書いてあること

  • 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい農業の経営者
  • 課題:どのようにすれば効率化や人手不足の解消が図れるのか分からない
  • 解決策:事例を参考に、自動農機やドローン、ビッグデータ解析などの新技術を取り入れる

1 テクノロジーで農業の課題を解決「農業テック」

近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。

  • 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
  • 変化する自然環境への対応
  • 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲体制の確立

このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。第4回の今回のテーマは、農業が直面する課題を解決するための「農業テック」です。具体的には、

  • 無人で走り、2台同時でも操作ができるロボットトラクタ
  • センサー機能搭載で病害虫の発生を確認して農薬散布するドローン
  • 農作業用の車両に設置すると、作業の進捗が管理できる生産管理ツール
  • 農業に関わるあらゆる情報を、誰もが利用できる農業データプラットフォーム

といった取り組みを紹介します。

2 「農業テック」取り組み事例

かねてから農業はトラクタによる耕地やコンバインでの脱穀、ベルトコンベアーでの搬送など、作業の省力化・自動化が進められてきました。しかしそれでも、手作業で作業進捗をまとめなければならない、自分で運転した分しか耕せないなどの問題がありました。

それがテクノロジーの進化により、農作業の進捗状況を自動的にまとめる生産管理ツールや、ビッグデータを解析して市場予測や生産・出荷を予測するAI、設定された農地を無人で自動運転するトラクタなどが登場し、さらなる省力化・自動化が達成できるようになってきました。

今回登場するのは、無人で動くトラクタや自動で草刈りをするロボット、車両に取り付けた端末がスマホやPCと連動し、農地の作業進捗を自動で記録・蓄積する生産管理ツールなどです。こうしたテクノロジーを導入することで、次のようなことが実現できます。

農業テックで実現すること

1)自動走行×有人トラクタと無人トラクタの2台使い=作業効率を拡大

ヤンマーアグリジャパン(大阪市北区)の無人のロボット農機「ロボットトラクタ」は、熟練者と同程度の精度で農地内を自動走行します。1人で2台の操作が可能(1台は有人)なので、無人機で耕うん・整地を行うのと同時に、有人機で肥料やり・種まきなどの作業ができます。また、作業中のハンドル操作がなくなるので、作業状況の確認に集中でき、運転による疲労が軽減されます。

同社は従来の人が運転するタイプのトラクタ・田植機・コンバインなどに、後付けで使用できる自動操舵(そうだ)システム「ジョンディア」や、登録した農地データを基にした作業経路の作成と農地データに基づいた適正量を肥料散布でき、田植えを自動で行うスマート施肥田植機「直進アシスト田植機 可変施肥仕様」など、さまざまな自動化農機を展開しています。

2)自動走行×見えないところ・行きにくいところを除草=作業の軽減化や危険の回避

和同産業(岩手県花巻市)のロボット草刈機「ロボモア」は、地面のさまざまな凹凸や勾配を走破し、超音波センサーで障害物を探知しながら、草の状況に応じた草刈りを自動で行い、充電ステーションまで帰還します。スマホと連動するため、離れたところにいても草刈りの状況が確認でき、一部の操作ができます。

3)センサー×収量・食味測定=農地ごとの品質の偏りを解消

クボタ(大阪市浪速区)の穂先だけ選別・脱穀するコンバイン「DIONITH」は、収穫時に農地単位で収穫物の収量・食味(水分およびタンパク含有率)を測定できるセンサー機能を搭載しています。さらに、同社の営農支援システム「クボタスマートアグリシステム(KSAS)」と無線で連携することで、自動的に作業日誌の作成や栽培履歴の管理もできます。

こうしたデータを活用することで、農地ごとの品質の偏りの解消につなげられます。

4)アシストスーツ×上向き状態保持=摘果・摘花・収穫などの上向き作業の負担軽減

ダイドー(大阪府河内長野市)の上向き作業用アシストスーツ「TASK AR」は、上向き作業に特化しています。1分ほどで装着できる簡便さに加え、動力がガススプリングなので電力いらずで、摘果・摘花・収穫などの上向き作業の負担軽減になります。

5)ドローン×観測×薬剤散布=育成期間を可視化し、最適な時期の薬剤散布が可能

ドローンは操作が簡単で、さまざまな用途に拡張できる小型の飛行プラットフォームとして、農業分野での活用も行われています。

中国のメーカーで、農業用ドローンでは国内でも最大のシェアを持つDJI(日本法人は東京都港区)の「P4 MULTISPECTRAL」は、6つのセンサーを搭載したセンシングドローンです。センチメートル単位の測定値が得られるので、より詳細に作物の生育状態を把握できます。また、同社のiOSアプリ「GS PRO」と連動させることで、あらかじめ計画した飛行計画に沿って、自動飛行およびデータ収集を行うことが可能になります。

