ビットコインなどの仮想通貨に使われている技術である「ブロックチェーン」。金融サービスにITを取り入れたフィンテック(FinTech)の普及に伴い、メディアなどでも取り上げられる機会が増えてきました。しかし、ブロックチェーンがこれほどまでに注目されている理由や、仮想通貨以外のユースケースについては知らない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、ブロックチェーンの概要などを解説した上で、国内外におけるブロックチェーン関連の取り組みについて紹介します。ブロックチェーンとは何かについてだけでなく、さまざまな分野におけるブロックチェーンのユースケースを知ることで、より身近なものとして、その可能性に触れていただければと思います。

1 透明性・堅ろう性・耐改ざん性を兼ね備えるブロックチェーン

ブロックチェーンは、もともとは仮想通貨ビットコインの中核技術として発明されました。ビットコインは暗号学者が情報交換をする米国のメーリングリストにおいて、2008年11月にサトシナカモトと名乗る人物によって投稿された「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」と題する論文で発表されました。

ブロックチェーンとは、簡単に言えば「情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続して、取引記録を暗号技術を用いて分散的に処理・記録するデータベースの一種」とされています(総務省「情報通信白書平成30年版」)。

従来型の情報一元管理とブロックチェーンによる分散管理のイメージを示した画像です

ブロックチェーンでは、ネットワークに接続している複数のノード(端末)に同じ取引情報が記録されます。また、従来のサーバークライアント方式のように、サーバー側で取引情報を集約して管理する場合、そこが障害時の弱点(単一障害点)となり得ますが、ブロックチェーンであれば、複数のノードに障害が発生してもシステムを維持することができます。

実際に、取引情報が記録される際には、ある特定のノードが一定時間の間に処理された取引情報をブロックとしてまとめます。ブロックは圧縮されたファイルのようなものであり、ブロックとしてまとめられた取引情報は、その他の複数のノードによってその妥当性が承認されます。

さらにブロックには、ブロックが生成された時系列を表すタイムスタンプや、直前に生成されたブロック固有の不可逆な乱数であるハッシュが収納されています。そのため、過去に遡って誤った、あるいは悪意のある取引情報の入ったブロックとして記録しようとしても、ブロックに収納された前ブロックのハッシュやタイムスタンプが矛盾してしまい、妥当なブロックとして承認されません。データの改ざんが限りなく不可能であるといわれています。

ブロックチェーンの概念図を示した画像です

2 ブロックチェーンが活用されている分野

改ざんが難しく、透明性や堅ろう性を併せ持つブロックチェーンは、先述したビットコインのようなデジタル通貨をはじめとした、あらゆる資産のデジタル化の実現に寄与することが期待されています。決済、送金において電子マネーやポイントプログラム、SWIFT(スウィフト)などのソリューションが存在していますが、これらは基本的には各組織内のデータベースで管理されているものであり、複数の組織をまたいでデータを移転することができない、あるいは費用や時間がかかっていました。

しかし、ブロックチェーンでは、複数の参加者が共通のデータベースにアクセスすることができるため、組織あるいは国家をまたいだ安全でシームレスなデータ移転が可能になります。

また、ブロックチェーン上に契約データを記録し、自動的に実行することのできるスマートコントラクトの分野も注目を集めています。書面の代わりに、契約データをブロックチェーン上に記録すれば、その内容は決して改ざんされることなく、契約に関わる人物は皆が同じ契約データにアクセスすることができるようになります。さらに、現在は研究中の技術ですが、イーサリアムと呼ばれるブロックチェーン上でプログラミングのできるプラットフォームが確立すると、一定の条件を満たした場合に、あるアクションが自動的に実行されるような仕組みが実現します。

これにより、例えば家電の利用データについて、IoTと連携することで、自動的に家電メーカーに販売したり、各家庭がどれだけ節電に貢献しているかの情報を入手したりすることが可能になります。

