書いてあること
- 主な読者:輸送安全に取り組む運輸事業者の経営者、安全統括管理者
- 課題:全社的な安全管理体制を構築し、安全に関する取り組みを進めていきたい
- 解決策:国土交通省のガイドラインを参考にPDCAサイクルの仕組みを導入し、安全管理体制の継続的改善を図る
1 運輸安全マネジメントは全社一丸で
運輸事業者にとって輸送の安全確保は何よりも重要です。経営トップから現場のドライバーまで全社一丸となって安全管理体制を構築し、継続的に改善を繰り返していくことが求められます。
コロナ禍の下、タクシーやトラックなどを含む「自動車運転の職業」の有効求職者数(パートタイムを含む常用)は、2020年4月以降、前年同月と比べて増加し、それまでのドライバー不足の状況は一転、買い手市場になっています。しかし、人材の確保・定着のためにも、全従業員に安全意識を浸透させ、事故・トラブルを防止する組織風土を目指す取り組みは欠かせません。
本稿では、国土交通省「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン~輸送の安全性の更なる向上に向けて~」(以下「ガイドライン」)を基に、PDCAサイクルの仕組みを導入した運輸安全マネジメントのポイントについて紹介します。
■国土交通省「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン~輸送の安全性の更なる向上に向けて~」■
https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/content/20200615.pdf
2 経営トップのリーダーシップが不可欠
運輸安全マネジメントには、経営トップの熱意、強力なリーダーシップが不可欠です。事業者の規模によっては、経営トップ自らが全ての現場の直接指導や管理をするのは困難かもしれませんが、経営トップには次のような項目に主体的に関与することが求められます。
- 関係法令などの遵守と安全最優先の原則を事業者内部へ徹底する
- 安全方針を策定する
- 安全統括管理者に指示するなどして、安全重点施策を策定する
- 安全統括管理者に指示するなどして、重大な事故などへの対応を実施する
- 安全管理体制を構築・改善するために、かつ、輸送の安全を確保するために、安全統括管理者に指示するなどして、必要な要員、情報、輸送施設など(車両、船舶、航空機および施設をいう)が使用できるようにする
- マネジメントレビューを実施する
3 Plan(計画:安全方針の策定)
ガイドラインでは、安全方針に明記すべき内容として「関係法令等の遵守」「安全最優先の原則」「安全管理体制の継続的改善等の実施」の3点を挙げ、全従業員を対象に周知徹底させることを求めています。
この安全方針を受け、会社が安全について目指す目標(到達レベル)およびその目標を達成するための具体的な手段を安全重点施策として設定します。
安全重点施策の設定に当たっては、次のような点に注意すべきとされています。
- 目標年次を設定すること
- 可能な限り、数値目標などの具体的目標とすること
- 輸送現場の安全に関する課題を具体的かつ詳細に把握し、それら課題の解決、改善に直結するものとすること
- 取り組み計画の実施に当たって責任者、手段、実施期間などを明らかにすること
- 現場の実態を踏まえた改善効果が高まるよう配慮すること
- 従業員が理解しやすいよう配慮すること
4 Do(実施)
1)安全統括管理者の選任と届け出
安全統括管理者は、中心的に安全管理体制を実施するキーマンです。経営トップの直下に位置し、安全管理体制に改善の余地がある場合などは、経営トップに直接報告するなどします。
経営トップは、次の事項に関する責任と権限を安全統括管理者に与えることが求められます。
- 安全管理体制に必要な手順および方法の確立、実施、維持、改善
- 安全重点施策の進捗状況や事故の発生状況など、安全管理体制の適切な運営のために必要な情報の経営トップへの報告
- 安全方針の事業者内部への周知徹底
なお、経営トップはその責務において安全統括管理者を選任し、国土交通省に届け出なければなりません。
2)要員の責任・権限の明確化
安全管理体制を適切に実施する上で、各要員の責任と権限を明確にして、事業者内に周知徹底させることは非常に重要です。
ガイドラインでは、安全管理体制の運営上必要な責任・権限の他、関係法令などで定められている責任・権限を、必要とされる要員に与えることとされています。
3)情報伝達およびコミュニケーションの確保
情報の偏在などを防止するために、「経営管理部門と現場」と「現場同士」の上下左右の情報伝達とコミュニケーションの実現が重要となります。
