仕事によるストレスが原因で精神障害を負い、国から「労災」と認められた件数が、令和6年度に1,055件に上りました。年々増える傾向にありますが、初めて1,000件を超え、過去最多となりました。本稿では、厚生労働省が今年5月に公表した「令和6年度 過労死等の労災補償状況」から、精神障害の労災認定に絞って主なデータを紹介します。

1 10年前の2倍以上に

精神障害の労災認定1,055件は、前年度と比べ172件増えました。10年前の平成26年度(497件)と比べると、2倍以上となっています。1,055件のうち自殺や自殺未遂に至ったのは88件でした。

精神障害の労災認定件数

精神障害の労災認定件数

※厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」より

1,055件を業種別に見ると、多い順に「社会保険・社会福祉・介護事業」152件、「医療業」118件、「道路貨物運送業」69件、「総合工事業」46件、「飲食店」44件となっています。このほか、「その他の事業サービス業」「その他の小売業」「食料品製造業」「宿泊業」などが上位15業種に入りました。

職種別では、1,055件のうち最多が「一般事務従事者」の97件、続いて「保健師、助産師、看護師」70件、「自動車運転従事者」と「介護サービス職業従事者」がそれぞれ62件、「営業職業従事者」51件、「社会福祉専門職業従事者」47件となっています。このほか、「法人・団体管理職員」「接客・給仕職業従事者」「商品販売従事者」などが上位15職種に入っています。

2 原因はパワハラが1位

1,055件を原因別に見ると、最も多かったのは、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の224件。続いて、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」が119件でした。「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(カスタマーハラスメント)が108件で3番目に多く、「セクシュアルハラスメントを受けた」が105件で4番目となっています。

長時間労働も主要な原因となっています。「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が51件、「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」も36件ありました。仕事に伴うメンタル疾患を防ぐには、まず、ハラスメントや長時間労働を防ぐことが重要なのです。

ただ、それだけでは不十分です。日頃から、会社全体で従業員のメンタルヘルス対策に取り組む必要があります。ストレスチェックや面接などで、従業員一人一人の精神の状態を把握し、不調がある場合には、医療機関の受診を勧めるほか、業務量を減らしたり、休暇を与えたりといった配慮も欠かせません。

しかし、中小企業では、人的な余裕がないことなどを理由に、取り組みが低調になりがちです。厚労省の「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業の割合は、労働者数50人以上の事業場では91.1%に上りますが、30~49人の事業場では73.1%、10~29人の事業場では55.7%となっています。

3 さいごに

仕事が原因の精神疾患については、労災の請求件数自体も増える傾向にあり、令和6年度には、過去最高の3,780件の請求がありました。企業が、精神疾患について労災を国に請求するような事態は、かなり深刻なケースです。そうなる前に、日頃から従業員の心の状態に配慮し、メンタルヘルスケアに力を入れることが重要です。

すぐに参考になるのは、厚労省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」です。このサイトには、「中小企業の事業主の方へ~メンタルヘルスケアに役立つコンテンツ~」と題した特設ページがあります。このほか、「5分でできる職場のストレスセルフチェック」「働く人の疲労蓄積度セルフチェック」など、すぐに利用できるコンテンツもありますので一度確認してみてはいかがでしょうか。

※本内容は2025年7月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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