書いてあること

  • 主な読者:高齢社員を雇用しているので、その労働災害が心配な経営者
  • 課題:具体的にどう対策すればよいのかが分からない
  • 解決策:加齢による身体機能の変化を、客観的に高齢社員に気付いてもらうことが第一歩

1 休業4日以上の労災は60歳以上が28.7%

人材不足の日本では高齢社員に頼る部分がますます大きくなっていきますが、問題は若年社員よりも労働災害(労災)に遭いやすいことです。2022年に発生した労災によって4日以上休まなければならない死傷者数は、60歳以上が3万4928人(全体の28.7%)と最多です。

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人間は加齢とともに身体機能が低下していくので、高齢者員を多く抱える会社ほど、労災のリスクが高まります。具体的な対策のポイントは、

  • 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる(平衡機能、聴力など)
  • 高齢社員に「労災に遭う危険がある」と気付かせる(健康診断、体力テストなど)
  • 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る(役割分担、労働時間など)

です。以降でそれぞれ紹介するので、確認していきましょう。

2 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる

まずは、加齢とともに身体機能がどの程度低下するのかを押さえましょう。図表2は、20~24歳ないし最高期の身体機能を100とした場合の、55~59歳における各種機能の水準です。赤字の身体機能は、水準が50未満に低下しているもので、特に注意が必要です。

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赤字の機能に注目した場合、業務では次のような問題が生じることが考えられます。

  • 夜勤後体重回復:夜勤で減少した体重が回復しにくく、疲れやだるさを感じる
  • 平衡機能:直立姿勢時の重心動揺が大きくなり、転倒しやすくなる
  • 皮膚振動覚:振動に対する感覚が鈍化し、機械の異常などに気付きにくくなる
  • 聴力:騒音時の声などが聞こえにくく、「危ない」と言われても気付かない
  • 薄明順応:暗い場所で作業をしようとしても、目が慣れず、物が見えにくい

3 高齢社員に「労災に遭う危険がある」と気付かせる

高齢社員の中には「自分はまだ若い!」と思っていて、体の衰えを自覚していない人が少なくありません。ですから、高齢社員に対し「労災に遭う危険がある」と気付かせることが大切です。次のような点がポイントです。

1)就業規則などに盛り込み、経営者の姿勢を示す

就業規則(本則や安全衛生管理規程など)に高齢社員の労災防止に関する事項を定めます。安全委員会や衛生委員会の設置義務がある会社なら、委員会の調査審議事項に盛り込むのもよいでしょう。何より大切なのは、

経営者が本気で高齢社員の労災防止に取り組もうとしていると、社内に周知すること

です。こうして高齢社員が健康を意識するようになると、自分の状態などについて相談したくなるかもしれないので、「相談窓口」などを設置するとさらに効果的です。

2)健康診断を実施する

高齢社員の健康状態は、毎年実施する定期健康診断である程度把握できます。パート等(週の所定労働時間が正社員の4分の3未満の社員)については、定期健康診断の実施義務はありませんが、高齢のパート等が多いなら、対象に含めるのが望ましいです。定期健康診断では、

聴力、自覚症状や他覚症状(所見)の有無などが確認できますし、健診機関によっては「平衡機能検査」などのオプション検査も実施

します。高齢社員も今の健康状態が分かれば、無理をせず慎重に行動するようになるでしょう。

3)体力テストを実施する

高齢社員が自らの状態を正しく把握するために、体力テストを実施するのもよいでしょう。 例えば、ある製鉄会社では体力低下を早期に認識し、改善を促すためのスクリーニングテストを行っています。スクリーニングテストでは、

  • 転倒リスクを確かめるためのバランス歩行や片足立ち上がり
  • 腰痛リスクを確かめるための上体起こしや体前屈

などを実施し、結果を5段階で評価します。結果が良くない社員には、どのような運動が必要かなどのアドバイスも行っています。

4 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る

高齢社員に気付きを促すといっても、本人の努力だけで労災をゼロにするのは困難です。健康診断の結果などから高齢社員の傾向をつかんで、会社側でも労働条件を工夫し、労災が起きにくい環境を整えることが大切です。次のような点がポイントです。

1)社内設備を変える

高齢社員が働きやすいよう、社内設備の改善をしていきます。例えば、転倒を防ぐなら、転びやすい場所に手すりを設置する、暗くて作業がしにくい場所の照明を増やすといった具合です。

2)役割分担を変える

人手不足の会社などでは、高齢社員も多くの業務を担当せざるを得ませんが、労災リスクの高い業務については、部分的に若手に任せることを検討してみましょう。例えば、運送業の会社で、高齢社員が梱包・運搬・開梱の全てを担当している場合、

高齢社員は、梱包と開梱だけに専念してもらい、運搬は若手社員に任せる

などして、転倒や腰痛などのリスクを低減します。役割変更が難しい場合は、高齢社員にアシストスーツの着用を義務付けるなどして、身体への負担軽減を図りましょう。

3)労働時間を変える

高齢社員の身体機能を考慮して、労働時間を工夫することも大切です。例えば、疲れが取れにくいという高齢社員の場合、

夜勤はやめて日中の短い時間に勤務する(高齢社員が複数いる場合はシフト制にする)

などすれば、労災対策になるでしょう。

4)雇用の仕方に注目する

高齢社員を継続雇用する場合、1年ごとなどに労働契約を更新するのが一般的です。もし、健康状態を考慮して雇用継続が難しいという判断になったのなら、「雇止め(労働契約を更新しない)」という選択もやむを得ません。ただし、雇止めにはルールがあるので、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」などに注意しましょう。また、フリーランスのように、雇用以外の方法で、高齢社員が自分のペースで働ける選択肢を用意しておくのも1つの手です。

以上(2024年3月更新)

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画像:pixabay

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