書いてあること
- 主な読者:過疎地などの交通インフラの動向に影響を受ける運輸業者
- 課題:自動運転バスの導入を検討するために、実用化に向けた動きを知りたい
- 解決策:自動運転バスの実用化に向けた最新の動きと、2023年4月の道路交通法改正の内容を把握し、実用化に備えておく
1 自動運転バスが過疎地などの交通インフラの救世主に!?
2023年4月の改正道路交通法(以下「道交法」)の施行で、
- 遠隔監視の自動配送ロボット
- 過疎地などでの自動運転バス(カートも含む)
が公道で走行すること、つまり「自動運転レベル4」が認められました。
このシリーズでは、実用化へ大きく前進した自動運転について、道交法改正の内容と、実用化に向けた取り組みの最新事情を、2回にわたって紹介します。前編の第1回では、物流のラストワンマイルの担い手として期待される、遠隔監視の自動配送ロボットについて紹介しました。
後編となる今回は、採算割れや人手不足で交通インフラ崩壊の危機にある過疎地などでの活用が期待されている、自動運転バス(カートを含む)を紹介します。紹介するのは、次の3つの取り組みです。
- 国内初の実用化でモデルケースに(福井県永平寺町)
- 2025年大阪・関西万博で世界にお披露目を(Osaka Metro)
- コミュニティバスへの導入で持続的な社会へ(愛知県日進市)
政府は2022年12月の閣議決定で、
自動運転移動サービスを2025年度めどに50カ所程度、2027年度に100カ所以上実現させる
ことを掲げ、「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」などを通じて、地方自治体や民間会社の取り組みを後押ししています。
2 地元の許可があれば自動運転バスが営業可能に
2023年4月に施行された改正道交法および関係法令で、自動運転レベル4(場所や時間など特定条件の下での完全自動運転)に相当する、運転者がいない状態での自動運転(特定自動運行)が許可制になりました。許可に関しては次のような項目が定められており、今回の改正は、主に過疎地などで特定ルートを自動運転バスが運行するサービスが想定されています。
- 速度、走行ルート、走行時間、走行できる天候など、走行環境や使用条件を限定する
- 許可をするのは都道府県公安委員会で、許可をしようとする際は、当該の市町村長などの意見を聞く
- 許可を受けた事業者は、申請時に届け出た「特定自動運行計画」に基づいて運行する
- 許可を受けた事業者は、遠隔監視もしくは車内に乗った「特定自動運行主任者」を配置する
また、運行する車両は、道路運送車両法に基づき、国土交通省から認可を受けたものに限られます。国土交通省は、自動運転車の車体後部に、ステッカーを貼付することをメーカーに要請しています。
それでは、実用化に向けて進んでいる実証実験などの取り組みについて、実際に携わった担当者の話を紹介します。
3 国内初の実用化でモデルケースに(福井県永平寺町)
自動運転の実用化で先行しているのが、福井県永平寺町です。2023年3月に国土交通省から車両が認可されたことを受けて、2023年4月にも福井県公安委員会に許可申請を行う方針です。
1)自動運転カートの概要
事業主体:福井県永平寺町、まちづくり株式会社ZENコネクト
開発者:国立研究開発法人産業技術総合研究所、ソリトンシステムズ、三菱電機、ヤマハ発動機
運行予定:自動運転レベル3を2021年3月から継続中
自動運転レベル4の許可申請を行う予定
運行場所:京福電気鉄道永平寺線の廃線跡地(永平寺町)の町道「永平寺参(まい)ろーど」の一部(約2キロメートルの自転車歩行者専用道路)
運行の概要:道路に敷設した電磁誘導線上を、時速12キロメートルを上限に走行。遠隔監視は1人で3台を監視
使用する自動運転車両:ヤマハ発動機の電動カート(乗客7人までの自家用有償旅客運送)
2)担当者の話(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
1.技術面の状況
自動運転レベル3で運行していた際もレベル4に相当する技術で運行していたので、問題なく運行できると思っています。
レベル4でもレベル3のときと同様に、大雨や濃霧など、レーザーセンサー機能が働かなくなった場合は運行しない条件を付けています。ただし、レベル4で運行する場合のセンサーは、レベル3のときより高性能の「ミリ波レーダー」を使う予定ですので、大雨や濃霧などには強くなります。永平寺町の場合、大雨や降雪などのときの交通需要が少ないので、これ以上はセンサー機能を高めて運行条件を広げる必要はないと考えています。
