書いてあること
- 主な読者:鉄道の高架下の空きスペースを活用してみたい経営者
- 課題:事業に使える高架下のスペースはどこで探せるのかを知りたい
- 解決策:鉄道会社やその関連会社が高架下の空きスペースの有効活用策を募集していることがあるので、こまめにチェックする
1 今、高架下が熱い!
突然ですが、「鉄道の高架下」と聞いて、どんなイメージが思い浮かぶでしょうか?
「ガード下といえば飲み屋街」という人もいるかもしれませんが、高架下というと、駐輪場や駐車場、レンタル倉庫くらいにしか使えない場所と思われがちでした。しかし、そんなイメージから一転、高架下の新たな活用が各地で始まっています。なぜ今、高架下に熱い視線が向けられているのか、その背景には次のような要因が考えられます。
- 「開かずの踏切」による交通渋滞や地域分断が問題となり、その解消策として鉄道の高架化(連続立体交差事業)が進められてきた
- 駅近、屋根があり天候の影響を受けない、電車が通るため多少騒がしくしても騒音がかき消されるなど、他の立地よりも良い条件が整っている
- 建築技術の向上により、高架下の振動・騒音対策が進歩している
- 鉄道会社が収益確保策の一環として、高架下の空きスペース活用に注力し始めた
高架下の土地は基本的に鉄道会社が所有していますが、行政と鉄道会社の間の取り決めで、線路が立体交差化されたことにより生まれた空間は、その約15%までは公共目的に利用できるとされています。そのため、高架下は飲食・物販店舗に限らず、保育園や図書館、大学のキャンパスが誘致されるなど、幅広く活用されるようになりました。
この記事では、鉄道の高架下を活用している事例の特徴や、事業に使えるスペースの探し方などを紹介します。
2 高架下での事業展開事例 どのような特徴がある?
1)賃貸物件
西武リアルティソリューションズ(東京都豊島区)は、西武池袋線の桜台駅と練馬駅間の高架下で賃貸ユニットハウスの「エミキューブ桜台(全4室)」と「エミキューブ桜台Ⅱ(全4室)」を手掛けています。
駅近で小規模かつ独立した物件や、多目的に利用できる屋外スペースが少ないといった課題を解決する
ために作られました。
建物は個人のテレワークとしての場所に限らず、法人登記、名刺やホームページでの住所表記も可能としています。
高架下での賃貸物件は他の場所でも事例があります。
例えば、近鉄不動産(大阪府大阪市)では、LDK(東京都中央区)と共同で、近鉄南大阪線および近鉄奈良線の3カ所の高架下でガレージハウスを手掛けています。ガレージハウスは戸建てかつ洗車可能な駐車場付きで、1階が車やバイクを止めておけるガレージ、2階が居住スペースとなっています。
鉄道の駅や高速道路も近い立地かつ、ガレージハウス真上の高架は継ぎ目の少ない線路のため、振動も伝わりにくいという特徴があります。
2)キャンプ練習場
ジェイアール東日本都市開発(東京都渋谷区)は、JR山手線秋葉原駅と御徒町駅間の高架下でキャンプ練習場の「campass」を手掛けています。
鉄道運行の妨げにならないよう、火気の取り扱いは禁止されていますが、高架下にあることで、
雨でも天候を気にせず設営、撤収ができるだけでなく、駅からのアクセスが近いため、利用者が急な体調不良や予定変更になった場合でも無理せず帰宅できる
ことがメリットとなっています。
また、JR西日本不動産開発(大阪府大阪市)でも、東海道本線の神戸駅から徒歩3分の高架下で日帰りキャンプやバーベキューなどのお試しキャンプが体験できる施設「神戸D51-PARK」を手掛けています。
3)工場、カフェなどの複合施設
DaLa木工(愛知県名古屋市)は、JR中央本線の高架下で複合施設の「24PILLARS」を手掛けています。カフェや同社が製作した家具を展示販売するギャラリー、DIYができるスタジオ、同社の製作工場があります。