現在、ブロックチェーンは次のような分野で活用が広がっています。

ブロックチェーンのユースケースとサービス事例を示した画像です

3 急拡大が予測されるブロックチェーン市場

あらゆる領域での応用が期待されるブロックチェーンへの投資は、今後数年で急成長すると予測されています。IDC Japanは世界のブロックチェーン関連支出額について、クロスボーダー決済、来歴管理、貿易金融/ポストトレード決済などの分野を中心に、2018年の15億USドルから2022年には117億USドルへ、また国内支出についても2018年の49億円から2022年に545億円へと急速に拡大するという予測を発表しています。

ブロックチェーン市場 支出額予測(主要地域別)を示した画像です

国内ブロックチェーン市場の支出予想額を示した画像です

それでは、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。国内外の事例を幾つかご紹介します。

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4 海外の事例

1)トレーサビリティ

インドネシアの繊維大手アジアパシフィックレーヨン(APR)は2019年5月に、シンガポールのブロックチェーン開発企業パーリンと共同で、同社製品の来歴追跡ができるブロックチェーンを基盤としたモバイルアプリのローンチを発表しました。

APRは、アジアで初めて再生可能な原料でビスコースレーヨンを製造する、完全統合型ビスコースレーヨンメーカーです。APRは自社のサスティナブルなサプライチェーンを証明するために、パーリンが開発するブロックチェーンソリューション“Perlin Clarify”を利用しアプリを開発しました。これによりAPRの顧客は植栽から出荷までの主な生産工程を監視することができます。

実際のアプリ画面を示した画像です

2)投票

2018年11月に米国ウエストバージニア州で行われた中間選挙で、投票者の投票内容をブロックチェーンサーバーに保管するという実験的な取り組みが行われました。この取り組みは、ウエストバージニア州で選挙権を有し、海外に駐留する軍人を対象にAndroidまたはAppleのスマートフォンアプリによる投票を許可し、投票結果をブロックチェーンサーバーのネットワークに保管する、というものです。

遠隔地に駐在する軍関係者にとって、安全な投票用紙を受け取り、それを郵送または電子的手段で期限内に返送するのは非常に困難であるなどの理由から、投票率は低迷していました。この取り組みはその状況を改善するために行われ、30カ国144人の軍関係者がスマホアプリを通じて投票を行いました。

5 国内の事例

1)アートワークの所有・売買

アニメやマンガ、ゲームなどのアートワークを所有・売買できるブロックチェーンサービスAnique(アニーク)は、2019年5月にアニメ「進撃の巨人」のアートワーク計26点のデジタル所有権の販売を発表しました。

デジタル所有権の保有者は、オーナーとしてブロックチェーン上に所有履歴が記録されます。絵画などと異なり、デジタル作品は実物を所有することはできませんが、オーナーにはIDが付与されることによりデジタル作品の所有を実現できます。

また、アートワークはデジタル資産として、プラットフォーム上で世界中の人と売買することができますが、その売買金額の一部は制作者に還元されるため、新たな作品が生まれ続けるエコノミーに成長していく可能性があります。

「進撃の巨人」アートワークのデジタル所有権証明書の画像です

2)電力取引

中国電力は2019年4月に、再生可能エネルギーで発電された電気を顧客間で融通するブロックチェーンを活用したシステムの実証実験を、日本IBMと共同で開始すると発表しました。再生可能エネルギーなどの分散型電源や蓄電池の普及拡大に伴い、将来的に個人や企業間で電力取引が行われる可能性があることから、取引記録の信頼性、システムの可用性等に優れるブロックチェーン技術を活用したP2P(Peer-to-Peer。顧客同士がやり取りする)取引の実験を行う予定です。

実証実験では電力を供給する顧客と購入を希望する顧客をマッチングし、模擬的な電力取引が行われる予定です。

ブロックチェーン技術を活用した電力融通システムの実証概要を示した画像です

6 ブロックチェーンの今後

ブロックチェーンは、ここ数年多くの実験や取り組みが行われ、ようやく幾つかの実用例、プロダクトが世の中に出てきました。その一方で、各国の規制や技術面での本質的な課題が残されており、根幹技術の研究開発も継続されている状況です。技術やコミュニティーが規制を変え、また規制が変わることによってブロックチェーンの活用分野が発展するという、まさに過渡期であるともいえます。今後ますますブロックチェーンによるイノベーションが期待されます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年7月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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