書いてあること
- 主な読者:海外企業と取引のある事業者
- 課題:国際送金サービスの事例、留意点を知りたい
- 解決策:銀行以外でも国際送金サービスを手掛ける企業がある。取引に当たり、ビジネスメール詐欺などの金融犯罪に注意する
1 拡大する国際送金の額
グローバル化の進展によって出稼ぎ労働者を含む移民が増加していることなどを背景に、国際送金の額の拡大が続いています。
世界銀行のデータによると、世界における国際送金の額(送金の受け手国側から集計した額)は、2018年には6894億400万ドル(1ドル=110円で換算すると約76兆円)と過去最高を記録したもようです(2019年4月公表の速報値)。
同じく世界銀行のデータによると、日本への国際送金の額は、2018年には56億3400万ドル(1ドル=110円で換算すると約6200億円)、日本からの国際送金の額は、2017年には52億8300万ドル(同、約5810億円)となっています。
2 銀行以外で法人間の国際送金サービスを展開している企業事例
1)国際送金とは
国際送金は、国境を超えて現金を物理的に移動させることはまれで、実際には銀行間の「帳簿の付け替え」が行われるかたちが一般的です。
詳細は割愛しますが、国内のA銀行の口座から、海外のX銀行の口座に送金する場合、「送金手数料」「為替手数料」「受取手数料」が発生し、途中に介在する金融機関が多ければ、それだけ時間やコストが掛かることになります。
国際送金サービスの市場は、かつては、銀行や送金専門業者(Money Transfer Operator)の独壇場でしたが、インターネットが普及した近年では、ITを駆使したフィンテック企業の参入も相次いでいます。
以降では、銀行以外で、法人間の国際送金サービスを日本でも展開している企業事例を紹介します。
2)TransferWise(トランスファーワイズ)
TransferWise(英国)は、自社の銀行口座を多数の国に開設しており、送り手が自国のTransferWiseの口座へ入金して指示をすれば、受け手の国にあるTransferWiseの口座から、その時点での為替レートで送金できるというサービスを展開しています。
同社は、手数料計算ツールをウェブサイトで公開するなど、送金に掛かるコストの透明化を図っています。
同社の日本法人トランスファーワイズ・ジャパン(東京都千代田区)は、2016年9月より個人向けサービスを、2018年6月より法人向けサービスを開始しました。
■トランスファーワイズ「法人サービス」■
https://transferwise.com/jp/business/
3)Queen Bee Capital(クイーンビーキャピタル)
Queen Bee Capital(東京都港区)は、「PayForex(ペイフォレックス)」という、銀行間の国際送金ルートを利用し、顧客の資金を海外の銀行口座へ送金するサービスを展開しています。全ての手続きがインターネット上で完結でき、取り扱い通貨は20種類以上、200カ国以上に送金が可能です。送金額によって手数料が異なり、大口の外貨送金手数料は無料となります。
■Queen Bee Capital「PayForex」■
https://www.queenbeecapital.com/payforex/
3 銀行以外の法人間の国際送金サービスを利用する際の留意点
1)1回当たり100万円を超える送金は銀行以外に認められていない
上述したトランスファーワイズ・ジャパン、Queen Bee Capitalの2社は「資金移動業者」として登録を受けています。これは、「資金決済に関する法律」に基づき、銀行等(銀行、外国銀行の日本支店)以外のものが100万円に相当する額以下の為替取引を業として営む場合、「資金移動業者」として内閣総理大臣の登録を受けなければならないためです。
2)法人口座の開設には書類提出が必要
法人口座の開設には、申し込み者が本人であることを証明する書類と、個人番号(マイナンバー)・法人番号の提出が必要となります。これらの必要書類を取りまとめるには、相応の手間が掛かります。
3)金融犯罪に注意
いわゆる「ビジネスメール詐欺」の手口が巧妙化しています。2018年8月には情報処理推進機構(IPA)が、「日本語メールの攻撃事例を確認、あらゆる国内企業・組織が攻撃対象となる状況に」として、注意喚起を行いました。
今後、日本語の文面によるビジネスメール詐欺が増加した場合、海外との取引がない、あるいは英語のメールのやり取りの習慣がない国内の一般企業・組織も被害に遭う恐れがあります。
4 参考
現在、1回当たり100万円を超える送金は銀行以外に認められていません。ただし、2018年秋以降、金融庁の金融審議会において、この規制の緩和に向けた議論が進められています。
2019年5月29日には、金融審議会「金融制度スタディ・グループ」において、「『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告≪基本的な考え方≫(案)」が示されました。その中では、資金移動業者を送金額に応じて、「現行の送金上限額を超える高額送金を取り扱う事業者」「現行規制を前提に事業を行う事業者」「数千円または数万円以下の少額送金のみを取り扱う事業者」の3類型に再編することなどが、検討課題として示されています。
報道によると、金融庁は制度化に向けて議論を進め、早ければ2020年の通常国会に関連法改正案の提出を目指しているもようです。
以上(2019年7月)
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画像:photo-ac