書いてあること
- 主な読者:ベーカリーの開業を検討している経営者
- 課題:業界の動向、法規制、開業にかかる費用が分からない
- 解決策:開業にかかる費用を洗い出し、売上高などを予測できるようにする
1 ベーカリーの概況
パンの小売業は製パン工場からパンを仕入れる「仕入小売型」と、自店で製造する「製造小売型」(以下「ベーカリー」)に大別されます。本稿では、ベーカリーの概況と開業に当たってのポイントおよび開業収支シミュレーションを紹介します。
1)パン小売業(製造小売)の統計の推移
総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」および経済産業省「商業統計」によると、パン小売業(製造小売)の事業所数などの推移は次の通りです。
2)パンへの1世帯当たり年間支出金額
総務省「家計調査年報(家計収支編)」によると、パンへの1世帯当たり年間支出金額の推移は次の通りです。なお、家計調査の値には、ベーカリーだけではなくスーパー・コンビニ、カフェのような飲食店など、他業態で購入したパンへの支出金額も含まれています。
3)原材料費の動向
近年、パンの原材料となる製品の価格は上昇傾向にあります。例えば、農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の改定について」によると、輸入小麦の政府売り渡し価格の推移は次の通りです。
日本では、パンの原材料となる小麦の多くを輸入に頼っており、輸入小麦の売り渡し価格は農林水産省が直近6カ月間の平均買い付け価格を基に算定しています。
4)ベーカリーの競争力
スーパー・コンビニ、カフェのような飲食店など、異業態の店舗でも品質の高いパンを販売しており、ベーカリーにとって競合は激しくなっています。
焼きたてのパンを販売するベーカリーの特徴は、工場で生産されたパンより風味や香りで勝ること、製造から販売までを一貫して行う製販一貫体制であることなどがあります。これらの特徴を最大限に生かせるよう工夫することが重要です。
一般に、食品などの最寄品販売の商圏は、半径500メートル~1キロメートル程度の近隣商圏といわれていますが、ベーカリーは競争力を高めることで、商圏を広げることが可能です。地域で評判の店舗になれば、その商圏は半径2~3キロメートル、またはそれ以上の地域商圏を見込むことも可能となります。また、近隣に学校や事業所が多ければ、サンドイッチなどの調理パンを展開することで、中食市場への参入が可能となります。
2 ベーカリー開業に当たってのポイント
1)開業立地
パンは最寄品であるため、基本的には近隣商圏で成り立ちます。そのため、ここでは「近隣商圏として半径1キロメートル程度」を見込むこととします。
競争力を発揮するには、それにふさわしい開業立地を選定することが必要です。望ましい立地の条件として、次のような点が挙げられます。
- 顧客となる人口が十分にいる地域であること、また、将来的に人口の増加が見込める地域であること
- 分かりやすい場所で交通事情がよく、来店しやすいこと
- 競合する店舗が集中していない場所であること
- 店舗開設に支障がなく、比較的安価に物件を取得できる場所であること
具体的な立地候補地としては、「駅前」「主要商店街」「住宅や事業所の集積地」「ショッピングセンターなど大型店舗内」などが考えられます。
なお、ショッピングセンターなどにテナント出店する場合は、「ショッピングセンターの集客力に大きな影響を受ける」「テナント料が必要になる」「販売促進や営業時間など店舗運営に一定の制約を受ける」といった点に注意が必要です。
2)ベーカリーの開業に当たって他店と差異化を図るポイント
1.手作り感や焼きたて感の訴求と品ぞろえの充実
ベーカリーの特徴は、自店で手作りしたパンを焼きたてで提供できることです。店頭に看板やのぼりなどを立て、手作り・焼きたてのパンを提供していることをアピールする他、店内では営業時間内でもパンを製造して、焼きたて感のあるパンを定期的に陳列するとよいでしょう。また、ベーカリーは、顧客ニーズに対応した商品を独自で開発することができます。顧客ニーズを把握し、品ぞろえを充実させることは、他店との差異化につながります。
2.お買い得感の演出
価格を下げ、価格を訴求することは他店との差異化につながりますが、量産品のパンを扱うスーパーなどのほうが、比較的容易に価格を下げることができるため、価格での競争は難しいのが実状です。従って、商品の全てを低価格にするのではなく、日替わりの一部の商品を特売価格で販売するのもよいでしょう。
3.来店のしやすさの向上
来店しやすい場所に出店することが重要です。さまざまな場所でパンが売られるようになっているため、開業に当たっては事前に地域の人口の把握や交通量など、条件にかなう立地であるかどうかを慎重に調査しなければなりません。また、ロードサイドに出店する場合は、自動車で来店する顧客が多いため、駐車場を設けた上で、視認しやすく駐車が容易であるように配慮することも欠かせません。
4.イートインスペースの設置
「買ったパンをその場で食べたい」「カフェのように休憩などの用途で利用したい」などのニーズがあることから、イートインスペースの設置は顧客の増加につながります。イートインスペースを設置する際は、イートインスペースがあることを、のぼりやチラシなどで訴求することが重要です。また、ドリンクメニューを設ける必要がありますが、「当店オリジナル手作りジュース」など自店独自のメニューがあれば他店との差異化が図りやすいでしょう。
その他、イートインスペースを設置することで店内の陳列スペースが不足し、品ぞろえが不十分となって顧客の減少を招くことのないよう、自店の店舗面積などに応じて慎重にイートインスペースの設置の有無やスペースの広さを検討しましょう。
3 新規開業収支を考える
1)前提条件
1.賃借料
賃貸物件に入居、賃借料年額300万円(賃借料月額25万円)
2.保証金・敷金
賃借料の6カ月分で150万円とします。
3.店舗造作費
店舗造作費を1200万円(1坪当たり40万円で30坪)とします。
4.厨房等設備費
厨房等設備費(冷蔵庫、オーブン、作業台など)を800万円とします。
5.開業費
200万円(広告・宣伝費・その他)
6.売上高
4270万円(前出の経済産業省「経済センサス」の1事業所当たり年間商品販売額)
7.パン製造小売の場合の原価率
後掲「小企業の経営指標2017」の「平均」の売上高総利益率53.9%を参考に、原価率を46.1%とします。
8.固定費
後掲「小企業の経営指標2017」の「平均」の人件費対売上高比率34.8%を参考に、人件費を1486万円(4270万円×34.8%)とします。
その他の諸条件は次の通りとします。
2)収支シミュレーション
4 経営指標
日本政策金融公庫「小企業の経営指標2017」によると、パン小売業(製造小売)の経営指標は次の通りです。
以上(2018年10月)
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画像:photo-ac