レベル4では、落ち葉や木の揺れなどにセンサーが反応してしまう「過検知」など、運用上のエラーが起きた場合、車内に対応できる人がいませんので、対応に時間がかかることが想定されます。このため、こうしたエラーを極力減らしていくための技術的な調整を続けていくことになります。安全のために、止まるべきときに止まれない「未検知」を避けるために、ある程度「過検知」が起きるのは仕方ないのですが、あまり頻度が高いと運行上の問題になります。運行する方たちが受容できる程度にまで減らせるかどうかがポイントになると思っています。
2.遠隔監視とコスト面の状況
レベル4でも1人で3台の車両を遠隔監視することに問題はないと思っています。レベル3で運行していたときよりもシステムを強化しており、遠隔監視する地元の担当の方には、サービスが提供できるようにトレーニングしてもらっています。
今後、運行のために必要な人員が減り、遠隔監視の業務負担も軽減できるようになっていけば、人件費のコストは削減できると思います。遠隔監視の業務負担の軽減が進めば、遠隔監視をしながら他の業務もできるようになったり、一定のトレーニングを受けさえすれば遠隔監視ができるようになったりしていくでしょう。
コスト削減に関して、今回のレベル4の車両の開発メーカーには、量産化・市販化を目指してもらっています。自家用車の運転支援に用いられているセンサーやECU(エレクトロニックコントロールユニット)などを、走行環境に合わせて上手く活用できれば車両の価格を抑えることができると思います。また、自家用車などにも自動運転が広がっていけば、センサーや制御に関する技術を流用することで、さらにコストが下がると期待しています。
3.利用者などの反応
レベル3での運行を2年ほどやっていますので、乗客の方には利用方法を理解していただいています。乗員がいなくても遠隔監視員と音声でやり取りができますので、乗客の方のトラブルにも一定の対応が可能です。
4.他地域への技術の転用や普及に関して
他地域で自動運転バスを運行させるには、それぞれの地域の要求に応じた技術を適用する、「ローカリゼーション」が必要になります。レベル4の走行環境のうち、路面が凍結した際などの対応は難しいですが、その他の条件に関しては、技術的な対応策を準備しています。
例えば夜間も運行するのであれば、通常のカメラではなく、赤外線カメラを搭載してAIにより人を認識する機能などを使って、センサー機能を高めることができます。大雨や降雪の場合でも、ミリ波レーダーを導入すれば対応できます。ただし、その分の費用は掛かりますので、導入するかどうかはコストとの兼ね合いになると思います。
永平寺町では、自転車歩行者専用道路を使い、ゴルフのカートなどで長年の使用実績のある電磁誘導線を道路に敷設して走行するという、最も確実性の高い運行方法を採用しています。技術的には一般道路でも対応可能ですが、実用化するには安全面や受容面での実証を行っていく必要があるでしょう。
一般道路を走行するには、他の交通参加者がどのような振る舞いをするのかを予測することの難しさがあります。例えば、駐車車両を避ける場合、車両の駐車の仕方によって避け方を変える必要があります。その他にも、追い越し車両が急に自動運転車両の前に入ってきたり、交通ルールを守らずに交差点に進入したりするなど、交通ルールを守らないような車両に対して、どの程度まで対応できるようにするのかなどの難しい課題を決めていく必要があると感じています。
政府の2025年度に50カ所、2027年度に100カ所というレベル4の普及目標に向けては、自動運転移動サービスのベースになる電動化を含めた車両の国内開発などの課題があります。永平寺町での運行によって、目標達成に少しでも寄与できるようなモデルケースを示し、他地域での事業化を加速させるのが私たちの使命だと思っています。
4 2025年大阪・関西万博で世界にお披露目を(Osaka Metro)
大阪市などが出資する大阪市高速電気軌道(以下「Osaka Metro」)は、2025年に大阪市で開催される2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の来場者の輸送サービスに、レベル4の自動運転バスの導入を目指し、実証実験を進めています。
1)自動運転バスの概要
1.事業の概要
事業主体:Osaka Metro
運行予定:2025年4月~10月(万博開催期間)
運行場所:万博会場内の外周道路と、周辺拠点から万博会場間(大阪府大阪市)
運行の概要:GPSやセンサーなどを組み合わせ、公道は法定速度を上限に走行する想定
使用する自動運転バス:会場内は小型バス、周辺拠点から会場までは大型バスを想定
2.実証実験の概要(直近の第2回実証実験)
実験日:2022年12月~2023年1月
実験の協力企業:あいおいニッセイ同和損害保険、NTTコミュニケーションズ、凸版印刷、日本信号、パナソニック コネクト、BOLDLY
実験場所:舞洲実証実験会場内テストコース(400メートル)と周辺公道
