書いてあること

  • 主な読者:要配慮者向け賃貸住宅の流通を考える経営者
  • 課題:今後の中古住宅関連市場の動向を知りたい
  • 解決策:住宅セーフティネット制度の概要を把握し、要配慮者向け賃貸住宅の潜在需要を考える

1 住宅確保要配慮者に対する住宅供給の新制度

有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の整備が進む一方で、未届け有料老人ホームが増加してきました。2017年6月30日時点で、有料老人ホームとしての届け出施設数1万2608施設に対し、未届け施設数は1046施設となっています。

未届け施設の中には劣悪な環境のものもあり、社会問題になっています。未届け施設が増える背景には、整備が進められてきた有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の賃料や利用料が比較的高額であることが挙げられます。

このため低廉な賃料で利用できる賃貸住宅が求められています。また、これは高齢者に限った問題ではありません。低額所得者、被災者、障害者、子どもを養育する者、その他の住宅の確保に配慮を要する人向けの住宅についても整備が求められています。

そのような中、2017年4月に住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律(以下「改正法」)が成立し、2017年10月に施行されました。本稿では、改正法による新たな住宅セーフティネット制度の概要と広がる潜在需要について紹介します。

2 住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の位置付け

住宅確保要配慮者(以下「要配慮者」)とは、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを養育する者、その他国土交通省令で定める者です。

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要配慮者向け賃貸住宅は、住宅セーフティネットとして位置付けられるため、賃料は有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅より低くなります。また、他に低額所得者、被災者、障害者、子どもを養育する者等も入居者となる点で各種高齢者向け施設と異なります。

3 新たな住宅セーフティネット制度の概要

1)住宅確保要配慮者円滑入居賃貸住宅の登録

要配慮者の入居を受け入れることを表明している賃貸住宅は、住宅確保要配慮者円滑入居賃貸住宅(以降「登録住宅」)として都道府県知事の登録を受けることができます。

この登録を受けることで、全国の登録住宅の情報を集めたウェブサイトに掲載されたり、居住支援協議会に参画する各種団体や自治体などが入居希望者を紹介してくれるため、入居者が確保しやすくなるなどのメリットがあります。

また、一定の要件のもと、改修費などの補助も受給できます。さらに、今後、増加が予想される高齢者や外国人等を受け入れる際のノウハウや支援団体とのネットワークを得られることで経営の安定化も見込まれます。

登録を受けるには、住宅の位置・戸数・規模・構造及び設備等の事項を記載した申請書を都道府県知事に提出することになります。

2)住宅確保要配慮者居住支援法人

賃貸人(登録住宅)と賃借人(要配慮者)が安心して賃貸借契約を結ぶには、登録住宅の入居者の家賃債務保証が不可欠です。また、賃貸住宅の情報提供や入居に当たっての相談、見守り等の要配慮者への生活支援も必要になります。

改正法により、これらの業務を行う法人として住宅確保要配慮者居住支援法人(以下「支援法人」)が誕生しました。支援法人はNPO法人や一般社団法人、一般財団法人等営利を目的としない法人、または要配慮者の居住の支援を行うことを目的とする会社で、都道府県知事がこれを指定します。

支援法人の業務内容は「登録住宅入居者の家賃債務保証」「賃貸住宅への円滑な入居の促進に関する情報提供、相談その他の援助」「要配慮者の生活の安定及び向上に関する情報提供、相談その他の援助」「その他の附帯業務」とされており、要配慮者向けサービス提供の窓口として位置付けられます。

支援法人が債務保証業務を行う場合、債務保証業務規程を定め、都道府県知事の認可を受けなければなりません。

3)住宅金融支援機構

住宅金融支援機構は、登録住宅を改修する際に要する資金の貸し付けを行います。また、家賃債務保証保険契約に係る保険の引き受けを行います。

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図表2では支援法人が家賃債務保証をしていますが、従来の家賃債務保証会社も住宅金融支援機構の保険引き受けの対象となります。

家賃債務保証会社は賃借人(要配慮者)と家賃債務保証委託契約を結び、賃貸人(登録住宅)と家賃債務保証契約を結びます。賃借人が賃料の支払いができなくなると、家賃債務保証会社が賃借人に代わって賃料を賃貸人に代位弁済します。そして、家賃債務保証会社は賃借人に対して求償権を行使することになります。

しかし、賃借人が支払い不可能になった場合、家賃債務保証会社に損失が発生します。住宅金融支援機構の家賃債務保証保険契約は、家賃債務保証会社に発生した損失(のうち70%相当)をカバーするための保険です。これにより、家賃債務保証会社のリスクを低減することができます。

