書いてあること

  • 主な読者:自費リハビリ事業を検討する経営者
  • 課題:市場の動向や、サービスの具体的な価格帯が分からない
  • 解決策:事業を取り巻く環境を整理し、既存サービスの価格を参考にする

1 自費リハビリ事業とは

脳梗塞を含む脳血管疾患などを発症すると、約6割の患者に「片まひ」や、筋肉が不自然につっぱる「痙縮(けいしゅく)」などの後遺症をもたらすといわれます。この後遺症の程度を軽くしたり、一度失った機能を取り戻したりするのに欠かせないのがリハビリです。

脳血管疾患でのリハビリは、「急性期」「回復期」「維持期・生活期」の大きく3段階に分かれます。

  • 急性期:発症から2~3週間程度で、体の機能低下を最小限に抑えるもの
  • 回復期:発症から1~4カ月程度で、日常生活に最低限必要な動作や機能を回復させるもの
  • 維持期・生活期:発症から4~6カ月以降で、自宅に戻って回復期に取り戻した機能を維持させるもの

病院など医療機関に入院して行われる急性期と回復期のリハビリは主に医療保険、退院後、介護保険事業所が行う維持期・生活期のリハビリは主に介護保険から費用が給付されます。

ただし、医療保険によるリハビリは保険適用日数に制限があったり、介護保険によるリハビリは利用者の個別のニーズを満たすことができなかったりすることから、希望するリハビリが受けられない「リハビリ難民」が増加しています。

このように、公的社会保障制度の下では対応が難しいニーズに対して、保険外の完全自費負担で、個別具体的にサービスを提供する自費リハビリ事業が注目されています。自費リハビリ事業が満たすニーズには、次のようなものがあります。

  • すし職人の「再び握りたい」というニーズに対し、手先の回復に特化したリハビリを提供
  • 社長の「座って話せるようになりたい」というニーズに対し、言語聴覚療法に特化したリハビリを提供
  • 事務職の職場復帰したいというニーズに対し、パソコンのキーボードを打てるようになることに特化したリハビリを提供
  • 母親の「子どものお弁当が作れるようになりたい」というニーズに対し、車いすに座ったままでも料理ができるようになることに特化したリハビリを提供

2 自費リハビリ事業を取り巻く環境と成長要因

1)自費リハビリ事業のPEST分析

自費リハビリ事業を取り巻く環境と成長要因について、ビジネスフレームワークの「PEST分析」に沿って考えていきます。自費リハビリ事業のPEST分析は次の通りです。

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2)政治(Political):医療保険・介護保険制度の改正により「リハビリ難民」が増加

厚生労働省は、2006年度の診療報酬改定で、病院など医療機関におけるリハビリ(医療保険)に対し、長期にわたり継続的にリハビリを行うことが医学的に有用であると認められる一部の疾患等を除き、算定日数上限を設けました。

例えば、脳血管疾患のリハビリの算定日数上限は180日で、基本的には、180日以内に退院しなければならなくなりました。

退院後は、例えば脳血管疾患の場合、1カ月当たり13単位(1単位20分)に限り、医療保険でリハビリ病院の外来を受けることができました。しかし、2018年度の診療報酬改定で、2019年4月以降は要介護者等については、1カ月当たり13単位のリハビリ外来も廃止されました。

このため、多くのリハビリ患者は、退院後、介護保険でデイサービスや訪問リハビリテーションなどの介護保険によるリハビリに移行することになります。こうした背景から、デイサービスの受給者数は、2008年4月の1カ月当たり約46万人から、2018年10月の1カ月当たり約61万人まで増加しています。

しかし、デイサービスは基本的に集団リハビリが主で、個別の機能訓練は15分程度といわれます。また、訪問リハビリテーションは、個別リハビリですが、それでも基本的に40分~1時間と短時間です。また、いずれの場合も、脳血管疾患専門のスタッフなどは多くありません。

このような背景から、長期にわたってリハビリを希望しているにもかかわらず、医療保険から切り離された患者のうち、介護保険1号被保険者でも2号被保険者でもない40歳未満の患者や、介護保険によるリハビリを受けたくても利用可能な施設がなかったり、介護保険によるリハビリでは満足できない患者を中心に、「リハビリ難民」が生まれました。

3)経済(Economical):高齢の労働者が増加

脳血管疾患患者の約6割が70歳以上といわれます。近年では、働く高齢者が増加しており、70歳以上の労働者は2008年の268万人から、2018年には425万人となっています。60歳以上の労働者を見ても、2008年の1099万人から、2018年には1414万人まで増えています。

働く高齢者が増えたことで、脳血管疾患患者で職場復帰を急ぐケースが増加しているとみられます。前述の通り、介護リハビリでは、患者の職種に応じた個別機能訓練を十分に受けることができません。

4)社会(Social):働き盛りで職場復帰を急ぐ若年層が存在

厚生労働省「患者調査」によると、2017年10月時点の脳血管疾患の総患者数は約112万人、日本リハビリテーション医学会によると、2014年時点で約300万人と推定され、毎年、新たに25万~30万人が発症しているといわれます。

今後、高齢化により患者数は増加するとみられており、それに伴って、自費リハビリ事業への需要も広がることが予想されます。

また、前述した通り、介護保険1号被保険者でも2号被保険者でもない40歳未満の若年層を含め、20代~50代といった働き盛りで、自らの職種に応じた個別機能訓練を強く希望する人たちに対し、自費リハビリサービスが受け皿となります。

