書いてあること
- 主な読者:食品ロスを削減したい食品関連事業者
- 課題:食品ロス削減は話題になっているが、法改正なども多く、動向をしっかりと押さえられていない
- 解決策:食品流通のバリューチェーン全体で、商慣習を見直し、業態をまたいだ取り組みについて、検証などを進める
1 食品ロスの問題とは
一般的に、食品ロスとは食品廃棄物のうち、本来商品として製造・調理されたものの、容器の損傷や賞味期限切れ、食べ残しなどにより廃棄される可食部廃棄物を指します。 以前より食品ロスの問題は存在していたものの、国際的に削減の機運が高まったのは、2015年9月に開催された国連サミットで採択された、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)といわれています。SDGsにおいて、食料の損失、廃棄の削減について目標が設定されました。
さらに日本国内においては、2018年2月に「恵方巻きの大量廃棄」などの問題が注目を集めるなどして、消費者の食品ロス削減への関心が高まってきています。
こうした中、2019年5月に「食品ロスの削減の推進に関する法律(以下「食品ロス削減推進法」)」が成立するなど、政府による食品ロス削減の取り組みも進められています。
食品ロス削減は、食品関連事業者全体に関連する問題です。現状では大手企業を中心に取り組みが進められていますが、社会的な関心事となっていることから、今後は取引先などから対応が迫られる可能性があり、中小企業にとっても重要なテーマでしょう。
本稿では、食品廃棄物を巡る法改正、食品関連事業者全体での取り組みを整理するとともに、食品関連事業者の中でも最も食品廃棄物量の多い食品製造業に注目して、食品ロス削減に向けた取り組みを紹介します。
2 食品廃棄物を巡る動き
1)食品ロス削減に関する状況
食品ロスの問題が注目される以前から、食品関連事業者では、食品廃棄物の発生抑制や再利用に向けた取り組みが進められてきました。2001年5月には食品関連事業者を対象にした「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(以下「食品リサイクル法」)」が施行されています(最終改正2007年)。
さらに消費者の食品ロスに対する関心の高まりや、国際的にも食品ロス削減への取り組みが求められていることから、2019年5月に「食品ロス削減推進法」が成立し、2019年11月30日までに施行される予定です(2019年7月19日時点)。
食品ロス削減推進法では、国、地方公共団体、事業者、消費者など社会全体で食品ロス削減に取り組むとしており、そのために国、地方公共団体、事業者、消費者の責務などについて定められています。
事業者の責務として、国または地方公共団体が実施する食品ロス削減に関する施策への協力や、食品ロス削減への積極的な取り組みに努めるものとすることが定められています。また、国が食品関連事業者等の食品ロス削減の取り組みに対する支援に関する施策を講じる旨なども盛り込まれています。
2)食品ロスの発生状況
国内の食品廃棄物等の内訳(2016年度)は次の通りです。
図表1では詳細を紹介していませんが、食品関連事業者のうち、食品廃棄物の発生量が最も多いのは食品製造業であり、次いで外食業となっています。
一方、食品ロスの発生量の割合に目を向けると、食品製造業は最も低く、外食業が高い傾向にあります。一般的に、食品ロスは最終消費の段階で発生することが多く、外食業や家庭での発生が多い傾向にあります。
とはいえ、詳細は後述しますが、外食などでは持ち帰りによる対応などの取り組みがあるものの、食品ロスに対する消費者の意識の変革などが進まなければ、最終消費の段階で発生する食品ロス削減への取り組みは限られているのが現状です。
3)発生抑制目標値
2019年7月12日には「食品循環資源の再生利用等の促進に関する基本方針(以下「食品リサイクル法の基本方針」)」に関する告示が出され、食品関連事業者の食品ロス削減の目標について、2030年度までに2000年度比で食品ロスの発生量を半減させる方針が示されました。
これを受けて、食品関連事業者のうち該当する業種について、取り組むべき食品廃棄物の発生抑制の判断基準となる目標値(以下「発生抑制目標値」)が改正されました。
改正前の発生抑制目標値は、食品廃棄物等多量発生事業者(注)の数値を基に、該当事業者の約7割が達成している発生抑制量に基づいて2014年度に設定されたもので、2018年度には該当事業者の約9割が達成しています。そのため、新たに2023年度を目標として発生抑制目標値が見直され、新たに一部の業種において設定されることになりました。
