1 IT導入補助金2025の概要
「IT導入補助金」とは、
中小企業・小規模事業者等が、業務効率化や生産性向上を目的としてITツール(ソフトウェア、クラウドサービス等)を導入する際、費用の一部を国が補助する制度
です。2025年度は「通常枠」「複数社連携IT導入枠」「インボイス枠(インボイス対応類型)」「インボイス枠(電子取引類型)」「セキュリティ対策推進枠」の5つの申請枠が用意され、
2024年度よりも内容が拡充(最低賃金近傍の事業者への補助率引き上げなど)
されています。
採択率も高く、2023年度は9万3211件のうち7万742件(75.9%)、2024年度は7万1767件のうち5万175件(69.9%)の申請が採択されています。とはいえ、申請する際には、
IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」(ITツールを提供するベンダー)と、パートナーシップを組んで申請することが必要となる
ため、ある程度、準備に時間がかかります。以降で、2025年5月23日時点における各申請枠の内容、申請の流れなどを簡単に紹介します。詳細は、公式ウェブサイトをご確認ください。
■IT導入補助金2025■
https://it-shien.smrj.go.jp/
2 各申請枠の内容
1)通常枠
働き方改革、賃上げ等に対応するため、生産性向上・業務効率化に役立つITツールの導入を支援します。補助の対象は次の通りです。
- ソフトウェア(必須):ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)
- オプション:機能拡張、データ連携ツール、セキュリティ
- 役務:導入コンサルティング・活用コンサルティング、導入決定・マニュアル設定・導入研修、保守サポート
補助率と補助額は次の通りです。赤字部分は、2025年度から拡充されている内容です。
補助額の欄の「業務プロセス」とは、
ソフトウェアを導入することによる、特定の業務工程の生産性向上・効率化に資する機能
のことで、このプロセスの数によって補助額が変わります。なお、業務プロセスの他に、業種・業務が限定されず、生産性向上への寄与が認められる「汎用プロセス」がありますが、こちらは単体での使用は不可となっています。
2)複数社連携IT導入枠
商業集積地やサプライチェーンに関連する複数の中小企業・小規模事業者等が連携し、ITツールを導入する場合、「通常枠」よりも補助率を引き上げて支援します。補助の対象は次の通りです。
- 基盤導入経費:「会計・受発注・決済」の機能を保有するソフトウェアとそのオプション、役務およびそれらの使用に資するハードウェア
- 消費動向等分析経費:異業種間の連携や地域における人流分析・商取引等の面的なデジタル化に資するソフトウェアとそのオプション、役務、ハードウェア
- その他経費:参画事業者のとりまとめに係る事務費、専門家費
補助率と補助額は次の通りです。複数の事業者が連携するタイプの申請枠であるため、補助額はその連携したグループ構成員数によって変動します。
3)インボイス枠(インボイス対応類型)
インボイス制度への対応を強力に推進するため、インボイス制度に対応した会計ソフト等を導入する場合、「通常枠」よりも補助率を引き上げて優先的に支援します。補助の対象は次の通りです。
- ソフトウェア(必須):インボイス制度に対応しており、かつ「会計」「受発注」「決済」の機能を1種類以上有するソフトウェア
- オプション:機能拡張、データ連携ツール、セキュリティ
- 役務:導入コンサルティング・活用コンサルティング、導入設定・マニュアル設定・導入研修、保守サポート
- ハードウェア(単体での使用は不可):PC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機、POSレジ・モバイルPOSレジ・券売機
補助率と補助額は次の通りです。
4)インボイス枠(電子取引類型)
インボイス制度への対応を強力に推進するため、インボイス制度に対応した受発注ソフトを導入する場合、「通常枠」よりも補助率を引き上げて優先的に支援します。補助の対象は次の通りです。
- 受発注ソフト:インボイス制度に対応した「受発注」の機能を有しているものであり、かつ取引関係における発注側の事業者としてITツールを導入する者が、当該取引関係における受注側の事業者に対してアカウントを無償で発行し、利用させることのできる機能を有するクラウド型のソフトウェア
補助率と補助額は次の通りです。
5)セキュリティ対策推進枠
サイバーセキュリティ対策において、生産性向上を阻害するリスク(例:サイバーインシデントにより、事業継続が困難になる)や、潜在的リスク(例:供給制約やそれに起因する価格高騰)を低減するため、ITツールの導入を支援します。補助の対象は次の通りです。
- ITツールの導入費用およびサービス(最大2年分):独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されており、かつIT導入支援事業者によりITツール登録されたサービス
■IPA「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」■
https://www.ipa.go.jp/security/otasuketai-pr/index.html#service_area
補助率と補助額は次の通りです。赤字部分は、2025年度から拡充されている内容です。
3 交付申請の手続き
交付申請の手続きの流れは次の通りです。中小企業・小規模事業者等がやるべきことを簡単に整理しましょう。
1)GビズIDの取得
