書いてあること
- 主な読者:業務改善や販路拡大などの課題を抱えている地方企業の経営者
- 課題:優秀な人材を採用して知見を得たいが、どのような方法があるか分からない
- 解決策:地方副業のマッチングサイトを用いて、都市部の人材を副業人材として招く。求める人物像を固定せず、企業の課題を掲載すれば、応募者が解決策を提案してくれる
1 地元の正社員採用に限界を感じたら、都市部の副業人材を!
- これまで、地元に住んでいる人を正社員として採用してきたけれども、それだけでは自社が抱える課題を解決できない
- 販路拡大や自社PRなど新たな取り組みを始めたいが、社内に知見がなく、専門的な人材を採用するにも高額な人件費をかけることができない
そんな悩みを抱える地方企業の経営者にお勧めするのが、
都市部の優秀な人材に、原則、オンライン勤務という条件で業務委託する「地方副業」マッチングサイトの活用
です。都市部で働く年収1000万円クラスの優秀な人材も、月額数万円程度でサポートしてくれる、オトクな仕組みです。しかも、今は応募者の数が圧倒的に多い「買い手市場」です。1件の募集につき15~18人の応募があり、何人と面談しても追加料金がかからないのが一般的となっています。もちろん、採用してみてマッチしないと感じたら契約を打ち切ることもできます。
ただし、応募者に“同志”として自社の成長に貢献してもらうためには、自社の考えや活動に共感してもらい、働きやすい環境を整えるなど、幾つかの注意点もあります。
この記事では、地方副業のマッチングサイトを運営する4社・団体の担当者に聞いた、地方企業が都市部の優秀な副業人材を募集・採用する際のポイントや、副業人材の動向などを紹介します。また、副業人材を活用した地方企業の成功事例も掲載しています。
自社に新しい風を吹き込み、成長を軌道に乗せるための起爆剤としての副業人材の活用を、ぜひ、ご検討ください。
取材を受けてもらったマッチングサイトを運営する会社・団体は、以下の通りです(取材の時期が早かった順に掲載)。
YOSOMON!:NPO法人ETIC.(エティック)(東京都渋谷区)が運営
■YOSOMON!■
https://yosomon.jp/
Skill Shift:みらいワークス(東京都港区)が運営
■Skill Shift■
https://www.skill-shift.com/
HiPro Direct for Local(旧:Loino):パーソルキャリア(東京都千代田区)が運営
■HiPro Direct for Local■
https://talent.direct.hipro-job.jp/talent/for-local/top/?utm_source=Loino_close&utm_medium=referral&utm_campaign=Loino_close_001
サンカク:リクルート(東京都千代田区)が運営
■サンカク■
https://sankak.jp/
2 副業人材の採用は双方にwin-winなシステム
地方副業は、企業側、副業人材側の双方にメリットがあります。地方副業のマッチングサイト運営者に聞いた、企業側、副業人材側のそれぞれがマッチングサイトを利用する理由としては、次のようなものがあります。
1)企業側がマッチングサイトを利用する理由
1.正社員よりも低価格、短期間で優秀な副業人材に仕事を依頼できる
副業人材の応募者の平均年齢は30~40代が7割以上で、正社員が6割程度、フリーランスが4割程度といいます。正社員の人が自身のスキルを試すために副業をはじめ、慣れてきたらフリーランスに転身するケースもあるそうです(Skill Shift)。特に、30代後半が年齢のボリュームゾーンとなっており、現場で働きつつ、マネジメント経験もある人材が中心となっているといいます(サンカク)。本業での年収は600万円超が7割近くを占めており、2割は1000万円超と、本業である程度の実績があり、十分な稼ぎのある人が応募しているそうです(Loino)。こうした優秀な人材にもかかわらず、副業人材に支払う月額の報酬は、Skill Shiftでは3万~4万円と、正社員よりも割安で仕事を依頼することが可能です。
マッチングサイトには、採用の有無にかかわらず案件の掲載費用が発生するものもあれば、案件の掲載や副業人材との面談までは無償で、副業人材を採用した段階で費用が発生する成果報酬型のものもあります。例えば、サンカクの場合、副業人材とマッチングした場合に費用が発生しますが、案件を募集する文面の作成や応募者との座談会、面談に関しては、無償でサポートを受けることができます。
