書いてあること
- 主な読者:担い手不足に悩む農業者、障がい者の低い賃金・工賃に悩む障害福祉サービス事業所
- 課題:異業種との連携であり、メリットが不明。ノウハウがない。相談窓口も分からない
- 解決策:「お試し」で始めることができる。まずはハローワークなどに相談してみる
1 農福連携のすすめ
「農福連携」とは、「農業と福祉が連携し、障害者の農業分野での活躍を通じて、農業経営の 発展とともに、障害者の自信や生きがいを創出し、社会参画を実現する取組」です。
農福連携には、農業者、障害福祉サービス事業所、障がい者の3方にさまざまなメリットがあります。国も2019年に「農福連携等推進ビジョン」を取りまとめるなど、農福連携を積極的に推進しています。農業者や障害福祉サービス事業所への補助金もあります。
日本基金が2018年に実施した「農福連携の効果と課題に関する調査」(以下、日本基金によるアンケート調査)によると、農福連携に取り組む農業者(120件)の78%が5年前と比べて「年間売上額が上がった」と答えています。同様に、障害福祉サービス事業所(696カ所)の74%が5年前と比べて「賃金・工賃が増加した」と答えています。
障害福祉サービス事業所にもヒアリングをしてみました。島根県にある障害福祉サービス事業所Aへのヒアリングによると、《企業の下請けの場合、作業量や収入が企業の経営状況に左右されやすく、障がい者に思うような工賃を払えない上、障がい者にとって複雑な作業が多かった。事業として農業を始めたことで、障がい者の時給は3年で約2倍に増えた》とのことです。
また、《企業の下請けは施設内での作業がほとんどだったが、農作業は屋外で自然と触れ合うため、障がい者の精神衛生上とても良く、労働意欲が増し、急な欠勤や短時間で帰るといったことがなくなった》とのことです。
農福連携にはさまざまなメリットがあります。特に担い手不足に悩む農業者、障がい者の低い工賃に悩む障害福祉サービス事業所にとっては検討に値するのではないでしょうか。
2 農福連携の3つのパターン
農福連携の主なパターンは3つです。
- 障害福祉サービス事業所が事業として農業を行う
- 障害福祉サービス事業所と農業者が請負契約を結ぶ
- 農業者が障がい者を直接雇用する(ハローワークに相談する)
3つのパターンそれぞれの取り組み手順については、厚生労働省と農林水産省が共同でまとめたスタートアップマニュアルが参考になります。
■厚生労働省・農林水産省「農福連携スタートアップマニュアル 第1分冊」■
※農林水産省「農福連携の推進」ページの「4.パンフレット・マニュアル」よりダウンロード
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kourei.html
既存の農福連携の事例では、障害福祉サービス事業所が事業として農業を行うパターンが多いです。しかし、障害福祉サービス事業所が自ら農地法上の要件を満たして農地の借り入れ・購入をしたり、販路を確保したりするといったハードルがあります。
この点も踏まえ、農林水産省では《初めて農福連携に取り組む際は、障害福祉サービス事業所と農業者が請負契約を結ぶパターンを推奨しており、実際に増えてきている》とのことです。
となると、大事なのは請負契約を結ぶ相手の見つけ方となります。主な方法は次の3つです。
- 共同受注窓口を利用する
- 自治体の農業部局・福祉部局に相談する
- 都道府県の普及指導センターやJAに相談する
共同受注窓口は、複数の障害福祉サービス事業所などが共同して受注業務のあっせんや仲介を行う組織で、農福連携についてのマッチングや契約のサポートを行っています。各都道府県が民間団体に委託して実施しています。そのため、地域の共同受注窓口については、各都道府県や日本セルプセンターに問い合わせて確認できます。
ただ、近隣に連携できる農業者が登録していないこともあるので、自治体にも相談してみましょう。農業部局や福祉部局は、農福連携を始めたい、または受け入れる障害者数を増やしたい農業者の情報を持っている可能性があります。
他にも、各都道府県には、農業の担い手に技術や経営に関する支援を行う普及指導センターが設置されていたり、各地域の農業協同組合(JA)でも農福連携に理解がある組合員(農業者)を紹介しているところがあったりします。
3 お試しでやってみる
1)「障害福祉サービス事業所と農業者が請負契約を結ぶ」場合
数日間、試行的に農作業を請け負ってもらう「お試しノウフク」という方法があります。お試しノウフクには、主に次の2つのパターンがあります。
- 農作業に関する請負契約を締結して、報酬を支払う
- 農作業に関する請負契約を締結せず、短期間・無報酬で「援農ボランティア」をする
請負契約を締結して報酬を支払うパターンの場合、圃場において障がい者に具体的な指示を行うのは、障害福祉サービス事業所の職業指導員となります。そのため、農業者が職業指導員に農作業の内容を伝えたり、作業体験をしてもらったりした上で、職業指導員が障がい者に作業を割り当てます。農業者は、障がい者の仕事に対して意見があれば、本人に直接伝えるのではなく、職業指導員から伝えてもらうようにします。
