書いてあること
- 主な読者:自然葬に関する動向を知りたい経営者
- 課題:自然葬の具体的な種類、注目される背景がわからない
- 解決策:樹木葬などの遺骨を埋葬するタイプと、海洋葬などの遺骨を散骨するタイプに大別できる。これまでの供養方法よりも遺族の負担を減らせることや、近年の自然志向の高まりによって注目が集まっている
1 自然葬の定義と種類
自然葬とは、墓や納骨堂に遺骨を納めるのではなく、海や山などの自然に返す葬送のことです。墓石を購入したり、定期的に掃除したりする必要がないため、遺族の金銭的な負担や維持管理の手間を減らせるといったメリットがあります。
少子化や核家族化が進行した昨今、「故人をきちんと見送りたいけど、代々墓を管理していくのは難しい」と考える人は少なくありません。加えて近年の自然志向の高まりもあり、自然葬は新しい葬送の形として注目されています。
自然葬は、その形態から次の2つのタイプに大別できます。
- 遺骨を埋葬する(土中に葬る)タイプ:樹木葬など
- 遺骨を散骨する(粉末状にして海などにまく)タイプ:海洋葬(海洋散骨)、空中葬、宇宙葬など
前者は「墓地、埋葬等に関する法律」の適用を受けるため、自然葬を行うに当たって墓地としての許可を受けた土地が必要になりますが、後者はこうした土地を必要としないという特徴があります。
これらに該当する代表的な自然葬としては、次のようなものが挙げられます。
1)樹木葬
墓石の代わりに桜や紅葉などのシンボルツリーを植え、その周辺に遺骨を埋葬する自然葬です。墓地の許可を受けた山林などに直接遺骨を埋葬するタイプ、寺院や墓地の区画の中に樹木葬専用エリアを設けて埋葬するタイプなどがあります。樹木葬の多くは後継ぎを必要としない「永代供養」で、遺族に代わって寺院や霊園が掃除や遺骨の管理を行います。
2)海洋散骨
遺骨を海で散骨する自然葬です。周囲の人への配慮や地方自治体の条例(詳細は後述)などの関係から、船で沖まで出てから散骨するのが一般的です。乗船した遺族が散骨するタイプ、遺族から遺骨を受け取って事業者が散骨するタイプなどがあります。なお、散骨の特性上、供養が行いにくいイメージがありますが、遺骨の一部のみを散骨し他は遺族に渡すことで手元供養ができるようにしたり、故人をしのぶためのクルーズを定期的に実施したりしている事業者もあります。
3)空中散骨
遺骨を空から散骨する自然葬です。ヘリコプターやセスナ機を使って遺族が上空から散骨するタイプ、バルーンに遺骨を入れて遺族の指定した場所で散骨するタイプなどがあります。
4)宇宙葬
遺骨を納めたカプセルをロケットに載せて、宇宙空間へ散骨する自然葬です。宇宙空間を半永久的に進んでいくタイプ、再び地球に戻ってくるタイプなどがあります。
2 自然葬に関する規制
自然葬を行う際には下記の法律や条例などに留意する必要があります。
1)墓地、埋葬等に関する法律
墓地や火葬場などの運営、遺骨や遺体の処理などについて定めています。
例えば、樹木葬のために寺院や霊園が敷地内の土地を墓地として提供する場合、その施設の所在地の都道府県から許可を得なければなりません。また、火葬を行うには火葬許可証を、埋葬を行うには埋葬許可証を、事前に遺族から受理しなければなりません。なお、 散骨は埋葬に当たらないため、埋葬許可証の受理は原則不要ですが、実際は遺骨の身元を確認するために、散骨であっても埋葬許可証の提出を求める事業者が多いようです。
2)刑法(第190条 死体損壊等)
「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する」というものです。ただし、法務省は「散骨は葬送のための祭祀として節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪に違反しない」という考えを示しており、遺骨を細かいパウダー状にして散骨する場合は、法律上問題ありません。
3)地方自治体の条例による規制
地方自治体の中には、散骨による個人、事業者と地域の間でのトラブルを防ぐために条例によって散骨に関する規制を設けている場合があります。
例えば、北海道長沼町「長沼町さわやか環境づくり条例」では、墓地以外の場所での散骨を禁止しています。
また、静岡県御殿場市「御殿場市散骨場の経営の許可等に関する条例」では、散骨は散骨場(市長の許可を受けた散骨のための事業区域)でのみ認めるものとし、散骨場を経営するための要件として、事業計画の立案や事前説明、市長との協議、散骨場に隣接する土地所有者の同意などを掲げています。
