「廃棄食材」は、飲食業界にとって大きな問題です。農林水産省の調査によると、まだ食べられる食品が廃棄されてしまう「食品ロス」は、日本で年間523万トンも発生しています(2021年度の統計)。単に「もったいない」というだけの問題にとどまらず、地球環境にも悪影響を与えるため、SDGsの「12 つくる責任 つかう責任」の観点からも世界的に注目されています。
上の食品ロス523万トンのうち279万トンは、食品関連事業者が出す売れ残りや食べ残し、規格外品といいますから、廃棄食材の扱いに悩んでいる飲食店の経営者は多いでしょう。そこで紹介したいのが、近年食品ロスの対策として注目されている「アップサイクル」です。

アップサイクルとは、廃棄予定のものに新たな価値を加えて世に送り出すこと

です(例:カレー屋で残った炊飯米を利用してクラフトビールを製造・販売する)。
うまく廃棄食材をアップサイクルできれば、食品ロスを減らすだけでなく、新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。とはいえ、いきなりアップサイクルと言われても「具体的に何をすればいいのか分からない、何だか難しそう」という方も多いでしょう。
そこでこの記事では、そんな飲食店の経営者の助けになるよう、アップサイクルの流れのイメージや、実際に食品ロス削減に取り組む企業の事例10選を紹介します。

1 アップサイクルの流れのイメージ

一口にアップサイクルといっても、その方法はさまざまです。ここでは2つのタイプに分けて、アップサイクルの流れと関係者を紹介します。イメージが伝わりやすいよう、図を交えて紹介しますので、自社に合った方法を探してください。

1)自社で出た廃棄食材をアップサイクルする

自社で出た廃棄食材をアップサイクルする場合、自社で直接加工して消費者に販売するケース、他社に加工を依頼して加工後の商品を販売するケースなどがあります。具体的な事例は後述しますが、流れのイメージは図表1の通りです。

自社で出た廃棄食材をアップサイクルする場合の画像です

消費者への販売方法もさまざまです。食品へアップサイクルするのであれば、来店する顧客への提供が考えられます。ほかにも、オンラインショップなどでの販売も検討してみてもいいかもしれません。実際に、アップサイクル商品であることを売りにオンラインショップなどで人気を集めている事例も多くあります。

2)他社から廃棄食材を仕入れてアップサイクルする

自社ではほとんど廃棄食材が出ない代わりに、他社で出た廃棄食材を自社で加工して販売・提供するケースもあります。例えば、農家が規格外や傷があるために廃棄するフルーツなどを仕入れて加工し、販売するといった具合です。流れのイメージは図表2の通りです。

他社から廃棄食材を仕入れてアップサイクルする場合の画像です

なお、図表2は、自社が他社(仕入れ先)から廃棄食材を仕入れて加工・販売するケースですが、自社が仕入れ先の立場であれば、すでにアップサイクルに取り組んでいる会社に依頼し、廃棄食材を引き取ってもらうことで食品ロスを減らすという対応も考えられます。

2 中小企業でもできる食品ロス削減の事例10選

実際に、中小企業でもできる食品ロス削減に向けたアップサイクルの事例を10個見ていきましょう。なお、図表3は以降で紹介する事例を

  • 自社の廃棄食材をアップサイクルするor 仕入れた廃棄食材をアップサイクルする
  • 食品にアップサイクルする or 食品以外にアップサイクルする

の2軸で区分けしたものです。

ポジショニングマップの画像です

1)マルセリーノ・モリ(東京都台東区)

マルセリーノ・モリは、サンドイッチ専門店です。同店では、毎日のサンドイッチ製造で出る使い道のないパン耳を乾燥加工して「クラフトビール」にアップサイクルしています。同店はパン耳をアサヒグループのクラフトビール醸造所に提供して、加工・製造しています。製造したクラフトビールの「蔵前WHITE」は、実店舗やアサヒグループのオンラインショップなどで販売しています。パン耳由来の香ばしさと小麦由来のフルーティーな香りが特徴です。

2)鎌屋(広島県広島市)

鎌屋は、たこ焼き店舗の「大釜屋」を経営しています。「大釜屋」では、硬いくちばしの殻があるために処分していた「たこの口」を燻製にし、お酒のおつまみ「タコリップ」にアップサイクルしています。「たこ焼きで使うたこを余すことなく使い切れないか」というアイデアが、アップサイクル商品の製造につながったそうです。

3)ジパングフードリレーションズ(大阪府大阪市)

ジパングフードリレーションズは、和風カレーなどを提供する「Zipangu curry café(ジパングカリーカフェ)」を経営しています。同社では、まだ食べられるのに捨ててしまう炊飯された廃棄米を「箔米ビール」にアップサイクルしています。製造に当たっては、フードテック企業のCRUST JAPANの技術提供協力を得ています。米から製造されているため「和の食材に合うビール」として注目されています。

4)ここちクリエイト(東京島足立区)

ここちクリエイトは、フルーツ1個を丸絞りしたサワーが人気の居酒屋「CAJYULABO」を経営しています。同店では、サワーに使用した後に廃棄するレモンの皮を「レモンジン」にアップサイクルしています。同商品は、同じく東京都足立区に本社がある国産クラフトジンの製造会社「Ginpsy」と協業して制作しています。

5)ONIBUS(東京都目黒区)

ONIBUSは、東京都内でコーヒーショップの「ONIBUS COFFEE」を経営しています。 同社では、コーヒーカスを培養土「COFFEE SOIL」にアップサイクルしています。同商品は、実店舗やオンラインショップで販売しており、またパッケージには、不要になったコーヒー豆の袋を再利用しています。

6)大賀酒造(福岡県筑紫野市)

大賀酒造は、日本酒や梅酒の製造などを行う酒造メーカーです。同社では、梅酒を製造した際に出る廃棄梅を「キャンドル」へとアップサイクルしています。アップサイクルに当たっては、九州発のキャンドルブランドである「コーシェリジャパン」と協業しており、製造したキャンドルは、福岡県太宰府市のふるさと納税の返礼品にも採用されています。

7)MUGEN(東京都目黒区)

MUGENは、炭火焼濃厚中華そば「海富道(しーふーどう)」を経営しています。海富道では、形が不揃いなどのさまざまな理由で廃棄予定だった魚を仕入れて、丸ごと「ラーメンのスープ」にアップサイクルしています。他社から廃棄食材を仕入れてきて、自社で加工(アップサイクル)した事例です。

8)日本丸天醤油(兵庫県たつの市)

日本丸天醤油は、粉末調味料や醬油、つゆ、ポン酢などを製造しています。日本丸天醬油は、不揃いや傷が原因で商品にできないフルーツなどを農家から仕入れてきて、ジェラートの「YASASHIKU Gelato」にアップサイクルしています。自社で醤油を製造する際に生まれる甘酒を使うことで、さっぱりとしたしつこくない甘さを実現したジェラートです。「YASASHIKU Gelato」は、公式オンラインショップで販売しています。

9)根津(東京都立川市)

根津は、パイ専門店の「Adam’s awesome PIE」を経営しています。根津は、サイズが大きいことや傷があることを理由に廃棄されるサツマイモを仕入れて、「スイートポテトパイ」にアップサイクルしています。パイは5層構造となっていて、パイの香ばしい香りとサツマイモの濃厚さが特徴です。

10)アップサイクルジャパン(神奈川県茅ケ崎市)

アップサイクルジャパンは、近隣の農家から仕入れた規格外の野菜や余剰野菜を調理して提供する「もったいない食堂」を経営しています。また、店舗で使用する容器は、全て自然に還る生分解が可能な容器を使用しています。

以上

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