実験の概要:テストコースは自動運転レベル4、公道は自動運転レベル2での走行。GPSと一部の道路上に塗った特殊塗料(自動運転車両に搭載しているセンサーが認識できる塗料)を使い、信号機からのデータ受信に対応する「信号協調」も実験
使用した自動運転バス:フランスのNAVYA(ナビヤ)社のARMA(アルマ、11人乗り)と小型バス(ポンチョ)
2)担当者の話(Osaka Metro)
1.技術面の状況
現時点では幾つか課題がありますが、今後も実証実験を行っていき、2025年の実用化に向けて課題をクリアできると思っています。自動運転バスの技術を高めていくことに加えて、道路インフラにもセンサーやカメラを付けての走行支援が必要になると考えています。
運行ルートや、万博の開催時の交通の流れにもよりますが、交差点での安全な運行や、路上駐車への対応が課題だと感じています。交差点での具体的な課題は、歩行者が横断歩道を渡るのか渡らないのかの見極め、対向車の速度を踏まえた安全な右折などがあります。
今回の実証実験では、時速50キロメートルでの小型バスの走行ができているため、法定速度での運行を目指しています。貨物車両がスピードを出して前方に割り込んでくるケースもありましたが、人が運転するときと同様に、自動ブレーキで対応できています。
2022年3月から4月に行った前回の実証実験と今回の2回の実証実験で、どの技術を主軸にして位置情報を把握するのか試しました。今後も可能な限り多くの方法を試して、想定される環境の中で一番確実な方法を組み合わせたいと考えています。トンネル内の走行によって夜間の運行はGPSとレーザーセンサーで対応可能であることが実証できましたが、雨粒はレーザーセンサーが障害物と判定してしまいますので、これを補う技術の導入も必要になります。
2.遠隔監視とコスト面の状況
実証実験では、1人で2車種・3台を遠隔監視しました。実用化したときの運行ダイヤにもよりますが、レベル4で公道走行実験を行う際は、まず1人で1台を遠隔監視することから始めて、どこまで増やせるのかを警察などと協議することになると思います。
コスト面を踏まえると、将来的には1人で複数台は監視できるようにしたいです。エラーが同時に発生することがあると1人が監視できる台数が制限されるので、並行してエラーが出る確率を下げていかないといけないと思っています。
まだ実証実験の段階ではありますが、世界の方々が集まる万博で自動運転バスをご披露する意義も含めて考えており、将来的には、運転士がいない利点を活かし、採算も取れるようにしていきたいと思っています。
当社が都市型Maas構想「e Metro」で目指す、「大阪に住む人、訪れる人に移動の自由を提供し続ける」という使命のためには、運転士不足や運転士の労働時間に縛られないモビリティの実現が必要だと考えています。万博というイベントで自動運転バスを運行することは、当社グループが将来的に自動運転の社会実装の実現を目指していることのアピールにつながると思います。
3.利用者などの反応
実証実験に参加していただいたモニターの方からは、「乗ってみたら安心できた」などの声が聞かれ、マイナスの意見は少なかったです。
4.他地域への技術の転用や普及に関して
また、当社だけにとどまらず、世間に注目される万博での自動運転バスの運行が、国内のさまざまな地域で自動運転に向けた取り組みが広がる契機になればいいと思っています。
当社は将来的に、市街地での自動運転バスの導入も目指していますが、実用化するには、さらに二段、三段のクリアすべき課題があると思います。コスト面はもちろんですが、歩行者や自転車が多い状態での安全性の確保、さまざまな気候や天候を想定した対応など、万博会場での運行よりも運行条件は厳しくなるでしょう。
交通ルールを守らない人や車両への対応は、警察など関係各所の協力を仰がないといけないと思っています。レベル4を広げていくには、事業者は行政や警察、事業開発側などと連携体制を作っていく必要があると思います。
5 コミュニティバスへの導入で持続的な社会へ(愛知県日進市)
愛知県日進市は、2024年にコミュニティバスへのレベル4の自動運転の導入を目指しています。名古屋市と豊田市に挟まれた同市は、人口増を続けているものの、市内に中心核のない分散型ベッドタウンとなっています。このため、「既存公共交通網と自動運転バスのベストミックスによる新たな公共交通システム」によって、住民が世代や居住地を問わず自由に移動でき、将来にわたり安心して住み続けられる街の実現を目指しています。
1)自動運転バスの概要
1.事業の概要
事業主体:愛知県日進市
運行予定:2024年からの運行開始を目指す
運行場所:日進市内
運行の概要:コミュニティバスの路線のダイヤに自動運転バスを導入する
使用する自動運転バス:フランスのNAVYA(ナビヤ)社のARMA(アルマ、乗客10人まで)
2.実走実験の概要
実験日:2023年1月~3月
実験の参加者:BOLDLY、名鉄バス、セネック、マクニカ、名城大学
