書いてあること

  • 主な読者:ワインの製造・販売を検討する経営者
  • 課題:市場規模や業界を取り巻く環境が分からない
  • 解決策:市場規模や大手製造業者の動き、輸入ワインの状況などを把握する

1 ワインの基準と分類

1)ワインの定義

国税庁のウェブサイトによると、ワインとはぶどうを原料として発酵させたものの総称を指します。ただし、酒税法では果実酒もしくは甘味果実酒に分類されます。国税庁は「酒のしおり(平成31年3月)」の中で、酒税法第3条第13号および第14号に基づく果実酒および甘味果実酒の定義の概要について、主に次のように説明しています。

  • 果実酒…「果実を原料として発酵させたもの(アルコール分が20度未満のもの)」または「果実に糖類を加えて発酵させたもの(アルコール分が15度未満のもの)」
  • 甘味果実酒…「果実酒に糖類又はブランデー等を混和したもの」

ワインの製造法によって4分類したものを当てはめると、非発泡性のスティル・ワインおよび発泡性のスパークリング・ワインは果実酒に、発酵過程でブランデーなどの強い酒を加えたフォーティファイド・ワインの多く(一部は果実酒)や、スティル・ワインに薬草や果汁などを加えたフレーバード・ワインは甘味果実酒となります。

2)「国産ワイン」の表示基準

国税庁は、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の6第1項に基づき、2015年10月30日に「果実酒等の製法品質表示基準」(以下「基準」)を定めました。それまで一般的に「国産ワイン」と呼ばれてきたものを、原材料や製造地によって明確に分類したもので、2018年10月30日から適用しています。基準では、ワインを次の3つに区分しています。

  • 日本ワイン…国産ぶどうのみを原料とし、日本国内で製造された果実酒
  • 国内製造ワイン…日本ワインを含む、日本国内で製造された果実酒および甘味果実酒
  • 輸入ワイン…海外から輸入された果実酒および甘味果実酒

基準では、この他にも「特定の原材料を使用した旨の表示」など、ワインの表示について定めています。

2 国内ワイン市場の規模

1)日本のワイン市場

国税庁「酒税課税関係等状況表」によると、果実酒および甘味果実酒の販売(消費)数量の推移は次の通りです。

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ワインの中心を占める果実酒の販売(消費)数量は、ここ数年はほぼ横ばいですが、10年前と比べると大きく増加しています。なお、キリンのウェブサイトにある「ワイン参考資料(2019年7月)」では、「2000年以降ワインは、食事をしながら楽しむ食中酒として、(中略)スーパーやコンビニエンスストアでも気軽に購入できるようになり、日常で飲まれるお酒として定着しつつあります」としています。

■キリン「データ集」■
https://www.kirin.co.jp/company/data/

総務省「家計調査」によると1世帯当たりのワインの購入数量と支出金額の推移は次の通りです。

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10年前と比べると、酒類全体の支出金額が減少傾向にあるのに対して、ワインの支出金額は大幅に増加し、ここ数年は横ばいとなっています。結果的に、酒類に占めるワインの支出の割合は、10年前と比べて3ポイント上昇しています。

2)国内のワイナリー数

国税庁「国内製造ワインの概況」によると、国内ワイナリー数およびワイン製造販売事業者数の推移は次の通りです。

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堅調なワインの消費動向にも支えられ、国内のワイナリーは増加傾向にあります。ワイナリー数は2017年度に300場を超えました。

3 国内ワイン業界の環境

1)PEST分析

国内ワイン業界を取り巻く環境について、ビジネスフレームワークのPEST分析を基に触れていきます。

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ワイン自体の需要は堅調に推移していますが、酒類全体の消費の落ち込みや、低価格の輸入ワインの流入といった価格低下要因もあります。国内ワインは製造ノウハウや機器類の技術の改善による品質向上や、日本ワインのブランド化などによって、付加価値を高める土壌が整備されてきているといえます。現時点では、ワインに対する堅調な需要を背景に、国内外の製造・販売業者が売り上げを拡大させようと、品質面および価格面で激しく競合している状況にあるといえます。

2)ワイン製造業者の経営状況

ワイン製造業は、大手飲料・食品メーカーのグループであるメルシャン(キリンホールディングス傘下)、サントリーワインインターナショナル(サントリーホールディングス傘下)、アサヒビール(旧サントネージュワイン)、サッポロビール(旧サッポロワイン)、マンズワイン(キッコーマン傘下)の大手5社と、その他の中小企業という構造となっているようです。

国税庁による2014年度のデータでは、ワインの製成数量(9万5098キロリットル)のうち、78.7%(7万4864キロリットル)を大手5社が占めています。

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国税庁「国内製造ワインの概況(平成29年度調査分)」によると、ワイン製造業者の8割以上は生産規模が100キロリットル以下にとどまる一方で、1000キロリットル以上を生産する7者で全体の8割以上を生産しています。一方、日本ワインの生産割合で見ると、300キロリットル以下の製造業者は9割以上が日本ワインを製造しているのに対し、1000キロリットル以上の大手製造業者では8.4%にとどまっています。

