書いてあること
- 主な読者:ラストワンマイルの動向に影響を受ける販売事業者や運送・運輸業者
- 課題:自動配送ロボットの導入を検討するために、実用化に向けた動きを知りたい
- 解決策:2023年4月の道路交通法改正の内容と、自動配送ロボットの実用化に向けた最新の動きを把握し、実用化に備えておく
1 遠隔監視の自動配送ロボットが歩道を走れるように!
世界中で自動運転の実用化に向けた動きが進んでいますが、日本でも2023年4月に、大きな前進がありました。改正道路交通法(以下「道交法」)の施行により、
- 遠隔監視の自動配送ロボット
- 過疎地などでの自動運転バス
が公道で走行することが認められたのです。
そこで、このシリーズでは、実用化へ大きく前進した自動運転について、道交法改正の内容と、実用化に向けた取り組みの最新事情を、2回にわたって紹介します。
前編となる第1回は、物流のラストワンマイルの新たな担い手として期待されている、自動配送ロボットについてです。
2 自動配送ロボは「歩行者と同様のルール」に
2023年4月に施行された改正道交法および関係法令では、自動配送ロボットが該当する「遠隔操作型小型車」のルールが定められています。
なお、「遠隔操作型小型車」には、標識を付けることが義務付けられています。
それでは、実用化に向けて進んでいる実証実験などの取り組みについて、実際に携わった担当者の話を紹介します。
3 実証実験1:都市部でのラストワンマイル事業への参入(ENEOSホールディングス)
1)実証実験の概要
実験主体:ENEOSホールディングス(東京都千代田区、エネルギー事業など)、ZMP(東京都文京区、ロボット開発)、エニキャリ(東京都千代田区、ラストワンマイル物流サービス)
実験日:2022年12月~2023年3月(自動配送ロボット4台を稼働。荒天時を除く11時から20時)
実験場所:東京都中央区の佃・月島・勝どきエリア(約1万7000戸)
実験の概要:アプリを通じて注文を受けたエリア内の飲食店やスーパーの商品を、注文者のマンション下まで配送。到着すると注文者の携帯電話に、自動配送ロボットの扉を開けるURLとともに通知
使用した自動配送ロボット:ZMPの「DeliRoR(デリロR)」
2)担当者の話(ENEOSホールディングス)
物流のラストワンマイル問題は社会課題であり、ビジネスチャンスでもあると認識しています。今回の実証実験を踏まえて、2023年度中に、このまま事業として始めるか、事業エリアを変えるなどビジネスモデルを一部変更して始めるか、商用化の時期を延期するか、いずれかの決定をする予定です。
実証実験では、お客さまから注文を受けると、自動的に自動配送ロボットにアサインし、ロボットを稼働させるという一連のシステムを機能させることができました。ただ、1人の監視員が複数台のロボットを監視する実験は、走行時間が足りないなどの理由で行えませんでした。
また、自転車などが道を塞いでいて自動運転だけでは対応できず、人による操作が必要になったケースや、注文データとロボットの稼働を連携させるシステムがうまくいかずにロボットが止まってしまうケースなどがありました。歩行者や自転車が進路を遮ってしまった場合でも、ロボットの前面には表情がついており、「道を開けてください」などとしゃべることでコミュニケーションしながら対応することができますので、地域の皆さまに受け入れていただけたように思います。
事業を始める場合、都心部の人口密度の高い地域が対象になると思っています。ロボットは時速6キロメートルが上限ですので、1時間以内で配送できるのは約1キロメートル以内が目安となります。どのような商品を運ぶかにもよりますが、売り上げを確保するには、一定程度の人口密度が必要になります。その他、特定のエリア内の、例えばショッピングセンターやテーマパークでも活用の可能性はあると思います。過疎地にも買い物が困難な高齢者などのニーズは確実にあるのですが、ロボットの運用コストが下がったり、例えば見守り機能など何らかの付加価値を付けたりしなければ、現状では持続可能なサービスにするのは難しいと思っています。
