書いてあること

  • 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
  • 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
  • 解決策:採用活動のデジタル化では、いい人材をプールし、アプローチすることがより容易に。プールすべき人材は、いますぐに入社できない人材、退職者、内定辞退者などであり、関係を切らさないことが大切

前回(第2回)は、「タレントプール」という採用手法を紹介させていただきました。デジタルツールを駆使することで、有望な候補者人材(タレント)をデータベース化(プール)し、その人材に継続的にアプローチしていくことで採用につなげる最も新しい採用手法のひとつです。

連載3回目の本稿では、タレントプールにおいてデータベース化すべき採用候補者に焦点を当てて解説します。求人メディア経由の一般的応募者にはいない潜在的な候補者をどう集めるか。今まではあまり対象とされていなかった「意外なタレント」について、お伝えしていきます。

1 タレントプールとは

本稿の理解を深めるためにも、まずはタレントプールについて簡単におさらいしておきます。人材サービスに頼ることなく自ら欲しい人材を見つけて採用するダイレクト・リクルーティングが広がりを見せる中、その進化形ともいえる採用手法がタレントプールです。

欲しい人材を直接スカウトするーー。魅力的な手法ながら、優秀な個人を一企業が見つけてくることは、これまで困難だとされていました。それがデジタル技術の進化によって可能になってきたのです。

デジタルマーケティングの手法を導入し、まず人材データベースを構築。そのデータベースに対しAIを駆使しコミュニケーションを取りながら関係を温める。オートメーション技術で採用候補者をあぶりだして採用につなげる。まさにリクルーティングDXともいうべき最先端の採用手法です。

2 紹介からデータベース化

こうしたタレントプール採用を成功させるカギを握るのが「人材データベース」の質にあることは、いうまでもありません。

有望なターゲットとして、最初に挙げられるのが関係者からの「紹介」ではないでしょうか。自社の幹部社員や優秀な社員による紹介であれば、ある程度のスキルレベルやカルチャーフィット感に期待が持てます。社員とのつながりを利用することで質の高い人材と出会える、マッチングの精度向上が実現できるとなれば、紹介された人材をプールするのは極めて有効でしょう。

実は「リファーラル採用」という紹介ベースの採用手法そのものも、昨今広がりを見せています。リファーラル(referral)は、「委託・推薦・紹介」といった意味を持つ言葉で、先述のように既に自社で働いている社員から人材の紹介を受けたり、人材を推薦してもらったりという採用手法を指します。少し横道に逸れますが、まずリファーラル採用について解説していきましょう。

3 縁故紹介のデジタル化

ご存知のように、紹介による採用は古くから存在します。厚生労働省の雇用動向調査によると、「縁故紹介」は日本では1995年まで入職する際の経路として長年1位の座にあって、最もポピュラーなマッチング手法だったのです。求人広告メディアの発達によって、1位の座を明け渡したものの、この紹介ルートは2013年くらいから再び上昇傾向に転じています。

縁故紹介が再ブレイクしたのは、従来の「口コミ」というアナログベースの紹介が、「SNS」を使ったデジタルベースの紹介へと変化してきたからです。口コミでは、せいぜい「知人からの紹介」に留まるところですが、SNSであれば、「知人の知人からの紹介」まで紹介の輪が一気に広がります。ソーシャルメディアの発達が、紹介による人づての採用活動を飛躍的に進化させているのです。

また社員の紹介にブレーキをかけていた障壁=業務負荷を解消するデジタルサービスも登場。こうした流れの中、元来、最もアナログな「紹介」という採用手法は「リファーラル採用」というジャンルとして確立され、一気に伸張していきました。

4 驚くほど優秀な層に出会える

ビフォーコロナのここ数年、日本は空前の人手不足でした。新しい採用手法や人材発掘ルートを確立するのが急務であり、また従来型の有料求人サービスにかかる採用コストの抑制も喫緊の課題でした。こうした人事の事情がリファーラル採用を後押しした一端であることは間違いありません。

それでも最大のポイントは、やはり紹介という採用ルートが活躍人材の獲得において有効だったからです。そしてこの延長線上にタレントプールという手法を置いて考えると、さらにその有効性が発揮されるのです。

ちょっと遠回りしましたが、ここからリファーラル採用にタレントプールを掛け合わせる手法の意義について解説しましょう。

リファーラル採用プロセスの中で、紹介してもらった候補者にSNSなどでオファーを送るとします。しかしタイミングの問題で現時点ではオファーを受けにくい、あるいは気持ちの高まりが足りず逡巡している、といったケースは少なくありません。こうした候補者こそタレントプールに登録してもらえばいいのです。