生産規模によって、少量高付加価値型と大量生産型に分かれているといえます。 

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大手を除いたワイン製造業者の経営状況は、2015年度をピークに利益が悪化しているようです。特に期限付免許者である新規参入業者の平均では赤字経営となっています。国税庁「国内製造ワインの概況(平成29年度調査分)」によると、期限付免許者を除いた製造業者においても、2017年度は営業赤字の製造業者が49者(27.2%)、営業利益額が50万円未満の製造業者が28者(15.6%)で、両者を合わせると77者(42.8%)に上ります。営業赤字ないし営業利益額が50万円未満の製造業者の数は、2016年度の66者(39.7%)、2015年度の51者(28.2%)から年々増加しており、経営環境が厳しくなってきていることが分かります。

3)ワイン製造の主要産地と品種

ワインの原材料となるぶどうは、気候や土壌の性質などによって生産に適した品種が異なります。また、ぶどうの品種改良の進展によってもワインの品質が変わります。例えばヤマソービニオンは、1990年に山梨大学によって登録された、カベルネ・ソービニヨンとヤマブドウを交配して作られた品種で、山形県や岩手県などで生産されています。

ワインは原材料となるぶどうの品種の他、製造地域の気候や製造方法などによって、地域単位、ワイナリー単位で個性が出るため、差異化しやすい商品といえます。

ワインの生産量の上位5道県である主要ワイン生産地の生産量と、使用しているぶどうの品種別数量は次の通りです。

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4)輸入ワインの状況

国内ワイン市場に大きな影響を与えるのが、輸入ワインの存在です。前出のキリンのウェブサイトにある「ワイン参考資料(2019年7月)」によると、2018年のワインの出荷数量(36万1388キロリットル)のうち、3分の2程度(23万9379キロリットル)を輸入ワインが占めています。

海外からのワインの輸入量は、ここ数年はほぼ横ばいとなっていますが、10年前と比べると数量ベースで39.9%増加しています。ただし、金額ベースでは18.3%の増加にとどまっています。1リットル当たりの平均単価で見ると、2008年の約764円から2018年には約646円へと下落しています。

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主要6カ国からのワインの輸入の状況は、各国によってさまざまです。最も輸入数量が増えているのは、2007年9月に発効した日本チリ経済連携協定に基づき、段階的に関税の引き下げが続いたチリです。輸入数量は10年間で4倍近くに増えて、日本向け第1位の輸出国に躍進しました。ただ、平均単価は1リットル当たり300円台と低価格商品の扱いとなっており、2018年には1リットル当たり約316円まで下落しています。スペイン産ワインも低価格商品の位置付けにあるといえます。

一方、米国産ワインは平均単価を上昇させており、「カリフォルニアワイン」などのブランド戦略が奏功しているといえます。また、フランスも1リットル当たり1000円前後を維持しています。

消費者がブランドによって、低価格帯と高価格帯の商品を選別して購入する傾向が広がっているとみられます。

5)経済連携協定の影響

今後は、自由貿易協定の広がりにより、輸入ワインの数量が増加する可能性があります。2019年2月に発効した日EU経済連携協定により、これまで15%または1リットル当たり125円のうち安い関税がかけられていたEU産のワインへの関税が撤廃されました。これにより、イタリア、フランス、スペインといったワイン輸出国から無関税でワインが流入することとなりました。

また、2007年9月に発効した日本チリ経済連携協定に基づき、12年間で段階的に関税を引き下げてきたチリワインに対する関税が、2019年4月に完全撤廃となりました。オーストラリアに関しても、2015年1月に発効した日本オーストラリア経済連携協定に基づき、ボトルワインの輸入に関して7年間での撤廃に向けた段階的な関税の引き下げを行っています。

輸入会社は、従来は販売価格に転嫁していた関税の分の費用を、価格を下げたり、拡販施策に活用したりして、販売攻勢をかけることも想定されます。

6)ワイナリーへの格付け

これまで日本では個別のワインに対する品評会はありましたが、ワイナリーに対する評価には、あまり高い関心が寄せられていませんでした。

こうした中で2018年から、品質の高いワインを造るワイナリーを表彰する「日本ワイナリーアワード」が始まりました。消費者がワインを愉しむ一助となることを目指したもので、日本ワインを広く取り扱う酒販店・飲食店の代表または仕入れ担当者や、日本ワインに関する著作・記事のある人たちで構成する日本ワイナリーアワード審議会が審査を行います。

審査では、最高位の「5つ星」から「4つ星」「3つ星」「コニサーズワイナリー」の4段階で格付けを行います。高い格付けを得た中小のワイナリーは、ワイン愛好家からの関心が集まり、独自のブランドづくりに役立つとみられます。

以上(2019年12月)

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画像:unsplash

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