1 ドレッサーについて

ドレッサーは、メイクや髪型を整えるための道具やアクセサリーなどを収納する家具です。鏡、化粧台、椅子、引き出しが備え付けられており、化粧台や鏡台とも呼ばれています(この記事では、ドレッサーで呼称を統一します)。

かつては結婚祝いの家具として重宝されていましたが、現在は住環境のコンパクト化や、クローゼットや他の家具などで収納スペースも充実しており、大型で華美なデザインのドレッサーは一般家庭には置きにくいとされています。

そのため、ドレッサーを製造する企業では、現在の住環境に合うように、省スペースで設置できる、シンプルなデザインで居住スペースに馴染みやすいといった特徴を持つドレッサーを売り出しています(具体的な事例は第5章で紹介します)。

2 木製家具製造業の動向

1)木製家具製造業の事業所数などの推移

ドレッサーを製造する企業は、日本標準産業分類では家具製造業に分類されます。また、木製家具の製造業がドレッサーを手掛けているケースが多いようです。

事業所数などの推移

2023年時点での木製家具製造業は3067事業所、従業者数は4万332人、製造品出荷額等は8393億9000万円となっています。原材料使用額等が増加傾向にあります。理由として、日本では、国内で流通する木材の6割が輸入頼みになっていて、円安や世界的な木材需要の高まりから、価格が高騰しているといったことなどが考えられます。

2)都道府県別のその他の木製家具(漆塗りを除く)出荷金額と産出事業所数

ドレッサーは個別の木製家具として統計上分類されていないため、経済産業省「2024年経済構造実態調査 製造業事業所調査(品目別統計表データ)」のその他の木製家具(漆塗りを除く)を参照します。都道府県別の出荷金額と産出事業所数(2023年実績)は次の通りです。

出荷金額と産出事業所数

  • (産出事業所数の上位5位)埼玉県、静岡県、愛知県、大阪府、福岡県
  • (出荷金額の上位5位)愛知県、大阪府、静岡県、岐阜県、埼玉県

となっています。特に、福岡県大川市や静岡県静岡市、岐阜県高山市は日本有数の木製家具の生産地として知られています。

3)木製家具の輸出入の推移

財務省「貿易統計」によると、木製家具の輸出入の推移は次の通りです。

木製家具の輸出入の推移

貿易統計では、ドレッサーは個別の統計項目として分類されていないものの、寝室用家具の一部として扱われることが多くなります。寝室用家具で見ると、輸出入ともに5年間で増加傾向にあります。

3 木製家具製造業を取り巻く市場環境の分析

1)木製家具製造業を取り巻く外部環境と成長要因

ここではPEST分析を用いて、ドレッサーを含めた木製家具製造業を取り巻く外部環境と成長要因を整理します。

PEST分析

ドレッサーの製造は、原材料となる木材の確保に影響されます。足元では、円安で輸入木材の価格が上がったり、SDGsなどの観点で木材需要が高まったりすることで、原材料の確保が難しくなる可能性があります。また、使用する木材に関しても、国産木材の利用やシックハウス対策などの安全面の基準を満たした材料を選ぶことで、顧客が安心して使える商品作りにつながります。

また、住環境の変化から、多機能化や小スペース化に対しても需要があります。例えば、鏡にディスプレイを内蔵したスマートミラーの開発が進んでいます。インターネットにつなぐことでさまざまな情報を取得できるため、例えば、身支度をしながら天気予報や1日のスケジュールを確認するといった用途が模索されています。

2)ドレッサー製造への参入分析

ドレッサー製造の競争環境を、ビジネスフレームワークの「ファイブフォース分析」で考えてみます。

ファイブフォース分析

ドレッサー製造には、原材料の確保と併せて、既存の収納家具とは一線を画す要素が必要になってきます。装飾によるデザイン性、多機能化での利便性向上や、オプションを用意するなどで、顧客の細かな需要に応えていくことが重要になるでしょう。

また、参考情報として、静岡県内でのドレッサーの需要動向について、静岡県家具工業組合にヒアリングした結果を紹介します。

  • ドレッサーを取り扱う企業が年々少なくなっており、店舗向けのオーダー製品に限らず、一般家庭向けの需要も安定している
  • デザイン性と併せて、鏡の周りに照明を多く取り付けることで、化粧がしやすい鏡(所謂「女優ミラー」)を使ったドレッサーの人気がある
  • ニトリなどの大手家具販売店が取り扱う、海外製で低価格の商品が競合になり得るが、静岡県内では、昔ながらのクラシカルなデザインのものが好まれる傾向にある
  • ドレッサーの代替品として、洗面化粧台が挙げられる。身だしなみを整えたり、必要な道具を収納したりできる点で役目が共通する。一方で、ドレッサーは装飾の華やかさやデザイン性、寝室などの個室に置くことができるという点で優位性がある
■静岡県家具工業組合■
https://www.s-kagu.or.jp/

4 今のドレッサーの特徴は?

