書いてあること

  • 主な読者:アパレル、ブライダルなどの企業で、新商品の展開を検討している経営者
  • 課題:従来とは異なる客層を呼び込みたいが、どのようなアプローチがあるのか知りたい
  • 解決策:天然ダイヤモンドよりも品質に優れ、安価な合成ダイヤモンドは、若者を中心とした新たな客層を呼び込む商品となる

1 注目される合成ダイヤモンド

「ダイヤモンドは永遠の輝き」。これは天然ダイヤモンドのジュエリーに付けられた有名なキャッチコピーです。実は今、「永遠の輝き」は同じでも「価格は半分」という商品が脚光を浴びています。それが合成ダイヤモンドです。

高品質かつリーズナブルな価格の合成ダイヤモンドの登場で、価格面でジュエリーを購入しなかった若者の潜在ニーズの掘り起こしなどが期待されています。ジュエリー専業の企業の他、ブライダル、アパレルなども販売を始めており、2019年は「合成ダイヤ元年」だったとの見方もあります。

合成ダイヤモンド(本稿では、ジュエリー用の合成ダイヤモンド)の市場動向と、販売店のビジネスチャンスを探ります。なお、ヒアリング内容は2019年7月時点のものです。また、合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドの違いや製造方法などは最終章で紹介しています。

2 合成ダイヤモンドを取り巻く環境

高品質でリーズナブルな製品の登場などに加えて、次に挙げるようなさまざまな要因から、合成ダイヤモンドに対するニーズが高まっています。

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一部の天然ダイヤモンドは、紛争の資金源になっていることが問題視されており、こうした紛争に関わるダイヤモンドの輸出入は規制されています。また、この問題だけでなく、奴隷労働の温床、自然環境の破壊などから、一部の消費者の中には、天然ダイヤモンドの購入を避ける人もいます。

特にミレニアル世代などと呼ばれる若者は、エシカル消費(倫理的・道徳的な消費)に対する関心が高いとされており、リーズナブルであることなどを含めて、合成ダイヤモンドの主要な購買層として注目されています。

さらに、合成ダイヤモンドへの注目が一気に高まった出来事があります。それが2018年にデビアス社が自社グループで製造した合成ダイヤモンドを販売するジュエリーブランド「Lightbox Jewelry」を立ち上げたことです。

合成ダイヤモンドの専門商社で、日本グロウンダイヤモンド協会を設立したピュアダイヤモンドによると、「従来は合成ダイヤモンドの販売に消極的、懐疑的な企業が大半だったが、デビアス社の参入で潮目が変わった。2018年の後半から販売を開始したり、関心を持ったりする企業が一気に増えたと思う」とのことです。

また、さまざまな試算があるものの、「2022年までに日本の合成ダイヤモンドのジュエリー市場は、約720億円(天然ダイヤモンドのジュエリー市場は約6000億円、そのうちの約12%)になるとの見方がある」とのことです。

3 合成ダイヤモンドが抱える課題と可能性

1)合成ダイヤモンドは天然ダイヤモンド市場を壊す?

合成ダイヤモンドは市場の拡大が期待されています。また、販売の現場では、合成ダイヤモンドを扱うことで、若者などの新規顧客の開拓や客単価の向上などの効果が見込めるでしょう。実際に、バッグや時計などのセレクトショップを展開するハピネス・アンド・ディでは、合成ダイヤモンドの販売が、客単価と利益率のアップにつながっています(2019年8月期第2四半期決算説明会資料)。

一方、課題もあります。これまで天然ダイヤモンドを販売してきた企業にとっては、「合成ダイヤモンドは天然ダイヤモンドのニーズを奪い、市場を壊すのではないか」という懸念があります。この点については、業界の中でもさまざまな見方があります。

以降では、合成ダイヤモンドを販売する企業の動向やヒアリング結果などから、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドの販売の両立について考えてみます。

