書いてあること
- 主な読者:新規事業を考えている経営者、レジャー事業者など
- 課題:サウナ愛好家を取り込みつつ、新たなユーザー層も獲得したい
- 解決策:従来のサウナと、「令和のサウナ」の違いを把握し、他社の取り組みを参考にする
1 最近のサウナは「ととのう」体験を重視
サウナがブームです。それも経営者に人気です。特にサウナで「高温→冷水風呂→外気に当たる」サイクルを経て得られる、多幸感といえる「ととのう」がSNSを盛り上げています。サウナ好きな人たちからは、高温下で黙々とサウナに入ることで自身の内面に向き合えるとされ、座禅や瞑想(めいそう)にも通じるマインドフルネスを体験することができるとの声も聞かれます。
インターネット上の特定の言葉の検索トレンドを分析するツール「Googleトレンド」で「サウナ」を調べてみると、2019年ごろから頻繁に検索されるようになっているようです。また、「ととのう」も昨今のサウナブームを象徴するバズワードになっています。
サウナ好きな経営者からは、
「サウナで考え、水風呂で決断する」
という名言まで登場しています。サウナをテーマにしたテレビドラマが放映されたり、近くのサウナ関連の情報を集めたポータルサイトがオープンしたりと、何かと話題の令和のサウナの動向を追ってみました。
2 バリエーション豊富な令和のサウナ
令和のサウナの特徴として、種類の多様化が挙げられます。従来のイメージを覆すように内装やサービスが多様化し、新しいユーザー層の獲得につながっています。
1)おうちサウナ:サウナ傘
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて始まった外出自粛により、自宅で消費できるもの・サービスへの消費(巣ごもり消費)が増えています。サウナ関連商品では、各社から自宅のお風呂をサウナに変身させるようなサウナ傘が登場しました。
見た目はビニール傘を裏返しにしたようなサウナ傘は、先端をバスタブにかぶせることで、お湯の蒸気を傘の内部に閉じ込め、「スチームサウナ」のように使用できます。高温の本格的なサウナには及びませんが、傘の内部では温度、湿度ともに上昇し、リラックス効果も期待できそうです。
数千円前後と比較的安価なため、「サウナに興味あるけど、いきなりサウナデビューはちょっと…」というビギナー層や、健康や美容に関心の高い人が「ワンランク上のバスタイム」を手軽に実現できるアイテムとして支持が広がっています。
2)コワーキングサウナ:KOOWORK(クーワーク)
昨今、働き方が多様化する流れに乗り、さまざまな人がオフィスをシェアするコワーキングスペースが増えています。仕事のリフレッシュや、重要な決断を前にしてメンタルを「ととのえる」ことを狙い、コワーキングスペースにサウナを取り入れる施設が登場しました。
KOOWORK(神奈川県横浜市)は、全席にコンセントを備えたワークスペースに加え、ディスプレーとホワイトボードを取り付けたミーティング用サウナルームや宴会場もあります。
ひと仕事を終えてサウナでととのえ、ミーティングではクリアな思考でアイデアを生み出す。ミーティングを乗り切った後はサウナでリフレッシュして宴会に突入。
サウナ×コワーキングスペースは、サウナ好きハードワーカーにはうってつけの仕事環境といえそうです。
3)空きスペース活用サウナ:三田高野山弘法寺
サウナに必要な機材を準備し、空いたスペースを有効活用することで予想外の場所でもサウナを楽しむことができます。
弘法大師を本尊とする三田高野山弘法寺(東京都港区)では、期間限定の寺サウナを開催しました。これは、お寺の建物の屋上に設置したアウトドア用のまきテントでのサウナと、お寺での瞑想が体験できるイベントです。屋上にはまきテントの他にも冷水のビニールプールや、外気浴もできる椅子も備え付けました。
サウナの後には、瞑想を体験することで、参加者は「ととのいの境地」に達することができたようです。さらに、協賛するお店や企業によるサウナ関連グッズやオリジナルカクテル、フードの販売もあり、サウナ好きには文字通り極楽浄土かもしれません。
他のお寺からも開催依頼が来ているようで、「寺離れ」など檀家の減少に直面する一方で、古くから地域とのつながりを持っているお寺を活性化させる可能性があります。
機材をそろえれば野外でも比較的簡単に始められるサウナの特徴を活かし、今後も予想外のロケーションでのサウナの出現が期待されます。