採算性の観点から、現時点では1人の遠隔監視員が、少なくとも8台程度のロボットを同時に遠隔監視することが必要だと分析しています。それを可能にするためには、ロボットが高い安定稼働率で走行することや、画面をポップアップさせるなどして遠隔監視員にアラートするような機能を持つような複数台監視を可能にするモニタリングシステムが必要になると思います。
自動配送ロボットが今後普及していくポイントは、鶏と卵の関係ではありませんが、利用ニーズと、外資を含めたロボット開発会社の参入の両方が増えていくことだと思います。海外にはさまざまな機能やコスト感のロボットがあり、ロボットの運用コストが日本の半額以下のサービスもあります。2023年4月の道交法改正を機に、多くの開発会社が参入して、選択肢が広がることを期待しています。自動配送ロボットが普及すれば、遠隔監視員の担い手も増えていくので、遠隔監視員の人件費も下がるでしょう。
3)担当者の話(ZMP)
今後のDeliRoR(デリロR、以下「デリロ」)販売台数の見込みなどの公表は控えますが、道交法改正によって届け出で公道を使用できるようになるのは、クライアントの拡大につながると思っています。
デリロは、人口が多い都市部はもちろん、過疎化が進む地域での人手不足にも役立ちます。デリロは揺れや傾きが少ないのが特徴で、例えば汁物であっても、しっかりと封をすれば配送が可能だと考えています。段差は5センチメートルまでは超えることができ、坂道は8度までの傾斜が対応可能です。ちなみに、一般的な車いす用のスロープのほうがもっと緩やかです。重量は50キログラムまで対応可能です。電波条件については、スマートフォンの基地局があれば対応できます。
配送物の受け取りなどの操作については、スマートフォンが使える程度のリテラシーがあれば、問題ありません。
4 実証実験2:自社の飲食物の配送(関西フーズ)
1)実証実験の概要
実験主体:関西フーズ(兵庫県姫路市、神戸市や姫路市で回転寿司「力丸」14店舗を展開)
実験日:2023年2月(10日間、1時間に1件を上限に、約30件を配送)
実験場所:姫路駅周辺
実験の概要:JR姫路駅前店から指定した姫路駅前エリアの9カ所に寿司を配送。顧客が携帯電話で注文および決済。到着すると注文者の携帯電話に通知
使用した自動配送ロボット:ZMPの「DeliRoR(デリロR)」
2)担当者の話(関西フーズ)
現在、実証実験の課題を精査していますが、できれば2023年夏から、姫路駅周辺で実用化したいと考えています。今後も人件費は上昇していくでしょうし、人手不足の問題もあるので、自動配送ロボットは今後の有力なデリバリー方法になると思っています。
実証実験で、安全性に関してはクリアしました。人が近くに来ると、きちんと停止するプログラムも機能しました。
姫路駅前という人通りの多い場所で実証実験を行ったことから、観光客などもいて、写真を撮りにロボットに近づく人もいました。そのたびに停止するので、配送に時間がかかることもありました。通行人がロボットに見慣れるまでは、このようなことは起こることが想定されます。実用化の際には、その辺も計算しなければならないと思いました。
どれくらいの件数を配送できれば採算的に見合うのか、これから精査します。姫路駅周辺でも、配送には往復で30分はかかるでしょう。導入する台数、1時間で運べる件数や、1回の配送で運べる量なども勘案する必要があります。
件数を多くこなすために、まずは店舗の近くで、需要の多い地域から始めます。とはいっても、売り上げを伸ばすためには、エリアを拡大していく必要もあると思っています。
競合としては、ウーバーイーツや出前館などのフードデリバリー事業者を想定しています。自動配送ロボットは、配送速度では勝てません。ですので、正確性や価格など、他の面で勝つしかないと思っています。このため、お客さまの利便性についても、実証実験の結果を精査していきたいと思っています。
5 実証実験3:山間部を想定した配送(広島県北広島町)
1)実証実験の概要
実験主体:広島県北広島町、Yper(東京都品川区、置き配バッグを製造販売)、コムズ(広島県広島市、中国地方でショッピングセンター8店舗を管理など)
実験日:2021年10月(5日間、規定のコースを18往復して配送)