2)ブランディングが重要に

デビアス社は世界の天然ダイヤモンド産出の約30%を占め、上流から下流に至るまで天然ダイヤモンド市場に大きな影響力を持っています。そのデビアス社が、合成ダイヤモンドを販売する狙いはどこにあるのでしょうか。

「Lightbox Jewelry」の製品は、天然ダイヤモンドとは異なり、グレーディングをせずに販売していることや、0.25カラットは200ドル、1カラットは800ドルなど、価格が明確に示されているのが特徴といえます。

また、ジュエリーそのもののデザインや着用イメージなどは、カジュアルな雰囲気で統一されています。

以上を踏まえた上で、新聞報道やピュアダイヤモンドなどによると、「Lightbox Jewelry」の展開について、次のような狙いが指摘されています。

  • 合成ダイヤモンドの存在感が増していることから取り扱いは避けられない。さらに合成ダイヤモンドの市場についても自社がコントロールする
  • エシカル消費志向で、高価格な天然ダイヤモンドとは縁遠かったミレニアル世代などを取り込む
  • 合成ダイヤモンド=カジュアル、リーズナブル、天然ダイヤモンド=特別、高価格といったイメージを築くことで、天然ダイヤモンドの市場を守る

デビアス社の戦略は、合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドを差異化し、それぞれのブランディングをしっかりと行うことで、共存を目指していくということかもしれません。

このような合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドの共存について、ピュアダイヤモンドからは「腕時計の市場ではクオーツ式が登場しても、機械式がなくなることはなかった。ダイヤモンドの販売においても、合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドの共存は可能だと思う」という見方が示されました。

また、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドのジュエリーSHINCA(シンカ)の双方を取り扱う宝飾品の製販一貫企業・今与からも、「顧客に対して合成ダイヤモンドという新しい選択肢を示し、天然ダイヤモンドと共存させていくことを目指している」との声が聞かれました。

3)顧客に対してどのように訴求するか

差異化やブランディングを検討する上で重要になるのが、既存市場と新規市場のそれぞれに対して、既存製品(天然ダイヤモンド)と新規製品(合成ダイヤモンド)をどのように訴求するのかという点です。

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1.天然ダイヤモンドの場合

天然ダイヤモンドの販売を考える場合、品質や価格は重要な競争軸ですが、より重要なのは、たとえ合成ダイヤモンドのほうが高品質かつリーズナブルな価格であっても、天然ダイヤモンドを購入したいと考えるよう、顧客に訴求することです。

前述したピュアダイヤモンドへのヒアリングでは、クオーツ式時計と機械式時計の例が挙げられましたが、これがヒントになるかもしれません。スイスの機械式時計を手掛けるメーカーは、時間を知らせるという時計の機能面ではなく、職人が手作りしていることや高級感を前面に出すことで、クオーツ式との差異化を図ったとされています。

天然ダイヤモンドについても、希少性、古くからダイヤモンドが愛されてきた歴史やブランドの歴史など、合成ダイヤモンドにはない点を訴求する方法などが考えられるでしょう。

2.合成ダイヤモンドの場合

合成ダイヤモンドの販売を考える場合、前述した合成ダイヤモンドの優れた特長を前面に出して訴求していくことになるでしょう。

ピュアダイヤモンドによると、「自社の場合、ブライダル用の製品を求める顧客と、もともとジュエリーが好きという顧客がいる。どちらも、天然ダイヤモンドに比べてリーズナブルな点や、同じ予算でもカラット数の大きい製品が買えるなどの点にメリットを感じている」とのことでした。

とはいえ、一般的なジュエリー同様にデザインは重要な要素になるでしょう。今与によると、「価格を重視する顧客が多いが、ジュエリーのデザインを高く評価し、購入している顧客も多い」とのことです。

