書いてあること

  • 主な読者:部下を「褒める」ということに本気で向き合いたい中堅社員
  • 課題:褒めるのが苦手だし、そもそも褒めるようなことを部下はしていない?
  • 解決策:愛情を持つ、言い方に注意する、上から目線にならない、影響に配慮する、同じ基準で叱る

1 褒めるべきだったのか……

「課長から指示された会議資料の確認をお願いしたいのですが……」。中堅社員のAさんに、部下である入社1年目のBさんが声をかけました。「分かりました。15時までには確認するよ」とAさんは答えました。

資料に一通り目を通し、問題がないことを確認したAさんは、Bさんに、その旨を伝え、課長に資料を提出するよう指示をしました。

その後、Bさんが作成した資料を手にした課長の反応は、Aさんには意外なものでした。課長は資料に目を通しながら、「今回の会議の議題の中心となる●●が一目で分かるようになっていて、よく出来ているじゃないか! よくできてる」と、普段は厳しい課長が満足そうな笑顔でBさんの仕事を褒めたのです。また、そんな課長の表情を見たBさんもうれしそうに「ありがとうございます。次も頑張ります!」と元気よく答えました。

その様子を見たAさんは「課長が言っていることは資料作成の基本中の基本だよな。べつに褒めるようなことではないと思うんだけど……」と。

2 褒めることの効果

中堅社員になって部下を持つと、指導の一環で部下を褒めることが大切になってきます。褒める一番の目的は、「部下の成長を促すこと」です。上司から褒められることで、部下は自分の考え方や仕事の進め方などが正しいことを認識し、仕事に対して自信を深めるきっかけになります。また、自分が会社や部署に貢献できていること、また、会社や部署が自分を必要としていることを実感する機会にもなります。

そして、褒められることで得た自信や充実感は、仕事に対するモチベーションや、会社や部署に対する貢献意欲を高める効果があり、それが、部下の成長の原動力となるのです。

とはいえ、「褒め言葉を掛けさえすればよい」ということではありません。こうした効果を高めるためには、上司は正しく部下を褒めなければなりません。

3 「褒めるところがない」は、上司の責任

部下について「褒めるようなことは、それほど多くない」と言う上司が、しばしばいます。しかし、それは部下ではなく、「褒めるところを見つけられない」上司自身に問題があります。もし、そう感じている人がいれば、次の2つの点について振り返ってみてください。

1つ目は、部下の仕事ぶりを自分(上司)基準で評価していないかということです。褒めるべき点は、部下基準で評価しなければなりません。当然のことのようですが、こうしたことは意外と見落とされがちです。

もう1つは、常に部下に対して気を配っているかということです。部下は、部下なりに、常に努力し、創意工夫をしながら、仕事に取り組んでおり、褒めるべき点は必ずあるはずです。

そうした部下の姿に気が付いていない(=褒めるところがない)のであれば、それは、部下の言動に対して、しっかりと気を配っていないということであり、上司失格を意味するものです。「褒めるところがない部下はいない」。そういう気持ちで、今一度、部下の言動に注目するようにしましょう。

4 上手な褒め方の「あいうえお」

1)「あ」:愛情を持つ

褒めるということは、単に「褒め言葉を掛ける」ことではありません。その言葉に、上司の思いがこもっているか、単なるうわべだけの言葉なのかは、部下は敏感に感じ取ります。そして、うわべだけの褒め言葉では、部下のモチベーションや貢献意欲は高まりません。むしろ、うわべだけの褒め言葉では、上司に対する失望感を与えるだけであり、逆効果になることを覚えておきましょう。

2)「い」:言い方は具体的にする

同じ内容について褒める場合でも、言い方次第で部下の成長度合いは違ってきます。例えば、難しい仕事を成し遂げたとしましょう。その部下を褒める際、「よく頑張った」といったように、漠然と褒めるだけでは、部下の成長にはつながりません。「●●について工夫をした点が良かった」といったように、良かった点などを具体的に褒めることで、はじめて部下は何が良かったのかを理解し、次に生かすことができるようになります。

3)「う」:うれしさを共有する

褒めることがあるということは部下の成長の証しであり、それは、部下に期待を寄せ、成長を願っている上司にとっても喜ばしいことです。褒めるときには、例えば「私もうれしいよ」といった言葉を添えるなどして、そうした思いを伝え、部下と共有する雰囲気をつくりましょう。それは、部下にとっても、うれしいことのはずです。

4)「え」:笑顔で褒める

いくら褒めているといっても、上司が堅い表情や暗い声では、部下は素直に喜ぶことはできません。また、モチベーションや貢献意欲も高まりにくいものです。褒めるときには、部下が遠慮なく喜びを表せるように、笑顔と明るい声で褒めるようにしましょう。

5)「お」:オープンにする

褒めるときは、周囲に人がいる前で、大きな声で褒めるのが原則です。皆の前で、褒められることで、部下の喜びは大きくなり、自信も一層深まります。

ただし、皆の前で褒められたことで、気が緩んでしまう部下もいます。そうしたことがないように、部下に気を配ることも上司の役割であることを忘れてはいけません。

以上(2021年9月)

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画像:Drobot Dean-Adobe Stock

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