書いてあること
- 主な読者:「管理職には残業代を支払う必要はない」という勘違いに気づいた経営者
- 課題:残業代を支払わなければならない管理職がいるらしいが、対象者か分からない
- 解決策:「管理監督者」の要件を押さえ、要件を満たさない管理職には残業代を支払う
1 残業代が不要なのは「管理監督者」だけ
「管理職には残業代を支払う必要がない」。これは半分正解で、半分不正解です。具体的には、労働基準法(以下「労基法」)によって次のように区別されます。
- 残業代が不要:監督もしくは管理の地位にある「管理監督者」
- 残業代が必要:課長などの役付きだが、管理監督者には当たらない「名ばかり管理職」
労基法上、管理監督者には労働時間・休憩・休日の規定が適用されないので、そもそも残業という考え方がなく、残業代を支払わなくてもよいとされています(深夜労働の残業代を除く)。
「それなら、うちの管理職に残業代を支払う必要はない」と考える経営者の方もいそうですが、そう簡単ではありません。なぜなら、管理監督者の要件が厳しく、該当者は非常に限定的だからです。まずは図表1を見て、具体的な社員をイメージしながら◯×を付けてみてください。
いかがでしょうか。1つでも「×」が付いた社員は、少なくとも、管理監督者ではないとされる恐れがあり、残業代を支払わないと違法になります。
働き方改革などで、社員の労働に対する権利意識は高まってきています。不要な労務トラブルを避けるためにも、このタイミングで管理監督者の要件を確認していきましょう。
2 管理監督者と名ばかり管理職の違い
管理監督者には、労基法の次の規定が適用されません。
- 労働時間:原則として、休憩時間を除いて1日8時間、1週40時間
- 休憩:労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間
- 休日:1週間につき1日あるいは4週間当たり4日
つまり、管理監督者は
就業時間(始業から終業まで)と休憩時間、労働日と休日などの区別がない状態で働き、時間外・休日労働といった考え方がない
ということです。
ただし、深夜労働の規定は適用されるので、22時から翌日5時までの間に残業した場合は残業代の支払いが必要です。勤続年数に応じた年次有給休暇の付与については、管理監督者も対象となります。また、労基法ではありませんが、労働安全衛生法における「労働時間の把握義務」などは管理監督者も対象になるので、
あくまで時間外・休日労働などの規制から外れるだけで、労働時間管理自体は必須である
という点に注意が必要です。
一方、肩書きはあるが管理職の権限や実態がなく、残業代が支払われないなど待遇が不十分という社員は、名ばかり管理職です。このような社員は、管理監督者とは認められないので、時間外・休日労働、深夜労働全ての残業代を支払わないといけません。また、いわゆる「時間外労働の上限規制」(原則として月45時間、年360時間など)も適用されます。
3 管理監督者に該当するか否かが決まる3つの要素
法令上、管理監督者とは、
労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある人
のことです。具体的には次の3つの要素を基に、管理職が経営者と一体的な立場にあるか(管理監督者性)を判断します。実態で判断するので、課長などの役付者であるかは関係ありません。
それぞれの要素について、重要なポイントを見ていきましょう。
1)職務内容と責任・権限
管理職が、経営者が主催する幹部会などへの参加、社員の採用、労働時間管理、人事考課など、経営上重要な職務に携わっている必要があります。ただし、経営者から指示を受けて職務を遂行するだけでは不十分で、次のように一定の責任・権限を与えなければなりません。
- 経営者が主催する幹部会などへの参加:重要事項の決定に携わっている
- 社員の採用:採用面接に参加後、採用の決定にも携わっている
- 労働時間管理:部下の時間外・休日労働の許可などについて、一定の権限を持っている
- 人事考課:考課後の処遇の決定について、一定の権限を持っている
中小企業の場合、管理職の多くは現場の職務とマネジメントを兼務する「プレイングマネジャー」です。マネジメントの比重が小さいと、管理監督者として認められにくくなりますから、その場合、職務内容と責任・権限を見直して、マネジメントの比重を上げる必要があります。
2)勤務態様
時間帯や休日に関係なく経営上の判断や対応を求められるなど、イレギュラーな働き方をしている必要があります。ただし、イレギュラーな働き方をさせる以上、労働時間については管理職が自由に決められるようにしなければなりません。
具体的には、出退勤はもちろん、中抜けの自由も認め、遅刻、早退、中抜けなどによる減給がないようにします。ただし、管理監督者だからといって長時間にわたる過重労働は認められません。健康管理や深夜残業の管理のためにも、タイムカードや勤怠管理システムを使って出退勤時刻を把握することは必要です。
3)待遇
賃金について、管理職と一般社員との間に相応の待遇格差を付ける必要があります。管理職の場合、基本給が高く、役職手当なども支払われるので、通常の賃金は、
管理職の基本給や手当>一般社員の基本給や手当
となります。しかし、一般社員に残業代などが支払われると、
管理職の基本給や手当<一般社員の基本給や手当+残業代など
といった逆転現象が起きることがあります。
そのため、管理職の賃金については、各社員の労働時間や残業代などを考慮した上で、一般社員と比較して高い水準を確保できるよう配慮しなければなりません。
4 小売業や飲食業などはより厳しくチェックされる
ここまでが、管理監督者の要件に関する基本的な考え方です。
多店舗展開する小売業や飲食業の店長などの場合、特に注意が必要です。名ばかり管理職の問題が起きやすいため、管理監督者の要件を本当に満たしているか、より厳しくチェックされる傾向があります。
厚生労働省からも、これらの業種について、前述した3つの要素「1.職務内容と責任・権限」「2.勤務態様」「3.待遇」それぞれについて、「管理監督者性を否定する要素」を示す通達が出されています(平成20年9月9日基発第0909001号)。簡単に言うと、管理職として取り扱っていたとしても、これらの要素に該当する場合、管理監督者ではないと判断されてしまう恐れがあるということです。第3章で紹介した内容と一部重なる部分もありますが、確認していきましょう。
以上(2024年10月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)
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画像:ChatGPT