実験場所:北広島町
実験の概要:北広島町のショッピングセンターの搬入口から、町有地を通って300メートル先の町役場に設置した特設BOXに、宅配物とショッピングセンターのスーパーでの購入品を配送。到着すると注文者の携帯電話に通知され、QRコードでBOXを開ける
使用した自動配送ロボット:Yper(現在はLOMBYが事業を継承)の「LOMBY(ロンビ-)」
2)担当者の話(北広島町)
北広島町は山間部にあり、高齢化が著しく、担い手も不足していますので、ラストワンマイルの課題解決の必要性を感じています。子育て世代の利便性も向上しますので、実証実験は町の課題解決につながる可能性のある取り組みだと考えています。
ただ、実証実験では、課題も感じました。実証実験では公道を使用しませんでしたが、公道の場合、特に中山間地域では、必ずしも路面状況が良いわけではありません。車道と歩道の境など、路上の段差やくぼみもあります。北広島町は冬が寒く、路面の凍結や積雪もあります。
また、実証実験では交通整理をしていたので安全性が確保されていましたが、公道では急に飛び出してくるような人もいるでしょうから、対応ができるのかどうか未知数の部分もありました。
実証実験では数名の町民にモニターになっていただきましたが、若い世代の方が多かったのもあって、配送物の受け取りでの混乱はありませんでした。
現時点では実用化に向けた計画はありませんが、先ほどお話ししたラストワンマイルの課題は認識しているので、機会があれば実用化したいとは思っています。ただし、やはり費用面が一番大きな問題になると思います。他の方法と比較して、費用対効果の高い方法を選択していくことになるでしょう。
6 自動配送ロボットの開発会社を紹介
紹介した実証実験以外にも、自動配送ロボットの実用化に向けた取り組みが進んでいます。自動配送ロボットの開発会社と主な取り組みをまとめて紹介します。関心のある方は、開発会社に問い合わせてみてもよいでしょう。
1.パナソニックホールディングス
自動配送ロボット:X – Area Robo
主な取り組み:茨城県つくば市でスーパーの商品を個人宅に配送(2022年5月~7月)
神奈川県藤沢市で医薬品や冷蔵品を個人宅に配送(2021年3月)
■パナソニックホールディングス「エリアモビリティ向けソリューション」■
https://holdings.panasonic/jp/corporate/mobility/solutions/areamobility.html
2.ZMP
自動配送ロボット:デリロ
主な取り組み:東京都中央区で飲食店とスーパーの商品を配送(2022年12月~2023年3月)
兵庫県姫路市で回転寿司店の商品を配送(2023年2月)
■ZMP「宅配ロボットDeliRo (デリロ)」■
https://www.zmp.co.jp/products/lrb/deliro
3.川崎重工業
自動配送ロボット:FORRO
主な取り組み:東京都新宿区で飲食店やスーパーの商品を配送(2023年1月~2月)
東京都墨田区で介護者向けの日用品や食事を個人宅に配送(2021年11月~12月)
■川崎重工業「配送ロボット」■
https://www.khi.co.jp/groupvision2030/deliveryrobots.html
4.本田技術研究所
自動配送ロボット:本田技術研究所が開発した車台に、楽天グループが開発した商品配送用ボックスを搭載
主な取り組み:茨城県つくば市の筑波大学構内や一部公道の約500メートルを走行(2021年7月~8月)
■本田技研工業「自動配送ロボット 実証実験の取り組み」■
https://www.honda.co.jp/future/EngineerTalk_deliveryrobo/
5.LOMBY
自動配送ロボット:LOMBY
主な取り組み:広島県北広島町で宅配物とスーパーの商品を配送(2021年10月)
■LOMBY■
https://lomby.jp/
以上(2023年4月)
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画像:onlyyouqj-Adobe Stock