書いてあること

  • 主な読者:健康経営の取り組みが十分でないと感じている経営者
  • 課題:健康経営の定義が難しい。経営的な視点や戦略性といわれてもピンと来ない
  • 解決策:難しく考えず、気軽にヘルステックの製品・サービスを取り入れてみる

1 「健康経営」はシンプルに考える

採用や福利厚生、SDGsなど「健康経営」に取り組むことの意義は高まるばかりです。しかし、「自分たちの会社は、健康経営に十分に取り組めていない」と考える経営者は多いです。その理由には、経営者が健康経営を「難しく捉えすぎている」ことがあります。

経済産業省では、

健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」

と定義しています。これを「社員が健康に働けるよう、会社がサポートすること」とシンプルに捉えれば、だいぶ見方が変わってきます。「経営的な視点」や「戦略性」はひとまず置いておいて、社員の健康につながりそうなことを何か1つ実践してみましょう。手軽なのは、

健康経営関連の製品・サービスを導入してみる

ことです。これも立派な健康経営ですし、新しい福利厚生にもなります。

この記事では、健康経営の取り組みを分類した上で、健康経営の最前線である「ヘルステック(健康×テクノロジー)」の事例を紹介します。

2 「法定系」を実施し、「法定外系」でちょい足しする

まず、健康経営の取り組みを整理してみます。ここでは、

  • 縦軸:法定系、法定外系(法律に定められたもの、そうでないもの)
  • 横軸:フィジカル、メンタル(体の健康に関するもの、心の健康に関するもの)

でポジションマップを作成しました。

健康経営のポジションマップ

取り組みの基本は、

「法定系」の取り組みを確実に実施しつつ、「法定外系」の製品・サービスでちょい足しをする

ことです。「法定系」は確実に対応すべきことですが、以降で紹介するのは、「法定外系」のうち、テクノロジーを活用した「ヘルステック」の製品やサービスです。実際に製品・サービスの担当者に聞いた「提供を始めたきっかけ」「イチオシのポイント」「現在の状況」などを紹介します。

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3 骨格筋量や体脂肪率を簡単に計測できる体組成計

管理医療機器の販売を行うインボディ・ジャパン(東京都江東区)は、体組成計「InBody」シリーズを提供しています。身長を入力して体重を量り、備え付けの8点接触型電極を握るだけで、骨格筋量や体脂肪率、内臓脂肪レベルなどの6項目を10秒で測定できます。

通常の体組成計は、年齢や性別などの統計データに基づいて体成分の結果を補正するため、「高齢の人が頑張って筋肉量を維持しても、測定結果が低めに出てしまう」などの問題がありますが、InBodyでは年齢や性別などの入力を必要としないため、その心配がありません。また、アプリとも連動しているため、スマホから体成分情報を簡単に確認できます。下の写真は、家庭用の「InBody Dial」です。

InBody Dial

インボディ・ジャパン 経営管理部 金氏にお話を伺いました。

「提供を始めたきっかけは、同社の創業者が、大学での研究を通じて『電気抵抗で体成分が測定できる』と知ったことです。当時は一部の研究で使われているだけの技術でしたが、創業者はこれを医療機関などで実用化できれば社会貢献につながると考えました。そうして研究を重ねた結果、完成したのがInBodyです。

イチオシのポイントは、データの正確性です。InBodyでは、身長・体重と実測したインピーダンス(電気抵抗の値)のみに基づいて体成分を算出するので、不純なデータが混在せず、自分の健康状態を客観的に把握できます。また、体組成計に入力すべき情報が少なく操作が簡単、かつデータをクラウド上で一元管理できるのも強みです。現在、工場を持つ会社が作業員の健康管理にInBodyを活用している他、国立大学での研究、患者やアスリートの体調管理などにも使われています」(金氏)

