書いてあること
- 主な読者:採用面接のミスマッチを防止したい経営者
- 課題:応募者見極めの判断基準が曖昧、面接官が主観で質問と評価を行っている
- 解決策:構造化面接に取り組む。特に重要なのは「質問の構造化」。応募者のどんな価値観を見極めたいのかを明確にし、応募者の話を掘り下げる
1 「構造化面接」でミスマッチを防止する
採用活動においてどんな課題を抱えているか。この質問を企業人事の方に投げかけてみると、「面接の評価において採用チーム内で意見が割れることがある」「採用計画を達成するために、採用基準がブレることがある」「入社して半年以内の早期退職者が多い」といった回答が少なくありません。これらの問題が生じる背景には、次のような共通課題があります。
- 応募者見極めの判断基準が曖昧である
- 面接官が主観で質問と評価を行っている
この課題を解決する切り札が、「構造化面接」です。構造化面接とは、次のように定義されています。
自社の採用要件を明確にした上で、あらかじめ質問項目と評価基準を決めておき、マニュアル通りに面接を実施していく面接手法
あまりにガチガチに面接をマニュアル化すると、面接自体が盛り上がらないのでは……とお考えかもしれません。しかし、過去の面接を振り返ってみてください。盛り上がったからといって、自社にマッチした人材が採用できたというわけではないと思います。逆にマニュアル化することで、面接の盛り上がりなどに左右されず、応募者の話に集中することができるので、妥当な評価につながります。
また、コロナ禍でWeb面接に取り組んでいる企業も多いと思います。Web面接では、表情やしぐさなどが乏しかったり、タイムラグがあったりと、スムーズな会話が難しいもの。しかし、構造化面接にすることで、会話がしやすくなったり、相手に話を聞いてもらえたという納得感が高まったりするとの指摘もあり、構造化面接とWeb面接の相性は良いといえます。
この記事では、構造化面接のメリットなどとともに、その手法について解説します。
2 構造化面接の4つのステップ
構造化面接は次の4つのステップで進めていきます。
- 求める人物像の特定
- 質問の固定化
- 詳細な質問内容の特定
- 評価基準の特定
1.求める人物像の特定
どのような人材を採用したいのか、まずは、求める人物像をしっかり特定するのが構造化面接の一丁目一番地です。自社のカルチャーにフィットした人材、あるいは現状を打開してくれそうな異能人材など、経営戦略に紐づけながら特定していってください。多くの企業が実践しているのは、優秀な社員(ハイパフォーマー)や幹部層にヒアリングを行い、それを整理して求める人物像を定めるといったものです。
2.質問の固定化と3.詳細な質問内容の特定
面接で対峙した応募者が求める人物像と合致しているかを見極める、まさに構造化面接の中核をなすステップです。ここは最も重要なポイントなので、次章で詳しく解説します。
4.評価基準の特定
評価の中点(5段階評価だとしたら3点)のレベル感を定めることから始めましょう。「非常に良い」「良い」「普通」「悪い」などのように評価基準を区分し、その判断基準も明文化しておきます。
例えば、失敗した話や苦労した話であれば、次のような評価基準を設定しておきます。
- 非常に良い:主体的に行動して解決している
- 良い:プロジェクトリーダーに従うなど主体的な解決策ではないものの、解決に貢献したと考えられる
- 普通:苦労した経験がなく、主体的な動きが見られない
- 悪い:現実味のないエピソードや再現性のない解決策である
自社の採用基準では、どの程度のスキルが求められるのかを明確にしておけば、必然的に評価基準もはっきりします。
3 想定質問と誘導質問のわな
肝心の「質問の構造化」について解説する前に、陥りがちな質問手法について触れておきます。それが「想定質問」と「誘導質問」です。
想定質問とは、応募者が事前に準備できる質問のこと。「自社の志望理由を聞かせてください」「入社したらどんなことをしたいですか」といった質問だと、応募者が「きっと聞かれるだろう」と想定し、適切な答えを用意して面接に臨んでいるケースが大半です。自分を少しでもよく見せようと入念に準備をしてくる応募者がほとんどなわけですから、面接で見せる姿や言動は取り繕ったものになりがち。こうした想定質問だと応募者の真の能力は見えづらくなります。
誘導質問は、企業側が期待している答えが相手に伝わってしまう質問のこと。「地方への転勤は可能ですか」といった質問は、「転勤してほしい」という企業の希望が暗に伝わってしまうため、とにかく入社したいと考えている応募者は、本心では転勤したくなくても、「はい、可能です」と答えてしまうでしょう。その結果、内定を出した後に「やはり転勤できない」と内定を辞退されることもあります。
