書いてあること
- 主な読者:男性向け化粧品の製造・販売を検討する経営者
- 課題:市場規模が分からない、具体的なターゲット層を絞り切れない
- 解決策:市場の動向を把握し、既存商品やサービスを参考にする
1 業務用男性向け化粧品とは
業務用男性向け化粧品には、シャンプーやトリートメント、スタイリングなどのヘアケア用品、洗顔料、化粧水、美容液、乳液といった基礎化粧品などがあります。その他、男性がメイクすることを想定した専用のファンデーションやコンシーラーなどもあります。
ドラッグストアなどで市販されている男性向け化粧品がある一方、業務用男性向け化粧品は市販品では得られない高い効果を見込めるなど、原材料や配合成分にこだわるなどして特徴を打ち出したものが多く登場しています。
2 男性の美容に対する意識
1)男性の美容関連サロン・施設の利用状況
リクルートライフスタイル「美容センサス 2017年下期」によると、男性の美容関連サロン・施設の利用状況は次の通りです。
「美容室・美容院・ヘアサロン」と「理容室(理容院)」以外の過去1年間に利用した割合は必ずしも高くありません。こうした中でも、「リラクゼーションサロン(着衣の施術)」の過去1年間に利用した割合は、30代で13.5%、40代で12.0%で、他と比べて比較的高くなっています。
一方、「利用したことがないが、興味がある」と答えた人の割合は、若い世代ほど高くなる傾向があります。ただし、40代以降に目を向けると、40代と50代で「リラクゼーションサロン(着衣の施術)」(それぞれ16.0%と14.0%)、60代で「リラクゼーションサロン(脱衣の施術)」(7.5%)の割合が比較的高く、マッサージなどで疲れを取りたいと考える中高年が多いことも読み取れます。
2)男性の美容に使う1カ月当たりの費用
リクルートライフスタイル「美容センサス 2017年下期」によると、男性の美容に使う1カ月当たりの費用は次の通りです。
今回(2017年下期)の調査と前年(2016年下期)の調査を比べると、6000円以上の費用をかける割合は、15~19歳と60代で前年の割合を下回るものの、20代~50代では前年の割合より高くなっています。特に40代の場合、前年の10.0%から18.5%へと、他の世代より大きく伸びています。
3)状態を改善・維持するためにお金・時間を使いたいと思う項目
リクルートライフスタイル「美容センサス 2017年下期」によると、状態を改善・維持するためにお金・時間を使いたいと思う項目は次の通りです。
15~19歳では「髪型」(54.0%)や「顔の肌質」(53.0%)の割合が高い一方、20代以降は「体臭・口臭」の割合が一番高くなっています。40代以降に限ると、「体型(全体のバランス)」の割合が「体臭・口臭」に次いで高く、中高年世代の多くが特定の悩みを抱えているようです。
また、図表には掲載していませんが、現在の状態に満足していない項目として、40代以降は「髪の量」「体型(全体のバランス)」「髪質」の順に多くなっています。
3 男性向け化粧品市場の動向
1)男性皮膚用化粧品の生産量と出荷金額の推移
経済産業省「生産動態統計調査(化学工業統計編)」によると、男性皮膚用化粧品の生産量と出荷金額の推移は次の通りです。
2018年の男性皮膚用化粧品の生産量は2017年と比べると7.9%増加しているものの、2014年と比べると4.3%減少しています。また、皮膚用化粧品と男性皮膚用化粧品の生産量に対する出荷額の比率から、皮膚用化粧品より男性皮膚用化粧品のほうが低価格であることが読み取れます。
皮膚用化粧品市場から見ると、男性皮膚用化粧品市場は非常に小規模です。しかし一方で、男性向けの化粧品市場は今後、拡大する余地を秘めているともいえます。
2)業務用男性向け化粧品市場のファイブフォース分析
理容室やエステティックサロン向けとなる業務用男性向け化粧品業界の競争環境を整理するため、フレームワークの「ファイブフォース分析」を使って業界の動きを示したイメージは次の通りです。
・新規参入の脅威
女性向け化粧品を製造・販売する事業者が、これまでのノウハウを活かして男性向け化粧品を扱い始めるケースは少なくありません。「男女兼用」をうたう基礎化粧品も多くあります。一方、理容室の中には、髪の量を気にする中高年向けに頭皮マッサージサービスを提供し、そのための専用トリートメントやシャンプーなどを独自開発するケースもみられます。
・業界内の競合企業との敵対関係
ドラッグストアなどの市販用に男性向け化粧品を製造・販売する企業は、販路拡大策として理容室やエステティックサロン、ホテルなどに展開するケースがみられます。
なお、男性向け化粧品を扱う店舗は、理容室やエステティックサロンの中でも一部に限られます。男性向け化粧品を製造・販売する事業者は、定期的に一定数量を納品できる取引先を多く確保することが求められます。
・買い手の脅威
美容意識の高い人は、比較的若い世代に偏っています。こうした世代は、SNSや口コミなどから得た店舗の評判などをもとに、効果がある化粧品を使う理容室やエステティックサロンを利用するようになります。こうした消費者から選ばれるため、男性向け化粧品を製造・販売する事業者は、最新のトレンドや消費者ニーズを踏まえた商品開発が求められます。
一方、30代以降の世代は、エステティックサロンの施術に関心を示すものの、実際に行った人は少ないのが現状です。今後、こうした世代がエステティックサロンを積極的に利用するようになれば、若い世代向けのサービスとは異なる施術プランや専用化粧品が必要になるでしょう。
