書いてあること

  • 主な読者:従来のキャンプ場との差異化を検討する経営者
  • 課題:グランピングの動向、事例、留意点などを把握したい
  • 解決策:さまざまなタイプのグランピング施設を参考に、他社には無いサービスを提供する

1 10年に1度のビッグトレンド

大自然の中で、食事や宿泊を楽しむ。こうした自然に親しむという従来のキャンプの良さを残す一方で、豪華なインテリアに囲まれ、ホテル並みのサービスを受けられる「グランピング」が注目されています。

グランピングは、キャンプに興味はあるが未経験の層や、キャンプにそれほど関心がなかった層を取り込み成長しています。国内外の観光・レジャー業界では、「10年に1度のビッグトレンド」ともいわれています。

国や自治体もこれに注目し、地方創生の観点からグランピング事業を手掛けるDMO(地域と協同して観光地域作りを行う法人)のプロジェクトや事業者に対して補助金を交付するなどしており、ビジネスの裾野が広がっています。

2 グランピングの関連データ

グランピングという言葉は、グラマラス(Glamorous、魅惑的な)とキャンピング(Camping)を組み合わせた造語です。「テント設営や食事の準備などの煩わしさから旅行者を解放した『良い所取りの自然体験』」と定義されています(日本グランピング協会)。

グランピングの市場規模などに関する統計はありません。しかし、日本オートキャンプ協会「オートキャンプ白書2017」で示されている「オートキャンプの参加人口」の中には、グランピング施設の宿泊者も含まれているので参考になります。

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オートキャンプの参加人口が増加している背景には、30~40代のいわゆる「団塊ジュニア世代」の参加の他、グランピングやアウトドア要素を取り入れたインテリアなどの普及などがあるようです。

オートキャンプ白書では、グランピングへの興味についても調査しています。年齢が若く(20代が35.0%、30代が30.6%)、キャンプの経験年数が浅い対象者(1年の対象者が36.2%、2~3年が28.6%)ほど、関心が高くなっています。

3 グランピングのポジショニング

1)キャンパーの裾野を広げるグランピング

オートキャンプの参加人口は2016年では830万人にすぎず(オートキャンプ白書)、顧客層の拡大が業界の課題です。キャンプは自然に触れることが醍醐味です。一方、準備の煩わしさなどが参加の妨げになっているため、この問題を解消しなければなりません。

例えば、キャンプ用品などを手掛けるスノピークでは、「自宅とテントを行き来する」をコンセプトに、普段着としても違和感のないアウトドアに対応した衣料品の販売や、インテリアや料理にキャンプの要素を取り入れたレストランの運営などをしています。

これと同じ感覚で、グランピングは非キャンパーがキャンプに関心を持つきっかけとなり得ます。従来のキャンプ市場と成長余地を取り込もうとするグランピング市場の関係をポジションマップにまとめると、次のようになります。

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豪華な設備や充実したサービスが提供されることから、グランピングの利用料金は高額です。ただし、細かく見ていくと提供可能なアクティビティ、設備の充実度などで、主にターゲットとする顧客に違いも見られます。

ハイエンド志向タイプのグランピング施設にヒアリングしたところ、中心顧客は30~40代のカップルで、夏休みなどは家族連れも来るとのことです。同様に、雰囲気体験タイプの中心顧客は20代のカップルで、グループ利用も多いとのことです。

2)ハイエンド志向タイプ

広い敷地にテントやコテージが余裕を持って配置され、ぜいたくなプライベート空間が味わえます。インテリアやアメニティーなども著名ブランドで統一し、ハイキングや乗馬などのアクティビティも充実しています。施設例は「星のや富士」などです。

3)雰囲気体験タイプ

野外に設営されたテントなどで宿泊し、グランピング気分を味わえると同時に、入浴や食事などは既存の宿泊施設を利用します。施設例は「一里野高原ホテルろあん」などです。

4)レジャー充実タイプ

日帰り温泉、ゴルフ場、観光農園などのレジャー施設に併設・隣接されており、「お父さんはゴルフ、子どもたちは野山の散策」など、趣向の異なるさまざまなレジャーを楽しむことができます。施設例は「ネスタリゾート神戸」などです。

5)キャンプ場の手軽な多角化タイプ

既存のキャンプ場で、豪華な料理を食べたり、グランピング用のテントやコテージなどに宿泊したりするグランピングプランを楽しむことができます。施設例は「しのつ公園キャンプ場」などです。