■InBody Dial■
https://www.inbody.co.jp/inbody-dial/

4 身に着けるだけで腰への負担を軽減できるスーツ

介護福祉機器の開発、設計、製造、販売などを行うイノフィス(東京都八王子市)では、身に着けるだけで腰への負担を軽減できる「マッスルスーツ」シリーズを提供しています。物を持ち上げたり持ち運んだりする倉庫作業や、つらい姿勢を維持しなければならない介護や農作業などの現場で活用されています。

例えば、写真のマッスルスーツ「Exo-Power(エクソパワー)」は、27キログラムフォースという、シリーズ最強のアシスト力を誇ります。背負ってベルトを締めるだけで10秒で装着でき、補助力の強弱もポンプで送り込む空気の量によって調節できます。

マッスルスーツ「Exo-Power」

イノフィス マーケティング広報担当 清水氏にお話を伺いました。

「提供を始めたきっかけは、東京理科大学 小林教授の『人工筋肉』の構想です。教授は、二足歩行型のロボットが話題になった際、『技術は確かにすごいけど、人間にとって本当に役立つものは何だろう?』と考え、結果、全ての人が生きている限り自立した生活を実現できる『人工筋肉』に行き着きました。それが、マッスルスーツの開発の原点です。

イチオシのポイントは、電気を一切使わないことです。他社のアシストスーツは電気やモーターで動くものも多いですが、マッスルスーツはそれらを必要としないため、介護施設の風呂場や雨天時の畑でも使用できます。また、重いものの持ち運びやその場での作業には外骨格タイプのExo-Power(エクソパワー)、物流業など動きの多い作業にはサポータータイプのSoft-Power(ソフトパワー)など、用途に合わせてマッスルスーツの種類を選択できるのも強みです。

現在、マッスルスーツは腰への負担の大きい作業のある製造業、運送業、介護、農業、建設業などの現場で広く利用され、作業員の労災予防、ひいては離職防止や採用ブランディングに大いに役立っています。また、海外にも需要があり、17カ国で累計2万5000着以上を販売しています」(清水氏)

■「マッスルスーツ」シリーズ■
https://musclesuit.co.jp/product/lp.musclesuit.jp

5 トイレのタイミングが分かる排泄予測支援機器

排泄関連商品の企画、開発、販売を行うトリプル・ダブリュー・ジャパン(東京都港区)では、トイレのタイミングが分かる排泄予測支援機器「DFree」を提供しています。在宅介護で排尿に不安を抱えている家族などがいる場合、小型センサーをその下腹部に貼ることで、どのタイミングでトイレに行けばいいかが本体であるタブレットに通知されます。

通常の介護では、尿意を感じてからではトイレに間に合わないケースなどがありますが、DFreeの小型センサーは、超音波により膀胱の尿のたまり具合をリアルタイムで検知し、早めに知らせてくれるため、こうした問題を解決できます。

Dfree

トリプル・ダブリュー・ジャパン 代表取締役 中西氏にお話を伺いました。

「提供のきっかけは、私がアメリカ留学中のあるときに失禁を起こしたことです。そこから、尿漏れに関する悩みを持つ人が多いのではないかと考えるようになり、DFreeの開発が始まりました。

イチオシのポイントは、とにかく『トイレの不安解消』に尽きます。高齢者以外に出産後の女性なども尿漏れが発生しやすい傾向にあり、『つい何回もトイレに行ってしまう』『失禁が怖くて外出できない』など、不安を抱えている人は意外と多いです。尿のたまり具合を可視化できるDFreeは、こうした悩みの解決に役立ちます。実際、30分に1回トイレに行っていた人が、製品を利用し始めてから2時間に1回しかトイレに行かなくなった事例もあります。

現在、DFreeは介護が必要な家族を持つ人、出産後の女性に広くご利用いただいています。DFreeを福利厚生として活用したいという会社に、定価より安く販売したケースもあります。なお、2022年4月からは『特定福祉用具』の認定を受けましたので、要支援/介護認定の人は、介護保険適用により、1~3割負担で製品を購入できるようになっています」(中西氏)

