き方も可能です(図表2)。

画像2

また、育児休業は「子が1歳になるまで(1歳到達日まで)」が原則ですが、一定の要件を満たすと「1歳2カ月」「1歳6カ月」「2歳」までその期間を延長できます(図表3)。

画像3

なお、図表3は育児休業を「延長」するための要件ですが、

1歳6カ月、2歳までの育児休業については、この他に「再取得」というルール

もあります。1歳6カ月、2歳まで育児休業を延長するには、社員が子の1歳到達日、1歳6カ月到達日に育児休業を取得している必要がありますが、仮に社員自身の育児休業が終了していても、

配偶者が育児休業を取得していれば、その終了予定日の翌日以前に限り、「1歳から1歳6カ月まで」か「1歳6カ月から2歳まで」の任意のタイミングで、もう1回育児休業を取得することが可能

です。

2)育児休業の申出

育児休業を取得する社員は原則、図表4の期日までに、育児休業の開始予定日、終了予定日などを申し出る必要があります。

画像4

申出が遅れた場合、会社は図表5の範囲内で開始予定日を指定します。

画像5

3)育児休業の開始・終了予定日の変更

社員は同一の子の育児休業について、休業1回につき1回だけ

  • 開始予定日の繰り上げ(当初の予定よりも早い時期に育児休業を開始する)
  • 終了予定日の繰り下げ(当初の予定よりも遅い時期に育児休業を終了する)

が可能です。

繰り上げは、特別の事情(早産、配偶者の死亡など)がある社員が、繰り上げ希望日の1週間前までに申し出ると認められます。申出が遅れた場合、会社が「繰り上げ希望日」から「実際に申出があった日の翌日から1週間を経過する日」までの間で、開始予定日を指定します。

繰り下げは、育児休業を取得している社員が、終了予定日の1カ月前(1歳6カ月、2歳までの育児休業の場合は2週間前)までに申し出ると認められます。

4)育児休業の終了

育児休業は、社員が申し出た終了予定日に終わります。その他にも次のような場合、社員の意思にかかわらず育児休業は終了します。

  • 子を養育しなくなった
  • 子の1歳(育児休業の延長等をする場合、1歳2カ月、1歳6カ月、2歳)到達日を経過した
  • 育児休業中の社員が、産前・産後休業、出生時育児休業、介護休業または新たな育児休業を開始した
  • 1歳2カ月までの育児休業については、上記に加えて出生日以後の産前・産後休業と育児休業(出生時育児休業を含む)の期間が合計1年に達した

5)育児休業の申出の撤回

育児休業を申し出た社員は、開始予定日の前日までに申し出ると、その申出を撤回できます。撤回1回につき1回休業したものとみなされるため、2回撤回すると育児休業の申出は原則できなくなります。ただし、特別の事情(配偶者の死亡など)がある場合は認められます。また、育児休業の申出を撤回した場合も、1歳6カ月、2歳までの育児休業の申出は可能です。

6)育児休業期間中の就業

育児休業期間中に社員を就業させることは原則できません。ただし、子を養育する必要がない期間(配偶者も育児休業を取得しているなど)については、社員と会社が話し合うことで、一時的・臨時的に就業が認められます。

7)育児休業期間中の賃金

育児休業期間中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。無給の場合も、社員が一定の要件を満たせば、

雇用保険の「育児休業給付金」(賃金の67%相当、休業開始6カ月後以降は50%相当)

を受けられます。ただし、育児休業中に社員を就業させ、就業が月10日(10日を超える場合は80時間)を超えた場合、給付は受けられません。

なお、2025年4月1日からは、社員が配偶者と同時に14日以上の育児休業(または出生時育児休業)を取得するなど一定の要件を満たすと、新たに

雇用保険の「出生後休業支援給付金(新設)」(賃金の13%相当)

を受けられ、育児休業給付金と同時に受給すれば、最大で賃金の80%相当をカバーできます。

8)育児休業取得状況の公表

社員数1000人超の会社には、男性社員の育児休業等(出生時育児休業を含む)の取得状況をインターネットなど一般人が閲覧できる方法で公表する義務があります。厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば(下記URL参照)」などでの公表が推奨されています。

なお、2025年4月1日からは、

公表義務の対象が「社員数1000人超の会社」から「社員数300人超の会社」に引き下げ

られます。

■厚生労働省「両立支援のひろば」■

https://ryouritsu.mhlw.go.jp/

3 出生時育児休業

出生時育児休業とは、

男性社員など(養子縁組をしたなど、一定の要件を満たす女性社員も一部対象となる)が産後8週間以内の子を養育する場合、産後8週間以内に4週間(28日)まで休める制度

で、通称「産後パパ育休」と呼ばれています。

基本的なイメージは育児休業と同じですが、出生時育児休業は、男性社員が出生直後の配偶者をサポートするための制度なので、育児休業とは少しルールが違います(図表6)。

画像6

「1.休業の申出」については、原則休業開始の2週間前までに申し出ればよく、男性社員は直前まで休業を取得するかどうかを熟考できます。なお、雇用環境の整備などについて一定の要件を満たせば、申出期限を労使協定で締結する日(2週間超1カ月以内)とすることが可能です。

「2.休業期間」については、制度の趣旨が出生直後の配偶者のサポートにある関係で、育児休業よりも短く設定されています。

「3.休業中の就業」については、労使協定を締結した上で休業開始前に男性社員と会社が個別に合意すると、休業中に男性社員を就業させることができます。ただし、休業中の就業に関しては、就労可能な日数・時間の上限があります(あくまで休業することが目的のため)。

