厚生労働省は、令和4年(令和4年1月から令和4年12月まで)に賃金不払が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果を取りまとめました。

この公表は、従来、支払額が1企業当たり100万円以上の割増賃金不払事案のみを集計していましたが、今回から、それ以外の事案を含め賃金不払事案全体を集計しています。

本稿では、厚生労働省が公表した結果をご紹介するとともに、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について」に基づき、労働基準監督機関が賃金未払企業に対して徹底するとしている主な取組などをご紹介して参ります。

1 労働基準監督署の指導結果

①令和4年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は次のとおりです。

令和4年の賃金不払事案

②労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案(上表)のうち、令和4年中に、労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い、解決されたものの状況は次のとおりです。

令和4年の賃金不払事案のうち解決されたもの

※令和4年中に解決せず、事案が翌年に繰り越しになったものも含まれます。
※倒産、事業主の行方不明により賃金が支払われなかったものも含まれます。
※不払賃金額の一部のみを支払ったものも含まれます。

(厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)」)

2 労働基準監督機関における対応

厚生労働省では、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について」(令和3年12月27日閣議了解)などに基づき労働基準監督機関による次のような取組を徹底するとしています。また、倒産、事業主の行方不明により解決が困難な事案については、「賃金の支払の確保等に関する法律」(昭和51年法律第34号)に基づく未払賃金立替払制度の迅速かつ適正な運営に努めていくとしています。

  1. 最低賃金違反や賃金・残業代の不払が疑われる事業場に対して、監督指導を実施し、是正を図る
  2. 毎年1月から3月までの「集中取組期間」において、最低賃金の遵守徹底を図り、賃金の引上げについて検討がなされるよう、賃金引上げや転嫁対策関連の施策の紹介を行う。
  3. 賃金不払をはじめとした基本的な労働条件の履行確保を図るため、定期監督(年間10万事業場以上実施)において、賃金引上げの意向や労働条件の改善状況を確認する。
  4. 労使において賃金の引上げを行うとの取決めを行ったにもかかわらず、賃金支払が履行されず、労働基準監督機関による度重なる指導でも是正しない事業場や、定期賃金や割増賃金を適切に支払わず、同様の法違反が繰り返される事業場については、司法処分を含め厳正に対応する。

3 さいごに

2020年の改正民法施行に伴う労働基準法改正により、賃金の消滅時効期間が原則5年(旧法では2年)、当分の間は経過措置として3年に変更されました。既に改正法施行から3年が経過し、2023年度以降は丸々3年分の未払賃金請求が生じ得ることとなります。

つまり、残業手当などの未払いが生じ、請求が行われた場合は、請求対象期間が1年分増えることになります。

また、2023年4月1日からは、中小企業でも月60時間超の時間外労働に係る割増賃金率が50%以上へと引き上げられており、未払賃金の請求金額が多額になる恐れもあります。会社としては、これまで以上に未払賃金対策に取り組み、リスク回避を図っていく必要があります。

※本内容は2023年8月10日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

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