書いてあること
- 主な読者:オンライン診療を検討する医療機関など
- 課題:オンライン診療に対してどの程度のニーズがあるのか、どのような課題があるのかを知りたい
- 解決策:本稿では、各省庁の調査結果などから、オンライン医療の実施状況や、利用者の動向などを紹介している。自医院がオンライン診療を実施するか否かの参考材料として活用できる
1 オンライン診療の概要
オンライン診療は、一般的には医療機関と患者の自宅などをインターネットで結び、医療行為またはそれに準じる行為を行うものです。インターネットを経由するため、時間や場所の制約が少なく、外出が困難な高齢者の診療や遠隔地などでの導入・検討が進んでいます。
厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」によると、オンライン診療は、「情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為」である遠隔医療のうち、「医師―患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」とされています。遠隔医療の分類は以下の通りです。
2 オンライン診療のニーズ、認知
本稿では、各省庁の調査結果などから、オンライン医療の実施状況や、利用者の動向などを紹介します。
1)実施数
厚生労働省の資料「オンライン診療に関するアンケート集計結果」は、実際にオンライン診療を実施している医師を対象にした、オンライン診療を受ける患者数やオンライン診療を実施する際の課題などのアンケート結果を集計しています。
同アンケートにおける、オンライン診療を導入している患者数は次の通りです。
2)ニーズおよび認識
同省の資料「平成30年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」によると、オンライン診療に対する医療関係者の主なニーズおよび認識などについて調査結果が公表されています。
この調査によると、オンライン診療の実績がある医療関係者の58.3%が、「オンライン診療に対するニーズは少ない」と回答しています。また、オンライン診療の実績がある医療関係者の66.7%が、「オンライン診療を行うメリットが手間やコストに見合わない」と回答しています。
■厚生労働省 平成30年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成30年度調査)の報告書案について■
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000493972.pdf
3)オンライン診療に対する利用者の動向
内閣府「平成29年 高齢者の健康に関する調査結果」では、全国の55歳以上の3000人を対象に実施された、インターネットで医療や健康に関してどのような情報を入手しているのかが示されています。「医療や健康情報のインターネットでの入手」に対する回答結果は次の通りです。
3 オンライン診療の課題
オンライン診療の課題として一般的に挙げられるものとして、「患者の病歴などの個人情報の安全性を確保することが難しい」「通信環境の不良により患者との適切なコミュニケーションを取ることが難しい」「患者のカメラの光の加減や角度で適切な診断が難しい」「遠隔のため患者が正確な症状を伝えることができない・しない」などの課題があります。
厚生労働省の資料「オンライン診療に関するアンケート集計結果」によると、オンライン診察時のトラブルとして、次のようなものが挙げられています。
4 医療機関のオンライン診療に対する意欲
医療関係者向けの情報を発信するエムスリーでは、2018年1月30日~2月5日に会員制サイト「m3.com」を通じてオンライン診療についてアンケートを実施しました(回答者数1535人)。
オンライン診療を現在実施しているとの回答は、全体の4%強にとどまり、勤務医の56.5%、開業医の73.4%が実施したいとは思わないと回答しています。一方で、勤務医の36.7%、開業医の20.3%が今後実施する予定または実施したいと回答しています。
なお、このアンケートでは、オンライン診療の普及に対しての賛否も調査しています。それによると、勤務医の42.0%が賛成、10.0%が反対と回答しているのに対し、開業医は21.2%が賛成、20.9%が反対と回答しており、オンライン診療に対する認識に違いがあることが分かります。
■エムスリー m3.com意識調査「『オンライン診療、実施予定・したい』、勤務医36.7%、開業医20.3%」■
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/585294/
5 自治体・医療機関の動向
1)愛知県:オンライン服薬指導
愛知県は、高齢化が進む離島(西尾市の一部、南知多町)や山間地(新城市、東栄町など)が国家戦略特区に指定され、離れた場所にいる患者に、薬の飲み方を指導するオンライン服薬指導に取り組んでいます。
愛知県によると、オンライン服薬指導を実施する薬剤師側には、患者が自宅に居ることで、患者のプライバシーが保たれることや、薬の残量も確認できるなどのメリットがあるものの、システムの操作方法の説明や、画面越しでの服薬指導のために、医療機関で指導するよりも手間と時間が掛かったそうです。
患者側からは、オンライン服薬指導は事前予約が必要で、予約した時間にシステムを起動させることが必須などの手間がかかったそうです。
2)茨城県石岡市:医療相談アプリを試験導入
住民1人当たりの小児科医の数が全国最少といわれる茨城県石岡市は、医師不足を解消する取り組みとして子育て世代を対象とした、医療相談アプリ「LEBER(リーバー)」の実証実験を行っています。リーバーは、AGREE(茨城県)が提供するアプリです。同アプリは、チャットボット(自動会話プログラム)が問診を行い、回答に沿って医師が市販薬の推奨や、適切な診療科などの情報を提供します。
同市へのヒアリングによると、このアプリの対象となる世代(石岡市内に居住し、0~3歳児のいる世帯)の約30%が既にユーザー登録を済ませているそうです。ユーザー登録が進んでいることの背景として、「日常的にスマートフォンを利用する子育て世代に向けた取り組みであることに加え、ダイレクトメールの送信や、石岡市の広報にアプリの情報を掲載したことなどが挙げられる」とのことです。(*)
一方で、今後の想定される課題として、「増加するユーザーの入退会の管理や、操作方法の分かりやすい説明が挙げられる」とのことです。(*)
また、医師からは「すきま時間」を有効に活用するために、新たにこのアプリで情報を提供できないかどうかの問い合わせを受けているそうです。
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(*)茨城県石岡市(2019年9月13日時点)
以上(2019年12月)
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画像:photo-ac