4)住宅確保要配慮者居住支援協議会

地方公共団体、支援法人、宅地建物取引業者等は、住宅確保要配慮者居住支援協議会(以下「居住支援協議会」)を組織することができます。

居住支援協議会は、要配慮者または民間賃貸住宅の賃貸人に対する情報提供、要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進に関する必要な措置を協議します。協議が調った事項については、居住支援協議会の構成員は、その協議の結果を尊重しなければなりません。

5)新たな住宅セーフティネット制度のイメージ

新たな住宅セーフティネット制度のイメージは次の通りです。

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4 広がる潜在需要

1)登録住宅の潜在需要

2020年の一人暮らし高齢者世帯は702万5000世帯、2035年には841万8000世帯と推計されています(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2018年推計)」)。高齢世帯の持ち家率は約80%であるため、2020年で140万5000世帯分、2035年時点で168万3600世帯分が有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、登録住宅の潜在需要として捉えることができます。

また、2018年6月時点の被保護(生活保護)世帯数は163万6327世帯となっています(厚生労働省「被保護者調査」)。被保護世帯の約50%が賃貸住宅の居住者であるため、被保護世帯を要配慮者とした場合、その潜在需要は約81万8164世帯となります。

改正法では要配慮者を、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを養育する者、その他国土交通省令で定める者としています。今後、国土交通省令で定める者の対象が外国人、失業者、ホームレス等と広がっていくと、潜在需要はより大きなものとなります。

2)期待される空き家の有効活用

2013年の世帯数5245万世帯に対して住宅ストックは6063万戸と、818万戸が空き家となっています(総務省「住宅・土地統計調査」)。セーフティネットとしての賃貸住宅の賃料は低廉である必要があります。

この場合、新たに施設を開設するよりも、空き家を有効活用したほうが経済的です。また、共同居住型住宅も登録の対象となるため、アパートやマンションに限らず戸建住宅であっても、登録住宅とすることが可能です。

登録住宅は、2020年度末までに17万5000戸を計画しています。ただし、現状では順調に登録が進んでいるとは言えない状況です。登録住宅の情報を集めたウェブサイトであるセーフティネット住宅によると、2018年9月20日現在、全国で3692件の登録住宅が掲載されています。

こうした課題を解決するため、国土交通省では、2018年7月、セーフティネット住宅の登録を促進するために申請書の記載事項や添付書類などを大幅に削減するなど、施行規則を改正しました。

3)要支援者の登録住宅への入居を円滑化するために

要支援者が登録住宅に円滑に入居するためには、居住支援協議会等による活動が重要になります。こうした活動を担う居住支援協議会等に対し、国からの補助が行われています(補助限度額:協議会当たり1000万円)。

また、登録住宅の改修費の一部を国・地方公共団体が補助する予定です。そして、地域の実情に応じて、要配慮者の家賃債務保証料や家賃低廉化のために国・地方公共団体が補助する予定です。

4)必要とされるさまざまなサービス

賃貸人(登録住宅)と賃借人(要配慮者)にとって家賃債務保証と同様に重視されるのが、見守りサービスと万が一への対応です。

1.見守りサービス

一人暮らしの高齢者が倒れても、なかなか気付いてもらえない場合があります。そこで安否を確認するため、次のような見守りサービスが必要になります。

  • 訪問タイプ(定期的に自宅を訪問し、安否を確認)
  • 通報装置タイプ(室内に通報装置やモーションセンサーを設置し、居住者の異常を緊急センターに通報)
  • コールサービスタイプ(毎日指定した時間に、オペレーターからの電話や音声メッセージで安否を確認)
  • 機器動作確認タイプ(ガスや魔法瓶等の使用状況から、居住者の安否を確認)

2.万が一への対応

入居者が亡くなった場合、残存家財の整理、葬儀等が必要になります。そのため、万が一への対応を考えると、次のような少額短期保険等が必要になります。

  • 賃貸住宅内で入居者が孤独死した場合等に家主が被る家賃の損失と、事故箇所の原状回復費用を補償
  • 入居者が死亡した場合の残された家財の片付け費用、居室内の修繕費用、葬儀費用等を補償

その他、掃除・洗濯・買い物・配食サービス等の家事関連サービスが必要な人もいるでしょう。

地域の空き家が登録住宅となり入居者が増えれば、物販やサービスの提供等新たな需要が生まれます。人の流入は地域の活性化につながります。

また、登録住宅は、地域包括ケアの中で、医療・介護・生活支援等を効率良く展開するための重要な拠点としても期待できます。

以上(2018年10月)

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画像:unsplash

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