現に、デジタルヘルスベンチャーとして自費リハビリ施設「脳梗塞リハビリセンター」を全国で17店舗展開するワイズが、2018年3月9日の未来投資会議 構造改革徹底推進会合で発表した資料によると、利用者の年代は20代~50代が全体の46%に上っています。

5)技術(Technological):個別的なニーズに応える最新機器が登場

利用者の個別的なニーズに応えるため、VR機器やロボットなどさまざまな機器が開発されています。

ワイズは、麻痺した下肢の運動を脳に再学習させる歩行支援ロボット、仮想現実(VR)技術を応用して、ゲーム感覚で車いすでの姿勢保持や歩行などに必要なトレーニングを行う機器、会話を通じて言語トレーニングを行うロボットなどを導入しています。

3 自費リハビリ事業の競争環境

1)自費リハビリ事業のファイブフォース(5つの力)分析

自費リハビリ事業の競争環境について、ビジネスフレームワークの「ファイブフォース分析」に沿って考えていきます。自費リハビリ事業の競争環境は次の通りです。

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2)新規参入の脅威 脅威度:大

厚生労働省へのヒアリングによると、「自費リハビリ事業は介護保険外のサービスとなるので、介護保険法に基づく都道府県の指定・許可は必要なく、施設・設備基準も存在しない」(*)とのことです。

そのため、既存の介護保険事業者や異業種からの参入が相次いでいます。

(*)厚生労働省 老健局(2019年8月22日時点)

3)売り手の脅威 脅威度:中

施設・設備面での参入障壁も低く、理学療法士が1名とベッドが2台程度あれば開業することが可能だといわれます。

ただし、個別のニーズに応えるために、前述したような最新のリハビリ機器を導入する場合は、特定のメーカーの独自技術であることが多いため、売り手の価格決定力が大きくなるでしょう。

また、理学療法士や作業療法士は、近年増加しているものの、介護保険事業所が全国的に増えていることから、現在ではまだ人手不足といわれます。サービスの質は、いかに優秀な理学療法士や作業療法士を確保するかに影響される部分も大きいため、採用の際は、既存の介護保険事業所よりも高い給与や待遇を設定することなどが重要です。

4)代替サービスの脅威 脅威度:小

リハビリテーションを提供するサービスという観点では、既存の介護保険内のリハビリサービスが代替サービスといえるでしょう。

前述の通り、介護保険内のリハビリサービスに満足できない、または、利用することができない人たちが、自費リハビリサービスに流れてきていることから、代替サービスとしての脅威は小さいといえます。

5)買い手の脅威 脅威度:小

自費リハビリ事業の基本的なサービスとして、利用者と個別に面談し、各利用者に合ったプログラムを組むことで、効果を実感させやすいという特色があります。一度、効果を実感するとリピーターになりやすいため、多くの自費リハビリ施設では、無料や安価での体験サービスを実施しています。

また、現状、自費リハビリ施設は都市部に多く、都市の郊外や地方にはニーズに対して施設数が少ないといわれます。そのため、今後、都市の郊外や地方への出店には大きな可能性があるといえます。

6)業界内の競合企業との敵対関係 脅威度:小~中

前述したワイズや、豊田通商の完全子会社である豊通オールライフが運営する「AViC THE PHYSIO STUDIO」(都内で4店舗展開)などが、出店攻勢を強めています。

新規参入が容易なことから、今後も、大規模・小規模問わず出店が増えていくことが予想され、立地やサービス面での差異化が重要になってくるでしょう。

例えば、無料体験を実施してリピーターを確保したり、家族が送迎しやすい日曜日などに営業したり、遠方の利用者のために送迎サービスを行ったりするなどの差異化を図っているケースがあります。

4 【参考】自費リハビリ事業のサービス・価格帯

参考として、AViC THE PHYSIO STUDIOの2019年9月時点での主なサービス内容や価格は次の通りです。

・上肢(麻痺手)集中コース

  • 【内容】脳卒中の中でも、日常生活で非常に困る上肢の麻痺の改善に特化したリハビリコース。利用者それぞれに適した課題を設定し、反復で手・腕をトレーニングする。
  • 【回数】週5回(1回約3時間、3週間)
  • 【価格】45万円~(税別)

・歩行集中コース

  • 【内容】脳卒中の後遺症として代表例の1つである歩行障害の改善に特化したリハビリコース。免荷式トレッドミルやエアロバイクなどの機器を用いて、歩く練習を行う。
  • 【回数】週4回(12週間)
  • 【価格】48万円~(税別)

・整形外科・運動器リハビリプログラム

  • 【内容】整形外科疾患の後遺症による体の痛みや歩きにくさ、動かしにくさといった機能不全に対して集中的にトレーニングを行うプログラム。独自の動画解析システムを利用して、姿勢・歩行・痛み動作の確認をし、北欧最先端機器を利用した「スリングエクササイズセラピー」やインナーマッスルを目覚めさせる体幹トレーニングを行う。
  • 【回数】オーダーメードプラン:週1~3回 回数×12週間
  • 短期集中プラン:週3~5回 回数×2週間
  • 【価格】オーダーメードプラン:12万円~(税別)
  • 短期集中プラン:6万円~(税別)

・訪問リハビリプログラム

  • 【内容】さまざまなリハビリ機器を利用者の自宅に持参し、日常生活をうまく送れるための練習をする。
  • 【価格】1時間当たり1万2000円(税別)

以上(2019年11月)

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画像:pixabay

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