書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員
  • 課題:一度、決まったことを変更するのが許せない。特に自分に関係する変更の場合
  • 解決策:本気だからこそ、日々、改善する。良い朝令暮改があることを理解する

1 前に言っていたことと違う!

レンタル会社に勤める中堅社員のAさんは、課長と今後の営業方針について話し合っています。しかし、どうも会話がかみ合いません。

Aさんは課長に詰め寄って言いました。「私の計画のどこがダメなんですか? 以前、課長は値下げをしてでも、まずは顧客数を増やすことが大切だと言っていましたよね!」。すると課長は、「確かに随分前にそう言った。しかし、今は値下げをするような局面ではない。そのことは、現場のAさんも肌で感じているでしょう。定価でも十分に顧客が取れるのに、わざわざ値下げをする必要はない!」と答えました。

それでもAさんは、「今更そんなことを言われても困ります。現場も混乱しますよ……」と食い下がります。課長は、「ふぅ~」とため息をついた後、抑えた口調で「いいかい。ビジネスの状況は常に変わっているんだ。昔の方針をいつまでも引きずらずに、今の状況を正しく捉えて行動してほしい。現場が混乱しないようにマネジメントするのも君の仕事の一環だろう!」と言いました。

Aさんは黙って聞いていましたが、内心では「でも、確かに課長は値下げをしてもいいと言ったんだ。皆に何て説明しよう……」と、納得できずにいました。

2 納得できるか否かの境目はどこにある?

企業では、一度決まった方針が頻繁に見直されます。毎年度策定される事業計画が良い例です。事業計画は中長期の経営計画を達成するために足元でやるべきことをまとめたものなので、その時々の環境に応じて内容が大きく変わることが珍しくありません。事業計画の変更について思うところがある社員もいるはずですが、“会社の方針”ということで、比較的すぐに納得します。また、中堅社員のレベルだと、事業計画と自分の仕事を十分にリンクさせて考えられないので、雲の上の出来事のようにぼんやりと捉えているところもあります。

しかし、冒頭のAさんが経験したような、身近な存在である課長の方針転換になると、そう簡単には納得したくないのかもしれません。なぜなら、「値引きをしてもよい」という方針は、以前に課長から直接聞いて納得したことなので、方針転換に従うためには自分自身の考え方も見直さなければならず、心理的な抵抗が生じるからです。さらに、そうした方針転換は自分の行動にダイレクトに影響を及ぼすことが多いものです。これまで積み重ねてきたものを見直すというのは、相当なエネルギーが求められるものであり、できれば避けたいのです。

3 朝令暮改は納得できるか?

朝に伝えられた方針が、夕方に改められる「朝令暮改」は、悪い意思決定の例としてやり玉に挙がります。社長が朝令暮改をしたとしても、そう簡単には受け入れられるものではないでしょう。多くの社員は、「すぐに覆すような方針をかかげるな」「どうせまた変わるから、しばらく様子をみよう」と考えるからです。

しかし、朝令暮改のような急なものを含め、方針転換をするには相応の理由があります。また、決めたことを覆すには勇気が必要です。中堅社員になったなら、朝令暮改を毛嫌いするのではなく、その理由を考えてみるようにしなければなりません。

4 ゴルフのスイングに朝令暮改はないか?

ここで全く視点を変え、ゴルフのスイングについて考えてみましょう。

ある朝、軽快にカッ飛ばす自分をイメージしながら練習場に行き、実際にその通りにスイングしてみたところ、まずまずの出来でした。数時間後、予約していたスクールの先生からスイングについてダメ出しを受け、「もっと遠くに真っすぐ飛ばしたければ、今のスイングを根本的に変えなければダメです」と厳しく指摘されたらどうでしょうか。

ゴルフが好きな人であれば、素直に先生の言葉を聞き入れて、スイングの改造に取り組むことでしょう。たとえ、これまで積み重ねてきたものを一から見直すことになったとしても、もっとうまくなりたいという一心で、やり直すことができるのです。

お分かりかと思いますが、

企業で行われている方針転換と、ゴルフのスイングの改造は、目的が「より良くするため」という点で共通

しています。また、ゴルフ好きの度合いを、経営に対する責任やビジネスに関する視野の広さに置き換えてみれば、社長はもちろん、管理職が頻繁に方針転換することも納得できるのではないでしょうか。方針転換は、会社をより良くするために必要だと判断されたからこそ、取り組まれるものです。

中堅社員が方針転換を受け入れられないのは、自分やその周辺だけしか見えていないからです。そのレベルのうちは、「せっかく決めたことを覆すのは大変だし、周囲にも説明できない」と考えてしまいます。しかし、視野を広げることができれば、いっときは苦労するかもしれないが、その先に新しい可能性が生まれたり、危険を回避できたりすることがイメージできるようになってきます。

5 受け入れ、動かし、自ら朝令暮改する

1)方針転換を受け入れる

中堅社員は、方針転換を受け入れる懐の深さを持ちましょう。たとえ、自分の行動にダイレクトに影響を及ぼす方針転換であったとしても、今よりも改善されるなら、過去のことは“サンクコスト”であると納得できるはずです。

ただし、全ての方針転換が正しいわけではありません。言われるがままになるのではなく、自分なりの基準を持ち、相手が上司であっても伝えるべきことは伝えなければなりません。

2)方針転換に沿って、周囲を動かす

中堅社員のうちから、方針転換の理由や内容を自分の部下などにきちんと説明し、そのように動いてもらえるように「伝え方」の訓練をしましょう。方針転換を決定事項として、一方的に伝えても周囲はついてこないので、中堅社員自身が方針転換について理解し、分かりやすい言葉に言い換えて伝えなければなりません。もちろん、不明な点は遠慮せずに上司に確認するようにしましょう。

また、中堅社員も自ら朝令暮改をする立場になり得ます。方針転換を受け入れ、周囲を動かすことは、そのときのための準備であることを忘れてはなりません。

以上(2021年8月)

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画像:tiquitaca-Adobe Stock

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