2)「農業者が障害者を直接雇用する」場合
農業者にとって、障がい者を直接雇用するのは負担が重いものです。この負担を軽減できる制度として、次の3つがあります。
- トライアル雇用助成金の活用
- 農作業体験会による交流
- 特別支援学校高等部の職場実習の受け入れ
まず検討したいのは、厚生労働省「トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)」の活用です。3カ月間(精神障がい者は原則6カ月間)の期間を定めて、障がい者を試行的に雇用する場合、期間終了後に国から、月額最大4万円(精神障がい者は月額最大8万円)を一括して支給されるというものです。窓口はハローワークとなります。
トライアルの後、障がい者を継続して雇用した場合、厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金」を活用できます。例えば、特定就職困難者コースでは、重度障害者等を除く身体・知的障害者(週当たり所定労働時間が30時間以上)については、2年間で120万円が支給されます。
ただし、これら助成金はハローワークや職業紹介事業者などの紹介によって雇用する場合にのみ適用されるもので、例えば、農業者の親族や知人からの紹介を通じて雇用に至った場合などは、対象外になります。
他にも芋掘りや稲刈りなどの農作業体験会を開催し、障がい者との接点を持ったことをきっかけに、その後の雇用につながった事例が少なくありません。また、特別支援学校高等部の中には、近隣の企業などを訪問して職業体験活動や作業実習をする「職場実習」を行っているところがあります。
4 請負報酬の決め方
請負報酬は、中立・公平な第三者が関与しながら、決めていくのが望ましいとされます。参考までに、請負報酬の設定方法や、支払い方法の留意点などを見ていきます。
1)請負報酬の単価の決め方
請負報酬は、「完成された作業の内容に応じて算定されるものであること」とされているため(「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」)、「出来高払い」が基本です。
障害福祉サービス事業所に依頼したい作業について、健常者ベースで時間当たりの仕事量を測定します。次に、測定した仕事量を基に、最低賃金をクリアするように、収穫量1㎏当たりの報酬単価を設定します。なお、農産物の現物支給は認められていません。
2)必要経費について
障害福祉サービス事業所から農業者の圃場まで移動する際の交通費については、障害福祉サービス事業所が負担する契約とする他、農業者が積極的に障がい者を受け入れたい場合などには、請負報酬に含めるなど農業者が負担する契約もあります。
職業指導員の人件費は、障害福祉サービス事業所に対して支払われる訓練等給付費を充当することとなっており、職業指導員の人件費を契約に含めることは認められていません。
5 作業管理のポイント
水やりや草取りなどは、専門的な技術や判断を必要とせず、農業経験が少ない障害福祉サービス事業所も取り組みやすい作業です。それでも不慣れな状況で行うと、確認行為に時間を要し、場合によってはやり直しになります。大切なのは、農業者と職業指導員の間で、作業の仕上がり具合を確認するとともに、あらかじめ作業の練習を行うことです。
作業の誤解に伴うトラブルを避けるためにも、その後の作物の生育や農業経営に大きな影響を及ぼしかねない作業については、農業者自身が行ったほうがよいかもしれません。
その他、農林水産省が2019年10月に発表した「農福連携事例集」や、農福連携に取り組む事業者へのヒアリングによると、障がい者が作業しやすいように、次のような工夫をしている事例があります。
- 「きれいに洗う」ではなく、「スポンジで5回こすって洗う」など、具体的に指示する
- 障がい者の特性に合わせて作業指示を出す。例えば、記憶が続かない障がい者の場合は、目の前に作業内容を記載したカードを置く
- 作業工程を細分化し、1人が行う作業内容および時間を最小化する
- 作業手順の図式化と完成例(写真など)を示す
- 作業道具を複数用意し、使いやすいものを選択できるようにする
6 障がい者が作業しやすい環境を整備するには?
障がい者の作業に支障となる危険な箇所を補修する、作業動線を改善するなど、障がい者が作業しやすい環境を整える必要があります。
このような場合に活用できるのが、農林水産省「農山漁村振興交付金(農福連携対策)」の農福連携整備事業です。障がい者が作業しやすいように農業生産施設、農機具庫などの付帯設備、休憩所やトイレなどを整備する際に支援するものです。交付率は1/2(上限1000万円、2500万円など)となっています。
以上(2020年5月)
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