コミュニケーションは、経営管理部門から現場に対するトップダウンのコミュニケーション、現場から経営管理部門に対するボトムアップのコミュニケーションの双方を確保することが重要です。
ガイドラインでは、具体的な方法として、次を挙げています。
- 情報のデータベース化とそれに対する容易なアクセス手段の確保
- 経営トップなどへ意見できる目安箱などのヘルプラインの設置
4)事故、ヒヤリ・ハット情報などの収集・活用
実際に発生した事故に関する情報だけではなく、事故につながりかねないヒヤリ・ハット体験などの情報も適時適切に経営トップに報告される体制を構築することは、安全管理体制を適切に実施する上で非常に重要です。
また、収集された情報は、一定の観点(類似事例を集めるなど)から分類・整理した上で、その結果を踏まえて情報を分析し、対策を検討・実施することが求められます。
5)重大な事故などへの対応
重大な事故などが発生した場合の対応方法をあらかじめ定めておくことで、万一の際に適切かつ柔軟に必要な対応が取れる体制を構築します。
ガイドラインでは、具体的な方法として「責任者の選任」「対応手順などの設定と周知」「全社的な事故対応訓練の実施」などを挙げています。なお、ガイドラインでは、対応手順が過度に緻密なものにならないように注意すべきとしています。
6)関係法令などの遵守
輸送の安全を確保するためには、関係法令などを遵守し、適切に業務を遂行することが不可欠です。
ガイドラインでは次の事項などについて、安全統括管理者が定期的に確認するなどして、関係法令を遵守することを求めています。
- 輸送に従事する要員の確保
- 輸送施設の確保や作業環境の整備
- 安全な輸送サービスの実施およびその監視
- 事故などへの対応
- 事故などの是正措置および予防措置
7)安全管理体制の構築・改善に必要な教育・訓練などの実施
安全管理体制を適切に実施するためには、経営管理部門の要員、内部監査の担当者、各部門の責任者などに「ガイドラインの内容」「安全管理規程の内容」「関係法令」などについて教育・訓練することが非常に重要となります。
5 Check(評価:内部監査の実施)
安全管理体制が適切に実施され、機能していることを確認するために、少なくとも1年ごとに内部監査を実施することが必要です。
基本的に、内部監査の対象は、安全管理体制の実施に直接的に関わる経営管理部門となりますが、必要に応じて現場も対象となります。内部監査を実施する内部監査員として適しているのは、安全管理規程を熟知している者となります。
なお、内部監査の客観性・独立性を確保するために、ガイドラインでは、内部監査を受ける部門の業務に従事していない者が監査を実施することを求めています。
6 Act(改善:マネジメントレビューと継続的改善)
「マネジメントレビュー」は、内部監査の結果や安全統括管理者からの報告などを踏まえ、安全管理体制の適切性・妥当性、達成の度合い、改善の機会、変更の必要性などを検討するものです。
ガイドラインでは、経営トップは、安全管理体制の機能全般に関し、少なくとも1年ごとに「マネジメントレビュー」を行い、「今後の取り組み目標や計画」「取り組み方法の見直しや改善」などを決定することとされています。
「継続的改善」は、「マネジメントレビュー」などを通じて明らかになった安全管理体制の課題への対応であり、「是正措置(顕在化した課題の再発防止のために、その原因の除去などを行う)」と「予防措置(潜在的課題の顕在化防止のために、その原因の除去などを行う)」の2つに大別されます。ガイドラインでは、具体的な手順として、次を挙げています。
- 課題の内容の確認
- 原因の特定
- 措置の必要性の検討
- 措置の検討・実施
- 措置の有効性の評価
7 運輸安全マネジメント認定セミナー
国土交通省では、運輸安全マネジメント制度の普及・啓発を図るため、民間機関などが実施する運輸安全マネジメントセミナーの中で、一定の基準を満たし、事業者の安全管理体制の構築・強化に有効であるものを認定しています。
この「認定セミナー」は、ワークショップなどを取り入れ、中小規模の事業者が取り組みやすい内容となっています。開催情報など詳細は、認定を受けている各事業者にお問い合わせください。
■国土交通省「運輸安全マネジメント認定セミナー」■
https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/certif.html
以上(2021年6月)
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画像:pixabay