同社の木工職人の間でワークショップを開きたいという話が出たのがきっかけとしています。また、社長が車の運転中に通りかかった際に現在の高架下のスペースを見つけ、JR東海と交渉した結果、スペースの半分を工場、半分をカフェやギャラリーにする形態になったといいます。
4)植物工場
JR東日本商事(東京都渋谷区)は、プランツラボラトリー(東京都西東京市)、芙蓉総合リース(東京都千代田区)と提携して、埼玉県さいたま市、東北新幹線の高架下でレタスやグリーンリーフの栽培に取り組んでいます。
栽培にはプランツラボラトリーが手掛ける屋内農場システムの「PUTFARM」を使用しており、高架下での栽培は、
日当たりが良くない分温度管理の手間がかかりにくいことや、駅近なので、鮮度を保ちつつスーパーなどにレタスやグリーンリーフの出荷が可能
といったメリットがあります。
高架下での植物工場は他の鉄道会社でも取り組みが進んでいます。例えば、東京地下鉄(東京都台東区)とメトロ開発(東京都中央区)では、東京メトロ東西線の西葛西駅から葛西駅間の高架下でレタス、ベビーリーフ、バジルなどを水耕栽培しています。
また、阪神電気鉄道(大阪府大阪市)でも、子会社の阪神ステーションネット(大阪府大阪市)が主体となって、阪神本線の尼崎センタープール前駅高架下で「HANSHIN清らか野菜」の名称でフリルレタスなどを栽培しています。
5)スケートボードパーク
東京地下鉄(東京都台東区)は、東京メトロ日比谷線の南千住駅付近の高架下でスケートボードパークの「RAMP ZERO」を手掛けています。この施設は、新規事業の創出が目的の社内事業開発プログラム「メトロのたまご」で、東京メトロの社員から提案されたもので、提案した社員自身が事業の検討や運営に携わっています。
入退場はスマートロックと予約管理システムを連携した事前決済方式を採用しており、利用当日は無人受付で利用できます。
一般的に、スケートボードは滑る際の騒音が問題になりがちですが、
高架下にスケートボードパークがあることで、騒音を気にせずスケートボードを楽しめる
ことがメリットとなっています。
6)オフィス
名古屋ステーション開発(愛知県名古屋市)は、東海道新幹線の高架下に「ささしま高架下オフィス」を建設し、供用しています。現在はスタートアップ企業のスタメン(愛知県名古屋市)が入居しています。
オフィスは木造2階建てで、2階部分は高架下から外に突き出た形をしています。地上部分に通路を確保しつつ、2階のオフィス空間を広く確保している点が特徴です。
また、使用する木材も高機能繊維と木材のハイブリッド素材を活用することで、耐久性を確保し、柱の無い開放的な空間を実現しているといいます。
7)スポーツ・コミュニティ施設
京浜急行電鉄(神奈川県横浜市)は、京急本線の日ノ出町駅から黄金町駅間の高架下でスポーツ・コミュニティの複合施設を手掛けています。
施設は横浜SUP倶楽部(神奈川県横浜市)が運営する、SUP(スタンドアップパドルボード)のスクールをはじめ、ラジオの生放送やヨガなどのワークショップができる横浜SUP倶楽部/「River Station」と、水辺荘(神奈川県横浜市)が運営する、SUPのツアーの実施や会員向けに関連用品を販売する「水辺荘」があります。
京急電鉄では、スポーツ拠点の整備だけでなく、水上交通の実証実験、横浜市役所周辺や伊勢佐木町、元町・中華街など関内・関外地区との広域連携を通じて、エリア全体を活性化することを狙いとしています。
8)創業支援施設
タウンキッチン(東京都小金井市)は、JR中央線東小金井駅の高架下で「コウカシタ・ヒガコインキュベーション」として創業支援施設などの運営を手掛けています。コウカシタ・ヒガコインキュベーションは、次の3つの施設で構成されています。
- 東小金井事業創造センターKO-TO(コート):小金井市がする公共施設。シェアオフィスとして利用できる他、個別創業相談やセミナーを通じて小金井市内の創業支援を行う
- PO-TO(ポート):店舗・工房・ショールームを併設できるシェアオフィス