採用期間も「原則1カ月単位」(YOSOMON!)、「半年以上のプロジェクト」(サンカク)などで、募集した案件の事業が終了したり、マッチング後に事業がうまく進まなかったりした場合、速やかに契約を解除できます。
後述しますが、応募者の多くは、報酬目当てではなく、募集企業への共感や、地方への貢献、自らのスキルアップなど、高い“志”を持っているので、共に成長できる“同志”を見つけられる可能性が高いといえるでしょう。
2.買い手市場となっているため、人材を選択する幅が広い
全てのマッチングサイトの担当者が口をそろえて話すのが、「今は買い手市場」ということです。サイトや案件によっても異なりますが、1件の募集に対して、15~18人程度が応募してくるといいます。また、応募者は企業の思いに共感して、企業に貢献できる自分のスキルを理解した上で応募するため、「質」が高いそうです。
どのマッチングサイトも、自社都合で募集を取り下げるケースなどを除き、ほとんどの場合は人材を採用できているとのことです。中には、副業人材との座談会や面談の結果、副業人材から良いアイデアがたくさん出たため人数を絞りきれず、当初の予定よりも多く副業人材を採用するケースもあるそうです。
もし、人選が難しい場合は、募集内容に適した能力や意欲の高い人材を、マッチングサイトの担当者が選んで薦めてくれることもあります。
3.面談だけでも優れた知見やアイデアを得ることができる
一般的に、マッチングサイトは何人の応募者と面談しても追加料金がかからないので、時間さえ都合がつけば、応募者全員とオンラインで面談することが可能です。「それぞれの募集案件で、少なくとも5人の副業人材を集めて座談会を開いているケースもあります」(サンカク)。
また、面談では応募者側が募集内容に応じた提案をしてくれるため、提案を聞くだけでも参考になるとして、「応募者全員と面談をした旅館業者もいる」そうです(Skill Shift)。
4.自社が抱えている課題を明確にできる
副業人材の採用活動を通して、経営者が考えている自社の最優先課題に潜んでいる本質的な課題が見つかったり、新たな課題を解決するための方法が分かったりすることも少なくないようです。
企業が副業人材を募集しようとする段階では、「『DX化を進めたい、販路を拡大したい』など、思いはあるものの、必要な機能や人材などの明確な要件定義ができていないことが多い」といいます(サンカク)。このため、マッチングサイト運営者のサポートや応募者からの提案によって、本質的な課題や、課題解決のために必要な人物像や解決策が導き出されるケースが多いようです。
2)副業人材側がマッチングサイトを利用する理由
1.企業への共感
マッチングサイト運営者によると、副業を志望する理由として、その企業への共感や、その企業を応援したいという気持ちで応募する人が多く、「報酬が第一」の人はとても少ないといいます。
中には、「副業先の企業にそのまま転職したケースもある」そうです(Skill Shift)。
2.地域貢献、地方創生
自分の出身地や住んだことがある場所、旅行で訪れて気に入った地域など、思い入れのある地域の企業に、移住・転職を伴わず貢献できることを魅力に感じて応募する人も少なくありません。
「将来的に地方への移住や出身地に戻ることを検討しており、その地域を知る足掛かりとして副業を始める人や、地方の人とのつながりを楽しんでいる人もいる」(Loino)、「もともと地方の出身者で、地元とのつながりを持ちたい、都市部で得たスキルや経験を還元したいという思いを持った人もいる」(サンカク)そうです。
3.キャリアアップ
正社員として勤務している企業では経験できないような、経営企画などの業務を副業として行うことで、自らのキャリアアップにつなげることを目的としている人もいるそうです。
「副業人材にとっては、経営陣と直接仕事のやり取りができ、自分のアイデアで会社が変わっていく様子を目の前で実感できることがメリットになる」といいます(サンカク)。
中には、「マネジメントになった人事部門の部長クラスの人が、現場の感覚を忘れないために応募するケースもある」そうです(Loino)。
4.日常では得られない体験
日常の中では得られない体験を求めて、地方副業に応募するケースもあります。