実験場所:日進市役所から名古屋鉄道日進駅(日進市)の往復(約5.7キロメートル)
実験の概要:自動運転レベル2での走行。GPSとレーザーセンサーを使って時速20キロメートルを上限に走行
使用した自動運転バス:フランスのNAVYA(ナビヤ)社のARMA(アルマ、乗客10人まで)
2)担当者の話(運行管理プラットフォームを提供しているBOLDLY)
1.技術面の状況
実走実験では、走行した道路が歩道と車道の分離がされており、路上駐車がほとんどなかったことから、高い自動運転率を実現できました。
バスの乗員が手動介入をした主な要因は交差点でした。信号機との連携ができていないため、信号判断の部分で手動操作が行われました。2023年度以降は、信号機から得たデータで対応する「信号協調」を検証する予定で、信号機との連携が実現すれば、レベル4に近づくと考えています。
駐車車両や歩行者などの認識については問題がありませんでしたが、まだ車両や人の行動予測まで行った制御にはなっていません。歩行者が道路上で立ち止まり続けるなど、周りの交通参加者が通常と異なる意思を持って行動してくる場合には、バスの車内のオペレーターが適宜対応している状況です。
レベル4を始めるために、まずは敷地内でのプロジェクトとして実施することを目指しています。実用化する際は、レベル4での自動運転区間を限定的に始めて、課題やリスクを確認しながら徐々に拡大していきたいと考えています。
2.遠隔監視とコスト面の状況
現時点ではバスの車内に対応者がいるレベル2の運行であるため、まだ遠隔監視によるコストメリットは生まれていません。
自動運転バスが浸透する過渡期においては、バスの車内に対応者が存在することによる安心感が大きいです。このため、仮にレベル4が技術的に可能となったとしても、自動運転バスが一般に受け入れられるまでは、対応者が車内にいる状況が望ましいと考えています。
1人で何台まで遠隔監視が可能になるかは、車両の性能にもよるので一概には言えません。現状では、3~4台程度までは可能になるのではないかとの感覚を持っています。
3.利用者などの反応
時速20キロメートルを上限に走行しましたが、「乗車してみると思ったより速い」という声が多く聞かれました。後続車などからは、「渋滞の原因となるかもしれない」などの声は聞かれましたが、直接の苦情という形では届いていません。渋滞を減らすために側道のルートを走行できるように設定するなど、交通の流れへの影響には配慮しています。
4.他地域への技術の転用や普及に関して
当社は、レベル4の実現には2つのマイルストーンがあると理解しています。
- 車両が技術的にレベル4で走行できるタイミング
- 利用者が無人で走ってくる自動運転車を躊躇(ちゅうちょ)なく利用できるようになるタイミング
仮にレベル4が実現しても、当面は1.が実現されただけであり、利用者が無人で走行してくる自動運転車を利用するのは、心理的な抵抗が大きく、安心して使えないことを想定しています。この過渡期においては、無人で走行させるのではなく、車内に対応者を配置して走行させることが望ましいと思っています。
よってレベル4が実現したとしても、コストメリットが得られるのは、2.のタイミングであり、将来的に実現すると理解しています。
レベル4での走行の可否は、車両の性能と走行環境の組み合わせによって決まるため、どのような場所であれば走行できるのかは、一概には言えません。ただ、定性的には、
- 道路の幅員が広い
- 他の交通や路上駐車が少ない
- 他車の走行速度が遅い
場合は、レベル4が実現しやすい環境だと考えています。
速度に関しては、NAVYA社のARMAは道路運送車両法の保安基準を満たしておらず、国土交通省から基準緩和認定を受けてナンバーを取得した車両であるため、時速20キロメートルが上限になります。ただし、保安基準を満たしている路線バスなどが自動運転化される場合には速度制限がないので、レベル4でも時速20キロメートルが上限にはならないと認識しています。
3)担当者の話(日進市役所)
採算面に関しては、公共交通において、運行費用を独立採算で考えるというのは限界が来ていると思っています。自動運転バスであってもコストはゼロになりませんので、コストが削減されたとしても、公共交通の収入からコストに見合うものを回収するのは現実的に困難であると言わざるを得ません。
海外でも、フランスのように公共交通を公費で大部分を負担している国もあります。日本においても、独立採算を継続するのであれば、必然的に路線バスの廃止・減便となることは明白であり、生き残る路線は大都市の一部路線だけになってしまいます。
今後も日本の国全体での成長を期待し、地方における生活の足を確保したいのであれば、公共交通の費用負担について考え直すべき時期が来ていると考えています。
以上(2023年5月)
pj50524
画像:Kinwun-shutterstock