発生抑制目標値については、農林水産省のウェブサイトなどで確認できます。
今後できるだけ多くの業種に対して発生抑制目標値の設定が検討されていることから、該当する業種以外でも、食品ロス削減の努力が求められています。なお、発生抑制目標値は、あくまで業種によって求められる発生抑制量の判断基準として設定されたものであり、数値を超過したからといって、直ちに行政による指導等が入るものではありません。
ただし、食品ロス削減推進法では著しく発生量の多い事業者には、自治体などによる改善指導を行うことや指導によって改善されない場合には、事業者名を公表することなどが定められています。
取り扱う食品の種類などによっても異なるため、一概には判断できませんが、該当する業種においては、発生抑制目標値が、食品ロス削減のための業務改善を行う際の1つの判断基準にすることができるかもしれません。
(注)2009年度より、食品廃棄物等の前年度の発生量が100トン以上の食品関連事業者は、毎年度、主務大臣に対して食品廃棄物等の発生量や食品循環資源の再生利用等の状況を報告することが義務付けられました。
3 食品関連事業者における食品ロス削減への取り組み
食品ロスの問題は、個々の企業で取り組むだけでなく、食品流通のバリューチェーン全体で、商慣習を見直すことなどが求められています。そのため、業態をまたいだ取り組みについて、検証などが進められています。
1.商慣習(3分の1ルール)の見直し
いわゆる「3分の1ルール」といわれる商慣習が見直され始めています。消費者はより生産から日の浅い商品を好む傾向があるため、小売の現場では、賞味期限の3分の1を超える商品の納品を受け付けないという商慣習がありました。
現在、こうした商慣習を見直し、賞味期限の2分の1までの商品であれば、納品を受け付けるとする取り組みが進められています。
2.賞味期限の延長(年月表示)
賞味期限が6カ月を超える加工食品では、賞味期限表示を「年月日表示」から「年月表示」に変えることが検討されており、見直しに向けた実証実験などが行われています。年月日表示で管理されている場合、商品ごとに賞味期限が異なるために、納品のタイミングを商品ごとに調整する必要がありました。賞味期限を延長することで、納品のタイミングをまとめるなど効率化ができ、流通段階での食品ロス削減が期待されています。
3.フードバンクの活用
フードバンクとは、衛生面や味などの点では問題ないものの、包装容器の破損や規格外品、賞味期限が迫っているなどの理由から、通常の販売に適さないとされた商品を福祉施設などに提供する事業です。
食品を提供する企業にとっては、廃棄物として処理する場合に比べて、処理費用を抑えられるといったメリットがあります。また税制上、賞味期限前の食品を企業がフードバンクに提供した場合、寄付金として損金扱いとされます。食品ロス削減推進法においても、今後フードバンクの活用を推進することが明記されています。
一方、フードバンクの普及には課題も指摘されています。例えば提供される食品の量や品目が一定ではないことや、食品の受け入れ先となる施設の確保が難しいといった点が今後の課題といわれています。
4.フードシェアリングサービスの利用
フードシェアリングサービスとは、例えば、食品小売業が事前に会員制サイトに登録し、賞味期限が近づいて売れ残りそうな商品をウェブサイトに掲載すると、会員である消費者が割引価格で購入することができるといったサービスです。
こうしたネット上のマッチングサービスであれば、普段自店を利用しない消費者を取り込むことができます。そのため、店舗にとって廃棄コストを削減できるだけでなく、販促にもつながるとして注目されています。また、食品製造業と小売や消費者を対象にした同様のマッチングサービスも登場しています。
4 食品製造業に求められる食品ロス削減の取り組み
1)原材料の調達から納品に至るまでの工程で発生する食品ロス
以降では、原材料の調達から納品に至るまでの各工程における食品ロスの発生要因と、各工程の食品ロス削減に役立つ取り組みを紹介します。
自社の食品ロスの削減に取り組む際には、どの工程で多くの食品ロスが発生しているのかを把握し、作業内容の見直しを行うことが必要です。
食品のロスの発生要因としては、食品包装などに問題があるなどして回収した食品や、検食用として保管された食品もロスになります。
2)原材料や製造工程で発生する食品ロス