この“いますぐでなくてもいい”という観点は、「紹介」において極めて重要なファクターです。なぜなら紹介する社員にとって、彼らの持ち駒の数を圧倒的に増やしてくれるからです。そもそも、“いま求職中の知人がいる”という状態はそんなに多くはないでしょう。むしろ「いまの会社をすぐには辞めないだろうけど、アイツは仕事がデキる」「いつか一緒に働いてみたい」「ウチの会社にフィットしそうなのに」といった知人は、少なからずいるはずです。こういった潜在層が、優秀であり活躍してくれそうな“最も得難い人材たち”であることは言うまでもないでしょう。

いま求職中でないにせよコイツは仕事がデキる。そんな知人を社員から募る。彼らにオファーを送りつつ、機が熟していないなら自社の候補者データベースにプールする。ここからはAIが定期的にコミュニケーションを取りながら気持ちを高めていく。そして興味を持ってもらえた時点でオファーを送る。まさにリクルーティングオートメーションのテクノロジーで採用にこぎつけるというタレントプールの王道シナリオです。もちろん結果がでるケースばかりではないでしょう。しかし優秀人材が獲得できる千載一遇のチャンスであることは間違いありません。

5 退職者もプールせよ

リファーラル採用以外にも、意外な採用ターゲットは身近に存在します。

その代表格が退職者です。一度辞めた社員が、他社での勤務や独立など別の経験を経て、また自社に戻ってきて入社することを受け入れる企業は確実に増えています。アルムナイ(卒業生)リクルーティングとも呼ばれ、ビフォーコロナの超人手不足時代には注目の採用手法でした。

もちろんこの退職者の採用に乗り気になれない企業は少なくないでしょう。終身雇用が当たり前だった日本では、一社で長く働くことが正義で、辞めることは裏切りでした。そういう価値観がはびこっている職場では、辞めた時点で「二度と顔を出すな」となりがちです。ただ、もうそんな時代ではありません。

しかも退職者は即戦力です。業務経験もあり、社内ルールも、社風もわかっています。会社のことを嫌いになったわけではないけれど、どうしても新しいチャレンジをしたいというような前向きな退職もあります。また引っ越しや出産など、やむを得ない事情で退職する社員もいます。そういった人が戻ってきてくれると考えれば、むしろ嬉しい誤算ともいえます。

そんな退職者に対して、「もしも状況が変わったらいつでも復帰していいよ」と門戸を開いておくのです。その上で退職者データベースを構築していけば、これも立派なタレントプールになります。現に退職者対象のタレントプールサービスも存在します。

6 内定辞退者や不採用者も

最後にお伝えするタレント候補は、さらに意外な存在かもしれません。それは選考を終了したのちに、なんらかの理由で入社しなかった人たちです。彼らでさえ次の候補者になり得ます。

まずは内定辞退者。入社には至らなかったものの、こちらが採用の意志を示しているわけですから、人材のクオリティとしては申し分ないはずです。だから諦めなければいいのです。本人に許可をとった上ですが、プールに登録していきましょう。

よく新卒社員が3年で3割も辞めてしまうという報道を耳にします。確かに社員の離職に頭を抱える人事は少なくありません。ということはですよ。辞退して他の企業に行ってしまった内定者が、その職場で充実した日々を送っているとは限らないということです。その職場で悶々としていた場合には、こちらからのアプローチが「救いの声」に聞こえる可能性が、十分にあるわけです。内定を辞退された人に対して、一定期間がたったあとにコンタクトを取っていく。これはこれでアリだと思います。

選考後、入社しなかったもう一方は不採用者です。えっ? と思われるかもしれませんが、この人たちもプールすることをお勧めします。もちろん選考試験の出来があまりにも悪いとか、面接で箸にも棒にも掛からないといった人材までをプールしようとは言っていません。他の候補者との比較でしぶしぶ落としたとか、その時点では条件が合わなかったとか、実は人物的に及第点ながら不採用にするケースは意外と多いのです。彼らは実にもったいない存在です。

タレントプールという採用手法の中で、プールされるべきタレントをどこまで広げていけるのか。ただ広げればよいのではなく、もちろん優秀であってほしい、あるいは自社にフィットする人材であってほしいという前提の上での話です。本稿では、その観点からお勧めできるターゲットについて解説してきました。

社員からの紹介ルートが極めて有効である。このリファーラルからのタレントプールには誰しも異論がないでしょう。しかしながら「退職者」「内定辞退者」「不採用者」といったカテゴリーは、やや意外だったのではないでしょうか。筆者は彼らをサードターゲットと呼んで、貴重な人材資源であると位置づけています。重要なのは、どのルートからでも優秀な人材を獲得しようという貪欲さ。その本気度こそが、タレントプールという採用手法を成功に導くラストピースなのです。

以上(2020年8月)
(執筆 平賀充記)

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画像:pixabay

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