■DFree■
https://dfree.biz/

6 楽しくウォーキングができるアプリ

インターネットサービス事業を行うONE COMPATH(東京都港区)は、楽しくウォーキングができるアプリ「aruku&(あるくと)」の法人向けサービス「aruku& forオフィス」を提供しています。スマホの歩数計データを利用して社内でウォーキングイベントを開催できる法人向けサービスです。

社員がスマホでアプリをダウンロードするだけで導入できます。社員が歩いた分だけ、歩数計データの内容が、個人別・部署別のランキングにリアルタイムで反映されます。また、「1時間以内に1000歩歩いて」といったゲームミッションや、プレゼントキャンペーンなど、イベント終了後もウォーキングを継続できる仕掛けが満載です。

aruku&forオフィス

ONE COMPATH イノベーション本部aruku&サービス部ゼネラルマネジャー 西澤氏にお話を伺いました。

「提供を始めたきっかけは、新規事業を立ち上げる中で、何か社会課題の解決につながるサービスを提供したいという話が持ち上がったことです。もともと当社では、インターネット地図や位置情報ゲームを展開していて、そこから『ゲーム感覚で楽しくウォーキングができるアプリがあれば、生活習慣病の改善や医療費の削減が図れるのではないか』という発想が生まれました。

イチオシのポイントは、今言った通り、ゲーム感覚で手軽に始められることです。導入は社員がスマホにアプリをダウンロードするだけで簡単にできますし、管理者・担当者向けに専用の管理ツールも提供しているので、歩数データの集計やイベント告知なども簡単に行えます。手間がかからないからこそ、社員同士で「どれくらい歩いた?」などの会話が自然に生まれ、ウォーキングを通じてコミュニケーションが活性化します。個人で健康意識を高めるのではなく、社員同士での意識醸成を図れます。

現在、社員数300人未満の中小企業を対象とした『U300応援プラン(アンダー300応援プラン)』というプランを実施しています。利用料が年間一律20万円と比較的安価で、導入いただいている会社は多いです。こうした甲斐あってか、2023年には、aruku& forオフィスを導入している会社のうち、66社が経済産業省の『健康経営優良法人2023』に認定されています」(西澤氏)

■aruku&forオフィス■
https://www.arukuto.jp/biz/office/

7 女性の健康問題の解決をサポートするサービス

フェムテック(女性×テクノロジー)に関するシステム開発・運営事業を行うLIFEM(東京都新宿区)では、女性の健康課題をライフステージに合わせて総合的に支援するサービス「ルナルナ オフィス」を提供しています。サービスの内容は、女性の体に関するセミナーやコンテンツの提供、医師などによるオンライン診療・相談、さらには薬の処方などです。

例えば、「スタンダードプラン」では、女性社員の月経、妊娠、更年期の悩みを

啓発(セミナーやコンテンツの提供)→認知(オンライン診療・相談)→改善(薬の処方)→検証(職場環境アセスメント)

という流れで解決するサービス体系になっています。女性社員の健康改善に役立つだけでなく、職場環境アセスメントまで行うことで、会社がどの程度女性特有の健康課題に向き合えているかもチェックできます。

ルナルナオフィス(スタンダードプラン)

LIFEM社にお話を伺いました。

「『見えにくい未来と今とのギャップを埋める』という理念に基づき、社会問題となっているジェンダーギャップ、その中でも男女の性差によって生じる『健康課題』のギャップを埋めることを目的に、ルナルナ オフィスが始まりました。

イチオシのポイントは、入社からリタイアまで、長期間にわたって女性の健康を支え続けられることです。産休・育休のタイミングであれば誰もが妊娠の悩みを抱えますし、年月を経て管理職になる頃には更年期の悩みも増えてきます。そうした幅広い悩みにワンストップで対応できるのが強みです。また、本サービスのセミナーなどは男性も視聴できるので、男性社員のリテラシー向上にも役立ちます。