1.原材料のロス
一般的に原材料は、生産計画などに応じて入荷されますが、計画通りに生産されなかった場合や、入手時期が限られる原材料が賞味期限内に使用できなかった場合、ロスが発生します。
特に生産計画は、後述する取引先の販売計画や受注予測とも関連するため、場合によっては、社内で受発注などの情報を共有できるような仕組みを構築しておきましょう。
2.製造(加工)工程のロス
製造(加工)工程では、不可食部を取り除いた後の可食部の製造において、成形時の端材や設備トラブルなどによってロスが発生します。また、製造(加工)工程を経た後に、検品などの段階で発生する規格外品などがロスになります。
各工程の歩留まりの把握や各工程で生産効率が異なるために、例えば前工程の生産効率が後工程よりも高く、前工程の仕掛品が過剰生産になってしまうといったことが起きないように、場合によっては生産管理体制を整える必要があります。
なお、多くの企業では、生産管理に当たって、パッケージ型の管理システムを導入しています。こうしたパッケージ型の管理システムを販売している企業によると、多くの中小企業では生産管理に関するシステムと、後述する受発注に関するシステムなどとを連携していないケースが多く、社内で情報が一元管理されていないとのことです。データの連携によって、製造工程における食品ロスの発生を抑制することができるため、データの管理を見直すことも必要になるでしょう。
3)納品などの工程で発生する食品ロス
1.在庫によるロス
納品前の食品では、販売予定量以上に欠品対策余剰分が製造され、販売時期を過ぎた場合にロスが発生します。食品製造業では、発注を待ってから製造していては納品期日に間に合わないため、あらかじめ販売量を予測して製造が行われています。そのため、事前の予測と販売量の差異が大きいほど食品ロスが発生します。
ただし、欠品や品切れを起こした場合、販売機会の損失だけでなく、取引先の離反や、場合によっては、取引先から欠品によるペナルティーなどを科される場合もあるため、欠品対策余剰分を確保しておくことは必要なことであり、ある程度のロスの発生は免れませせん。
在庫によるロスの削減には、販売量の予測精度の向上や商品の長期保存を可能にすることで、在庫調整を行いやすくすることが欠かせません。販売量の予測精度を向上するために、場合によっては取引先と情報共有を行い、取引先店舗(小売業)と販売計画やPOS(販売時点情報管理)・在庫データの共有といった取り組みも重要になるでしょう。
なお、担当者が経験などに基づいて判断してきた販売計画や需要予測にAIを活用することで、食品ロスの発生を抑制するサービスもあります。こうしたAIを活用したサービスでも、月額1万円程度など、安価に利用できるものもあるため、中小企業であっても、導入へのハードルが低くなってきているようです。
2.返品によるロス
加工食品などの場合、卸売業や小売業などの取引先から返品が生じることで、食品ロスが発生します。なお、製・配・販連携協議会の調査によると、卸売業からの返品理知は売上比0.44%となっており、小売業よりも多くなっています。その主な理由は、定番カット(随時の商品改廃)や納品期限切れなどです。返品処理には多大な手間と時間が必要となるため、返品商品の多くは廃棄されています。
返品によるロスの削減には、自社と取引先双方の取り組みが必要であり、例えば自社は次のような点に取り組むとよいでしょう。
1.社員への啓蒙
返品によって食品ロスが発生することを社員に啓蒙し、原則として返品不可という方針を社内に明確に打ち出し、例外的に受け入れる場合でも、条件をあらかじめ設定しておき、責任を明確にする
2.返品実績の把握
自社の返品実績(商品別・地域別・取引先別・前年度比等)を把握し、実態を踏まえた対策を行う
3.不当な返品の防止
買取商品は返品を受け付けないことを徹底し、返品を受け入れる場合は、あらかじめ返品に係る取り決めを定めた文書(返品確認書)を事前に取り交わす
前述した食品製造業、卸売、小売での情報共有や納品期限・賞味期限の見直しといった取り組みの他、新商品や特売商品は事前に発注数や供給ルールを調整したり、取り扱いをやめる商品(カット商品)は店舗在庫完売とともに、物流センター在庫を完全消化するために、カット日を前倒しにするといった供給ルールの見直しを、関係者で事前に取り決めておくことが必要です。
以上(2019年8月)
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画像:unsplash