書いてあること
- 主な読者:結婚式場業
- 課題:足元では新型コロナウイルス感染症のまん延に加え、長期的に婚姻件数が減少しており、厳しい経営環境に置かれている
- 解決策:オーダーメード型の結婚式の提案、ナシ婚に対応した写真撮影のみのプランの提供などにより、ナシ婚やおもてなし婚といった多様なニーズを取り込んでいく
1 結婚の多様化が結婚式場業に与える影響
現在、結婚の形は多様化しています。生涯未婚の人、パートナーがいても入籍しない人、婚姻届の提出はするものの結婚式を挙げない(ナシ婚)人などが増えています。また、初婚年齢が上昇し、再婚割合が増えていることも、近年の特徴といえます。
婚姻件数が減少していたり、ナシ婚の人が増えていたりすることなどから、ホテル、寺社・教会、結婚式専門の施設(一般の結婚式場、欧米風のゲストハウスなどを含む。以下「結婚式場」)など多数の事業者が存在する結婚式場業は、利用者獲得をめぐる競争が激しくなっています。
また、2020年は新型コロナウイルス感染症のまん延から、挙式のキャンセルも増えています。東海地方を中心に結婚式場や貸衣装店を運営するラビアンローゼは2020年4月に民事再生手続の開始を申し立てました。利用者獲得をめぐる競争が激化する中で、新型コロナウイルス感染症のまん延によって、苦しい経営状況に置かれる結婚式場業は少なくないと考えられます。
2 結婚式場業に関連するデータ
1)結婚式場業の事業所数と従業者数の推移
結婚式場業の事業所数と従業者数の推移は次の通りです。
2016年の事業所数の合計は1435事業所、従業者数は5万4人、1事業所当たりの従業者数は35人となっています。
2)1事業所当たりの年間売上高など
1事業所当たりの年間売上高などは次の通りです。
売上高・取扱件数・従業者数合計などについては年によって増減があるものの、1件当たりの売上高は増加傾向にあります。
3 結婚式のニーズに関するデータ
1)結婚式の費用総額などの推移
結婚式の費用総額などの推移は次の通りです。
費用総額は年によって増減があるものの、近年の招待客数は減少傾向、結婚式の招待客1人当たり費用は増加傾向にあります。これは晩婚化の影響で、金銭的に余裕があり、結婚式への列席経験が豊富な利用者(新郎・新婦)が増えているためとみられます。このような利用者は「画一化されたプランではなく、自分たちらしい結婚式を挙げたい」「親しい人たちに日ごろの感謝を伝えたい、おもてなしをしたい」といったこだわりがあるとされています。こうしたこだわりの結婚式はおもてなし婚などと呼ばれ、招待客1人当たり費用の増加などに影響していると考えられます。
2)披露宴・披露パーティー会場の利用動向の推移
披露宴・披露パーティー会場の利用動向の推移は次の通りです。
結婚式場は装置産業といわれ、恵まれた立地、最新の設備、文化的な魅力などを兼ね備えた施設(ハード)を有する業者が有利です。この基本はいつの時代も変わりませんが、特に景気が好調だった時代は「派手婚」と呼ばれる豪華な結婚式が話題を集め、大規模な宴会場などを備えた一般の結婚式場、ホテルなどのニーズが高まりました。
一方、いわゆるバブル経済が崩壊した1990年代ごろから、「アットホームなオンリーワンの結婚式を挙げたい」という人が増え、ゲストハウスなども結婚式会場として選ばれるようになり、現在では一般の結婚式場、ホテル、ゲストハウスが結婚式会場の代表格です。
現在、結婚式場のスタイルが多様化する一方、結婚式場全体の市場は縮小しています。大手の結婚式場では、減少する利用者を全方位的に獲得するため、自らゲストハウスなどを新設したり、買収によって多様な施設を確保したりするなど、ハードの拡充を図っています。
しかし、最近ではハードを整備するだけでは個別化・多様化するニーズに応えることは難しく、プランニングなどソフト面での充実や、ナシ婚といった結婚式を挙げない人のニーズを喚起するような取り組みが求められています。
以降では、ハードの整備に頼ることなく、個別化・多様化するニーズへの対応や、ニーズ喚起といった課題に取り組む企業事例について紹介します。
4 個別化・多様化するニーズに対応する取り組み
1)オーダーメード型の結婚式の提案
個別化・多様化するニーズに対応する方法の1つとして、オーダーメードの結婚式の提案などがあります。従来は結婚式を挙げることが決まると、結婚式場を選び、結婚式場専属のウエディングプランナーと相談して、結婚式のプランを決定するのが一般的でした。
しかし、こうした方法では、衣装や演出の方法が限られ、画一的な結婚式となりがちです。そのため、結婚式に対してこだわりを持つ人を中心に、フリーのウエディングプランナーを雇って、会場や衣装などを個別に契約するオリジナルの結婚式を挙げる動きが少しずつ広がっています。
こうした動きに対応して、結婚式場においても、オーダーメード型の結婚式の提案に力を入れている企業があります。テイクアンドギヴ・ニーズでは、会場選びの段階から全てオーダーメードで企画する「オートクチュールデザイン」というプランを用意しています。このプランでは、ウエディングプランナーを中心に、プロのメーキャップアーティストなど、さまざまな分野の専門家がチームとなって、利用者のニーズを実現していきます。
また、このように完全なオーダーメード型でなくても、ウエディングプランナーが利用者のニーズを細かく聞き取りながら、希望の結婚式を実現する動きは活発になっています。
2)シニアを対象とした結婚式の提案
現在、晩婚化が進んでいるだけでなく、婚姻件数に占める再婚の割合も増加しており、シニア世代の結婚も増えています。従来は、年齢を気にして、結婚式を挙げることをためらっていたシニアが多かったものの、最近では「節目をきちんとお祝いしたい」というニーズも出てきています。しかし、シニアが求めるプランは少ないのが現状です。
全国で多数の結婚式場業を運営するレックでは、「小さな結婚式」のブランド名で、「大人の挙式プラン」といった少人数向けの結婚式プランを提供しています。晩婚や再婚であるため、若い人ほど華美な結婚式を挙げるのは気が引ける、年齢相応の衣装にしたいといったニーズに応えています。
3)ナシ婚に対応したプランの提案
老舗結婚式場の目黒雅叙園では、結婚式を挙げずに記念写真のみを撮影する「フォトウエディング」を提供しています。目黒雅叙園のウェブサイトによると、料金はドレスなどの衣装のレンタルや着付け・ヘアメーク、撮影などの料金を含めて平日限定で8万8000円(1カットのみ・税別)からとなっています。
また、キリフダが提供する「プライダル」も目黒雅叙園と同様の取り組みといえます。「プライダル」では老舗の結婚式場やホテルなどで写真撮影と身内だけの食事会をセットにしたサービスを提供しており、提携先の会場には八芳園や、ザ・プリンスパークタワー東京などが登録しています。
こうしたプランの提供は、従来型の結婚式を挙げる必要は無いと考える人や、再婚であるなどの理由から結婚式を挙げることをためらっていた層のニーズを獲得しています。
以上(2020年7月)
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画像:pexels