サイトテック(山梨県身延町)は、ユニット交換により輸送・測量・検査・散布などさまざまな作業ができるユニット型ドローン「YOROI」や、大型で大量の薬剤散布や資機材、農作物を運搬できる重量物運搬ドローン(最大搭載荷重は80キログラム)「KATANA」を発売しています。

また、オプティム(東京都港区)の農場管理システム「Agri Field Manager」は、ドローンが撮影した農地の画像をAI分析します。病害虫や雑草を検知すると、ドローンが対象となる地点のみをピンポイントで農薬散布します。同社のオペレーターがドローンを操縦するサービスもあり、必要なときだけ利用ができます。

6)スマホ×農地の各種センサー=水田を監視して給水・止水を自動化

Farmo(栃木県宇都宮市)の「水田ファーモ」は、太陽光で発電する水位センサーと給水ゲート(自動給水装置)、スマホで給水・止水ができる給水バルブを連携させて、自動測定した農地の水位・水温に異常があった場合に、スマホやタブレット端末などに連絡します。アプリに水田に入れたい水位を設定しておけば、給水ゲートが自動で開閉し、水田の水位を保ち続けます。

7)位置情報×作業記録を自動的に作成=作業進捗の共有とデータ蓄積が容易に

エゾウィン(北海道標津町)の「レポサク」は、GPS端末を利用した車両と農地の管理ツールです。GPS端末を農作業用車両のシガーソケットに差し込むと、運転者が車両を走らせた位置情報から、リアルタイムにスマホやPCに作業状況を送信し、日報を自動的に作成します。

広い農地では、トラクタなどの作業状況を無線でしか確認できず、全体の状況を把握するのが難しいですが、スマホやPCで常に現場の進捗状況が分かるので、作業内容の整理や手順の検討、情報共有が容易になります。

8)ビッグデータ×データを基にツール開発=生産管理のデジタル化

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)が運営主体である「WAGRI」は、72(2022年6月末現在)の民間事業者などが利用している農業データプラットフォームです。官公庁や農機メーカー、民間企業などが持つ気象や農地、収量予測などの農業データを、統一した規格で集積しているので、さまざまなツールを開発・提供するための基盤になっています。

例えば、26日先まで局地的に天気の予測ができる「1キロメートルメッシュ気象情報」や、スマホで撮った異常のある葉の部位から、どのような病害虫か分かる「病虫害画像判定プログラム」、農薬データを組み込んだ「栽培支援サービス」などが開発されています。この他、WAGRIの「育成・収量予測」「青果物市況情報」「青果物卸売市場調査情報」などの支援サービスを利用することで、将来を見通した生産管理体制を作ることができます。

また、さまざまな農業データを一元化することで、農業に関わる情報や熟練を要する作業、勘が「見える化」され、新規参入者がいち早く生産活動に入ることを可能にしています。

3 農業テック関連のデータ:ニーズと課題など

これまで見てきたように、さまざまなシーンで「農業テック」導入の動きが始まっています。農林水産省などの資料から、求められているニーズや課題などの状況を見てみましょう。

1)農業テックのニーズ

流通経済研究所が行った農業者の「経営課題ごとの重要さ」によると、一番関心の高いものは「作業の効率化」です。

農業者の経営課題ごとの重要さ

農業経営者が実際にどのような技術に関心があるのかに関しては、「全国的な公表データはありません」(農林水産省大臣官房政策課技術政策室)ということですが、中国地方に限定した調査データがありますので、1つの指標として参考になります。

農業従事者が関心があるスマート農業の内容

2)基幹的農業従事者の推移と年齢構成

農林水産省「農林業センサス」によると、国内の基幹的農業従事者の推移と年齢構成は次の通りです。担い手の減少・高齢化は年々深刻さを増してきており、これまで以上の作業の省力化・自動化は喫緊の課題といえます。

農業従事者の推移と年齢構成

3)農業テックの導入で労働時間が平均38~47%削減とのデータも

農林水産省は、2019年度から「スマート農業実証プロジェクト」を全国各地(19地区=畜産除く)で実施し、農作業の自動化や各種データの活用などによる効果の分析を行っています。その結果、品目ごとの各作業の労働時間削減率の単純平均は、38~47%でした。

スマート農業技術を導入した各作業の労働時間削減効果

人手不足や高齢化、業務の効率化を図りたい農業従事者にとって、農業テックは有効なツールといえるのではないでしょうか。

以上(2022年9月)

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画像:Andrey Popov-Adobe Stock

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