書いてあること
- 主な読者:長時間のパソコン業務がある企業の経営者など
- 課題:この業務による従業員の健康悪化は問題。どうすれば防げる?
- 解決策:「片方のまぶたがけいれんする」などの症状は、作業環境が原因である可能性が高い。症状を訴える従業員がいたら、付属のチェックシートを使って改善点を確認する
1 アンケートに見るパソコン業務への対応
長時間に及ぶ「情報機器作業」(パソコンやタブレット端末などを使ったデータ入力、文章・画像の編集、監視などの作業)は、眼精疲労、首・肩こり、腰痛、抑うつ症状など、さまざまな不調を引き起こす恐れがあり、社会的な問題となっています。
しかし、全国の経営者に対して行った独自アンケートによると、情報機器作業による健康悪化への対応を「行っている」のは全体の21.0%にとどまり、「健康悪化が認められるが行っていない」のは36.9%という結果になりました。
「健康悪化が認められるが行っていない」、最も大きな理由は「どんなことをしたらよいか分からないから」の30.6%、次は「対応を進める上での知識・ノウハウがないから」の25.9%でした。
情報機器作業による従業員の健康悪化に問題意識を持ちつつも、情報不足により具体的な対応策を見いだせない企業が多いことが分かります。
一方、対応を講じている企業に具体的な対応策を聞いてみたところ、最も多かったのは、「照明・採光の調整・管理」の58.3%、次は「デスク(作業台)や椅子の改善」の56.5%でした。
必要な対策は作業環境などによって異なりますが、具体策を検討する上で参考になるのは、実に17年ぶりに改定された「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)です。
2 17年ぶりに改定されたガイドラインのポイント
ガイドラインは、2002年4月に公表された「VDT(Visual Display Terminals)作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を、近年の情報機器の多様化などを踏まえて、17年ぶりに改定したものです。
ガイドラインは、産業医学や人間工学などの知見に基づき、適切な採光条件や作業時間などを具体的に示しており、産業医による職場巡視の際などに、チェックの基準となります。
ガイドラインの改定のポイントは、情報機器作業において、「拘束性のある作業」を健康悪化の最も大きな原因としたことです。拘束性のある作業とは、次の通りです。
- 【拘束性のある作業の定義】
1日に4時間以上情報機器作業を行う者であって、次のいずれか - 作業中、常時ディスプレイを注視、または入力装置を操作する必要がある
- 作業中、自身の裁量で適宜休憩を取ることや作業姿勢を変更することが困難である
ガイドラインでは、上記のような作業者に対し、事業者は、適切な作業環境管理などの他、配置前および1年に1回、「業務歴」「既往歴」「自覚症状の有無」「眼科学的検査」「筋骨格系検査」について健康診断を実施することとしています。
これら情報機器作業に関する健康診断は、一般的に「VDT健診」などと呼ばれます。VDT健診では、受診者ごとに眼や首・肩などに関するアドバイスや、作業環境の改善点の指摘などを行ってくれることが多いようです。
■情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(厚生労働省「職場における労働衛生対策」ページの「情報機器作業」にアップされています)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei02.html
3 パソコン業務が原因かどうかを見分けるには?
VDT健診を実施している医療機関へのヒアリングによると、「VDT健診を依頼する企業や、情報機器作業による健康悪化を訴える人はかなり増えている。ただし、拘束性のある作業に従事して、健康悪化の症状を訴えている人でも、本当に作業環境の改善が必要なレベルではない場合も多い」(*)とのことです。
(*)2019年12月13日時点
では、どのような症状がある場合に、VDT健診を受診したり、作業環境の改善が必要になったりするのでしょうか。同医療機関へのヒアリングによると、次の自覚症状がある場合、作業環境の改善項目が見つかる可能性が高いとのことです。
- 【作業環境などが要因となっている可能性が高い症状】
次のいずれかの症状が、睡眠をしっかり取った翌日も改善しない場合 - 午後にかけて、眼の奥に痛みを感じる
- 午後にかけて、眼を開けていたり、物を見るのがつらい
- 片方のまぶたがけいれんする
上記のような自覚症状を訴える従業員がいたら、原因となっている作業環境を洗い出し、改善していきましょう。
4 【チェックシート】あなたの職場の問題点と改善策
ガイドラインなどを基に、健康悪化の原因になりやすい作業環境と、その改善策の例をチェックシートにまとめたので、ぜひご活用ください。
なお、産業医業務を受託している企業へのヒアリングによると、「工場など製造現場の執務スペースや、小売業のバックオフィスなどは、照明や採光、デスク(作業台)や椅子などの作業環境が整っていないことが多い。ただし、情報機器の数が多くないので改善されやすい」(*)とのことです。
一方で、「パソコン業務が多い企業では、照明や採光、デスク(作業台)や椅子などは整っているものの、姿勢や連続作業時間など、自助努力で改善できる部分が整っていないことが多い」(*)とのことです。
(*)2019年12月13日時点
5 ノートパソコンでの作業は特に注意
前述した産業医業務を受託している企業へのヒアリングによると、「最近は、フリーアドレスで、従業員がノートパソコンを使う事業所が増えている。ノートパソコンでの作業は姿勢が悪くなりやすい」(*)とのことです。
(*)2019年12月13日時点
日本人間工学会「ノートパソコン利用の人間工学ガイドライン」によると、ノートパソコンでの作業の際には、次のような点に特に注意が必要とされています。
- ノートパソコンを狭いデスク(作業台)に置いたり、資料を横に置きながら作業したりすることで、ねじれ姿勢になりやすい
- ノートパソコンはディスプレイとキーボードが一体化しているため、前かがみになり、眼との距離が近くなりやすい
- キーが小さかったり、作業スペースが十分でない場合、手首が外側へ曲がった窮屈な姿勢になったり、手首に対して指先側が外側へ曲がりすぎたり(尺側変位)、手首から先が上方向(背屈)あるいは下方向(掌屈)に曲がりすぎたりしやすい
このような状況で作業している従業員が見られる場合は、正しい作業姿勢を図解したチラシなどを用いて、自助努力による姿勢改善を促しましょう。
また、キーボードが小さすぎると感じる従業員のために、外付けキーボードを用意しておくのもよいでしょう。
以上(2020年1月)
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画像:pixabay