4)各種ガイドライン
ガイドラインに法的拘束力はありませんが、トラブルなく自然葬を行うためにはこれらを遵守することが欠かせません。
例えば、厚生労働省「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」では、散骨を行う場所、焼骨の形状、関係者や自然環境への配慮、利用者との契約等、安全の確保、散骨の実施状況の公表といった内容について細かく定めています。
また、日本海洋散骨協会「日本海洋散骨協会ガイドライン」では、海洋散骨に特化したルールが細かく定められており(遺骨は1~2ミリメートル程度に粉末化しなければならないなど)、ガイドラインを遵守する事業者には、協会から信頼できる事業者の証しとして「ブルーハート」が発行されます。
3 自然葬の関連データ
1)自然葬に掛かる金額・需要動向
1.購入された墓の種類
鎌倉新書「【第13回】お墓の消費者全国実態調査(2022年)霊園・墓地・墓石選びの最新動向」によると、同社が運営する「いいお墓」経由で購入された墓の種類は次の通りです。
2018年時点では、購入者の約半数が一般墓(墓地に区画を設けて設置する墓石型の墓)を選んでいました。その理由として「故人に対して手厚い供養をしたかった」「墓石があったほうが手を合わせやすいと感じた」といった意見がありました。
一方で、2022年になると樹木葬を選ぶ人の割合が高くなっています。その理由として「一定期間が経過すると合葬(複数の骨つぼと一緒に供養すること)になり子どもや孫への負担が掛からなくなる」「故人が、自然が好きだった」といった意見がありました。
2. 墓の平均購入価格の推移
鎌倉新書「【第13回】お墓の消費者全国実態調査(2022年)霊園・墓地・墓石選びの最新動向」によると、墓の平均購入価格の推移は次の通りです。
樹木葬の平均購入価格は2022年時点で69.6万円となっています。樹木葬はプレート状の墓石を使用することもありますが、一般墓よりも石材が少なくて済む分、費用を抑えることができます。
2)葬儀業の売上高、取扱件数、事業所数、従業者数の推移
経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」によると、葬儀業の売上高、取扱件数、事業所数、従業者数の推移は次の通りです。
葬儀業の事業所数、取扱件数は過去5年間で増加しているものの、売上高は下がっています。この理由としては、葬儀業が新規参入に対し、特別な法規制が設けられていないために参入が増えて競争が激しくなったことや、新型コロナウイルス感染症対策で大規模な葬儀の中止や葬儀の規模が縮小していることなどが挙げられます。
4 自然葬の市場分析
1)自然葬を取り巻く外部環境分析
ここではPEST分析を用いて、自然葬を取り巻く外部環境を整理します。
自然葬に注目が集まる背景として、冒頭で紹介した遺族の金銭的な負担や維持管理の手間を減らせるだけでなく、都市部での墓不足によりこれまでの埋葬方法が難しくなっていることが挙げられます。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大や、遠方に住んでおり現地での参列が難しい人向けに、オンラインによる事前相談や散骨の様子をライブ配信するなど、オンライン化も進んでいます。
5 自然葬を手掛ける事業者の事例
1)いせや(東京都府中市):彩り豊かなやすらぎの樹木葬
同社では、バラをはじめ、季節の花々に彩られた樹木葬が可能なガーデニング霊園「ふれあいパーク」をはじめ、首都圏を中心に、寺院・霊園での樹木葬を行っています。
また、同社はエイチームライフデザイン(愛知県名古屋市)が運営する樹木葬の専門メディア「あんしん樹木葬東京版」にて、樹木葬に関する寄稿・情報提供・監修を手掛けています。
2)カン綜合計画(京都府京都市):樹木葬の現地見学をオンラインで完結
同社では、外出が困難な人や遠方で何度も現地見学に行くことが難しい人に向けて、自宅で樹木葬の無料見学ができる「おんらいん樹木葬」のサービスを行っています。
同サービスでは、事前にオンライン見学用の資料を顧客に送付し、無料通話アプリのLINE、またはウェブ会議システムのZoomを用いて墓苑や墓を管理するお寺を紹介しています。また、契約や納骨に関する相談もオンライン上で受け付けています。
3)燦ホールディングス(東京都港区):預かり期限のない永代供養の樹木葬