4)イベント型サウナ:チームラボ、TikTok
サウナブームの波は、アートの領域にまで押し寄せています。プロジェクションマッピングで有名なチームラボは、若者に人気の映像アプリTikTokと共同で、アートとサウナが融合したイベント「チームラボリコネクト」(東京都港区)を2021年3~8月まで期間限定で開催しています。
これは、サウナでととのい、感性をクリアにさせた状態でチームラボが誇る映像作品を体験できるものです。7室あるサウナルームや冷水シャワーでは、さまざまな音楽や映像作品が楽しめ、その後に「アート浴エリア」でリラックスして作品を鑑賞することができます。
アート浴エリアは、インスタレーションが浮かぶ部屋や、暗闇の中で壁一面に鮮やかな無数の花の映像が映し出される部屋などがあり、自身が作品と一体化するかのような没入感に浸れることができるようです。
インスタグラムや、協賛するTikTokには関連動画が続々とアップされており、「映え」を意識した若者や、トレンドに敏感な世代へサウナの魅力をアピールすることができそうです。
5)本格セルフ式サウナ:ソロサウナtune(チューン)
アクティビティ化するサウナを歓迎しつつも、ここぞというときにはじっくりととのいたいと思うサウナ好きもいます。そんなサウナ好きのために、「本格おひとりさま」サウナがオープンしました。
ソロサウナtune(東京都新宿区)は、「日本初の完全個室の本格的なフィンランド式サウナ」を特色としたサウナです。同施設は、着替え~サウナ利用~冷水シャワー~ベンチでの休憩までを個室で楽しむことができます。他の人に気にせず、ロウリュ(サウナの石に水をかけて室内に水蒸気を発生させる、フィンランド式サウナの入浴法)を好き放題でき、サウナやシャワーの利用を順番待ちすることもありません。完全個室なので「裸の他人と室内で過ごすのはちょっと…」というサウナ初心者にもハードルが低めです。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、人との接触や「密」を避けることもできます。おひとりさまサウナは「新しいサウナ様式」のカタチの一つといえるでしょう。
3 サウナ関連動向
このように、さまざまなタイプが登場し、ユーザーの裾野が広がっているサウナ市場。「サウナー」と呼ばれるユーザーの推計人口や、令和のサウナの特徴を見てみましょう。
1)サウナ人口「サウナー」の動き:日本のサウナ実態調査2021
日本サウナ・温冷浴総合研究所(日本サウナ総研)の調査「日本のサウナ実態調査2021」によると、「サウナー(年1回以上サウナを利用するサウナ愛好家)」の推計人口は次の通りです。
同調査によると、サウナーの人口は2500万~2900万人程度と推計されています。2021年(※調査は2020年12月に実施)に関しては、新型コロナウイルス感染症の影響で前年までよりも数値が落ち込んだことを考慮する必要があります。
また、同調査では「温冷浴(熱い温度のサウナに入り、その後で冷水のお風呂に入り外気に当たることを繰り返す入浴方法)」の認知度も調査しています。それによると、「知っていて、実践している」が増加する一方で、「知らない」が継続的に減少しています。
温冷浴は令和のサウナの醍醐味である「ととのう」感覚を体験するために不可欠な入浴方法であり、実践割合が増えていくことで、新しいユーザーの獲得に期待できそうです。
2)多様化するサウナ:令和のサウナと昭和のサウナの比較
さまざまなタイプが出現し、認知度も上昇中の令和のサウナは、従来の昭和のサウナとどういった点で異なるのでしょうか。各種のタイプからは、次のような違いが見えてきました。
冒頭の通り、「ととのう」体験は、健康意識の高まりや、ストレスを軽減しメンタルを調整するマインドフルネスにも通じるものがあります。
また、従来の「暑い」「単調」のイメージを一変させる、趣向を凝らしたさまざまなタイプのサウナが登場していることや、温冷浴や熱波(ロウリュで発生した水蒸気をあおいで循環させること)などの認知の高まりは、近年の消費トレンドの一つの「コト消費」とも相性が良いといえます。
以上(2021年4月)
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画像:Adobe Stock-kichigin19