例えば、Skill Shiftでは、ツーリズムと絡めた副業体験として、福島県いわき市で2泊3日のクラフトビール開発ツアーと、参加者によるクラフトビール発展のためのアイデアのプレゼン大会を開催しました。
また、スポーツによるまちおこしとして、アメフト社会人リーグ・Xリーグのクラブチームの広報・PRの副業案件もあります。他の副業案件と比較して謝礼が低額となる代わりに、オフィシャルポロシャツの贈呈や練習・試合観戦の特典があり、通常の副業にはない珍しい体験といえます。
他にも、漁業・水産業者向けに特化した地方副業のマッチングサイトである「GYOSOMON!」(ギョソモン!)では、副業人材への報酬は金銭ではなく「魚」となっています。このサイトはYOSOMON!が共同で運営しており、「応募者は、副業の報酬として、ご近所などに配らないといけないほどの大量の魚が送られてくるという、日常ではできない体験に魅力を感じる人が多い」といいます。
3 副業人材を募集・採用する際の勘所
1)自社のファンになってもらう
副業人材に共感してもらうためには、自社のファンになってもらえるPRを行うことが重要です。例えばLoinoでは、募集の文面を作る際に、「企業が目指している姿や、社内の人が気付いていないような、企業の魅力を掲載するようにしている」といいます。また、副業人材との面談でも、企業の実現したいことや、企業ならではの魅力を話すとよいそうです。
2)募集する業務を絞るよりも課題を示す
副業人材でマッチングに成功する秘訣は、「業務のアウトソースとは異なる」ことを意識し、「経営課題を一緒に考えてくれるパートナーというイメージで採用すべき」といいます(Skill Shift)。
募集に際しても、「これをしてくださいと細かく決めるより、今、企業がどんなことに取り組んでいて、どんな困り事があるのかを掲載して、協力、支援をしてほしいというニュアンスの文面のほうがよい」そうです(YOSOMON!)。
3)経歴や肩書だけで選ばない
マッチングサイト運営者の多くは、採用に関しては、経歴や肩書にとらわれず、熱意や提案内容を重視すべきといいます。
「経歴や条件面よりも、企業や地域への思いがどれだけあるか、企業の課題に対してどんなアイデアで解決できるかという視点で選考をしている企業が、副業人材とうまくマッチする」(Skill Shift)、「副業人材側も企業の募集案件をきちんと読み込んだ上で応募をしているので、経歴や条件面よりも、面談を通じての相性・フィーリングで採用する人材を判断するほうがマッチする」(YOSOMON!)とのことです。
また、「上から目線」の応募者は避け、“同志”としてふさわしい人材を選んだほうがよいようです。例えば、青森県のある企業では、「面談をした応募者の『一緒に汗をかきましょう』という言葉を聞いて採用を決めた」そうです(サンカク)。
4)既存の社員を巻き込む
副業人材の働き方としては、経営者のブレーンのような形で相談相手になる場合と、既存の社員と協業する場合があります。
既存の社員と協業する場合、社員が副業人材の存在に反発して、マッチングがうまくいかないケースもあるようです。
副業人材を採用する場合、ノウハウを社員に落とし込むことも大切なので、副業人材との面談は、経営者だけでなく、現場の社員も参加できるとよいでしょう。事前に社員のコンセンサスを得ておき、「社長が思いつきで変なことを始めた」と思われない状態からスタートすべきといえます。
5)副業人材の稼働時間を考慮する
副業人材の場合、本業以外の時間帯で稼働するため、自社の就業時間外や週末にやり取りをすることがあります。オンラインでも円滑にやり取りするために、チャットツールなどの用意は必須になります。副業案件によって異なりますが、週1回~月1回の頻度でオンライン面談を開き、それ以外はチャットツールを活用して、副業人材とやり取りを進めているケースが多いといいます。
課題だけ明示する形であれば、副業人材のほうで必要な作業を、自分でスケジュールを立ててやってくれるようになります。
6)時には顔合わせも必要
副業案件の多くはウェブマーケティング、ECサイトの強化、事業戦略の立案など、リモートワークでも進められるものですが、お互いの理解を深めるためにも顔合わせは必要です。
企業によっては、プロジェクトを始める際に副業人材を企業側の費用負担で現地に招き、顔合わせをして親睦を図ったり、設備や工場を見学してもらったりして、自社への理解を深めてもらう取り組みをしているところがあります。副業人材の側から、現地で顔を合わせることを希望するケースも少なくないようです。