現在、スタンダードプランの他に、社員数20人以下の会社を対象とした、よりシンプルな「ライトプラン」も提供し、中小企業を含む多くの会社にルナルナ オフィスを活用いただいています。女性活躍推進や健康経営の推進、採用強化や離職防止など、さまざまな課題の解決に役立っています」(LIFEM社)

■ルナルナ オフィス■
https://office.lnln.jp/

8 (参考)健康経営について知っておきたい補足情報

1)健康経営に関する認定制度

第6章の「aruku&forオフィス」の事例にも少し出てきましたが、健康経営に取り組むことで、経済産業省の「健康経営優良法人」をはじめ、さまざまな認定が受けられます。

認定を取得すれば、自社が健康経営に取り組んでいることのPRになります。第6章でもお伝えした通り、「他社が提供する製品・サービスを使って、ウォーキングイベントを開催した」などでも取得できる場合があるので、せっかく健康経営に取り組むなら、認定取得を目指していくのもよいでしょう。

図表7は、健康経営関連の認定制度の例(中小企業向け)です。

(図表7)【健康経営関連の認定制度の例(中小企業向け)】

認定制度名 認定ジャンル 主催 認定法人数(注1) 費用(税込)
健康経営優良法人(中小規模法人部門) 健康経営全般 経済産業省 1万4007件 1万6500円
各都道府県の健康経営認定制度(注2) 健康経営全般 各都道府県 都道府県による 無料
DBJ健康経営格付 健康経営全般 日本政策投資銀行 282社 無料
くるみん認定 子育て支援 厚生労働省 4986社 無料
えるぼし認定 女性活躍 厚生労働省 2532社 無料
ユースエール認定 若者採用・育成 厚生労働省 1159社 無料
もにす認定 障害者雇用 厚生労働省 331社 無料
安全衛生優良企業 労働安全衛生 厚生労働省 33社 無料

(出所:日本情報マート作成)

(注1)2024年1月12時点で把握可能な、公表分の最新の数値を合算しています。
(注2)実施していない都道府県もあります。

健康経営に関わる認定制度は多数ありますが、最も知名度が高く健康経営全般に対して認定を受けることができる制度は「健康経営優良法人」です。

2)健康経営の定義

冒頭で健康経営の定義を紹介しましたが、実は省庁や団体によって定義が若干異なります。主なものを紹介します。

1.経済産業省

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。

2.東京商工会議所

健康経営とは、従業員等の健康管理や健康増進の取り組みを「投資」と捉え、経営的な視点で考えて、戦略的に実行する新たな経営手法です。これまで、従業員の健康管理は自己責任、あるいは企業にとってコストとして考えられてきましたが、今後も続くであろう深刻な「人手不足問題」などを背景に、「健康経営」に注目する経営者が増えています。従業員の健康づくりを「投資」とするには、相応の「リターン」が期待されるからです。

先進的に健康経営に取り組む企業からは、「生産性向上」「業績向上」「従業員の活力向上」「組織の活性化」「企業価値向上」「採用時の応募数増加」などを実感しているといった声も寄せられています。また、労務管理・労働安全対策の視点からの「法令遵守」「リスクマネジメント」の手法としても注目されています。このように、健康経営は、企業が経営理念に基づいて、従業員等の健康保持・増進に積極的に取り組むことにより、従業員の活力向上や生産性の向上など組織の活性化をもたらし、ひいては業績の向上や企業のイメージ向上、採用増加へつなげていく取り組みです。

3.健康経営研究会

健康経営とは「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても 大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康を経営的視点から考え、戦略的に実践することを意味しています。今後は、「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与すること」が、これからの企業経営にとってますます重要になっていくものと考えられます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年1月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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inquiry01@jim.jp

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