細かなルールを設けず、面接官がノリ重視で自由に面接を行うと、どうしても「想定質問」や「誘導質問」に終始してしまいがちです。聞きたいことは聞けたはずなのに、終わった後に振り返ってみると、聞いた内容が浅い。結果として応募者の見極めに迷ってしまうことになります。こうした事態を避けるためにも、質問の構造化が重要なのです。
4 質問の構造化
質問の構造化は、次の2段階で進めます。
- 「質問の固定化」=まず起点となる質問を決める
- その上で「詳細な質問内容を特定」=起点となる質問からずれないよう、掘り下げるための質問を用意する
質問の構造化の際に有効なフレームが「STAR面接」という手法です。
- S(Situation):そのときの状況について問いかける
- T(Task):そのときの課題について問いかける
- A(Action):どのような行動を取ったのかを尋ねる
- R(Result):どのような成果を得られたのかを尋ねる
これらの英語の頭文字を取って「STAR面接」と呼ばれています。過去の行動は応募者の資質や性格から生まれてきた事実です。行動を分析できれば、その背後に隠れている真の能力や志向性、誠実さなどが測りやすくなります。分析の確度を高めるためにも、このSTAR面接というフレームを活用するのは効果的です。
5 STAR面接の活用方法と面接シーンの実践例
1)STAR面接の活用方法
STAR面接で留意すべきなのが明確な質問の意図です。でなければ、自社の採用要件に合う人物かどうかを見極めることはできません。質問項目を具体的に考える前に、応募者のどんな価値観を見極めたいのかを明確にしておく必要があります。
つまり、
「求める人材像を明確に描き」「採用において重視する評価基準を設定する」ことも併せて設計をすることで、初めて構造化といえる
のです。この2点から“逆算”してどのような質問を用意しておくべきか、が重要な作業になります。
例えば「計画力」があるかどうかを見極めたい場合には、「プロジェクト計画段階の設計が功を奏して、成果を収めた経験についてお聞かせください」など、応募者が持つ計画力についての話題を促します。その上で、失敗した話や苦労した話があれば、次のように掘り下げていきましょう。
- 具体的にどんな問題があると考えたのか
- いつ問題であると気がついたのか
- どのような解決策で対応したのか
- プロジェクト内での役割は何か など
2)面接シーンでの実践例
ここからは、面接シーンでの実践例を紹介します。「アルバイト先のシフトトラブルを乗り越えて成果を出せた過去の経験」を例に、見極めたいポイントに沿った掘り下げ方を見てみましょう。
1.Actionについての質問で、関係の構築力について見極めようとする掘り下げ方
- 面:「シフトのトラブルを解決するために、まず何をしましたか?」
- 応:「緊急に対応するためスタッフの増援に奔走しました」
- 面:「誰かに助けを求めましたか?」
- 応:「同じ管轄エリアの他店のチームリーダーに応援してもらえるよう頼みました」
- 面:「今まであまり業務で関わったことがない人もいましたか?」
- 応:「はい。火急の事態であることを伝えて、また店長からも事情を話してもらい、とにかく必要人員を早急に手配しました。今まで関わったことがないメンバーには、まず自分から個別に背景を説明してスタッフを貸し出す納得感に配慮しました」
2.Resultについての質問で、トラブルを成長の糧にできそうか見極めようとする掘り下げ方
- 面:「あなたが実行した今回のシフトトラブル対応は、うまくいきましたか?」
- 応:「はい、お客様からクレームがくることもなく、お店を回すことができました」
- 面:「いま振り返ってみて、別のもっと良い方法はありますか?」
- 応:「お客様からのクレームはなかったのですが、当然、他のお店には迷惑をかけてしまいました。こうした事態に備えるためには、自分の店舗で緊急対応できるスタッフを確保しておけばよかったと反省しています」
- 面:「このトラブルから学んだことはありますか?」
- 応:「こういうトラブル時は、どうしても店長に頼りきりになってしまいます。自分だけでなく他のバイトリーダーであってもスムーズに対応できるよう、対応マニュアルを整備しておく必要があると感じました」
構造化面接は、優秀な人材を獲得することにものすごく貪欲な、あのGoogleも構造化面接を活用していると聞けば、改めてその説得力も増すはずです。応募者を見極める精度を高め、採用面接のミスマッチを防止する。こうした採用課題を解決するために、ぜひ取り組んでみてください。
以上(2021年11月)
(執筆 平賀充記)
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