4 副業人材の成功事例
1)副業人材がファシリテーターになって社員のアイデアを募集(Loino)
来客数増加を課題にしていた、地域に数店舗を展開するスーパーマーケットが採用した副業人材は、既存の社員からのアイデアを募集することを提案しました。副業人材がファシリテーターになって社員を集めた会議を開催したところ、社員からさまざまなアイデアが出され、実際に採用したアイデアも生まれたそうです。
会議を行うことによって、社内コミュニケーションの活性化にもつながったといいます。
2)ECサイトの全面改修などで売り上げが前年度の17倍に(サンカク)
石川県のある和菓子製造販売会社では、ECサイトのテコ入れが課題となっていました。当初、経営者はSNSの活用によるテコ入れを想定して副業人材を募集しましたが、応募者を集めた座談会では、応募者側からサイトの改修などさまざまな提案が出て、応募者同士でも提案のブラッシュアップが行われるなど、盛り上がりを見せたといいます。
そこで経営者は座談会に参加した応募者5人を、それぞれ担当分野を決めた上で採用し、社内の若手社員数人とともにプロジェクトチームを結成。ECサイトの全面的な改修だけでなく、デジタルマーケティング戦略の上流から再設計し、企業のウェブページとECサイトを含めて最適化に取り組んだことで、ECサイトによる売り上げは前年度の17倍に達したそうです。
劇的な成果を目の当たりにして、既存の社員のモチベーション向上や育成にもつながり、新たなスキルを身に付けようと、自ら勉強を始める社員も現れるようになったといいます。
3)蓄光グラスの販売強化で副業人材の本業にも貢献(Skill Shift)
岐阜県でサンドブラスト(砂などの研磨剤を吹き付ける加工方法)や蓄光技術を生かした「月光グラス」の販売、OEM生産を手掛ける会社では、OEMに頼らない新商品の開発や自社の認知度向上を目的に、副業人材を募集しました。
募集の結果、キャンプに関心のある方が副業人材としてマッチングし、蓄光して暗い場所で光る月光グラスがキャンプで映えるのではないかといった点や、夜の時間を豊かにできるのではという観点から、新商品の開発やPRを一緒に進めたといいます。
また、副業人材が本業で勤務している商業施設でも、イベントを開催して月光グラスを売り込むことができたため、本業にも貢献ができた事例となります。
5 (参考)副業・兼業に関するデータ
地方副業の背景や、リクルート「兼業・副業に関する動向調査(2022)」から、ふるさと副業(回答者自身の住まいとは異なる地域での兼業・副業)への関心について紹介します。
1)地方副業が活性化した背景
地方副業が活性化した背景には、2018年1月に厚生労働省によるモデル就業規則の改定を受け、さまざまな企業が副業・兼業の解禁を打ち出したこと、2019年6月に政府が「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」で、副業・兼業も含めた多様な形態を通じて、地域企業に関わる「関係人口」(移住や観光以外の地域と多様に関わる人)の創出・拡大を掲げたことなどが挙げられます。さらに、2020年以降のコロナ禍でリモートワークが普及し、地方移住や副業・兼業、ワーク・ライフ・バランスの関心が高まったことも背景にあります。
実際に、Skill Shiftでは、2017年12月のサービス開始以来、副業・兼業の解禁やコロナ禍などのターニングポイントをきっかけに、副業人材の登録者数が大幅に増えています。
2)「ふるさと副業」への興味
リクルート「兼業・副業に関する動向調査(2022)」によると、ふるさと副業に関しては、約半数の回答者が「非常に興味がある」「興味がある」と回答しています。
3)「ふるさと副業」に興味がある理由
「自分に関わりのある地域に貢献したいから」がほぼ半数を占め、「地域問わず、地方創生に興味があるから」と「自分の経験や能力を地方企業で活かしたいから」が続きます。
4)「ふるさと副業」で希望する働き方
テレワーク・現地訪問のいずれかで働きたい割合の合計と、両方を併用して働きたい割合がほぼ同数となっています。
以上(2024年1月更新)
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