書いてあること
- 主な読者:生コンクリートスラッジ(以下「生コンスラッジ」)等を取り扱う企業
- 課題:残コン、戻りコンの問題を解決するため、生コンスラッジ等の再利用事例を知りたい
- 解決策:防草剤や石灰の代替製品として活用を模索する企業がある。また、洗浄などの工程でマイクロバブルを用いて、処理コストや廃棄量自体の削減に取り組む企業もある
1 生コンスラッジについて
1)生コンスラッジ発生の流れ
生コンスラッジとは、
生コンクリート工場のミキサー設備や、工事現場から回収された生コンクリート(以下「生コン」)を運搬後のミキサー車(注)を洗った水から出る汚泥
です。通常、工事現場で生コンを使用する場合、建設業者は設計の段階で使用量を計算しますが、実際は計算した使用量よりも多めに発注するケースが少なくありません。生コンが不足すると、作業に待ち時間が発生したり、後からコンクリートを継ぎ足しても、先に打ち込んだコンクリートが固まってうまく一体化しなかったりすることがあるからです。
(注)生コン工場で作られた生コンを、品質を落とさないように撹拌(かくはん)しながら工事現場まで運搬する車両を「アジテータ車」といいますが、この記事では一般的な「ミキサー車」と表記します。
こうした事情から、
生コンが想定よりも余り、出荷先の生コン工場に返却される
という問題が発生します。生コン工場に返却される生コンは、
- 残コン(ミキサー車から荷下ろしされた後に残った生コン)
- 戻りコン(ミキサー車から荷下ろしされずに返却される生コン)
と呼ばれています。生コン工場では、残コン、戻りコンを主に2つの方法で処理します。
1つは、工場の敷地内で薄く敷いて固めた上で、砕いてコンクリートガラとして処理する方法です。
もう1つは、洗浄して骨材(コンクリートを作る際にセメントや水と一緒に混ぜ合わせる砂や砂利)を取り出す方法です。骨材と分別された後の水を「スラッジ水」と呼びます。さらに、このスラッジ水を脱水することで、上澄み水と固形の塊に分別します。こうしてできた塊が生コンスラッジ(スラッジケーキとも呼びます)に該当します(図表1)。
この記事では便宜上、生コンスラッジ(スラッジケーキ)の他、回収骨材やスラッジ水も含めて「生コンスラッジ等」と呼称し、その再利用事例などを紹介していきます。
2)生コンスラッジ等の処理の課題
北川鉄工所(広島県府中市)などが2023年10月に公表した「生コンクリートスラッジ水高度利用システムの開発」資料によると、日本国内の生コン工場数が3052件(2023年6月末時点)、生コンの年間出荷量は7445万2000立方メートル(2022年度)となっています。このうち、1立方メートル当たりのスラッジ水発生量は工場平均15.4キログラム、業界全体での年間発生量は約115万トンとされています。
生コンスラッジ等は強アルカリ性の産業廃棄物となっており、処分に関して次のような課題が挙げられます。
- 管理型の埋め立て処分場での処分が義務付けられているが、処分場の残余年数(満杯になるまでの期間)が年々短くなっており、埋め立て処分にも限界がある
- 専用の設備がなく、生コンスラッジ等に骨材が混ざったまま工場の敷地内に積まれており、管理方法に問題がある生コン工場もある
残コンや戻りコンの発生を抑えるため、各地の生コン組合では、発注元に対して処理を有償化するケースもあります。例えば、東京地区生コンクリート協同組合では、残コンや戻りコンの処理費用を1立方メートル当たり「商品代相当額+取消料1万円」としていますが、有償化のみでは大きく削減が進んでいないのが実情のようです。
これまでは再利用されることなく処分されてきた残コンや戻りコンですが、こうした処理費用の高騰や環境への配慮などの問題から、再利用の可能性を模索する動きがあります。
2 生コンスラッジ等の再利用の可能性
1)普及に向けての課題と今後の展望について
生コンスラッジ等については、個々の企業で「再生セメント」「埋め戻し材」などへの再利用の取り組みが進められていますが(事例については後述)、まだ実証実験段階のものも多く、普及といえるレベルには至っていないのが実情です。
一方、新素材や余ったコンクリートの再利用の研究、規格化などに取り組む「RRCS」では、今後どのように普及を進めていくか、有識者を集めての協議が行われています。
同研究会の「第39回 RRCS 対談・座談会 2024.02.14 コンクリート業界のサスティナブル化、始めましょう! 『これからのスラッジ水・回収骨材の使い方』」では、普及が進まない理由や、今後求められることとして、次のような課題を挙げています。
- 発注者側(建設業者)では「スラッジ水・回収骨材のリサイクル材を用いることが、品質面・性能面で不安」という意見がある