また、ドラッグストアなどで市販の男性向け化粧品を購入して自らケアする人がいることも、業務用男性向け化粧品を扱う事業者にとっては脅威といえるでしょう。
・代替サービスの脅威
男性向け化粧品は、女性向け化粧品と比べて種類が必ずしも多くありません。そのため、化粧水や美容液、乳液、洗顔料などの基礎化粧品を、男女で使い分けることなく施術に利用しているエステティックサロンもあります。
・売り手の脅威
美容効果が高く、かつ消費者にインパクトのある原材料を使った化粧品が増えつつあります。無添加や植物由来の成分のみを使うなどして、他の化粧品と差異化を図るケースが目立ちます。
以上から、業務用男性向け化粧品を製造・販売する事業者は、女性向けや市販用化粧品を製造・販売する事業者と今後、競争することが十分に考えられます。
一方、理容室やエステティックサロンの中には、男性の顧客に女性用化粧水や美容液を用いるケースがみられます。そのため「男性専用化粧品」の取り扱いを打ち出すことで、他店との差異化が見込めます。業務用男性向け化粧品を製造・販売する事業者は、こうした男性の美容に特化した店舗を取引先として多く抱えることが重要となります。
とはいえ、現在は男性専用化粧品を取り扱う店舗は必ずしも多くありません。エステティックサロンを比較的利用する若い世代のニーズを取り込みつつ、今後、ユーザー数が大きく増えるかもしれない30代以降の世代をターゲットにした化粧品の開発も視野に入れるべきかもしれません。
3)主要な業務用男性向け化粧品
・クラシエ
男性向け化粧品として「BASARA」シリーズを取り扱っています。スキンケア用品は肌にうるおいやハリを与える他、嫌な臭いを抑える効果があるのが特徴です。乾燥肌や脂性肌それぞれに適した男性用ヘアケア用品シリーズとして用意するなど、30代以降の中高年をターゲットにした商品群をそろえています。
・シーボン
男性向けスキンケア用品として、化粧水や美容液、洗顔料を取り扱っています。例えば化粧水は、ひげそりや洗顔後に利用することを想定したもので、ローヤルゼリー酸や緑茶エキスなどの成分を配合し、肌にうるおいを与えられるようにしています。
・柳屋本店
ドイツ製オーデコロン「ポーチュガル」の国内販売代理店として、ポーチュガルブランドの業務用乳液などを取り扱っています。オーデコロンのブランドらしく、残香性が高いのが特徴です。ひげそりや洗顔後の肌を整え、肌の乾燥を防ぐ効果があります。
・レスプリ
自社が運営する美容室で、独自開発した男性向け化粧品を販売しています。男性用化粧品ブランド「LIPPS BOY(リップスボーイ)」として、洗顔フォームや化粧水の他、ニキビ跡、シミ、毛穴などの気になる部分に塗布するコンシーラーや、顔の印象を明るくする色付きのリップクリームも取り扱っています。化粧水には天然由来成分が98%配合されるなど、原材料にもこだわっています。
4 特徴的な男性向けスキンケアサービス
・Rips
高級をうたう理容室を2019年6月、東京都文京区にオープンしました。カットやシェービングの他、ヘッドスパも利用できます。シェービング後には化粧水をつけてパックしたり、美容液を使ってケアしたりし、ヘッドスパでは、エッセンシャルオイルを使って頭皮の汚れを落としたり、トリファジックという栄養剤を使ったりします。最後は頭皮カメラを使って頭皮がどう変化したのかをチェックすることもできます。
・シェイプアップハウス
男性専用のエステティックサロンで、日本の素材を使った化粧品などによるフェイシャルサービス「和スパ」を提供しています。北海道産のクマザサや米ぬかなどを使ったパックで肌にうるおいを与えたり、金沢の金箔(きんぱく)を配合したクリームを使ったりします。頭皮のケアや首や肩をほぐす施術もサービスに含まれています。
・TBCグループ
男性専用のエステティックサロンで、脱毛やフェイシャル、ボディシェイプなどの目的別のサービスを提供しています。フェイシャルの場合、毛穴・ニキビケアや保湿ケアなどの目的別のメニューがあり、さらに施術時間や料金の異なるコースを用意しています。肌を整える成分を配合した化粧品を使ったエイジングケアや、セラミドNGやセラミドNPなどの保湿成分を配合した化粧品を使った保湿ケアなど、さまざまなコースをそろえています。
5 業務用男性向け化粧品の課題
「メンズコスメ」という言葉が世間の関心を集めるものの、美容に対し積極的に時間や費用をかける人は、図表1で示した通り、少数に限られます。今後は若い世代の人口減少により、若い世代をターゲットにした市場は縮小すると推察されます。
これに対し、30代以降、とりわけ40代や50代は図表3で示した通り、「体臭・口臭」や「体型(全体のバランス)」の改善・維持のために時間と費用をかけたいと思う割合が他の項目より高くなっています。こうした世代をターゲットにした化粧品は今後の需要増が見込めるかもしれません。中高年の美容への取り組みを喚起することが、市場拡大には必要となるでしょう。
また、業務用男性向け化粧品を取り扱う理容室(理容院)やエステティックサロンが多くないことから、こうした化粧品を頻繁に使う取引先の開拓、囲い込み策は、業務用男性向け化粧品を取り扱う事業者にとっては、優先して取り組むべき課題といえるでしょう。
以上(2019年10月)
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画像:pixabay