書いてあること

  • 主な読者:自動車ディーラーの開業を検討、もしくは運営している経営者
  • 課題:乗用車の販売が伸び悩む中、今後の市場の展望が読めない
  • 解決策:従来のビジネスモデルを見直し、新たなサービス創出を模索する

1 新車需要の変化

乗用車の新車販売台数の推移は次の通りです。ここでの乗用車は登録車と軽自動車を合わせた数値です。

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近年は、2年連続で年間500万台を突破するなど、新車市場は堅調に推移しており、新車流通を担うディーラーの経営環境も良好だといわれます。

一方で、日本自動車販売協会連合会は2018年10月に発表した調査リポート「乗用車ディーラービジョン(2018年版)」において、乗用車の年度別新車需要は、2020年度以降に下降局面に入ると予想されています。

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新車需要が下降局面に入る理由として、同リポートでは、ユーザーが家計の支出に慎重で、自動車の保有期間が長期化するトレンドが続くと予測されることを挙げています。

同連合会が2017年に発行した「2017年版 自動車ディーラービジョン(乗用車店編)」では、10年後の新車販売は今より約100万台減少すると予測しています。今、多くのディーラーは、新車販売が年間400万台の時代が到来しても事業を継続できる体制づくりを模索しているといわれます。

2 平均使用年数の長期化

乗用車(軽自動車を除く)の平均使用年数推移は次の通りです。

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2018年の乗用車の平均使用年数は13.24年となり、3年連続の増加で過去最高となりました。2000年と比べると3.28年延びています。

現行の自動車税では、車齢13年を超えるガソリン車についてはおおむね10%の重課対象となっており、平均使用年数のデータも車齢13年いっぱいまで買い替えを控えるユーザーが増えていることを示しています。

3 消費税率引き上げの影響

2019年10月に予定されている消費税率引き上げについて、「乗用車ディーラービジョン(2018年版)」によると、駆け込みで購入する層が一定数いる一方で、生活費全体が上昇する懸念から買い替えを遅らせる層も一定数いるとのことです。

消費税率引き上げによるマイナスの影響を抑えるための具体的な措置として、2018年12月に閣議決定された「平成31年度税制改正大綱」には、2019年10月以降に新車新規登録を受けた自家用乗用車(軽自動車を除く)について、自動車税の恒久減税を行うことなどが記されています。

減税額は、総排気量に応じて1000cc以下の4500円から2500cc超の1000円まで、排気量が少ない車ほど減税額が大きくなっています。

他にも、次のような施策を講じるとしています。

  • 燃費性能などの優れた自動車への買い替えを促す狙いで導入された自動車税のグリーン化特例について、2年延長する
  • 自動車取得税廃止の代替として2019年10月から新たに導入される「環境性能割」について、1年間の措置として、税率を1%軽減する
  • エコカー減税について、自動車重量税に関しては適用基準を厳しくした上で軽減割合を25%下げる条件で2年間延長する

政府与党は、こうした施策を通して、5%から8%に引き上げた2014年4月のように、経済への影響を及ぼさないよう万全を期すとしています。

4 販売形態の多様化

近年では、インターネットも自動車販売チャネルの1つとなっています。楽天やAmazonといったショッピングモールだけでなく、自動車専門のECサイトでも販売されています。

ドイツのダイムラーは2013年12月からメルセデス・ベンツのドイツ国内でのインターネット販売を開始していますが、2018年3月のジュネーブモーターショーで同社は「2025年までに世界販売の25%をオンライン販売にする」との方針を明らかにしています。

また、米国のテスラも、自社の電気自動車をインターネットで販売しています。

国内でも、日産自動車がインターネット上で車種の検討から納車までの手続きを完結できる個人向けリース「NISSAN@DIRECT」のトライアルを東海地区4県(岐阜・静岡・愛知・三重)にて、2019年2月末まで実施しています。

ユーザーの動向次第では、今後、自動車のネット販売が拡大していく可能性があります。

5 「クルマを売る店」からの脱却

トヨタ自動車は2018年4月、完全子会社のトヨタ東京販売ホールディングスと、その完全子会社の自動車販売会社4社を「融合」し、新会社を設立すると発表しました。また、2018年11月には2022年~2025年をめどに4社がもつ「専売車種」をなくし、全店で全車種を販売できるようにすることを目指すとしました。

東京での4社の統合の理由について、トヨタ自動車は「クルマの『保有』から『利活用』へのシフト」が進んでいることを踏まえ、地域での顧客・行政・他企業との連携強化により「新たなモビリティサービス提供によるビジネスモデル変革への挑戦」を進めることに触れています。再編はその具体策であり、試乗車を使ったカーシェアリングサービスや高齢者のための移動サービスなど、販売店を、自動車を売るための店舗から、その地域の実情に根ざしたモビリティサービスを提供するための拠点にしていくとしています。

6 ビジネスモデルの見直しが求められる

前述の次世代自動車やカーシェアリングサービスの普及、予想される新車需要の減少に伴い、自動車ディーラーも従来のビジネスモデルの見直しが求められるといわれます。

「乗用車ディーラービジョン(2018年版)」では、市場の構造変化を想定した関連ビジネスとして、自動車に通信機能を持たせてIoT化する「コネクティッド技術」を活用し、既存の自動車流通網が勝ち組として生き残るための次世代型シェアリングモデルを提案しています。その基本的な仕組みは次の通りです。

  • コネクティッド技術による個人認証を活用し、車両が変わっても運転者の利用履歴情報が車内で認識・照合され、使用度に応じた合理的な課金方式とする。現在の車保有者も、車の「所有権」ではなく、「使用権」を月額で支払う方式へシフト
  • 安全性や省燃費性能、通信技術等の進化が著しいため、同じ車の利用期間は望みに応じて自由に決められる(数時間~10年まで)。また各種機能の進化度合いや車のグレード(中古車も含む)に応じて、料金体系も幅広い選択肢がある
  • ディーラー敷地内には、月額で利用できる車のラインアップが豊富にそろっており、車非保有者向けにも現行のカーシェアリングに比べ、借りられる拠点数、拠点当たりの台数、選択可能な車種数とも巨大化する
  • 車両の稼働率に応じた価格変動システム等で利用コストを低減。自宅や鉄道駅から不便な場所では、電動自転車・スクーターのシェアリングや保管場所の仲介サービス等も提供(店舗内敷地も含む)

同リポートによると、カーシェアリングサービスについては、「ディーラー経営者により賛否が大きく分かれているのが現状である」とのことです。その上で、「ディーラーの強みは、既に国内で7000万台以上の車の保有を支え、店舗ネットワークと敷地、展示・試乗車・中古車等の車両、整備機能、豊富な人材などの資産を有する面が挙げられ、それを生かせるようにしたい」としています。

以上(2019年7月)

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画像:unsplash

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