- 回収骨材を使わないでほしいと発注者側が求めた場合、材料を分けて管理したり保管設備を増強したりする必要があるが、生コン業者側での場所の確保は難しい
- そもそも発注者側で、スラッジ水・回収骨材について正しい理解がされていないケースも少なくない
- 制度改正などでスラッジ水・回収骨材の用途は拡大しつつあり、使用に問題はない旨、環境に優しい旨などを発注者側に周知して、再利用への理解を高める必要がある
RRCSの概要や制度改正については、最終章で改めて紹介します。
■第39回 RRCS 対談・座談会 2024.02.14 コンクリート業界のサスティナブル化、始めましょう!「これからのスラッジ水・回収骨材の使い方」■
https://youtu.be/XIhk9DQgN8g?si=QxErmz-Mp51RpFSO
2)生コンスラッジ等の再利用事例
1.戻りコンから再生セメントを製造する体制を構築:鹿島(東京都港区)
同社では、神奈川県内の生コン工場で発生した戻りコンを原料にした、再生セメントの「Cem R3」を製造しています。さらに、通常のセメントの代わりに、「Cem R3」を材料にした環境配慮型コンクリートの「エコクリートRR3」を自社開発しています。
また、製造時にCO2を吸収・固定し、排出量を抑えることができる「CO2-SUICOM」という環境配慮型コンクリートも開発しており、2023年に自社の研修施設を建設した際には、この2種類のコンクリートを使用することで、施工時のCO2排出量を約31トン削減しています。
■鹿島■
https://www.kajima.co.jp/
なお、セメントについては、通常の製法で製造した際に排出されるCO2の削減が世界的な課題となっています。セメントの主な用途となるコンクリートにおいても、製造時にセメントの使用量を抑えたり、セメントに代わる材料を用いたりすることで、セメント、コンクリート一体での環境負荷を抑える動きが近年活発になっています。
セメントの代替製品に関する詳細については、次章で解説します。
2.埋め戻し材を製造:金子コンクリート(神奈川県横浜市)
生コンメーカーの同社では、生コンスラッジ等を原料に、埋め戻し(地下工事や基礎工事が終了した後、掘削した部分に土を戻すこと)に用いる建材の「スラモル」を製造しています。
スラモルは、生コンに使用されている砂をはじめ、コンクリートガラやスラッジケーキを砕いて作られた砂、セメント、スラッジ水で製造されています。元々は廃棄物となるものが原料なので環境に優しく、工事現場での用途に合わせて材料の配合を変えることで強度を調整できる特徴があります。
また、ダンプカーが入れない狭い場所であったり、土で埋め戻しをすると周辺が汚れてしまったりする場所に、スラモル製品を流し込むことで施工が可能です。
■金子コンクリート■
https://kanecon.jp/
3.石灰の代替品として再利用:タケ・サイト(静岡県静岡市)
同社では、生コン工場で発生する生コンスラッジ等を、特許技術により乾燥・破砕し、リサイクル石灰の「タケサイト」を製造しています。これまで未利用だった生コンスラッジ等を原料とすることで、製品開発のコストや生コンスラッジ等の処理費用の削減につなげています。
また、同社では、建設現場で生コンを流す管の詰まりを防ぐ先行剤の「ルブリ」や、生コンの処理を効率化する「テラ」などの製品も開発しています。
■タケ・サイト■
https://www.takecite.com/
4.戻りコンのリサイクル材活用コンクリートを公道に:加和太建設(静岡県三島市)
同社では、戻りコンを骨材として再利用した生コンを、公道での施工に使用しました。
戻りコンを全量骨材として再利用したり、戻りコンから発生した生コンスラッジ等を、CCU混和材(Carbon Capture Utilization)としてコンクリートに混ぜ込んだりすることで、1トン当たり159.9キログラムのCO2が固定され、排出量の削減につながっています。
■加和太建設■
https://www.kawata.org/
5.マイクロバブルを用いてスラッジを削減:和泉生コンクリート(大阪府泉佐野市)
生コンメーカーの同社では、生コンの製造や戻りコンの処理にマイクロバブルを用いることで、処理コストの削減につなげています。マイクロバブルは炭酸水やビールの泡の1000分の1程度の微細な気泡で、洗浄効果や科学反応の促進効果の高さから、戻りコンの処理などで次のようなメリットがあるとしています。
- スラッジ水にマイクロバブルを加えると、水と汚泥が分離しやすくなり、上澄み水の再利用が可能となる
- スラッジケーキにマイクロバブルを散布すると、短時間で乾燥するため、スラッジケーキが軽量化し処理コストの削減につながる
- マイクロバブル水を貯蔵設備などに散布すると、ホコリがたまりにくくなるため、工場を清潔に保てる
