書いてあること
- 主な読者:環境に優しい新商品づくり、脱炭素ビジネスに取り組みたい経営者
- 課題:環境への配慮のインパクトが大きく、コスト面でも有利な素材を知りたい
- 解決策:「海藻」の活用を検討する。廃棄されていた海藻を原料にすることで、コスト削減や地域の活性化につなげている企業などの事例を参考にする
1 「厄介者」だった海藻がSDGsで再評価
企業にとって「新商品の開発」や「環境への配慮」は重要な課題ですが、その両方をかなえる手段として、
「海藻」を原料にした新商品づくり
をご提案します。
これまで海藻は、わかめや昆布など一部の食材を除けば、多くは漁船や養殖の網に絡みついたり、砂浜に漂着して長時間放置しておくと悪臭や虫が発生したりする「厄介者」でした。ですが、近年では、海藻の「ヘルシーさ」以外に次のような特徴も評価され、注目を集めています。
- 海岸に打ち上げられたり、廃棄されたりしていた海藻を、低コストで活用できる
- 海藻を穀物飼料に混ぜて牛や豚などの家畜に与えると、肉に含まれる栄養価が高くなり、げっぷなどのメタンガスも抑制される
- 生分解性プラスチック、燃料、肥料などに活用できる
- 二酸化炭素の吸収量が多く、カーボン・オフセットに利用できる
この記事では、実際の企業が取り組む海藻を使った新商品づくりの事例を紹介します。環境に優しい新商品づくりを検討する際の参考としてお役立てください。
2 海藻を活用した新商品が続々と誕生
まずは、海藻を原材料にした新商品の事例を紹介します。新商品の方向性について、縦軸を「高付加価値化や地域の活性化につなげる/廃棄されていた材料を活用してコスト削減を図る」、横軸を「健康に配慮した商品を作る/環境に配慮した商品を作る」に分けると、次の通りになります。
1)希少海藻「まつも」を使ったバターで地域産業の活性化に:阿部伊組
総合建設業の阿部伊組(宮城県南三陸町)では、南三陸の希少海藻であるまつもの陸上養殖に取り組んでおり、養殖したまつもを使用した海藻クラフトバター「三陸海藻バター」を販売しています。
まつもはビタミンA・E、葉酸が豊富な海藻ですが、採藻の期間が限られ、流通量が少ない希少な海藻です。そこで、陸上養殖に取り組むことで、収穫量の減少と地域の働き手減少の課題解決に取り組んでいます。
2021年5月には、南三陸ワイナリーとのコラボイベントを開催しました。イベント参加者とECサイトでの販売分を含め150個を販売して、第1弾の一般販売は完売となる盛況ぶりでした。
2)捨てられていた海藻を加工して売上UPへ:海藻開発コンブリオ
加工品販売や飲食店を手掛ける海藻開発コンブリオ(青森県青森市)では、海藻の「ツルアラメ」を原料に使ったハンバーグや即席スープなどを販売しています。
ツルアラメは繁殖力が強く、コンブの成長を妨げる海の厄介者として、取れても捨てられていたといいます。同社では、ツルアラメに食物繊維やポリフェノールが豊富に含まれ、生活習慣病の予防や美容に効果があることに着目し、商品開発に取り組んでいます。
3)海藻を餌にしたブランド豚を育成:臼井農産
畜産事業者の臼井農産(神奈川県厚木市)では、海岸に打ち上げられ、廃棄されていた海藻を餌にした、ブランド豚の「鎌倉海藻ポーク」を育成しています。海藻を食べて育った豚は、うまみ成分のオレイン酸が通常の豚よりも多く含まれており、脂の融解温度が低く、口の中で早くとろけるといいます。
料理研究家の矢野ふき子氏が海岸に打ち上げられていた海藻を豚の餌に活用できないかということをきっかけに始まった取り組みで、餌となる海藻の回収や加工は、地域の障害者福祉施設や老人ホームの利用者などが担っています。この水産資源の有効活用や障害者の社会参画にもつながる仕組みづくりは高い評価を受け、2020年1月には、農林水産省の6次産業化・地産地消法「総合化事業計画」の認定も受けています。
4)漂着した海藻でアルギン酸を製造、温暖化対策と地域貢献へ:キミカ
アルギン酸メーカーのキミカ(東京都中央区)は、漂着した海藻を活用して、アルギン酸(海藻のぬめりの主成分で、食物繊維の一種です)を製造しており、アルギン酸の国内市場で9割以上のシェアを誇っています。
原料は、南米・チリの海岸に漂着した硬くて食用にできず、使い道がない海藻です。漂着した海藻は腐ると二酸化炭素を排出するため、腐る前に回収することで温暖化対策につながります。また、現地の海藻集荷会社を系列化し、海藻の常時買い取り備蓄体制を整えたことで、漁業者の収入の安定化と生活向上にも貢献しているといいます。
アルギン酸を抽出した海藻の残りは、ミネラル豊富な肥料として活用し、チリの自社工場周辺の農家に無償で提供しています。
5)「サルガッサム」を原料とする生分解性プラスチックを開発:GSアライアンス
脱炭素、カーボンニュートラル社会構築に向けた、環境、エネルギー分野における最先端技術、材料を研究開発するGSアライアンス(兵庫県川西市)では、カリブ海で大量発生して問題となっている海藻「サルガッサム」を原料とする、生分解性プラスチックを開発しました。
国連のスタートアップ企業サポートプログラムである、UNOPS GIC KOBEの支援により試作されたこの生分解性プラスチックは、100%天然バイオマス組成であり、石油系の材料を一切使用せず、廃棄後は微生物などに全て分解される特性があります。最近は、量産時における低コスト化にも成功しており、スプーン、フォーク、食品パッケージなどの食器や農業資材に加工し、環境意識の高い欧州、米国などでの需要を見込むとしています。
