書いてあること
- 主な読者:介護老人福祉施設の運営を検討する経営者
- 課題:介護老人福祉施設の開所および運営を行いたい
- 解決策:必要な申請や条件、収支モデルを参照する
1 介護老人福祉施設の概要
1)介護老人福祉施設とは
介護保険法において、「介護老人福祉施設」とは、「特別養護老人ホーム(入所定員30人以上)」であって、当該特別養護老人ホームに入所する要介護者に対し、施設サービス計画に基づいて入浴・排せつ・食事などの介護、日常生活上の世話、機能訓練、健康管理、療養上の世話をする施設をいいます(介護保険法第8条第27項)。なお、入所定員が29人以下の施設は、「地域密着型介護老人福祉施設」と規定されています(介護保険法第8条第22項)。
市町村は、都道府県知事が指定する介護老人福祉施設により行われる介護福祉施設サービス(注)に要した費用について、施設介護サービス費を支給します(介護保険法第48条第1項)。
(注)介護福祉施設サービスとは、介護老人福祉施設に入所する要介護者に対し、施設サービス計画に基づいて行われる、入浴、排せつ、食事などの介護、日常生活上の世話、機能訓練、健康管理、療養上の世話をいいます。
介護老人福祉施設は、まず、「老人福祉法」において「特別養護老人ホーム」の設立許可を受け、次いで、「介護保険法」において「介護老人福祉施設」の指定を受ける必要があります。
厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、介護老人福祉施設の施設数の状況は次の通りです。
また、同調査によると、介護老人福祉施設の施設数・定員・在所者数の状況は次の通りです。
2)特別養護老人ホームの設置認可
市町村および地方独立行政法人以外で、特別養護老人ホームを設置する場合、まず、設置主体は社会福祉法人である必要があります。また、老人福祉法第15条第6項では、「都道府県知事は、社会福祉法人による認可の申請があった場合において、当該申請に係る区域における特別養護老人ホームの入所定員の総数が、都道府県が老人福祉計画において定めるその区域の特別養護老人ホームの必要入所定員総数にすでに達している場合または特別養護老人ホームの設置によってこれを超えることになる場合には設置の認可をしないことができる」と規定されています。
社会福祉法人が特別養護老人ホームの設置認可の申請をするときには、次の事項を記載した申請書を、施設を設置しようとする地の都道府県知事に提出しなければなりません(老人福祉法施行規則第2条第1項)。
- 施設の名称、種類および所在地
- 施設の地理的状況
- 建物の規模および構造並びに設備の概要
- 特別養護老人ホームの設備および運営に関する基準に規定する施設の運営についての重要事項に関する規程
- 入所者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
- 職員の勤務の体制および勤務形態
- 協力病院の名称および診療科名並びに当該協力病院との契約の内容
- 施設の長その他主な職員の氏名および経歴
- 事業開始の予定年月日
- 地方独立行政法人が設置する場合にあっては、資産の状況を記載した書類
3)介護老人福祉施設の指定
入所定員が30人以上の指定介護老人福祉施設の指定は、都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)が行います(介護保険法第86条第1項、第203条の2)。一方、入所定員が29人以下の地域密着型介護老人福祉施設の指定は市町村長により行われます(介護保険法第78条の2第1項)。
指定を受けようとする者は、次の事項を記載した申請書・書類を施設の開設を所管する都道府県知事に提出しなければなりません(介護保険法施行規則第134条)。
- 施設の名称および開設の場所
- 開設者の名称および主たる事務所の所在地並びに代表者の氏名、生年月日、住所および職名
- 当該申請に係る事業の開始の予定年月日
- 開設者の定款、寄附行為等およびその登記事項証明書または条例等
- 特別養護老人ホームの認可証等の写し
- 併設する施設がある場合にあっては、当該併設する施設の概要
- 建物の構造概要および平面図並びに設備の概要
- 入所者の推定数
- 施設の管理者の氏名、生年月日および住所
- 運営規程
- 入所者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
- 当該申請に係る事業に係る従業者の勤務の体制および勤務形態
- 当該申請に係る事業に係る資産の状況
- 協力病院の名称および診療科名並びに当該協力病院との契約の内容
- 当該申請に係る事業に係る施設介護サービス費の請求に関する事項
- 介護保険法第86条第2項各号に該当しないことを誓約する書面(誓約書)
- 役員の氏名、生年月日および住所
- 介護支援専門員の氏名およびその登録番号
- その他指定に関し必要と認める事項
2 施設基準
特別養護老人ホームの施設基準は、「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(以下「基準」)」に定められています。同基準に定められているユニット型施設の主な内容を紹介します。
1)運営規程(基準第34条)
ユニット型特別養護老人ホームは、次に掲げる施設の運営についての重要事項に関する規程を定めておかなければなりません。
- 施設の目的および運営の方針
- 職員の職種、数および職務の内容
- 入居定員
- ユニットの数およびユニットごとの入居定員