生コンスラッジ等の再利用ではありませんが、そもそもの廃棄量を抑えるという点では参考にしたい事例です。
■和泉生コンクリート■
https://izumi-concrete.com/
6.防草剤としての活用を模索:沖坤(沖縄県名護市)
建設土木資材メーカーの同社では、生コンスラッジ等を防草剤として再利用する実証実験に取り組んでおり、2024年度以降の事業化を目指すとしています。
同社では、強アルカリ性の生コンスラッジ等を中性化する処理を施すことで、使用に問題がないようにしています。また、2023年秋から取り組んでいる実証実験では、雑草が生い茂るのを抑制する効果が出ているといいます。
■沖坤■
https://www.okikon.com/
3 セメントの代替製品の動向について
1)セメント製造における課題
生コンの主な原料となるのがセメントです。セメントの原料は、石灰石、けい石、粘土などですが、他産業の廃棄物や、災害時に発生した廃棄物などもセメントの原料として活用できるため、循環型社会の構築や災害復旧にも貢献しています。
全国生コンクリート工業組合連合会、全国生コンクリート協同組合連合会「生コンクリート産業の現状」によると、2023年度に生コンの原料として使用されたセメントは1986万トンとなっており、日本国内のセメントの全販売量2774万トンの71.6%を占めています。
一方で、製造時のCO2排出が課題となっています。経済産業省製造産業局 資源エネルギー庁「コンクリート・セメントのカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」によると、2019年度にセメント製造時に排出されたCO2は国内全体で4147万トンですが、このうち石灰石(原料)由来の排出量は2533万トン、化石燃料(エネルギー)由来の排出量は1614万トンです。
こうした事情から、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けてCO2の排出削減や、CO2を資源として活用するカーボンリサイクルが求められています。
2)セメント使用量の削減、代替などで環境配慮を図る事例
1.カーボンリサイクル・コンクリート:大成建設(東京都新宿区)
同社では、環境に配慮したコンクリートの「T-eConcreteR」を開発し、資源の有効利用と脱炭素化に取り組んでいます。T-eConcreteRは、目的や用途に応じ、
- 建築基準法対応型:セメントを減らす代わりに、高炉スラグ(製鋼から生じる産業副産物)を原料に使用。建築基準法に準拠した建物の建設に適している
- フライアッシュ活用型:セメントを減らす代わりに、高炉スラグとフライアッシュ(石炭灰の一種)を原料に使用。石炭火力発電所から生じる石炭灰の有効活用につながる
- セメント・ゼロ型:セメントを全く使用せず、高炉スラグを特殊な反応剤を用いて固める。セメントを使用する場合よりも、最大で80%のCO2削減が可能
- Carbon-Recycle:セメントを全く使用せず、高炉スラグと炭酸カルシウムなどのCO2を吸収したカーボンリサイクル製品を特殊な反応剤を用いて固める。コンクリート内部にCO2を固定することにより、CO2吸収・排出の収支をマイナスにする
の4種類のタイプ分けがされています。
■大成建設■
https://www.taisei.co.jp/
2.火山ガラス微粉末を用いた環境配慮型コンクリートの研究開発:戸田建設(東京都中央区)
建設事業や再生エネルギー事業を営む同社では、同じく建設会社である西松建設(東京都港区)と共同で、火山ガラス微粉末を用いた環境配慮型コンクリートの研究開発を進めています。
火山ガラス微粉末は火山噴出物を原料とし、選別、分級、粉砕などによって製造したアルミノけい酸塩ガラス(火山ガラス)を主成分とした微粉末(日本産業規格 JIS A 6209:2020)のことで、セメントと比較した場合に次のようなメリットがあるといいます。
- 焼成する必要がないため、製造における環境負荷が少ない
- 原料となる火山性堆積物は国内に広く分布しており、運搬負荷の低減が期待できる
- セメントや骨材と置き換えて使うことで、コンクリートの耐久性向上が期待できる
今後は生コン工場での出荷を想定した試し練りや、強度、耐久性、施工性などの試験や、出荷時のCO2削減量に関しての試算を進めていくとしています。
■戸田建設■
https://www.toda.co.jp/
3.カキ殻をコンクリート製造に活用:大和クレス(岡山県岡山市)
コンクリート製品製造を手掛ける同社は、カキ殻の肥料製造などを手掛ける卜部産業(広島県福山市)と共同で、カキ殻を素材の一部に使用したコンクリートの「オイスタークリート」を開発しています。