また、合成ダイヤモンドを販売する関係者からは、「プレゼントを購入するために来店する男性の顧客など、ジュエリーの購入経験が少ない人には、合成ダイヤモンドが天然ダイヤモンドに比べて、なぜ品質が高いとされているのかなどについて、データの裏付けを示しながら説明すると、とても反応が良い」との声が聞かれました。目新しく、人工的に製造されているからこそ、データなどの裏付けを示すことで、新しい市場を開拓できる可能性があるかもしれません。

4)製品の調達先

合成ダイヤモンドのジュエリーを調達する際は、商社などを通じて行うことになります。なお、合成ダイヤモンドの専門商社であるピュアダイヤモンドへのヒアリングによると、「日本国内では工業用の合成ダイヤモンドは製造されているが、ジュエリー用の合成ダイヤモンドを製造している企業はないと思う」とのことです。

合成ダイヤモンドは中国、ロシア、米国などで製造されていますが、現状日本国内の企業が販売しているジュエリーで使用されているダイヤモンドの多くが、米国のダイヤモンド・ファウンドリー社製のものです。同社などの合成ダイヤモンドを使って製品化して、販売することになるでしょう。また、同社では、合成ダイヤモンドそのものだけでなく、合成ダイヤモンドを使ったジュエリーも販売しており、こうした製品化されたものを販売する方法があるでしょう。

4 合成ダイヤモンドに関する豆知識

1)合成ダイヤモンドとは

合成ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドとは異なる「まがい物」と考えられがちですが、どちらもダイヤモンドであることに変わりはありません。化学成分や結晶構造、光学的・物理的特性は、天然ダイヤモンドも合成ダイヤモンドも同じだからです。

天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドの大きな違いは、数万年から数億年という長期間を掛けて自然の中で育まれたのか、数週間という短期間で人工的に研究室や工場で製造されたのかという点にあります。合成ダイヤモンドは研究室(ラボ)などで製造されることから、「ラボグロウンダイヤモンド」などと呼ばれることもあります。

天然を含めて世界最大のダイヤモンド市場である米国では、2018年に連邦取引委員会(FTC・消費者政策を統括する行政機関)が、ジュエリーに関するガイドライン(Jewelry Guides)を改定し、ダイヤモンドの定義を「天然」に限定しないことを決定しています。

2)製造方法

合成ダイヤモンドの製造方法には、自然と同じ条件を機械の中に作り、炭素に高温と高圧をかけて製造する高温高圧法(HPHT法)と、炭化水素ガスと水素との加熱混合物を積層して製造する化学蒸着法(CVD法)の2種類があります。

特に、CVD法はカラット数が大きく、高品質な合成ダイヤモンドを製造できることや、HPHT法と比べるとコントロールする要素が少ないなどのメリットがあり、近年の合成ダイヤモンドの製造ではCVD法が使われることが多いようです。

3)優れた特長

ダイヤモンドの価値は、カラット(重量)、カラー(色)、クラリティー(透明度)、カット(研磨)の4要素で決まるといわれます。合成ダイヤモンドが天然ダイヤモンドに比べて優位なのは、カラット、カラー、クラリティーを、ある程度コントロールできる点です。

例えば、合成ダイヤモンドは、10カラットを超えるような大きなものも製造できます。

自然の中で形成される天然ダイヤモンドは、炭素原子以外の不純物(窒素など)が含まれやすく、不純物を含まないものは全体の2%未満と希少です。一方、合成ダイヤモンドは、不純物を含まずに製造できるため、高い透明度を誇り、美しい輝きを持ちます。

また、ピンクダイヤモンドなどのカラーダイヤモンドは自然界では非常に希少ですが、合成ダイヤモンドでは一部のカラーダイヤモンドを狙って製造することができます。

これらの他、リーズナブルな価格で安定的な製品供給ができる点も魅力とされます。技術革新が進んだ現在、CVD法による合成ダイヤモンドの製造コストは、品質などによって異なりますが、1カラット当たり約300~500ドルが目安とされます。また、合成ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドの約30~50%の価格で販売されています。

以上(2020年8月)

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画像:pexels

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