同社では、樹木葬専門霊園「千年オリーブの森」などで樹木葬を行っています。
従来の樹木葬では納骨は人数制限があったり、他人と一緒の場所に納骨され、遺骨の預かり期限があったりするなどの制約がありましたが、同社の霊園では、人数制限や遺骨の預かり期限がなく、家族・親族・友人などの親しい人同士で納骨ができるとしています。また、水道代などの管理費が不要であったり、霊園内は完全バリアフリーにされていたりするなど、お参りに行く遺族への負担も軽減されています。
4)はせがわ(東京都文京区):ペットと一緒に眠れる樹木葬
同社では、「瑞光寺 牛込庭苑」や「町田いずみ浄苑」など数々の霊園で樹木葬を行っています。
霊園によってはペットと一緒に埋葬ができたり、単身や承継者がいない場合でも1人ずつ専用の容器で個別に埋葬ができたりします。
5)ニチリョク(東京都中央区):骨壺のまま遺骨を納める樹木葬
同社では、「横浜三保浄苑」などで桜の木の下に埋葬される樹木葬や、骨つぼのまま納骨し、一般墓と同じように埋葬できる「樹木葬こもれび墓苑」などを運営しています。
一般的に、樹木葬は遺骨を土に返すものが多く、後から遺骨を取り出すことができないケースがありますが、骨つぼのまま遺骨を納めることで、後から家族が同じ墓に入ることもできます。また、霊園によっては管理費不要、初期費用のみで利用できる樹木葬のプランを用意している場所もあります。
6)ハウスボートクラブ(東京都江東区):海洋散骨の立役者
同社では、「ブルーオーシャンセレモニー」というブランドで海洋散骨を行っています。
海洋散骨のプランには、遺族が貸し切りのクルーザーに乗船して散骨する「チャーター散骨プラン」、何らかの事情で乗船できない遺族に代わってスタッフが散骨する「代行委託散骨プラン」などがあります。海洋散骨を模擬体験できる「散骨体験クルーズ」も行っています。この他、散骨前の有害化学物質の無害化や100%水に溶ける献花の「エコフラワー」の開発など、環境に配慮した葬送にも注力しています。
また、海洋散骨の広がりを受けて、前述の日本海洋散骨協会を設立したのも同社で、同協会では海洋散骨を行う際のルールやガイドラインを発信しています。
7)日本葬送倫理協会(福岡県福岡市):遺骨の一部をインテリアアイテムとして加工
同協会では海洋散骨を行いつつ、ハーバリウム(植物標本)に似た「美霊珠(みれいじゅ)」という、手元供養のためのインテリアアイテムを遺族に提供しています。
これは、火葬後に遺骨の一部を滅菌処理し、ガラス玉に入れて加工し、色鮮やかなプリザーブドフラワーやドライフラワーなどとともにガラスボトルに詰めたものです。同協会では、海洋散骨について、遺族から「墓がなく、初盆のお参りをどうするのか」「墓も遺骨もなく、故人と会えずさびしい」などの声が寄せられたことを受け、美霊珠の提供を始めたそうです。
8)SPICE SERVE(東京都港区):海洋散骨後の年忌法要クルーズ
同社では、海洋散骨を行った後も故人を弔うための取り組みとして「年忌法要クルーズ」を行っています。
2時間半~3時間かけて遺骨を散骨した海域をクルーザーで巡り、献酒、献花や会食、記念撮影を行うサービスとなっています。また、同社以外の事業者を利用して散骨をした場合でも、散骨ポイントの緯度・経度を事前に伝えれば、その海域周辺を航行できます。
9)博全社(千葉県千葉市):ヘリコプターによる空中散骨
同社では、ヘリコプターによる空中散骨を行っています。
故人の生家や勤務先といった思い出の場所を回りながら、九十九里や勝浦、館山、江ノ島沖の海域で空中から散骨し、散骨後はお別れの献花と黙とうを行います。
10)SPACE NTK(茨城県つくば市):日本初の宇宙葬
同社では、遺骨やメッセージカードを専用のカプセルに納めて宇宙に打ち上げる「宇宙SOH(葬・想)」を行っています。
同社は、2022年4月2日に宇宙散骨を行う人工衛星「MAGOKORO」の第1弾の打ち上げに成功しており、2023年の1月に第2弾を打ち上げる予定としています。人工衛星はロケットで打ち上げられた後、高度500~600キロメートルで切り離され、約5年間地球周回の軌道に入ります。地球の周りを数年回った後に大気圏に突入し、最後は流れ星になって燃え尽きるという流れになっています。
以上(2022年9月)
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画像:buritora-Adobe Stock