書いてあること

  • 主な読者:2021年4月1日から同一労働同一賃金に対応する経営者
  • 課題:同一労働同一賃金は、パート等の賃上げにしかならないと感じている
  • 解決策:解決策:経営戦略と賃金制度の連動を確認する。正社員とパート等といった雇用形態ではなく、経営戦略上の業務や能力の重要性に応じて賃金を分配する

1 同一労働同一賃金は適正賃金の実現に役立つ

パートタイム・有期雇用労働法によるパート等の同一労働同一賃金のルールが、2021年4月1日から中小企業にも適用されます。同一労働同一賃金はパート等の賃上げと考えられがちですが、そうではありません。同一労働同一賃金のルールの目的は、「同じ(価値の)仕事をしている社員に同じ額の賃金を支払う」ことです。ですから、社員の業務内容や責任の程度が違う場合、その違いに応じて賃金に差を設けても、待遇格差が不合理でない限りは違法になりません。

同一労働同一賃金は、経営者が経営戦略に沿って賃金制度を構築するきっかけになります。「経営目標・経営方針に照らして目下重要な戦略は何か。その戦略を実行するために核となる業務や能力は何か」を考え、その業務や能力の大きさに応じて賃金を支払うということです。賃金の支払い基準が明確であれば、パート等から待遇格差に関する疑問が寄せられたとしても、しっかりと説明することができます。本稿では、基準を明確にするための考え方の例を紹介します。

なお、同一労働同一賃金の基本ルールについては、次の記事をご確認ください。

2 経営戦略における賃金の立ち位置

一般的に経営戦略とは、経営理念やビジョンを実現するための、経営目標・経営方針や各分野の戦略を指します。

画像1

賃金に関する戦略は経営戦略上、「人事戦略」に該当しますが、経営戦略の他の要素とも密接な関係にあります。例えば、賃金を引き上げる選択をした場合、人件費の増加によって経営目標・経営方針(期末営業利益○○万円など)、ひいては各分野の戦略の見直しが必要になる可能性があります。

賃金の見直しが経営戦略の他の要素に与える影響は、できる限り減らしたいところでしょう。そのためには、「賃金の見直しが必要だから経営戦略を見直す」のではなく、「経営戦略に沿って賃金を適正に支払う」という視点が重要になります。以降では、この視点に立った賃金支払いの考え方の例を2つ紹介します。

3 戦略実行の核となる「業務」に注目する

1)考え方

経営戦略上の重要度に応じて業務を順位付けし、その順位に応じて賃金を社員に分配します。例えば、IT戦略上「新データベースの構築」を重視する場合、その構築業務に従事する社員には、他の社員よりも多めに賃金を支払います。経営戦略上、特に重要と位置付けている業務であれば、さらに細分化してもよいでしょう。同じ新データベースの構築業務の中でも、「上流工程」である要件定義や設計などに従事する社員には、より多く賃金を支払うこともできます。

2)同一労働同一賃金との関係性

同一労働同一賃金では、業務内容や業務に対する責任の程度を基準に、「同じ仕事をしているか」を判断します。例えば、前述の「新データベースの構築業務」に従事する正社員とパート等が1人ずついて、正社員は主に「要件定義、設計」を、パート等は主に「開発、テスト」を担当するとします。この場合、業務内容が異なるため、両者は同じ仕事をしていることにはなりません。また、同じ業務に従事していても、正社員が業務を統括してパート等に指示を出す立場にあるならば、両者の責任の程度は異なるため、同じ仕事をしていることにはなりません。

「業務の重要性」をベースに賃金を設定した場合、パート等に正社員との待遇格差の理由を説明する際は、パート等の労働条件通知書などと照らし合わせながら、待遇格差が妥当なものであるかを明示するとよいでしょう。

4 戦略実行の核となる「能力」に注目する

1)考え方

経営戦略の達成に必要な能力を順位付けし、その習熟度に応じて賃金を社員に分配します。例えば、営業戦略上「サービスAの成約」を重視する場合、サービスAに関する営業の能力が高い社員には、他の社員よりも多めに賃金を支払います。

能力は人によって評価がブレやすいので、経営者が評価基準を決めます。例えば、「サービスAの成約」を重視する場合、成約件数や商談件数などが評価基準としては分かりやすいでしょう。「サービスの要点を理解して、プレゼンできるか」など、定性的な評価基準を用いる場合は、各部門長による人事考課の結果などを基にするのもよいでしょう(評価基準は事前に各部門長に伝えます)。

2)同一労働同一賃金との関係性

同一労働同一賃金では、能力の違いに応じて支給される賃金がある場合、その違いに応じた待遇格差は、原則として許容されます。例えば、前述の「サービスAの成約」の場合、成約件数や人事考課の結果に応じた待遇格差を設けることは、一概に不合理とはいえません。

ただし、成約件数などは社員の所定労働時間などに左右される部分もあるため、正社員とパート等の労働条件の違いも考慮する必要があります。また、人事考課の結果を賃金に反映させる場合は、正社員とパート等の人事制度の違いに注意しましょう。

「能力」をベースに賃金を設定した場合、パート等に正社員との待遇格差の理由を説明する際は、中期経営計画の中から企業が必要とする人材などの記述を引用し、営業成績表や人事考課表などと照らし合わせながら、能力との関連性を明示するとよいでしょう。ただし、「能力または経験」「業績または成果」「勤続年数」に応じて支給するものについては、それぞれに応じた部分に関して、同一であれば同一の支給をしなければならず、一定の相違がある場合はその相違に応じた支給をしなければならないので注意しましょう。

以上(2021年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ)

pj00335
画像:unsplash

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です