書いてあること
- 主な読者:社内の雰囲気をもっと良くしたい、社員のやる気をもっと高めたい経営者
- 課題:リモートワークやフレックスタイム制などの施策をいろいろ講じているが、効果を実感できない。それどころか、逆に離職する社員までいる
- 解決策:自社の社員を5つの層に分類し、会社に居続けてほしい社員の優先順位を立てて、それに基づいて施策を打っていく
1 ハイポテンシャル人材、立ち上がり人材、優秀人材の順で離職対策を進める
ぶら下がり人材(やる気はないが消極的な理由で会社に定着している社員)を減らし、意欲的に働く社員が増えていく好循環を創り出す方法として、まず「会社として大事にしたい人材像を定義する」ことが必要です。
具体的には社員全体を次の5つの層に分け、どの層に焦点を当てるかを明確にしていきます。
- 優秀人材:すでに会社のけん引役となっている優秀な社員
- ハイポテンシャル人材:3~5年後に優秀人材になりそうな社員
- 立ち上がり人材:新卒・中途を問わず入社から1年以内の社員
- 普通人材:やるべきことを真面目にこなす社員
- ぶら下がり人材:やる気はないが消極的な理由で会社に定着している社員
筆者がお勧めするのはハイポテンシャル人材、立ち上がり人材、優秀人材の順で離職対策を進めることです。後編では、この3つの層の社員に対し、具体的にどのような施策を打てば会社に居続けてもらえるのかを見ていきます。
2 どうすれば会社に居続けてもらえる?
ハイポテンシャル人材、立ち上がり人材、優秀人材の社員にアプローチする上でのポイントは、離職の種類別に施策を立てることです。具体的には、次の3つの場合に分けて考えます。
- 離脱:心身の健康状態が悪化し働けなくなるときに起こる離職
- 消極的離職:「働きやすさ」が低下したときに、今の環境から逃れるための離職
- 積極的離職:「働きがい」が低下したとき、つまり今の会社で働くモチベーションが低下した場合に多い離職(自分の希望をかなえるための転職)
1)ハイポテンシャル人材に対する施策
1.離脱が発生している場合
ハイポテンシャル人材をつぶしてしまう恐れがあり、一番良くないパターンなので、早急に対策が必要です。ハイポテンシャル人材は、仕事に集中しやすく、のめり込んで行うため疲労が蓄積しやすいという特徴があるので、メンタルヘルスケアを実施しましょう。
2.消極的離職が発生している場合
何らかの理由で働きやすさが低下しています。ただ、具体的に何が問題なのかが分かれば、解決策自体は明快なことが多く、経営者や管理職の覚悟さえあれば容易に対策が進みます(リモートワークやフレックスタイム制の導入、給与水準のアップなど)。ですから、まずは社員の悩みをよく聞くことが大切です。離職時のアンケートの蓄積、意識調査や1on1面談などによって、社員の声を拾いましょう。
3.積極的離職が発生している場合
一番対策が難しいです。「働きがい」を上げるための機会を創出する必要があります。具体的には、本人の強みが活用される仕事内容を与える、成長していると実感ができるようなアサインの仕方をする、職場のメンバー同士の交流機会を増やし居場所として認識してもらうなどが考えられます。ただし、「コミュニケーションを取らずに仕事に集中したい」など、社員の性格などによっては効果が見られないこともあり、対策には時間や手間を要するケースが多いです。3.の対策をするなら、1.と2.の離職対策に注力するのがよいでしょう(過度な働きやすさをつくりすぎないように注意)。
2)立ち上がり人材に対する施策
1.離脱が発生している場合
採用時にミスマッチが起きている可能性があります。入社時にストレス耐性を確認しておくこと、採用面談時に「この会社でどのような労働価値を得られるのか」などを擦り合わせておくことが大切です。また、新しい職場に適応していく段階では疲労が蓄積されやすいため、入社後3カ月程度は過度な業務負荷をかけず、段階的に業務を広げるようにしましょう。
2.消極的離職が発生している場合
業務負荷の多さや人間関係に注意が必要です。現場の上長による定期的な声掛けや1on1面談の実施、人事による会社や部署への適応状況のヒアリングを通じて、立ち上がり人材の業務や精神をサポートしていくようにしましょう。
3.積極的離職が発生している場合
見本となるハイポテンシャル人材を複数育成することが対策になります。前編で述べた通り、ハイポテンシャル人材が優秀人材になろうと成長していく姿は、立ち上がり人材にとっての良い道標となり、ひいては働きがいにつながります。
3)優秀人材に対する施策
1.離脱が発生している場合
年齢層が高めのケースが多いです。メンタルヘルスケアをはじめ、心身の健康をサポートするようにしましょう。
2.消極的離職が発生している場合
不満を特定し、全社的な問題であれば除去しましょう。親の介護や自身の体調など、高齢の社員ならではの悩みを抱えているケースがあるため、必要に応じて休暇制度や健康診断の項目の見直しなど、できる範囲での対応を行いましょう。
3.積極的離職が発生している場合
これを止めるのは至難の業です。優秀人材はその能力故に、一度転職を決意してしまうと、すぐに辞める可能性があります。ここにかける労力があれば、ハイポテンシャル人材や立ち上がり人材の離職対策に注力したほうがよいでしょう。
3 ターゲティング戦略によってぶら下がり人材はどうなる?
このように、ターゲティング戦略を行うことで、意欲的に働く社員が評価される会社になると、組織がぬるま湯化するプロセスと逆の現象が発生します。具体的には、モチベーションの低いぶら下がり人材に、次のような変化が起こります。
- 働きやすさが下がって、自分の許容範囲から外れるので離職する(消極的離職)
- 働きやすさは下がるが、自分のやれる範囲で頑張ろうとする(ぶら下がり状況の改善)
- やった分だけ評価される文化になるので「やる」ようになる(染まる)
こうした変化により、意欲を持って働く社員の割合が増加すれば、会社全体の生産性の向上なども期待できます。
なお、今回は、離職対策のターゲティング戦略を中心に話してきましたが、離職は全てが悪というわけではありません。ゼロを目指すのではなく最適化することが重要です。特に近年は、働き方改革やコロナ対応により雇用の形も変わってきています。
若手未経験者を採用し、ある程度たったら積極的離職(転職)を推奨する「卒業文化」を創出することで、ハイポテンシャル人材が集まりやすい環境をつくるという戦略もあるので、会社や業種、時代に合った仕組みを取り入れていくことをお勧めします。
以上(2021年7月)
(執筆 エリクシア代表取締役 医師 産業医 経営学修士(MBA) 上村紀夫)
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