書いてあること

  • 主な読者:プラモデル、フィギュア業界の動向を知りたい経営者
  • 課題:業界の具体的な構造、分類、参入する主なプレイヤーなどが分からない
  • 解決策:業界を俯瞰し、主要企業の具体的な動き、取り組みを知ることが大切

1 プラモデル・フィギュアの概要

1)プラモデル・フィギュアとは

プラモデルは、主な部品がプラスチックで成形された模型の一種です。材料・成型方法の自由度が高いことからさまざまなものを表現しやすく、多種多様なのが特徴です。流通は一般的に、紙箱に詰められた形態で行われます。

フィギュアは、プラスチック・樹脂・金属などを材料に成形されたものです。メーカー側で組み立て・彩色するなどして、購入した消費者が手を加えることなく、飾ったり遊んだりできるようにしています。

流通は一般的に、内容物が見える透明シート製の窓を紙箱や、プラスチック容器に密封した「ブリスターパック」を使った形態で行われます。なお、安価なフィギュアの中には、パッケージに表示された封入リストのいずれか1品を、プラモデル同様に紙箱に詰めて見えないようにして販売するものもあります。

2)プラモデル・フィギュアの分類:モチーフ別

1.スケールモデル

実在もしくは実際に計画されたもの(航空機・車両・艦船・建物など)を縮小サイズで再現したプラモデル・フィギュアです。

2.架空モデル(注)

アニメ・ゲーム・特撮などに登場する、架空のもの(人物・ロボット・航空機・車両・艦船・建物など)をモデルとするプラモデル・フィギュアです。

(注)本稿における便宜上の名称です。キャラクターモデルなどと呼称される場合があります。

3)プラモデル・フィギュアの分類:製造方法・規模別

1.インジェクションキット

鋼鉄製の金型を使った射出成形により製造されるタイプのプラモデルです。量販店や玩具店など販路が広いもの、玩具菓子、ゲームセンターの景品(プライズ)など、比較的安価なフィギュアの部品も同じように作られています。

金型や射出成形機への初期投資が高額になりがちな一方で、金型の耐久性が高く、製造工程の自動化がしやすいため、大量生産によるスケールメリットが得られるという特徴があります。

2.ガレージキット

製造規模が小さなプラモデルの総称です。シリコンゴムで原型を型取りし、溶かした材料(樹脂)を型に流し込むことで部品を製造する「レジンキャストキット」や、樹脂の代わりに融点が低い金属を材料とする「メタルキャストキット」など、少量生産に適した製造方法が採用されています。また、製造数量が少ないフィギュアの部品も同じように作られています。

ガレージキットは、大型の機械や金型などが不要で初期投資が安価な一方で、生産性や型の耐久性が低く生産コストが高くなりがちなため、高価でも買い手が付く希少性の高いものを作るのに適しています。初期投資が低いことに加え、大手メーカーが手掛けないニッチな分野を狙うことで市場開拓ができるため、新興プラモデル・フィギュアメーカーの多くはガレージキットの生産・販売を通じて市場に参入しています。

2 分類別に見たメーカーの特徴

1)総合玩具メーカー

プラモデルやフィギュアだけでなく、さまざまな玩具の生産から流通までを自社グループで手掛けています。幼児向け玩具など多品種展開を狙ってアニメや特撮番組などの版権を取得していることが多いため、プラモデル・フィギュアは架空モデルが主となっています。

資金・生産力・販売力といった経営資源が豊富なため、アニメや特撮番組などの企画段階から「製作委員」などとして参加し、迅速な版権取得や商品化を可能としています。総合玩具メーカーには、バンダイナムコホールディングスやタカラトミーなどがあります。

2)模型メーカー

プラモデル・フィギュアの専業メーカーで、もともと木製模型の製造業として創業している企業が多く見られます。専業メーカーとして一定の販路を確保していることからインジェクションモデルが主となっています。社内に蓄積されているノウハウ・資料などの面でスケールモデルを主に生産していますが、ハセガワやファインモールドのようにスケールモデルのノウハウを活かしたリアル性の高い架空モデルの生産を手掛けるケースもあります。模型メーカーには、タミヤ、ハセガワ、青島文化教材社などがあります。

3)模型店発祥のメーカー

模型店が、常連のプラモデル制作者(モデラー)が持ち込んだ原型や顧客の要望を基にガレージキットやフィギュアなどを製品化して市場に参入し、その後生産委託先を確保するなどして規模を拡大しているケースです。架空モデルに強みを持っていますが、ピットロードやボークス子会社の造形村のように、スケールモデルを手掛けているケースも見られます。模型店発祥のメーカーには、ウェーブ、海洋堂などがあります。