IT導入補助金の申請は電子申請となるため、GビズID(1つのIDで複数の行政サービスにアクセスできるサービス)のプライムアカウントが必要です。アカウント発行までの期間は、おおむね2週間です。
■GビズID(gBizID)■
https://gbiz-id.go.jp/top/
2)SECURITY ACTION宣言の実施
SECURITY ACTION宣言とは、中小企業・小規模事業者等が情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する制度です。取り組み目標に応じて「★一つ星」と「★★二つ星」のロゴマークがあり、宣言するには、中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン付録の
- 「情報セキュリティ5か条」に取り組むこと(★一つ星)
- 「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」で自社の状況を把握した上で、情報セキュリティ基本方針を定め、外部に公開すること(★★二つ星)
が必要です。
■SECURITY ACTION セキュリティ対策自己宣言■
https://www.ipa.go.jp/security/security-action/
3)ITツールの選定
第1章でも述べた通り、IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」からのサポートを受けて申請します。そのため、申請前に自社の業種や事業規模、経営課題に沿って導入したいITツールやIT導入支援事業者を選ぶ必要があります。ITツール・IT導入支援事業者は、こちらから検索できます。
■IT導入補助金2025「ITツール・IT導入支援事業者検索(コンソーシアム含む)」■
https://it-shien.smrj.go.jp/search/
4)交付申請
IT導入支援事業者と相談しながら、交付申請の事業計画を策定し、次の流れで交付申請を行います(複数社連携IT導入枠については手続きが異なるため、公募要領を別途ご確認ください)。
- IT導入支援事業者から「申請マイページ」の招待を受け、代表者氏名等の申請者基本情報を入力する
- 交付申請に必要となる情報入力・書類添付を行う
- IT導入支援事業者にて、導入するITツール情報、事業計画値を入力する
- 申請マイページ上で入力内容の最終確認後、申請に対する宣誓を行い事務局へ提出する
■IT導入補助金2025「申請マイページログイン」■
https://portal.shinsei.it-shien.smrj.go.jp/
5)交付決定
提出した書類が審査され、交付が決定されます。
4 交付決定後の手続き
交付決定後の手続きの流れは次の通りです。中小企業・小規模事業者等がやるべきことを簡単に整理しましょう。
1)ITツールの契約・発注・支払い
交付申請を完了し、事務局から交付決定を受けたら、ITツールの契約・発注・支払いを行います。なお、交付決定前に契約・発注・支払いを行った場合、補助金の交付を受けることができないので注意が必要です。
2)事業実績内容を事務局へ報告
補助事業の完了後、IT導入支援事業者と連携して、実際にITツールの契約・発注、納品、支払い等を行ったことが分かる証憑(しょうひょう)を提出します。証憑の提出の流れは次の通りです。
- 申請マイページから必要情報の入力・証憑の添付を行い、事業実績報告を作成する
- 事業実績報告の作成後、内容の確認・必要情報の入力を行う(これはIT導入支援事業者が行う)
- 最終確認後、事務局に事業実績報告を提出する
3)補助金決定額を確認・承認
補助事業者が申請マイページから確定検査の結果・補助金交付決定額を確認し、内容に相違がなければ承認(SMS認証が必要)を行います。承認を行うと、補助金が交付されます。
4)事業実施の効果を報告
定められた期限内に補助事業者が申請マイページから必要な情報を入力し、IT導入支援事業者の確認を経て提出します。
5 不正行為にご注意を!
次の不正行為は、交付決定取消、補助金の返還請求、IT導入支援事業者登録取消の対象となります。自社が不正行為をしないだけでなく、IT導入支援事業者等が該当する行為をしていないかにも注意しましょう。
1)ITツールを実質無償で提供する、減額する等の販売行為
- 会計ソフトの購入費用を後日、IT導入支援事業者もしくは第三者から返金される
- その他営業先への紹介料と称して、IT導入支援事業者もしくは第三者から「紹介料やコンサル料等」を受け取る など
2)補助対象者以外が申請手続きを代理で行う行為
- 補助対象者がGビズID(法人・個人事業主向け共通認証システム)等を他者に共有し、申請マイページの開設やその後の交付申請における手続き等を行わせる など
3)ITツールが導入されていない、役務(導入研修・コンサルティング等)が実際に遂行されていない行為
- 会計ソフトを購入したが、試供版のみが提供されており、利用可能なソフトウェアが導入されていない
- 在庫管理ソフトの購入とソフトウェア導入研修を10時間受講したという内容で補助金を受給したが、実際は導入手順をメールで共有されたのみで導入研修が行われていない など
4)同じ内容で国から他の補助金や助成金を受給する行為
- 1つの顧客管理システムについて、「IT導入補助金」と「ものづくり補助金」の両方に申請し、顧客管理システム購入費用に対してそれぞれの補助金を受給する など
5)補助事業者として不適切な行為
- 補助金の受給要件を満たすため、社員を過少申告するなど企業実態を偽装して申請する など
以上(2025年6月作成)
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画像:takasu-Adobe Stock