人工関節とは、変形性関節症・関節リウマチなどの疾病や、けがなどで機能が損なわれたりした人や、激しい痛みが生じるようになった人の関節を置き換えるために使用される医療機器です。高齢化や関節リウマチなどの患者数の増加により、注目が集まっています。
この記事では、人工関節の概要と市場動向、メーカーの取り組みなどを解説します。異業種からの参入事例も紹介しているので、新規参入のヒントとしてご活用ください。

1 人工関節の概要

1)人工関節とは

人工関節とは、変形性関節症・関節リウマチなどの疾病や、けがなどで機能が損なわれたりした人や、激しい痛みが生じるようになった人の関節を置き換えるために使用される医療機器です。次のような素材が人工関節の部品になります。

  • コバルトクロムやチタンなどの金属合金
  • アルミナやジルコニアなどのセラミック
  • ポリエチレン

骨に埋め込む部分(ステム)は金属合金を使い、骨と骨を接続する箇所(関節)には、金属合金を使ったちょうつがいに似た部材や、継ぎ手部分にポリエチレンやセラミックと金属を組み合わせた部材を使い、関節の滑らかな動きを再現しています。
主な人工関節としては、股関節、膝関節、肩関節、肘関節、手指関節、足関節が挙げられます。

2)人工関節置換術とは

人工関節置換術とは、関節そのものを外科手術によって抜本的に治療する方法です。施術内容には、皮膚の切開、骨の切除・切削、関節の除去などが含まれます。
かつての人工関節置換術は、人工関節の耐用年数が10年~20年程度とされていたこともあって、他の手法では回復が見込みにくく、かつ人工関節の耐用年数の影響を受けにくい高齢者に対して行われるのが一般的でした。
しかし、現代では人工関節の素材の進歩などによって耐用年数が伸び、より若い年齢の患者に対しても人工関節置換術が行われるケースが増えています。例えば、スポーツによる関節の故障を、人工関節置換術によって補うといった具合です。

3)中小企業が人工関節にどう関わることができるか

中小企業が人工関節に関わるには、次のような方法が考えられます。

  • 人工関節の材料を提供する形で関わる
  • 人工関節メーカーとして関わる
  • 人工関節の輸出入に関わる

必ずしも、人工関節の専業メーカーになる必要はなく、自社の技術や資源を活用できる方法で参入を検討することができます。異業種でも、元々は自動車部品やゴルフ製品の製造を請け負っていた会社が、新たに膝用の人工関節事業に参入した事例などがあります。後述の「人工関節メーカーの動向」で詳しい企業事例も紹介しますので、自社が参入する姿をイメージしてみてください。

2 人工関節の市場

1)高齢化の進展

人工関節置換術の適応対象となりやすいのは、一般的に、関節リウマチや変形性関節症の症状が深刻で、ほかの治療法では回復が見込みにくい患者です。年齢でいうと、65歳以上の高齢者が主な対象です。そのため、市場動向を考える際は、高齢者の人口推移に注意を払う必要があります。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、年齢別の将来推計人口は次の通りです。

年齢別の将来推計人口の画像です

2045年まで65歳以上の高齢者人口は増加傾向が続くものと推計されており、それだけ人工関節置換術の適応対象となる患者数も増加するものとみられます。

2)人工関節置換術の適応対象となる疾病の動向

厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、人工関節置換術の適応対象となりうる関節リウマチ、関節症の総傷病数の推移は次の通りです。なお、個別症状の総傷病数は、3年に一度の大規模調査でのみ調査が行われています。
65歳以上の高齢者に注目してみると、高齢化に伴って関節リウマチ、関節症とも一貫して通院患者数が伸びており、人工関節置換術の潜在的ニーズも増大しているものとみられます。

国民生活基礎調査の画像です

3)人工関節の生産・輸入・販売動向

厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」によると、人工股関節、人工膝関節、人工肩関節、人工肘関節の生産・輸入・出荷の推移は次の通りです。

生産・輸入・出荷の推移の画像です

市場として一番大きいのが人工股関節で、ついで人工膝関節、人工肩関節、人工肘関節と続きます。
人工股関節の市場が一番大きい理由として、股関節が次に挙げるような特徴を持っており、人工関節置換術のニーズが高いことが挙げられます。

また、2番目に市場が大きいのは人工膝関節ですが、こちらについても機能の低下や痛みの発生によって生活に支障が出る、変形関節症になりやすい、といった特徴があります。
 市場全体をみると、輸入製品が市場の多くを占めており、外資系メーカーが市場で優位に立っているものと考えてよいでしょう。