4)その他の企業

その他、フィギュアの企画・生産・販売を目的に設立された企業(アルター、マックスファクトリーなど)や、イベント企画など異業種の企業が参入した企業(グッドスマイルカンパニーなど)もあります。

また、出版社や編集プロダクションの中には、KADOKAWAのように自社が版権を所有する作品のプラモデル・フィギュアの企画・開発を手掛けるケースも見られます。

3 製造・販売などに関する主な差異化策

1)製品の鍵を握る質の高い「原型」

高価格帯を中心に、フィギュアの一大購買要因となっているのが、フィギュアの原型となる模型を作成する「原型師」です。原型師は、フィギュアメーカーに所属しているケースと、フリーの原型師がメーカーと原型製作契約を締結しているケースがあります。大手フィギュアメーカー、特にガレージキットの生産・販売を発祥とする企業は、有力な原型師を擁しているのが一般的です。

一方、3DCAD(3次元コンピューター製図)の高度化に伴って、従来は人の手で実際に造形する必要があった高度な原型製作がコンピューター上でできる「3Dモデリング」も一般的になっています。3Dモデリングの場合、「原型をゼロから製作する必要がない」「修正が速やかにできる」「ソフトウエアの機能によって原型を生産用のパーツ図面に分解するのが容易」といった、原型の設計スピードが速いという特徴があります。

2)交流空間

フィギュアのリピーター獲得に当たっては、消費者のロイヤルティーを高めることが重要です。プラモデル・フィギュアメーカーにおいては、その一環として、メーカーと消費者の交流空間の整備を進めています。

交流空間としては、従来からメーカー直営の模型店がありましたが、近年ではさまざまな形態の空間が登場しています。例えば、ボークスでは、京都府京都市の旧霞中庵竹内栖鳳記念館を改装した「天使の里・霞中庵」を運営しています。同施設では、同社製フィギュアの工房、ショップ、喫茶室、撮影スポットなどを設ける他、特定フィギュアの所有者のみ来館可能(予約制)にすることで、顧客満足度を高めるようにしています。

3)海外展開

1.生産拠点

プラモデルメーカーの生産拠点の多くが国内、特に大手メーカーの本社や工場が集中している静岡県に所在します。これは、主なマーケットが国内であることに加え、射出成型機など自動化が進んでおり人件費の割合が低い、下請企業のネットワークが構築されていることなどが背景にあります。ただし、総合玩具メーカーや一部の模型メーカー(タミヤなど)では、海外でも生産しているケースが見られます。

一方、フィギュアメーカーの多くは、人件費が安いアジア地域の国々に所在する自社工場や委託先工場で生産しています。これは、フィギュアの生産に当たっては組み立てや彩色など人手が必要で自動化が難しい工程が多く、生産コストに占める人件費の割合が高いためです。品質を維持するため、海外で生産を手掛ける各社においては、日本から技術者を派遣したり、定期的に生産現場のチェックを行ったりしています。

2.販売網

総合玩具メーカーは、自社で販売網を構築しています。これは、次に挙げるような背景があるためです。

  • キャラクターを前面に打ち出した玩具ビジネスを手掛けるに当たって、自社グループでキャラクターブランドのマネジメントを直接行う拠点を設ける必要がある
  • 海外の大手玩具メーカーを買収して販売網を自社グループに取り込んでいる

一方、模型メーカーやフィギュアメーカーの多くは、米国などの有力市場を除けば、各国の有力な模型流通業者や日本のアニメ・ゲームの取り扱いに強みを持つ専門店に販売代理店となってもらい、流通を肩代わりしてもらっています。これは、総合玩具メーカーほど流通網を構築する経営資源がないことや、自社で拠点を設けるほどの流通量が見込めないことが背景にあります。例えば、タミヤは、米国やドイツに営業・代理店支援を行う拠点を設ける一方で、流通については各国の代理店や合弁会社を通じて行っています。また、ボークスは米国の販売拠点としてショールームを設けています。

日本のプラモデル・フィギュアを巡っては、少子高齢化などによって国内市場の縮小が懸念されている一方で、クールジャパンを象徴するものとして海外で高く評価されています。この点を踏まえると、成長著しいアジアなど海外市場の開拓は急務といえます。プラモデル・フィギュアメーカー各社では、英語など外国語のウェブサイトを設けて海外の消費者やバイヤーにアピールするなどして、海外市場開拓に注力しています。

4 市場規模

プラスチックモデルキットの出荷金額および産出事業所数の推移は次の通りです。

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2017年のプラスチックモデルの製造品出荷額は204億7400万円で、2016年と比べて7.8%増加しています。産出事業所数もわずかであるものの増加傾向が見られます。

以上(2020年7月)

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画像:photo-ac

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