6)海藻のフノリエキスをヘアケア製品へ応用:シー・アクト
海藻資源の研究開発などを手掛けるシー・アクト(東京都千代田区)は、福井県立大学生物資源学部と共同で、海藻のフノリエキスを用いたヘアケア製品を開発しました。
フノリは絹織物ののり付け、日焼け対策、洗髪料などに利用されてきた海藻です。これまでフノリの効能は科学的に証明されていませんでしたが、粉末を水に溶かして精製したフノリエキスを人の毛髪や皮膚に塗布することで、毛髪や肌の水分量が増加したり、髪のくし通りが良くなったりしたなどの効能が証明されたことから、製品開発に乗り出したといいます。
開発したヘアケア製品は「天使のリング」の商品名で販売しています。海藻のにおいはなく、無色無臭で洗髪剤や化粧品として活用しやすく、天然素材を重視した商品やノンシリコンシャンプーの素材として、企業向けに売り出されています。
7)海藻の炭素を製鉄利用へ応用:日本製鉄
鉄鋼メーカーの日本製鉄(東京都千代田区)では、日鉄ケミカル&マテリアル(東京都中央区)、金属系材料研究開発センター(東京都港区)と共同で、海藻を生産して、製鉄プロセスの中で利用するサプライチェーンの構築に取り組んでいます。
この取り組みでは、臨海製鉄所という地の利を活かして海藻を生育し、その海藻を炭材や炭素材料として応用が可能かどうかを調査しています。
海藻のカーボンニュートラル材としての検討は、世界的に例がない研究とされており、この取り組みは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/ブルーカーボン(海洋生態系による炭素貯留)追及を目指したサプライチェーン構築に係る技術開発」に採択されています。
3 原材料以外でも広がる海藻の活用方法
このように、海藻を活用した新商品づくりや地域・環境への貢献活動はさまざまです。ここでは、海外での研究事例も含めた海藻の原材料以外での活用方法や、新たな海藻関連の動向を見てみましょう。
1)海藻を家畜の餌にすることで、地球温暖化対策に
海藻を餌にした家畜は、前章で紹介した「鎌倉海藻ポーク」のように、海藻を与えない場合と比べて肉の栄養価が高くなるだけでなく、げっぷやおならとして放出されるメタンガスが減少し、地球温暖化対策になるともいわれています。
例えば、豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)が行った研究では、海藻の「カギケノリ」を配合した飼料を牛に与え、90日間にわたり牛がげっぷやおならとして放出するメタンガスの排出量を測ったところ、海藻を与えない場合と比べてメタンガスの排出量が98%減少したといいます。
2)海藻をバイオ燃料や肥料に変換
海藻を燃料や肥料として活用する研究も進んでいます。例えば、イギリスのエクセター大学とバース大学が共同して、海藻をバイオ燃料として生成するための研究を行っています。
この研究では、通常のバイオマス処理で必要となる海藻を真水で洗って乾燥させる方法を使わず、酸性と塩基性の触媒を使い、海藻からパーム油の代替品を生み出す原料の糖を取り出したり、海藻を高温高圧にさらして燃料や肥料のもととなるバイオオイルに変換したりしています。
また、この方法では、海岸で集められたプラスチックもエネルギー源として海藻と一緒に処理が可能としており、今後のさらなる研究開発が期待されています。
3)国土交通省が二酸化炭素の吸収源として「ブルーカーボン」の活用を検討
国土交通省は、「ブルーカーボン(藻場や干潟などの海洋生態系に蓄積される炭素)」を二酸化炭素の吸収源として活用するため、2021年より検討会を設置しました。検討会では、干潟や藻場の保護活動によって得られる二酸化炭素の削減分を、排出権として取引する仕組みづくりなどを進めています。
ブルーカーボンに関しては、建設業などの一部の企業で海藻を人工的に培養したり、護岸などの港湾構造物へ海藻を着生させたりすることで、藻場の再生や海藻による二酸化炭素吸収効果の拡大に取り組んでいます。
4)地方自治体による「ブルーカーボン・オフセット」の取り組み
地方自治体の中には、国に先駆けて排出権の取引などを進めているところがあります。
例えば、福岡県福岡市では、「福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度」を導入しています。この制度は、博多湾のアマモがため込んだ二酸化炭素の吸収量を「クレジット」として0.1トン当たり800円(税別)で販売し、売り上げをアマモ場の整備など、生物のさらなる育成に役立てる仕組みです。
企業や市民は、このクレジットを購入することで、自分たちの努力や工夫では減らせない二酸化炭素の排出量を相殺し、脱炭素の取り組みとしてアピールできます。
なお、令和4年度の「博多湾ブルーカーボン・クレジット」は2022年7月25日時点で購入希望者の募集は行っていませんが、福岡市の担当課によると、準備が整い次第、令和4年度分についても購入希望者の募集を開始するとしています。
以上(2022年8月)
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画像:shutterstock-divedog