- MA-TO(マート):店舗・キッチン・教室・工房・ガレージなどがあり、自分のオリジナル商品を作製して販売できる施設
これらの施設は、JR中央ラインモール(現:JR中央線コミュニティデザイン:東京都小金井市)が推進する、JR中央線の三鷹~立川駅間の沿線価値の向上を図る取り組みの「中央ラインモールプロジェクト」の一環として開設されたものです。
店舗・工房・ショールームを併設できるシェアオフィスがあることで、オフィス以外の設備が開業に必要となる層のニーズに応えられたり、3つの施設が隣接することで、利用者同士でチームを組んで仕事をする連携が生まれたりするなどの成果が出ているといいます。
9)親子で利用できる遊び場、コミュニティー施設
ボーネルンド(東京都渋谷区)は、阪急電鉄京都本線の洛西口駅と桂駅間の高架下で「京都市交流促進・まちづくりプラザ」を手掛けています。京都市が建設、ボーネルンドが施設プロデュースと管理運営を担っています。
施設は、6カ月から12歳までの子どもが親子で遊べる「ガタゴト」、地域住民の交流の場となる「プレイフルカフェ」、絵本や児童書をそろえ、子育てや地域の情報も調べられる「ライブラリー」、サークル活動やセミナーの場として利用できる「多目的室」があります。ガタゴトは高架下にあることで、天候を気にすることなく外で遊ぶことができるスペースもあります。
3 鉄道の高架化は今後どのくらい進むのか
1)鉄道を高架化することの効果
鉄道の高架化は「連続立体交差事業」と呼ばれています。自治体や鉄道会社が工事の主体となり、線路を連続的に高架化や地下化して複数の踏切を除去することで、次のような効果が生まれます。
- いわゆる「開かずの踏切」を除去することで、交通渋滞や踏切事故を解消する
- 新しく生まれた高架下の空間を活用することで、地域の利便性が向上する
- 鉄道で分断されている市街地が一体化し、地域の活性化につながる
全国連続立体交差事業促進協議会のウェブサイトによると、全国連続立体交差事業は全国で168カ所が事業完了、38カ所で事業が進んでいるとされています(2024年10月時点)。
また、各自治体や鉄道会社のウェブサイトでも、連続立体交差事業の対象区間や進捗を確認することができます。
■全国連続立体交差事業促進協議会「事業一覧」■
http://www.renritsukyo.jp/list/
2)高架下の空きスペースはどのように探す?
高架下の空きスペースは、鉄道会社や関連会社のウェブサイトで空き情報や契約形態などを確認できます。例えば、次のようなウェブサイトがあります。
■ジェイアール東日本都市開発「物件検索」■
https://www.jrtk.jp/search/
■東京都営交通協力会「高架下使用者募集区画」■
https://www.tkk.or.jp/tenant/20240514.html
■京成電鉄「不動産情報」■
https://www.keisei.co.jp/keisei/kaihatu/rent.php
■JR西日本不動産開発「賃貸物件」■
https://www.jrwd.co.jp/tenant/search/
■近鉄不動産「商業施設 出店募集一覧」■
https://www.kintetsu-re.co.jp/leasing/
なお、鉄道の高架下という特性上、借り主自らが建物を建築できず、スペースの管理者が代わりに建築する必要があったり、鉄道部門や行政との協議が一定期間必要だったりする場合があります。また、賃料や契約期間などの条件も場所によって大きく異なるため、注意が必要です。他にも、高架下のリニューアルなどで不動産会社が鉄道会社と契約を締結し、テナントの募集や物件の管理を手掛けている場合もあります。近くで高架下のリニューアルがある際には、空き物件がないかどうか探してみると良いでしょう。
以上(2024年11月作成)
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