書いてあること

  • 主な読者:顧客や取引先に花を贈りたい経営者
  • 課題:どんな花がふさわしいか、どのように贈るのかなどのマナーが分からない
  • 解決策:お祝い事やお見舞いなど、シチュエーションに応じたマナーがあるので、それを押さえる

1 ビジネスで花を贈る意味

ビジネスではコミュニケーションの一環として、顧客や取引先に贈り物をすることがあります。贈り物の定番といえば花ですが、花を贈る際には配慮すべきマナーが多く、比較的高価でもあることから、近年は花以外の商品を贈り物に選ぶ会社が増えているようです。

しかし、贈り物として花が選ばれにくい今だからこそ、あえて花を贈ることで、こちらの気持ちを相手に伝えやすくなる面もあります。シチュエーションや相手の好みを踏まえた花を選び、マナーを守って届けることができれば、相手は「自分のことを大切に思い、これだけの手間をかけてくれた」と好感を抱いてくれるでしょう。花を贈る相手がこれから関係を強化していきたい営業先である場合、そのオフィスに自社の立て札が付いた花を飾ってもらうことで、きれいな花と一緒に自社の存在を印象づけることができます。

本稿では、ビジネスで顧客や取引先に花を贈る際の基本的なマナーを踏まえた上で、さらに一歩進んで相手の印象に残りやすい花の贈り方のテクニックを紹介していきます。

2 4つのポイントで押さえるマナー

1)マナーを理解するための4つのポイント

花を贈る際のマナーはさまざまですが、次の4つのポイントを押さえればマナーの勘所が分かります。

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ここからは、花を贈る際の具体的なマナーを確認していきましょう。相手が「法人」か「ビジネス関係者(顧客や取引先の社長、担当者など)」かによって、花を贈るシチュエーションは異なります。ここでは代表的な4つのシチュエーションを紹介します。

2)法人のお祝い事(開業・開店祝い、移転祝い、竣工祝い、創立記念日など)

1.どこへ届けるのか?

相手のオフィス、店舗などに届けるのが一般的です。開業・開店レセプション、竣工式、創立記念パーティーなどが行われる場合は、会場に花を届けることもあります。なお、オフィス、店舗のスペースの関係などで花を受け取らないようにしている企業もあるので、事前に確認しておきましょう。

2.いつ届けるのか?

花を届ける時期の目安は次の通りです。

  • 開業・開店祝い:開業・開店日の1週間前〜当日
  • 移転祝い:移転から2週間以内
  • 竣工祝い:完成日前日が望ましいが、移転を伴う場合は移転後1〜2週間後
  • 創立記念日:式典などがない場合は記念日の1週間前〜当日
  • 開業・開店レセプション、竣工式、創立記念パーティー:開催日前日または当日

いずれの場合も、開業・開店日や移転日などを必ず確認しておきましょう。ポイントは、花を受け取れる人がいる日時に届けることです。

3.どんな花か?

開業・開店や移転などの場合、相手は準備で忙しいため、飾り付けや水やりなどの手間が少ない花を贈ります。また、実際に花がどこに飾られるかを想定すると、種類を絞り込みやすくなります。

  • カウンターやテーブル:胡蝶蘭(こちょうらん)、アレンジメントフラワー(以下「アレンジメント」)など
  • オフィスや店舗の通路、コーナー:そのまま地面に置ける観葉植物など
  • 路面に面した1階入り口、会場ホールの廊下:スタンド花など

これはあくまで一例なので、相手のオフィス、店舗の広さなどによって臨機応変に贈る花を決めましょう。

また、花の色はコーポレートカラーなど相手のイメージに合うものを選ぶのが一般的です。ただし、赤など火を連想させる色の花はタブーとされているので注意しましょう。

4.予算は?

相手との関係性などによって変化するため一概には言えませんが(以降、予算の記述において同様)、花を贈る際の予算の目安は次の通りです。

  • 開業・開店祝い:1万円〜5万円
  • 移転祝い:5千円〜3万円
  • 竣工祝い:1万円〜5万円
  • 創立記念日:1万円〜5万円

3)ビジネス関係者のお祝い事(栄転・就任祝い、退職祝いなど)

1.どこへ届けるのか?

ビジネス関係者のオフィスや自宅に届ける場合もありますが、送別会などに招待されているときは、直接持参して本人に渡します。

2.いつ届けるのか?

栄転・就任祝いの場合は、正式に辞令が出たことを確認した後、仏滅を避けて1週間以内に届けます。退職祝いの場合は退職日の直前、送別会がある場合はその当日に届けます。自宅に届ける場合は、転居を伴うこともあるため注意しましょう。

3.どんな花か?