昨今では、住環境のコンパクト化などの事情から、次のような特徴を持つドレッサーが各企業より売り出されています。

1)多機能性

一台で複数の役割を担うドレッサーがあります。例えば、折りたたんである鏡を開くことで、全身を映す姿見に変わり、顔回りだけでなく身だしなみもチェックできるドレッサーや、簡易的なデスクやコンセントを備えて、化粧以外の場面でも役立つドレッサーがあります。

2)小スペース化

かつては、ドレッサーはベッドルームに設置することを想定されていましたが、昨今では、細身のデザインであったり、鏡が折りたたみ式になったりすることで、リビングなど、場所を問わず小スペースで設置できるドレッサーがあります。

3)デザイン性

クラシックで装飾的なデザインのドレッサーもある一方で、シンプルなデザインで居住空間に馴染みやすいドレッサーがあります。

4)価格帯

次章で紹介する事例のドレッサーでは、15万円~20万円台半ばが価格帯の中心となっています。

5 ドレッサー製造・販売を手掛ける企業の事例

1)大雪木工(北海道上川郡東川町)

旭川近郊地域のメーカーで作られている家具を総称した「旭川家具」のブランド名で木製家具を製造する企業です。ドレッサーは、「trico ライティングドレッサー」の商品名で販売しており、

A4サイズの書類やノートなどを収納できる棚があり、化粧用だけでなく、ワークスペースとして使える

ことが特徴です。価格は19万5800円(税込)となっています。

■大雪木工■
http://www.taisetsu-mokko.co.jp

2)匠工芸(北海道上川郡東川町)

特注やオリジナル製品として木製家具を製造する企業です。ドレッサーは、「MIRROR DRESSER(ミラードレッサー)」の商品名で販売しており、

全身を映す姿見、メイク道具の収納、小物を置くテーブルと、小スペースで普段の身だしなみに必要な機能がまとまっている

ことが特徴です。価格は15万5100円(税込・オーク材の場合)となっています。

■匠工芸■
https://takumikohgei.com/

3)杉本家具(静岡県静岡市)

家具や木製シンク、仏壇の製造、卸、販売を手掛ける企業です。

ドレッサーは姿見、一面鏡、三面鏡のタイプを販売

しています。価格帯は、おおむね10万円台前半からとなっており、鏡の幅が150センチとなる大型の一面鏡の商品などは、20万円台半ばとなっています。

■杉本家具■
https://sugimotokagu.com/

4)関本家具装芸(静岡県静岡市)

ドレッサーを中心に、古材や特殊塗装を用いたオーダー家具を製造する企業です。一般家庭向け(子ども用など)のドレッサーの他、

ホテル、美容室、モデルルームなど商業空間へのオーダー(特注)ドレッサーの提案

を行っています。

■関本家具装芸■
https://www.sekimoto.co.jp/

5)藤原木工(静岡県静岡市)

ソファーやベッド、ダイニングテーブルなどの木製家具製造を幅広く手掛ける企業です。また、住宅関連業者などに対して、販売会や見学会用の短期家具レンタルも行っています。ドレッサーは「イクシー」や「ソーホー」などのブランド名で、20万円台前半~20万円台半ばの価格帯で売り出しています。

鏡に浮き出しミラーやバックライト付ミラーを採用し、ベッドルームを綺麗に見せる

ことが特徴です。また、コンセントやキャスター付ワゴンを備えたドレッサーもあります。

■藤原木工■
https://www.f-fujiwara.co.jp/

6)松永工房(静岡県静岡市)

鏡台やチェスト、ベッドなどのトータル家具の製造販売を手掛ける企業です。

欧風調の家具作りを特徴

としており、ドレッサーは「MASTER PIECE(マスターピース)」のブランド名で20万円台半ばの価格帯で売り出しているものと、「CONTINUE(カンティーニュ)」のブランド名で20万円台半ば~50万円台後半の価格帯で売り出しているものがあります。

MASTER PIECEの場合、直線的なデザインの三面鏡で、天板が折りたたみ式となっており、天板を下ろすと全身が映る姿見に変わり、身だしなみをチェックできるドレッサーなどがあります。CONTINUEの場合、重厚感のあるデザインがありつつも、小スペースで置き場所を選ばない、大容量の収納スペースを備えているドレッサーなどがあります。

■松永工房■
https://www.m-kobo.jp/index.html

7)丸藤(静岡県静岡市)

ドレッサー専門店の「MIRROR MUSEUM」を運営し、50年以上製造販売を手掛けている企業です。ドレッサーは、一面鏡のタイプでは8万円台後半~10万円台後半の価格帯で、三面鏡のタイプでは10万円台半ば~30万円台前半の価格帯で販売しています。顧客からの注文を受けてから、塗装などを行い、商品を完成させるセミオーダー方式のため、

ガラスが破損した際の飛散防止加工や、塗装の色合わせ、引き出し底面の布張り加工など、多彩なオプションを取り揃えている

ことが特徴です。

■MIRROR MUSEUM■
https://mirror-museum.com/

8)浜本工芸(広島県広島市)

学習デスクや椅子、キャビネットなどの木製家具を製造する企業です。ドレッサーは「No.8000ドレッサー」などの商品名で売り出しています。No.8000ドレッサーは、

フランスで創業352年の歴史がある、フランスの「王立会社サンゴバン社」の鏡を採用

しており、LEDを埋め込んだ三面鏡やドライヤーも入る大容量の収納など、女性が使いやすいことを想定したデザインが特徴です。価格は23万7600円(税込)となっています。

■浜本工芸■
https://www.hamamotokougei.co.jp/

9)角元産業(徳島県徳島市)

ブライダルを中心とした鏡台製造の一貫メーカーとしてドレッサーの製造販売を手掛ける企業です。鏡部、引手に宝石が入るモデルなど、装飾性や高級感を重視したドレッサーがあります。価格帯は30万円台前半~100万円台となっています。

■角元産業■
http://www2.gol.com/users/kayoco/

10)高野木工(福岡県筑後市)

タンスの製造から家具製造を始め、現在は「TAKANO MOKKOU」のブランド名で家具の製造販売を手掛ける企業です。

シックハウス対策として、F☆☆☆☆(エフフォースター)の材料を家具に使用している

ことが特徴です。F☆☆☆☆の材料は、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドの発散量が最も低く、ユーザーが安心して家具を使うことができます。ドレッサーは一面鏡のタイプがあり、10万円台前半の価格帯で販売しています。

■高野木工■
https://takanomokkou.co.jp/

以上(2025年11月作成)

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