書いてあること
- 主な読者:共生型サービスを新たに手掛けたい経営者
- 課題:概要や、サービスを始める際のポイントを知りたい
- 解決策:例えば、障害者が65歳を過ぎても、同じ施設内でサービスを提供できるため、長期間にわたって利用することによる報酬の増加が見込める。また、新たな利用者を確保するためのコストを減らせるといったメリットがある
1 事業機会が広がる「共生型サービス」
2018年4月から、障害福祉制度と介護保険制度において「共生型サービス」がスタートしました。障害福祉サービス事業所が高齢者に介護保険サービスを提供したり、介護事業所が障害児・者に障害福祉サービスを提供したりすることを可能にする制度です。
具体的には、障害福祉サービス事業所または介護事業所であれば、もう一方のサービスを提供し、報酬(障害福祉サービス等報酬または介護報酬)を受け取ることができるようになりました。
これにより、65歳になった障害者が、使い慣れた障害福祉サービス事業所から介護事業所に切り替えなければならない、いわゆる「65歳の壁(介護保険優先原則)」など、縦割りの制度下で生じていたさまざまな課題の解消につながるといわれます。
国は、多くの事業所が共生型サービスに参入することで、既存の施設や限られた福祉人材をうまく活用し、地域のニーズに合ったサービスの提供を目指すとしています。
以降では、共生型サービスの概要や事業所が活用する上でのポイントを見ていきます。
2 共生型サービスの概要
1)共生型サービスとは
共生型サービスの先行モデルは「富山型デイサービス」と呼ばれるもので、1993年に富山県のデイケアハウス「このゆびとーまれ」が、高齢者、障害児・者などを同一施設内で受け入れたのが始まりです。
この取り組みは、富山県の支援を受けながら広がりを見せます。2003年に、富山県他3市2町が「富山型デイサービス推進特区」に認定され、2006年には、規制緩和により全国で富山型デイサービスを実施できるようになりました。
しかし、富山型デイサービスは、障害児・者の送迎加算などの各種加算が得られない、市町村が必要であると判断した地域でしか指定を受けられない、障害福祉サービス事業所は一定の基準を満たさないと指定を受けられないなどの点が、課題となっていました。
そのため、富山型デイサービスへの参入は限定的です。富山型デイサービスのような共生型の事業所数は2016年時点で全国約1700カ所にとどまり、デイサービスの介護事業所が約4万3000カ所、障害福祉サービス事業所が約1万カ所に比べて少なくなっています。
そこで、国はこうした課題の解消に取り組み、共生型サービスでは各種加算を得ることができ、サービスの指定に市町村の判断は介在せず、障害福祉サービス事業所は一定の基準を満たさなくても指定を受けられるようになりました。
2)共生型サービスの主なメリット
共生型サービスの指定を受けることによって得られるメリットは、現在の事業所の形態によって異なります。それぞれの形態別に見た主なメリットは次の通りです。
1.富山型デイサービス(高齢者+障害児・者)を提供している場合
障害児・者の送迎加算や欠席時対応加算(あらかじめ利用を予定していた障害児・者が急病等により欠席した際に、本人や家族との連絡調整などを行い、その内容等を記録した場合に算定される)などの各種加算が得られるため、報酬の増加が見込めます。
富山県厚生部へのヒアリングによると、「各事業所によって差はあるものの、全体的に売り上げが1割ほど増えている」とのことです。
2.障害福祉サービス事業所の指定のみの場合
障害者が65歳を過ぎても、同じ施設内でサービスを提供できるため、長期間にわたって利用することによる報酬の増加が見込まれます。また、新たな利用者を確保するためのコストを減らすことができます。
3.介護事業所の指定のみの場合
定員の空きを障害児・者を受け入れることで埋めることができるため、定員が不足している場合は、稼働率アップにつながる可能性があります。
障害福祉サービス市場は年々拡大しており、厚生労働省「障害福祉サービス等の利用状況について」によると、2013年4月の利用者数が約67万人(1人当たり費用額が約19万円)だったのに対し、2018年4月には約84万人(同約20万円)に増加しています。
3)共生型サービスの対象
共生型サービスの対象となるのは、ホームヘルプサービス、デイサービス、ショートステイの3種で、それぞれの区分の中で、例えば「居宅介護事業所であれば共生型の訪問介護」というように、対応するもう一方のサービスの指定を受けることができます。
3 共生型サービスの報酬
1)基準の満たし具合で報酬単位数は異なる
共生型サービスは、基準を満たさなくても指定を受けられる仕組みのため、基準を完全に満たして指定を受けた場合に比べて、報酬単位数が低く設定されています。
その上で、例えば障害福祉サービス事業所であれば、介護事業所の基準である「生活相談員の配置」などを行うことによって加算を得られるなど、基準を満たせば満たすほど、報酬単位数も上がっていきます。
2)障害福祉サービス事業所が共生型の介護保険サービスを提供する場合の報酬
障害福祉サービス事業所が共生型の介護保険サービスを提供する場合の主な報酬は、介護報酬の所定単位数に、一定の割合を乗じて算定されます。
これら共生型サービスの報酬・加算に加えて、障害児・者の送迎加算(10~28単位/回)や、欠席時対応加算(94単位)など、従来の障害福祉サービスの加算も得ることができます。
3)介護事業所が共生型の障害福祉サービスを提供する場合の報酬
介護事業所が共生型の障害福祉サービスを提供する場合の主な報酬は次の通りです。基準を完全に満たしている障害福祉サービス事業所への報酬単位数(所定単位数)に比べて、低くなっています。
