書いてあること
- 主な読者:農業の法人化を検討している事業主
- 課題:法人化に当たり、どのような形態が向いているのかを知りたい
- 解決策:農事組合法人は、内部自治が認められており、1つの集落内にある複数の農家が共同出資をして手掛ける「集落営農」を法人化したい場合に適している
1 農業法人の区分と法人化するメリット
1)農業法人と農地所有適格法人の区分
農業法人とは、法人形態で農業を営む農家の総称です。農業法人の区分は次の通りです。
2)農業経営を法人化するメリット
1.経営意識の転換
農地所有適格法人になることで、農業経営に掛かる経費と家計の明確な区別が必要となり、コスト削減を意識するなど、農家が経営責任に対する自覚を持ちやすくなります。
2.対外信用力の向上
農地所有適格法人には財務諸表の作成が義務付けられているため、経営内容を数値で示すことができ、金融機関や取引先への対外信用力が向上します。
3.農業従事者の福利厚生面の充実
農地所有適格法人になることで、農業従事者の福利厚生を充実させやすくなり、外部からの新規就農者が見込みやすくなります。
4.機械・設備費の削減
経営を一本化することで機械や設備を共有することができ、効率的な利用やコストの削減が可能となります。
5.税制上の優遇
農地所有適格法人の場合、課される法人税が定率課税となる、役員報酬が損金として処理できる、欠損金の繰り越し控除が可能な期間が9年間(個人の場合は3年間)になるなどの税制上の優遇措置があります。
2 農事組合法人の形態を取る農地所有適格法人の概要と設立手続き
1)農事組合法人の概要
農事組合法人の根拠法は「農業協同組合法」(以下「農協法」)です。同法第72条の4において、農事組合法人の目的は「構成員共同の利益増進」とされており、構成員の公平性が重視されます。
農事組合法人(2号)になるためには、3人以上の自ら農業を営む個人または農業に従事する個人(以下「農家」)が共同して出資しなければならず、構成員は全員が原則として農民等(注)でなければなりません。1人当たりの出資額は全体の50%以下とする制限が設けられており、また、議決権は出資額にかかわらず1人1票制とされています。従って、農事組合法人(2号)は、等質的で対等な小規模農家が共同して規模の拡大または経営の効率化を図るといった目的がある場合に適しています。
(注)農民等とは、農事組合法人(2号)の構成員要件として、自ら農業を営む個人または農業に従事する個人の他、農協、農地保有合理化法人、農事組合法人から物資の供給または役務の提供を受ける者が含まれます。
北海道農業経営局農業経営課「農地所有適格法人制度の概要」によると、農事組合法人の概要は次の通りです。
農事組合法人は、設立時に組合員から1人以上の理事を選任します。それ以外の機関設計や運営については、組合員同士の話し合いによる内部自治が認められており、定款に定める内容の自由度が高いといえます。このため、集落内の複数の農家が共同出資して農産物の生産を行う「集落営農」を法人化する場合に、農事組合法人の形態が選択されることがあります。
農事組合法人は株式会社へ組織変更することができます(農協法第73条の2、同法第73条の3)。一方で、農事組合法人から合同会社・合名会社・合資会社への組織変更は法律上の規定がないため、一度解散の手続きを取る必要があります。
2)農事組合法人の設立手続き
農事組合法人の定款への記載事項は、農協法第72条の16によって規定されています。
農林水産省「農事組合法人設立までの流れ」によると、農事組合法人設立の手続きは次の通りです。
農事組合法人の設立には、定款の認証や設立時の調査などが不要であり、会社法人である農地所有適格法人の設立に比べて、簡素な手続きで済みます。
農事組合法人の設立を管轄する官公庁は都道府県です。ただし、活動範囲が複数の都道府県をまたぐ場合は所轄の農政局に届け出をします。
また、農地の権利(所有または賃借により農地を耕作する権利)を持つ法人であるため、農事組合法人の設立の際には、各市町村の農業委員会に対して農地の権利の許可を申請する必要があります。
以上(2019年4月)
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