「4.休業中の賃金」については、育児休業と同じく賃金の支払い義務はありません。また、男性社員が一定の要件を満たすと、

雇用保険の「出生時育児休業給付金」(賃金の67%相当を支給)を受けられます。こちらも2025年4月1日からは、前述した「出生後休業支援給付金」と同時に受給することが可能

です。

「5.休業の分割取得」については、育児休業と同じく2回までの分割取得が可能です。なお、

出生時育児休業と育児休業は別々に取得できる

ので、男性社員の場合、両者を組み合わせると仕事と育児のスケジューリングがしやすいでしょう。

4 子の看護休暇(子の看護等休暇)

子の看護休暇とは、

社員が小学校就学前の子を看護する場合、1年度に5日(対象となる子が2人以上の場合は10日)まで休める制度

です。病気になった子の看病の他、予防接種・健康診断を受けさせる場合にも取得できます。

休暇は1日単位だけでなく、1時間単位でも取得可能

です。また、休暇中の賃金を有給とするか無給とするかは、会社が就業規則等で決められます。

なお、2025年4月1日からは名称が「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変わり、

子の看護だけでなく、学校行事に参加する場合などにも取得可能になる他、対象となる子の年齢も「小学校就学前」から「小学3年生修了まで」に引き上げ

られます。

5 所定外労働の制限

所定外労働の制限とは、

社員が3歳未満の子を養育する場合、所定外労働を免除される制度

です。所定外労働とは、所定労働時間(法定労働時間の範囲内で、会社が就業規則等で定める労働時間の上限)を超える労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

なお、2025年4月1日からは、

対象となる子の年齢が「3歳未満」から「小学校就学前」に引き上げ

られます。

6 時間外労働の制限

時間外労働の制限とは、

社員が小学校就学前の子を養育する場合、月24時間、年150時間を超える時間外労働を免除される制度

です。時間外労働とは、法定労働時間(労働基準法で定める労働時間の上限。原則1日8時間、週40時間)を超える労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上1年以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

7 深夜業の制限

深夜業の制限とは、

社員が小学校就学前の子を養育する場合、深夜業を免除される制度

です。深夜業とは、原則として午後10時から午前5時までの労働のことです。この制度は、

何度でも利用可能ですが、1回の請求につき制限期間は1カ月以上6カ月以内とし、請求は制限を開始する1カ月前までにする必要

があります。

8 所定労働時間の短縮措置等

所定労働時間の短縮措置等とは、

社員が3歳未満の子を養育する場合、短時間勤務(例:1日6時間以内)などの措置を受けられる制度

です。業務の都合などで短時間勤務が困難な社員については、

労使協定により短時間勤務の対象から除外した上で、代替策として子を養育しやすくするための措置(フレックスタイム制、時差出勤、保育施設の設置運営など)

を実施しなければなりません。

なお、2025年4月1日からは、

措置の1つにテレワークが追加

されます。また、少々ややこしいですが、同じく2025年4月1日からは、本項目である「所定労働時間の短縮措置等」とは別に、

3歳未満の子を育てる社員に対し、働き方の1つとしてテレワークを選択できるようにすることが努力義務化

されます。

9 柔軟な働き方を実現するための措置等(新設)

柔軟な働き方を実現するための措置等とは、2025年10月1日から新設される、

社員が3歳以上小学校就学前の子を養育する場合、短時間勤務などの措置を受けられる制度

です。前述した所定労働時間の短縮措置等と似ていますが、こちらは図表7の右欄のように、会社が2つ以上の措置を実施し、社員がそのうち1つを選択して利用できるという仕組みになっています。

画像7

なお、会社は社員の子が3歳になるまでの間に、面談等により柔軟な働き方を実現するための措置等の内容を個別に周知し、利用の意向を確認する義務を負うことになります。

10 子を養育する社員のための支援制度の一覧

ここまで、社員の育児をサポートする支援制度について、2025年度の法改正で新設が予定されている分を含め8つ紹介してきましたが、

一部、雇用継続の見込みや勤続年数、所定労働日数などの関係で、制度を適用しなくてもよいとされている社員

がいます。具体的には、

  • 育児・介護休業法上、対象者にならない社員
  • 労使協定の締結により、対象者から除外できる社員

です。最後に、8つの支援制度の種類と対象者の一覧を紹介します。「●」が付いている社員が、制度を適用しなくてもよい人です。

画像8

今後に向けて特に注意が必要なのが「子の看護休暇(子の看護等休暇)」「所定労働時間の短縮措置等」です。

まず、子の看護休暇(子の看護等休暇)については、2025年4月1日からは

入社6カ月未満の社員を、労使協定の締結により対象から除外することは不可

となります。

次に、所定労働時間の短縮措置等については、前述した通り2025年10月1日から「柔軟な働き方を実現するための措置等」が新設され、国が限定列挙する措置の中から2つ以上を選択することが義務付けられます。選択肢の中には「所定労働時間の短縮措置」も含まれており、それを選択した会社は、対象となる子の年齢を「3歳未満の子」から「小学校就学前の子」に引き上がることになります。ただ、

子が「3歳未満」か「3歳以上」かによって、社員を対象から除外できるかできないかが変わってくるケース

が出てきますので、運用面においては注意が必要です。

以上(2025年1月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

pj00401
画像:metamorworks-Adobe Stock

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です