厚生労働省は今年7月、「令和5年度 個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表しました。個別労働紛争解決制度は、企業と労働者の間の労働トラブルを解決するための公的制度です。労働基準監督署などで行われている総合労働相談、都道府県労働局長による助言・指導などの方法があり、労働者や企業が無料で利用できます。個別労働紛争解決制度の施行状況を分析すると、労働トラブルを防ぐためのポイントが浮かび上がり、大変参考になります。
本稿では、公表資料のポイントを紹介しながら、近年の労働トラブルの傾向と企業が留意すべき点について解説していきます。
1 労働相談121万件
令和5年度の総合労働相談は、121万412件に上りました。4年連続で120万件を超え、高止まりしています。この相談は、全国の労働基準監督署などにある「総合労働相談コーナー」で無料で行われています。ケースによっては、相談員が2~3時間かけてじっくり話を聴くこともあり、労働トラブルの身近な駆け込み寺となっています。相談がもととなって、労働基準監督署が企業に調査に入るケースもあり、「たかが無料の相談制度」と甘く見ないほうがよいでしょう。
令和5年度の総合労働相談121万412件の内訳(重複計上あり)は、「法制度の問い合わせ」83万4,829件、「労働基準法等の違反の疑いがあるもの」19万2,961件、「民事上の個別労働関係紛争相談」26万6,162件でした。
令和5年度の総合労働相談
※厚生労働省「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」より
「法制度の問い合わせ」の中には、賃金、時間外労働、年次有給休暇、休憩などについて、勤務先の対応に不満を持つ労働者が法令の細かい点を質問してくるケースが少なくありません。
「労働基準法等の違反の疑いがあるもの」は、賃金未払い、最低賃金違反、違法な時間外労働などです。企業が刑事責任を問われる可能性もあるので、注意が必要です。
2 いじめ・嫌がらせがトップ
「民事上の個別労働関係紛争相談」は、「いじめ・嫌がらせ」(6万125件)、「自己都合退職」(4万2,472件)、「解雇」(3万2,944件)など、労働トラブルの宝庫であり、企業が気をつけるべきポイントと言えます。
詳しい内訳は、次のようになっています。
週に何日働きたいか
※厚生労働省「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」より
どのトラブルも民事上の争いなので、訴訟に発展するリスクがあります。特に「いじめ・嫌がらせ」は、事実関係の把握に時間と労力がかかり、企業の本来業務に支障を及ぼしかねません。
上のグラフに記載されたトラブルに注意するだけでも、労務管理上のリスクを大幅に減らすことができます。
3 さいごに
平成13年度にスタートした個別労働紛争解決制度は、相談件数の状況を見ても、広く認知されていることが伺えます。これを踏まえると、社内の労働トラブルを放置していると、大きな問題に発展する可能性があると言えるでしょう。企業の健全な運営のためにも、前述の気をつけるべきポイントを今一度確認いただくとともに、判断に迷うことがございましたら、お気軽に弊所にご相談ください。
※本内容は2024年9月10日時点での内容です。
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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