1 夏の風物詩……背筋も凍る“恐怖”が生むビジネスの可能性

毎年、夏になると、お化け屋敷やホラー映像などの「ゾッとする」コンテンツが盛り上がりを見せます。日本では納涼の文化と結びつき、「夏季限定ホラーイベント」などのエンターテインメントとして独特の市場を形成しています。

この記事では、この「ゾッとする」コンテンツ市場について、経済規模や事例、成長の兆しをデータに基づいて紐解き、ビジネスとしての可能性を探ります。

2 怖いけど人気。「ゾッとする」コンテンツの集客力

1)代表的な事例は?

日本国内での代表的なゾッとする体験といえば、富士急ハイランド(山梨県富士吉田市)の「戦慄迷宮」が挙げられます。2003年の開業以来、530万人の入館者を恐怖のどん底に落とし入れているホラーアトラクションです。全長は約900メートルあり、世界最長のウォークスルー型ホラーハウス(参加者自らが歩いて回る形の施設)としてギネスブックに登録された実績もあります。

また、東京・お台場のデックス東京ビーチ(東京都港区)内にある常設型施設「台場怪奇学校」は、これまでに累計100万人以上が来場した実績があります。

■戦慄迷宮■
https://www.fujiq.jp/special/senritsu/
■台場怪奇学校■
https://obakeland.net/

こうしたホラーアトラクションだけでなく、心霊スポットを巡る動画やホラーゲーム、都市伝説を題材にしたYouTubeやTikTokのコンテンツも若年層を中心に人気を集めています。

Z世代の15~19歳の年齢層で、55%以上が「ホラー動画(映画・ドラマ・アニメ)を観る」と回答した調査もあり、夏の恐怖コンテンツは「観られる」「体験される」ジャンルとなっています(闇「ホラーエンタテインメントに関するアンケート」)。

2)市場規模はどのくらい?

日本国内の「ゾッとする」コンテンツは、テーマパーク内の施設やイベント、映像コンテンツ、ホラーゲームなどの広範囲なビジネスが展開されており、市場全体としての統計はありません。

参考として、ホラー文化が成熟しているアメリカでは、成人の18%(約4650万人)がお化け屋敷に行ったことがあるとしています(全米小売業協会の調査)。また、営利目的のお化け屋敷も約2100施設あるとされています(スケア・ファクター お化け屋敷のレビュー会社)。

日本でも富士急ハイランドを筆頭に、商業施設やホテルとのコラボ企画、イベント会社による地方型お化け屋敷の展開などが進み、着実にマーケットは広がりを見せています。

3)「怖い体験」需要は増えている?

「ゾッとする」コンテンツへの需要は増加傾向にあります。その背景には、次のような要素があるといいます。

1.SNSで拡散されやすい

ホラーの「刺激的・非日常・スリル」といった要素や、短い時間で恐怖や驚きを与える要素は、SNSの拡散力や情報伝達が速いという特性と相性が良く、プロモーションがしやすいとされています。2023年5月にコロナ禍が明けて以降、イベント回帰の動きが加速したことも、こうした動きに拍車をかけているといえます。

2.最新テクノロジー、体験の導入

近年では、プロジェクションマッピングやAR(拡張現実)、4D演出を取り入れた“ハイテクお化け屋敷”も登場しており、没入感の強い体験が話題を呼んでいます。また、これまでの「一方的に来場者を怖がらせる」スタイルに限らず、謎解き体験を盛り込むことで「参加者が能動的にスリルを楽しむ」スタイルのお化け屋敷なども登場しています。

3.恐怖体験はますます身近に……

お化け屋敷というと大規模な設備が必要になるイメージがあるかもしれませんが、近年は車を活用した移動型のお化け屋敷やオンライン配信型のお化け屋敷など、自宅にいながら恐怖体験ができるものも登場しています。

4)経済効果:収益モデルと事業化の可能性

「ゾッとする」ビジネスは、入場料以外にも複数の収益源を確保しやすいのが特長です。例えば、お化け屋敷の企画、製作、演出、監修などを手掛けるZAUNTED(東京都杉並区)によると、アメリカのホラー施設では、次のような構造でマネタイズをしているといいます。

  • 入場料収入:約70%
  • グッズ・物販:約20%
  • 飲食売上:約10%

このマネタイズは日本でも応用されています。例えば、富士急ハイランドの戦慄迷宮やユニバーサルスタジオジャパンのハロウィンイベントでは、限定グッズやフードを販売しており、入場料と併せて大きな売上を生んでいます。また、前述した通りホラー系イベントはSNS映えしやすく、「広告換算効果」の面でもコストパフォーマンスが高いと評価されています。

イベント主催者にとっては、恐怖体験そのものが「集客装置」となり、来場者の感情を動かすことで、SNS拡散→集客→再訪といった好循環を生み出す設計が可能になります。

3 「ゾッとする」コンテンツ、注目ポイントは?

「ゾッとする」コンテンツ市場は、単なるエンタメではなく、感情設計と顧客体験のデザインが収益に直結する非常にビジネスライクなジャンルです。注目ポイントは、次の通りです。

1)地方創生×ホラー

町の中にお化け屋敷を作ったり、ホラーイベントを開催したりするなどして、地方に人を呼び込む動きがあります。

例えば、お化け屋敷制作やホラーイベント制作を手掛けるHLC(東京都杉並区)では、東京都杉並区で一軒家を丸ごと使用したお化け屋敷の「畏怖 咽び家(いふむせびや)」を運営しています。同社では、テーマパークや自治体と提携したホラーイベントも多数開催しています。

■オバケン■
http://obakensan.com/

2)映像技術やウェアラブルデバイスとの融合

ARやバイタルデータを活用することで、怖さを演出する事例もあります。

例えば、NTT西日本(大阪府大阪市)では、京阪電気鉄道株式会社が運営する「ひらかたパーク」のホラーイベントにバイタルデータ、振動デバイス、AR・位置情報などを活用した技術協力を行った事例があります。

来場者にリストバンドを装着してもらい、恐怖、怯え、平静、硬直、驚愕などの状態を「ビビり度」として見える化したり、位置情報共有サービスを採用し、スマートフォン画面にアイテムやお化けをARで表示したりするといった演出が盛り込まれました。

■NTT西日本「ひらパーお化け屋敷に振動デバイスと位置情報やARを活用した技術協力」
https://www.ntt-west.co.jp/news/1807/180713a.html

以上(2025年7月作成)

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画像:yosei-illustAC