花束やアレンジメントを贈るのが一般的で、種類は相手の好みに合わせます。事前に好みの色などを聞いておくと、花が選びやすくなります。好みを聞きにくい場合は、日ごろ身に着けている装飾品などを参考にするとよいでしょう。

オフィスに届けたり、送別会に持参する場合は、自宅に花を持ち帰ることになるので、帰宅中に邪魔になったり、目立ちすぎたりしない花を選びます。また、形が崩れにくいラッピングを施すようにします。自宅に花を届ける場合は、花束やアレンジメントの他に鉢物などを贈ることもあります。ただし、マンションなどの場合、スペースが限られているため大きい花は避けましょう。

4.予算は?

花を贈る際の予算の目安は次の通りです。

  • 栄転・就任祝い:2万円〜5万円
  • 退職祝い:5千円〜1万5千円

4)ビジネス関係者のお見舞い

1.どこへ届けるのか?

お見舞いの相手が入院している病院に持参します。ただし、感染症予防対策で花の持ち込みを禁止しているところもあるので、注意しましょう。

2.いつ届けるのか?

入院直後や手術前後は避けましょう。病状が落ち着き回復に向かい始めた頃に持参するのが理想的です。

3.どんな花か?

病室はスペースが限られているため、コンパクトな花を選びます。また、水やりの手間が少ないアレンジメントなどを選ぶとよいでしょう。

なお、次のような花は一般的にタブーとされています。ただし、タブーであっても、お見舞いの相手が特に好きな花であれば問題はありません。また輪菊と小菊以外の菊の花は結婚式などで使われるものも多く、こういった花は選択肢に加えても大丈夫です。

  • 鉢植え:根があり、「根付く」を連想させるため
  • 輪菊と小菊:葬儀・お供えに使われる花であるため
  • 白やブルーの花:葬儀・お供えに使われる花の色であるため
  • 赤い花:血の色を連想させるため
  • 下向きの花:頭が落ちていることから、「首が落ちる」を連想させるため
  • 散りやすい、またはひと息に散る花:「命が散る」を連想させるため
  • 香りの強い花:患者の気分が悪くなることがあるため

4.予算は?

花を贈る際の予算の目安は、5千円〜1万5千円です。

5)ビジネス関係者のお悔やみ(一般的な仏式の場合)

1.どこへ届けるのか?

通夜・告別式の場合は斎場に届け、初七日から四十九日、四十九日を過ぎてからの法事や命日では基本的に自宅に持参します。

2.いつ届けるのか?

花を届ける時期の目安は次の通りです。

  • 通夜・告別式:開催時刻の約2時間前(告別式の場合、通夜と同じ斎場であれば通夜に届ける)
  • 初七日から四十九日:特に決まりはないが、ご家族が落ち着いてから
  • 四十九日を過ぎてからの法事や命日:法事や命日の前日まで

3.どんな花か?

お悔やみの際は、次のような花を贈るのが望ましいとされています。

  • 通夜・告別式:原則持参はしない(不幸を待っていたと思われるため)。斎場に届ける場合はスタンド花か花輪(斎場の指示に従う)
  • 初七日から四十九日:アレンジメントなど
  • 四十九日を過ぎてからの法事や命日:アレンジメントなど(家族と親しい場合は、仏壇や墓前に供えられる花束も可)

四十九日まではバラを除く白一色の花を贈り、四十九日を過ぎてからは相手が亡くなられてからの年数に応じて淡い色の花も入れていくのが一般的です。近年は斎場をバラで彩る「バラ葬」など、タブーに関係なく本人が好きだった花を贈るケースも増えていますが、亡くなられた相手のご家族と特別に親しい関係でなければ、マナーを守るのが基本です。

4.予算は?

花を贈る際の予算の目安は、1万円〜3万円です。

3 相手に合わせた対応で差をつける

1)マナーの先にあるもの

シチュエーションにもよりますが、マナーを守って花を贈るだけでは、相手の印象に残りにくいことがあります。他にも同じように花を贈っている会社がある場合、通り一遍のマナーを実践するだけでは目立たないからです。また、マナーが正しいからといって、相手が多忙なときに花を贈ってしまうと、かえって相手に不快感を与えることもあります。

もちろん、まだ知り合って間もない企業相手であれば、通常のマナーに従って花を贈るほうが無難です。しかし、ある程度関係の深い会社とさらに関係強化を図りたいのであれば、マナーの基本を押さえた上で、相手に合わせた柔軟な対応を行っていくことが重要です。そのヒントを紹介します。