4 共生型サービスの指定を受けるには
1)指定権者について
共生型サービスはみなし指定ではなく、申請をする必要があります。障害福祉サービス事業所または介護事業所は、各指定権者に事前に相談を行い、所定の必要書類を提出し、審査を経て指定を受けます。
指定権者は、申請する共生型サービスの形態によってそれぞれ異なります。
- 障害福祉サービス事業所が共生型の介護保険サービスの申請を行う場合
- 定員が18人以上:都道府県(事業所が中核市にある場合は中核市)
- 定員が18人未満:市町村
- 介護事業所が共生型の障害福祉サービスの申請を行う場合
- 障害者向けのサービスを提供:都道府県(事業所が中核市にある場合は中核市)
- 障害児向けのサービスを提供:都道府県
共生型生活介護と共生型児童発達支援など、障害者向けと障害児向けのサービスを両方申請する場合で、事業所が中核市にあるときは、共生型生活介護は中核市、共生型児童発達支援は都道府県というように、別々の指定権者に申請することになります。
2)審査について
審査は基本的には書類のみで行われ、実地調査や訪問はありませんが、各加算の基準に合っているかどうかを審査する際に、従業員の勤務表などの提出が求められます。各都道府県などへのヒアリングによると、審査期間は申請を行ってから2カ月程度とのことですが、審査件数の集中などの影響で期間は変わってくるそうです。
3)指定の基準について
障害福祉サービス事業所または介護事業所であれば、共生型サービスの指定を受ける際に、人員や設備の指定基準はありません。
ただし、指定を受けたい事業において、既に事業を行っている事業所などから技術的支援を受けることが必要となります。
例えば、共生型通所介護の指定を受けたい障害福祉サービス事業所は、既存の通所介護事業所に支援を依頼します。申請の際には、この技術的支援を証明する必要があります。証明方法は覚書であったり、契約書であったりと、指定権者によってさまざまです。
5 共生型サービス運営のポイント
共生型サービスは、2018年4月にスタートしたばかりです。そのため、共生型サービスを運営していくためのポイントを知るには、先行モデルである富山型デイサービスを展開する事業所や都道府県などの事例が参考になります。
上記の他、厚生労働省などへのヒアリングを基に、共生型サービスを運営する際のポイントを紹介します。
1)報酬単位数の違いに留意する
共生型サービスを見据えて障害福祉サービス事業または介護事業に新規参入する場合、一般的には、まずは介護事業所の指定を受けてから、共生型の障害福祉サービスの指定を受けたほうがよいといわれます。
富山型デイサービスの普及に取り組む富山県厚生部へのヒアリングによると、「報酬単位数は、介護報酬のほうが障害福祉サービス等報酬よりも高く設定されている。例えば、同じデイサービスの通所介護(定員18人以下、8時間以上9時間未満)と生活介護(定員20人以下)を比べると、通所介護のほうが2割以上高くなるという試算がある」とのことです。
利用者数等が同じ場合、通所介護事業所のほうが生活介護事業所よりも、報酬単位数は高くなります。また、介護・障害福祉サービスで10人、定員の不足分として共生型サービスで5人受け入れた場合で比べてみても、通所介護事業所のほうが報酬単位数は高くなります。
ただし、あまり多くないケースですが、利用者比率が半々になった場合は、生活介護事業所(+共生型通所介護)のほうが、報酬単位数は高くなることもあるようです。
2)自治体の講習・研修を利用する
障害福祉サービス事業所が共生型の介護保険サービスの指定を受けるより、介護事業所が共生型の障害福祉サービスの指定を受けるほうが、ノウハウ面でハードルが高いといわれます。知的・精神障害児・者への対応は、高齢者介護にはない専門的な知識が求められるためです。
こうした課題を解消するには、講習や研修を積極的に利用するのも一策です。各自治体では、介護・障害福祉事業への新規参入者向けの講習会や研修会を実施しています。 研修などを通して、実際に、知的・精神障害児・者に触れることで、現在の人員で対応可能か、受け入れる際にどのようなノウハウが必要かなどを検討することができます。
また、高齢者と障害児・者に対して、同じ空間・人員で同時にサービスを提供するノウハウがなく、不安を感じる事業者も多いようです。そのような場合は、ノウハウの蓄積のある富山型デイサービスの事業所による講習・研修などに参加するのもよいでしょう。
例えば、富山型デイサービス事業所で構成されている「富山ケアネットワーク」は、2002年から「富山型民間デイサービス起業家育成講座」を開催しており、県内外から毎回100人近い受講希望者が集まっているようです。
3)利用者確保には地域との協力が大事
安定して黒字経営を続けている、ある富山型デイサービス事業所へのヒアリングによると、「開設当初は、地域から離れたくない、施設に入りたくないという人を紹介してもらうよう地域の人にお願いして、利用者を確保していった」とのことです。
また、「基本的に近所の人の依頼は断らない。定員がいっぱいでそのときは受け入れられなくても空いたら連絡したり、他の施設を紹介するなどのフォローを欠かさないといったことを徹底した結果、『困ったらうちの施設』といった意識が地域に広まり、現在では宣伝・広告をしなくても利用者確保に困ることはない」とのことです。
多種多様な高齢者、障害児・者を幅広く、一体的に受け入れるためには、臨機応変な対応が不可欠です。このような運営体制を維持するためには、地域住民や地域の他施設との関係構築が重要になります。
以上(2018年11月)
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画像:photo-ac