カキ殻は鶏の飼料に混ぜて利用されていますが、鳥インフルエンザの影響で飼料の需要が減少し、カキ殻が余ったことが開発のきっかけといいます。オイスタークリートは2022年の12月に完成し、広島県が発注した工事での採用実績もあります。
両社では、カキ殻の主成分となる炭酸カルシウムはセメントの代わりになると見ており、今後は、殻をセメントの代替物としたコンクリート開発の研究も進めていくとしています。
■大和クレス■
https://www.daiwa-cres.co.jp/
4 関連制度、団体など
1)日本産業規格(JIS)の改定
レディーミクストコンクリート(JIS上での生コンの呼称)は、2024年3月にJISが改正されました(JIS A 5308:2024)。製造におけるリサイクル材の活用や廃棄物削減などの社会的要請、生産者や発注者のニーズを踏まえて、5年ぶりの改正となりました。主な改正点は次の通りです。
- 使用可能な材料に石炭ガス化スラグ骨材(石炭灰をガス化炉内で溶融して製造したコンクリート用の骨材)や火山ガラス微粉末(火山灰を選別、粉砕してできた粉末)が追加された
- 強度試験の試料の採取可能場所の拡大、強度試験時の廃棄試料の量の削減、試料の採取前のドラムの回転速度の緩和などの検査方法が合理化された
- これまでは書面での取り扱いとしていた、購入者に提出する配合計画書(材料の種類や配合割合などの品質を決定する資料)や納入書などの書類を、電磁的に記録できるようになった
この改正によって、他産業から発生した副産物の活用や環境負荷低減の進展、DX推進などが期待されています。
2)低炭素型材料の活用に向けたマニュアル
国土交通省 関東地方整備局港湾空港部では、2023年3月に「港湾工事等における低炭素型材料の活用マニュアル」を取りまとめました。これは、湾岸工事などから排出されるCO2の大半は材料に由来しているとして、CO2削減のために低炭素型材料を活用するに当たって、工事に活用する際の基本的な考え方を示したものです。
2023年度には、このマニュアルに基づいて2件の試行工事を実施しています。
■国土交通省 関東地方整備局港湾空港部「港湾工事等における低炭素型材料の活用マニュアル(Ver.1.0)」■
https://www.pa.ktr.mlit.go.jp/kyoku/work/CNC/cnc.htm
3)日本建築学会 JASS5(鉄筋コンクリート工事標準仕様書)の改定
地球温暖化抑制や資源循環に対する要求の高まりや、技術進歩の変化に適応するために、2022年11月に改定されたもので、約10年ぶりの大改定となっています。
詳細は割愛しますが、大きな改正点に、構造体および部位、部材に求められる性能に「環境性」が加えられました。これによって、スラッジ水の利用範囲が広がった他、回収骨材やスラッジ水を用いたコンクリートを使うことで、この環境性を満たすものとされており、今後、回収骨材やスラッジ水の利用も拡大するものとされています。
■日本建築学会「建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事 2022」■
https://www.aij.or.jp/books/productId/674406/
4)残コン・戻りコンに関する協同組合アンケート集計結果報告
全国生コンクリート工業組合連合会、全国生コンクリート協同組合連合会が行ったアンケート調査で、残コン・戻りコンの発生状況について取りまとめています。また、組合内での残コン・戻りコンの活用事例も紹介しています。
■北海道生コンクリート工業組合「戻りコン・残コンアンケート調査集計結果(2024.1実施)」(下記URLの【報告事項】資料4を参照)■
https://www.doukouso.or.jp/2024/04/24/%E7%90%86%E4%BA%8B%E4%BC%9A%E8%B3%87%E6%96%99/
5)RRCS(Ready-mixed & Returned Concrete Solution Association)
「地球を削らない産業」を目指して、新素材や余ったコンクリートの再利用の研究や、残コン・戻りコン起源製品をJIS等に規格化・標準化することを目指す団体です。大学・研究機関の教授、セメント・生コン会社、圧送会社、施工関係者など、143の会員で構成されています。
ウェブサイトでは座談会・対談会の動画を公開しており、残コンの処理・削減策やスラッジ水・回収骨材の使い方をテーマに話しているものもあります。
■RRCS■
https://rrcs-association.or.jp/index.html
以上(2024年7月作成)
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