- 入居者へのサービスの提供の内容および費用の額
- 施設の利用に当たっての留意事項
- 非常災害対策
- その他施設の運営に関する重要事項
2)共同生活室を設ける場合の施設の基準(基準第35条)
ユニット型特別養護老人ホームの建物は、耐火建築物でなければなりません。ただし、入居者の日常生活に充てられる場所を2階以上の階および地下のいずれにも設けていないユニット型特別養護老人ホームの建物は、準耐火建築物とすることができます。
ユニット型特別養護老人ホームには、次の各号に掲げる設備を設けなければなりません。ただし、他の社会福祉施設等の設備を利用することにより当該ユニット型特別養護老人ホームの効果的な運営を期待することができる場合であって、入居者へのサービスの提供に支障がないときは、次の各号(1.を除く)に掲げる設備の一部を設けないことができます。
- ユニット
- 浴室
- 医務室
- 調理室
- 洗濯室または洗濯場
- 汚物処理室
- 介護材料室
- 前各号に掲げるもののほか、事務室その他の運営上必要な設備
1つの居室の定員は、1人とします。ただし、入居者へのサービスの提供上必要と認められる場合は2人とすることができます。
居室は、いずれかのユニットに属するものとし、当該ユニットの共同生活室に近接して一体的に設けなければなりません。ただし、1つのユニットの入居定員は、おおむね10人以下としなければなりません。
居室は地階に設けることはできません。1つの居室の面積は10.65平方メートル以上を標準とします。ただし、2人部屋の場合にあっては、21.3平方メートル以上を標準とします。
居室には寝台またはこれに代わる設備を備えなければなりません。1つ以上の出入口は、避難上有効な空地、廊下、共同生活室または広間に直接面して設けなければなりません。床面積の14分の1以上に相当する面積を直接外気に面して開放できるようにしなければなりません。必要に応じて入居者の身の回り品を保管できる設備を備え、ブザーまたはこれに代わる設備を設けなければなりません。
3)職員の配置の基準(基準第12条)
特別養護老人ホームには、次の各号に掲げる職員を置かなければなりません。ただし、入所定員が40人を超えない特別養護老人ホームにあっては、ほかの社会福祉施設などの栄養士との連携を図ることにより、入所者の処遇に支障がないときは、栄養士を置かないことができます。
- 施設長:1人
- 医師:入所者に対し健康管理および療養上の指導を行うために必要な数
- 生活相談員:入所者の数が100人またはその端数を増すごとに1人以上
- 介護職員または看護職員(看護師もしくは准看護師)
- イ.介護職員および看護職員の総数は、常勤換算方法で、入所者の数が3人またはその端数を増すごとに1人以上
- ロ.看護職員の数は、次の通りとすること
- 入所者の数が30人を超えない場合、常勤換算方法で1人以上
- 入所者の数が30人を超えて50人を超えない場合、常勤換算方法で2人以上
- 入所者の数が50を超えて130人を超えない場合、常勤換算方法で3人以上
- 入所者の数が130人を超える場合、常勤換算方法で3人に、入所者の数が130人を超えて50人またはその端数を増すごとに1人を加えた数以上
- 栄養士:1人以上
- 機能訓練指導員:1人以上
- 調理員・事務員その他の職員:当該特別養護老人ホームの実情に応じた適当数
3 開業収支を考える
1)前提条件
1.売上高
年間売上高は、施設定員80人(10人×8ユニット)として3億5503万円とします。算出式は次の通りです。
- {介護サービス費28万7400円×12カ月+ホテルコスト(1970円+1380円)×365日)}×定員80人×稼働率95%=3億5503万円
厚生労働省「介護給付費実態調査月報(2019年4月審査分)第7表、介護サービス受給者1人当たり費用額、サービス種類・都道府県別」によると、介護福祉施設サービスの介護サービス受給者1人当たり費用の平均月額は28万7400円となっています。
また、ここではホテルコストとして滞在費を1日当たり1970円、食費を1日当たり1380円としました。
厚生労働省「介護報酬の算定構造(2018年4月以降適用)」によると、ユニット型介護福祉施設サービス費(I)(ユニット型個室)(1日当たり)は次の通りです。
- 要介護1:636単位
- 要介護2:703単位
- 要介護3:776単位
- 要介護4:843単位
- 要介護5:910単位
2.原価率
原価・変動比率は、後掲表(介護老人福祉施設の収支)の介護事業費用のうち(4)その他を参考に27.7%とします。
3.人件費
また、固定費は同じく後掲表(介護老人福祉施設の収支)の介護事業費用のうち(1)給与費63.8%を参考に2億2651万円(3億5503万円×63.8%)とします。
4.施設整備・設備整備費用
施設整備費を8億8000万円(1000坪×88万円)、設備整備費を7200万円とします。
その他の諸条件は次の通りです。
2)収支シミュレーション
4 介護老人福祉施設の1施設1カ月当たり収支
厚生労働省「平成28年度介護事業経営概況調査結果」によると、介護老人福祉施設の収支は次の通りです。
介護事業費用は、(1)給与費、(2)減価償却費、(3)国庫補助金等特別積立金取崩額、(4)その他に分類されています。なお、(4)その他には、水道光熱費、燃料費、給食の材料費、賃借料、旅費交通費、通信費、消耗品費、雑費などが含まれます。
以上(2019年10月)
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画像:Pexels