4)輸出入の動向

財務省「貿易統計」によると、人造関節(人工関節)の輸出入の推移は次の通りです。

輸出入の推移の画像です

財務省「貿易統計」によると、人工関節の主な輸入元(2022年)は次の通りです。

輸入元の画像です

金額ベースでみると、主要な人工関節メーカーが集中している米国からの輸入金額が全体の37.8%を占めています。また、2位のアイルランドからの輸入金額が多いのは、人工関節の大手メーカーであるジョンソン・エンド・ジョンソングループやストライカーグループなどの生産拠点が同国に立地しているためとみられます。
また、人工関節の主な輸出先(2022年)は次の通りです。

輸出先の画像です

3 人工関節メーカーの動向

1)市場拡大に向けた取り組み

人工関節置換術は徐々に関心が高まっていますが、日本での認知度は、欧米に比べるとまだまだ低い状況です。そのため、多くの会社では人工関節置換術の普及を進めるため、一般顧客(患者)向けに人工関節や人工関節置換術に関する情報提供を行っています。具体的には、自社ウェブサイト上で一般顧客向けの情報提供を充実させたり、人工関節に関するセミナーを開催したりしています。
例えば、帝人ナカシマメディカル(岡山県岡山市)では、読売・日本テレビ文化センターが主催している市民講座に協賛する形で患者向けの情報提供活動を強化しています。こうした市民講座は、全国各地で行われており、それぞれの地域で活躍する整形外科医や人工関節専門医が、関節痛に関する知識の提供や、人工関節・人工関節置換術の紹介などを行っています。

2)長寿命化への取り組み

かつて10年~20年程度といわれた人工関節の耐用年数は、前述した通り素材や性能の進化によって伸びてきていますが、まだ一生使い続けるには十分とまではいえません。学会や各メーカーでは、人工関節の耐用年数を伸ばすための取り組みを進めています。

1.学会の取り組み
日本人工関節学会では、主要な人工関節置換術の実施機関の協力を得て、手掛けている置換術に関する追跡調査を行っています。具体的には、「日本人工関節登録制度(略称:JAR(Japan Arthroplasty Register))」を学会が運営し、人工関節置換術の症例を実施機関に登録してもらうというものです。追跡調査の結果がフィードバックされることで、品質の向上や施術の最適化による長寿命化が期待できます。

■日本人工関節学会■
https://jsra.info/

2.メーカーの取り組み
人工関節の耐用年数は、骨と骨をつなぐ関節部分の摩耗、さらにはそれに伴うゆるみの発生度合いなどに左右される傾向があります。大手メーカーでは、摩耗を抑えるため、採用素材の見直しなどを進めています。例えば、京セラ(京都府京都市)では摩擦粉を減らしたり、生体への反応を抑えたりするために、「MPCポリマー」を用いた人工股関節の「Aquala(アクアラ)」を開発し、摩耗を未処理の場合の10分の1まで抑えることで、長寿命化を図っています。

3)知識・技術獲得に向けた取り組み

人工関節の開発は、整形外科をはじめとする医学だけでなく、金属やセラミックなどの材料工学など、複数分野の知識や技術が求められます。そのため、人工関節メーカー、特に外資系に比べて知識・技術の集積度合いが低い国内系メーカーでは、知識・技術獲得に向けた施策を講じています。

1.産学連携
知識・技術の獲得に向けて一般的に行われているのは、大学や研究機関との産学連携です。具体的には、人工関節に関する共同研究を行う、大学に人工関節に関する寄付講座(運営資金を会社が寄付する形の講座)を設けてもらうなどが挙げられます。例えば、京セラでは、東京大学との産学連携を通じて、新材料・新技術の研究開発を行っています。前述した人工股関節のAqualaは、この産学連携によって生まれた製品です。

2.関連会社の技術活用
親会社や母体会社の技術を活用して、知識・技術の獲得を進めているケースもみられます。例えば、帝人ナカシマメディカルは、母体である船舶用部品メーカーのナカシマプロペラ(岡山県岡山市)の精密加工技術を活かした製品づくりを進めています。

3.ロボット技術の販売・活用
人工関節の手術における正確性向上を目的として、民間の会社や病院でロボット技術の販売・活用が進められています。例えば、京セラは韓国のCUREXO(キュレクソ)社と整形外科手術用ロボットの日本国内の独占販売契約を結びました。人工関節事業に強みを持っている京セラは、ロボットの販売で人工関節置換術分野の事業拡大を狙っています。
また、金沢大学附属病院整形外科は2021年6月、米国製の手術支援ロボット「ROSA Knee(ロザ・ニー)システム」を導入しました。同ロボットは変形性膝関節症や変形性股関節症の手術に活用されています。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年8月7日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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