2)「どこへ届けるのか?」に生かせるポイント

開店祝いなどの場合、相手の新店舗のスペースは、贈る花の種類や大きさを選ぶ上で重要なポイントです。とはいえ、相手が開店準備で多忙なときに、「花を贈りたいのですが、どのくらいのスペースがありますか?」とはなかなか聞けないものです。

しかし、例えば支店を複数持っているような企業が相手であれば、「○○社様の新店舗となると、たくさん花が届きそうですね?」というような聞き方をすると、「はっきり分からないけど、□□店舗のときはこのくらい届いたね」と返答してくれる場合もあります。さらに「新しく出される店舗も、□□店舗くらい大きいんですか?」というように会話を続けていくと、新店舗のおおよそのスペースが分かることがあります。ビジネス関係者との会話を工夫し、不快感を与えないように情報を聞き出していくことで、贈る花の種類や大きさをある程度絞り込めるかもしれません。

3)「いつ届けるのか?」に生かせるポイント

開店祝いなどで花を贈る場合、できるだけ他社よりも早く花を届けて、相手に好印象を与えたいと考える人もいるでしょう。しかし、贈るのが早すぎると、開店前に花がしおれてしまったり、相手の受け入れ準備ができておらず、置き場所に困ってしまったりすることもあるでしょう。

こうした場合は、花を贈る日程を少し遅らせてみるのも1つの手段です。例えば、開店祝いでは、開店日当日に新店舗を直接訪問すれば、店舗のスペースや、現状他社から届いている花の数を把握することができます。花屋の中には即日配送を行っているところもあり、店舗の状況を確認してすぐに手配をすれば、開店日当日中に花を届けられる場合もあります。相手に花が届くのが他社より後でも、それがスペースにぴったり合い、なおかつ目を引くきれいな花であれば、相手に与える印象は変わってくるでしょう。

4)「どんな花か?」に生かせるポイント

1.花の種類ではなくデザインを工夫する

「法人のお祝い事といえば胡蝶蘭」など、花には贈る用途に応じた定番があります。しかし、定番は無難である分目新しさがなく、他社からもたくさん花が届く場合は埋もれてしまいます。こういうときは、花のデザインを工夫して他社と差をつけてみましょう。例えば、胡蝶蘭の中には「化粧蘭」と呼ばれるものがあります。これは専用のパウダーを使い、お祝いの文字や季節感のある絵で花を彩った胡蝶蘭です。オリジナルのロゴマークやメッセージを付けられるところもあるので、特別感を演出するのに適しています。

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画像提供:アートグリーン

2.花器を工夫する

一般的な花器は鉢、スタンド、花瓶などですが、他にもさまざまな種類があります。例えばフレームの中に花を入れ、絵画のように壁に掛けて観賞できる「フレームアート」というフラワーギフトがあります。フレームアートは、壁に掛けるため邪魔になりにくく、水やりが不要で半永久的に枯れないプリザーブドフラワーが使用されていることが多いため、相手が長い間飾ってくれる可能性があります。デザインも鉢や花瓶に花を生けるより目立ちやすいため、相手の興味を引くことができるでしょう。

【フレームアート】

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画像提供:日比谷花壇

3.花言葉を添える

相手の好きな色や花の種類が分からず、何を贈ればよいか決まらない場合は、自分から相手への尊敬や感謝の気持ちをストレートに伝えられる花言葉で花を選ぶ方法もあります。例えば退職祝いで贈る花の場合、「白いバラ:心からの尊敬、清純、相思相愛、素朴、約束を守る」「グロリオーサ:栄光、勇気」「スイートピー:門出、優しい思い出」といった花言葉があります。

そして、送別会などで、「白いバラの花言葉は『心からの尊敬』です。これからもご指導をお願いいたします」と一言添えたり、メッセージカードなどに書いて花と一緒に相手に渡すとよいでしょう。

4.家族の好みを聞いてみる

ビジネス関係者のお祝い事で花を贈る際、いきなり「花を贈りたいのですが、好きな花や色は何ですか?」と聞かれても、いまいちピンとこないことがあります。

こうした場合、家族の好きな花や色を聞いてみるのも1つの手段です。自宅に花を持ち帰る場合、水やりなどは家族がすることになりがちです。また、「自分だけでなく家族のことも気遣ってくれた」という印象を相手に与えることにもつながります。

もちろん、ある程度相手と関係性ができていることが前提になりますが、こうした方法で花の好みを聞き出してみるのもよいでしょう。

以上(2019年4月)

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画像:pixabay

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