書いてあること
- 主な読者:誰もが知っているようなニュースレベルの会話しかできない中堅社員
- 課題:しっかりと提案しているつもりなのに、相手から「薄い話」と捉えられてしまう
- 解決策:ある事柄について、「なぜ?」を5回繰り返すなどして深掘りする
1 なぜか、課長は不満顔
「最近、営業が絶好調じゃないか。この調子で頑張ってくれよ」。営業一課に所属する中堅社員のAさんは、課長から声をかけられました。「はい。運が良いのか、順調に受注できています」と、課長に褒められたうれしさを押し殺すように、謙遜気味にAさんは答えました。
「そうか。実は、この機会に、新規顧客の開拓にも取り組んでみてほしいと思っているのだが、どうだろう?」と尋ねる課長に対して、Aさんは「はい、ぜひやらせてください!」と元気良く答えました。
すると課長は、Aさんを試すように顔をのぞき込みながら、「仮に、『アプローチ先は、自由に決めていい』って言われたら、どこを攻める?」と質問をしてきました。Aさんは少し考えながら「先日、ニュースで『B業界の業況が良い』と言っていたので、B業界なんてどうでしょうか……」と答えました。
「……そうか、わかった。具体的には後で指示するが、Aさんも考えてみてくれないか」少し物足りなさそうな表情をしながら、課長は立ち去っていきました。「急に聞かれても、すぐには答えられないよ……」と、課長の真意が分からないAさんでした。
2 「薄い話」になっていませんか?
話をしていると、時々、相手の話の内容が「何となく物足りない」(以下「薄い話」)と感じることはないでしょうか。例えば、「B業界」と言ったAさんのように、誰もが知っているニュースをそのまま話しているだけの場合と、それだけではなく、自分なりに考えながら「好調なB業界の企業と取引の多いC業界」と言った場合では、どのように感じるでしょうか。
恐らく、聞き手にとっては、前者は薄い話という印象を受けるのではないでしょうか。薄い話ばかりだと、周囲の人からは、物足りなく思われます。そうなると、信頼を得ることは難しくなるので、注意しなければなりません。
薄い話になってしまうのは、これまで積み重ねてきた経験やノウハウの差などが原因ではあります。ただし、必ずしも、それだけではありません。例えば、自分より業務経験が少ない人の話でも、しっかりした話と感じることもあるでしょう。逆に、経験豊富な先輩社員の話であっても、薄い話と感じることもあるはずです。
薄い話と感じる大きな理由は、「その人なりの考えた跡が見られない」ことにあります。そのため、仮に間違った(適切ではない)意見であっても、その人なりにしっかりと考えた結果であれば、薄い話とは感じないでしょう。
以降では、薄い話とならないようにするためのヒントなどを紹介します。
3 薄い話にならないようにするためのヒント
1)本質を探る
意見が求められている話題の本質を探ります。具体的な方法は話題によって異なりますが、トヨタ生産方式で有名な「なぜを5回繰り返す」が役に立ちます。必ずしも5回ということではありませんが、「なぜ」を繰り返していくことで、本質に近づくことができる場合があります。
冒頭の例で言えば、「B業界が好調なのは『なぜ?』」→「輸出が好調だから」。「輸出が好調なのは『なぜ?』」→「Zという新興国での需要が伸びているから」……と「なぜ?」を繰り返していくことで、B業界が好調である本質に近づくことができます。
「Zという新興国での需要が伸びている」ことが原因だと分かれば、「以前から、その新興国への輸出をしている他の業界や企業も、業績が好調なのでは?」「自社が、その新興国に直接輸出してもいいのでは?」といったように、広い視野から考え、意見を述べることができるようになります。
2)一つの情報から広げて考える
一つの情報を、そのまま伝えるのではなく、それを基にして、他の情報と関連付けたり自分なりに仮説を立てたりしながら、広がりを持たせるよう考えてみます。
冒頭の例で言えば、「景気回復により、B業界が好調だ」と言うだけでは、一つの情報にしかすぎません。それを基に、B業界が好調であれば、「B業界の川上(川下)に当たる業界の業績も好調なはずだ」「B業界の業者が集積している地域では、その他の業種であっても、業績の好調な企業が多いのではないか」といったように仮説を立てて考えてみると、冒頭のAさんのような「薄い話」にはならないはずです。
以上(2021年10月)
op20150
画像:antkevyv-shutterstock