6)ポジション未確定タイプ

宿泊施設は付随せず、都市部のビルの屋上や既存の結婚式場などの場所で、グランピングテイストの空間や食事を楽しむことができます。グランピング用のテントで食事ができる飲食店、グランピングウェディングなどがあります。施設例は「WILD MAGIC -The Rainbow Farm」などです。

4 広がる? ビジネスチャンス

グランピングにビジネスチャンスを見いだし、さまざまな事業者がグランピング施設の運営や関連事業に参入しています。実際に関連事業者はどう考えているのでしょうか。グランピング用のドームメーカーにヒアリングした結果は次の通りです。

  • 全国に先駆けてグランピング施設を開業した事業者は、海外で広まりつつあった豪華なイメージを打ち出すグランピングに目をつけた。これらの事業者は海外の最新のトレンドへの感度が高い、一部の富裕層を初期のメインターゲットとした
  • グランピング施設の顧客は、レジャーの選択肢として従来はキャンプを検討していなかった層が中心。ウェブサイトでグランピング施設の魅力的な内外装やたき火のイメージに引かれたことに加え、煩わしい準備がないことを評価している

同様に、グランピング用のトレーラーハウスなどを販売するメーカーへのヒアリングによると、「施設の設備などによって異なるものの、グランピング施設はホテルの建設などに比べて初期投資が少なく、地域の中小企業も参入しやすい」とのことです。

特にキャンプ関連事業者にとって、グランピング市場への参入障壁は低そうです。しかし、図表2の右側のポジションマップで示した「ポジション未確定タイプ」のように、特徴を打ち出し切れない施設も少なくないようで、今後の苦戦が懸念されます。

5 地方創生×グランピング

グランピングは地方創生の観点からも注目されています。欧米を中心に世界的にグランピングに関心を集めていることもあり、複数の自治体やDMOなどがインバウンドを含めた観光客を呼び込むために、グランピング事業に食指を動かしています。

例えば、国土交通省では、国立公園の有効活用を目的に、常設ではなく、全国各地を巡るアウトドアホテル(グランピング)を運営する企業と提携し、国立公園内でのグランピングをスタートさせようとしています。

また、岡山県赤磐(あかいわ)市は国の「地方創生拠点整備交付金」を使って、市営オートキャンプ場内にグランピング区画を整備しました。この他、土地の貸し出しなど通じて、グランピング事業を手掛ける事業者を支援しているケースも見られます。

グランピングは、土地整備、施設建設、施設運営(飲食、清掃など)など、関連事業者の裾野が広いことも特徴です。そのため、地域の関連事業者への経済効果なども期待されています。

6 開業に際しての留意点

1)運営に掛かる費用

グランピング施設の紹介や、参入を検討する事業者へのコンサルティングなどを行っているGLAMPING JAPANへのヒアリングによると、「新たにグランピング施設を開業する場合、レセプションを備え、テント3張り、ホワイトドーム(ドーム型テント)2基、コテージ5軒などを導入したケースを例にすると、水回りの整備や調度品の購入費なども含めて2億円程度は必要」とのことです。

このうち、約60%が土地の購入費や施設施工費、機材の購入費に割り当てられ、約20%がウェブサイトやプロモーション、それらの媒体に掲載するモデルやカメラマンへの支払いなどとなっています。この他、約10%が食材の購入費やメニュー考案のためのフードコーディネーターへの支払い、残る約10%がスタッフの育成費用です。

費用の中でも、広告費は重要です。顧客はイメージ画像に引きつけられる傾向があるため、モデルやプロのカメラマンを起用して、実際に訪れてみたいと思わせる画像を用意することが、プロモーションの重要なポイントとなります。

また、特に若い世代をターゲットとする場合、いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれるインスタグラマーやYouTuberを活用し、SNSを通じて情報を拡散することも有効な方法となるようです。

2)稼働率を高める2つの取り組み

前述したGLAMPING JAPANによると、「グランピング施設の運営において、同一の敷地内でドーム型テントやキャビンなどの複数の宿泊設備を提供すること、付随するアクティビティを全て宿泊料金に含めた体系で提供することが重要」とのことです。

これにより、宿泊客を飽きさせず、明瞭会計で安心感を与えることもできます。例えば、スキー場を運営している奥伊吹観光は、夏場の収益源として、グランピング施設である「GLAMP ELEMENT」を運営しています。

同施設では、テントや高床式のキャビン、日本初上陸といわれる雨粒型のレインドロップテントなどを設置しています。宿泊料金には、朝食・夕食代だけではなく、バーでの飲食代も含まれています。2017年のオープン以降、非常に高い稼働率を誇っているそうです。

以上(2018年8月)

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画像:photo-ac

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