書いてあること

  • 主な読者:新商品の投入や新たな客層の獲得を目指す食品事業の経営者
  • 課題:自社の新商品開発や新たな客層の獲得は、どうすれば成功するのか
  • 解決策:市場が拡大するプロテインの傾向、事例を把握し、顧客獲得の参考にする

1 コンビニでもプロテインがたくさん

最近、コンビニエンスストアの棚にもプロテインや高たんぱくをアピールする商品を目にする機会が増えてきました。

プロテインを製造、販売する明治の資料(詳細は後述)によると、国内の市場は2015年~2019年で2倍以上に拡大しているようです。

直近では、新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛期間中に、改めて人々の健康への意識が高まり、体に必要な栄養素の一つとしてプロテインやサプリメントなどが注目されています。

本稿では、プロテインや高たんぱく食品(以下、「プロテイン」)の普及の背景や、どんな層が市場をけん引しているのかをまとめています。

人々のライフスタイルが大きく変わっている今、こうした変化に対応した商品の開発によってビジネスチャンスをつかんでいる事例は、他の業種の経営者にとっても参考になるのではないでしょうか。

2 プロテインの消費者の広まり

1)健康意識の高まりが追い風に

プロテインは、もはや「筋肉ムキムキのマッチョだけのもの」ではなくなっています。プロテインの消費者は、スポーツを日常的に行ったり、ジムを定期的に利用したりする若者、歩行機能の維持に取り組む高齢者などにも拡大しています。

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2)ライト層(一般的なジム利用者、健康意識の高い若者)の認識

アサヒグループ食品が健康意識の高い女性に対して行った調査によると、プロテインを飲んでいる人は、プロテインのイメージとして「筋肉が増加しそう」(69.4%)「栄養補給ができる」(52.4%)「健康に良い」(28.5%)などが回答の上位を占めています。

その一方、プロテインを飲んでいない人は、「筋肉が増加しそう」(77.5%)「栄養補給ができる」(39.2%)に加え、「お金がかかる」(29.5%)「美味しくない」(27.4%)「男性が飲むイメージ」(25.4%)「筋肉隆々の人が飲む」(22.1%)などのイメージがあり、こうした見方がプロテインの敬遠につながっているようです。

3)ライト層確保には「お手軽さ」がポイント ~消費者の声~

では実際に、ライト層の消費者は、どのような理由でプロテインを飲んでいるのでしょうか。普段からジムに通い、プロテインを飲んでいる女性などによると、以下のような意見が聞かれました。こうした意見は、ライト層を獲得する際の「ストーリーマーケティング」(例:粉末からドリンクへのシフト)の参考になるでしょう。

  • 飲むきっかけ:
    運動不足解消やダイエットを目的にジムに通い始めた。基礎代謝を上げ、脂肪を燃焼しやすい体を作る上でたんぱく質が必要と知り、プロテイン(粉末)を飲み始めた
  • 飲んで気づいたこと(飲む前~飲んだ後):
    プロテイン(粉末)は、大きな袋や缶に入っており、飲むたびに計量カップで計測し、専用のシェーカーに入れて混ぜる必要がある。空気が入りうまく溶け切らないこともある。飲み終わったシェーカーの洗浄も面倒で、中身が溶け切らずにシェーカーにこびり付き、なかなか取れないこともある
  • 飲んで気づいたこと(保存):
    トレーニングができずに日数がたつと、プロテイン(粉末)は湿気を吸収し、飲めなくなることもある。また、キッチンや冷蔵庫の中でスペースを占めるため、継続的に消費する必要がある

こうしたライト層の認識や実際の声を考慮すると、以下のような工夫は、ライト層の取り込みに効果的といえるのではないでしょうか。

  • 女性向けを意識し、脂肪ゼロのアピールや、カラフルなパッケージを提案する
  • 大容量の缶やパックでなく、容量を減らして価格を抑え、消費しやすくする
  • 普段の食生活に無理なく取り入れられるよう、お菓子やヨーグルトなどで販売する

3 客層の拡大とともに広がるプロテインの主な商品群

ライト層が加わることでプロテインの裾野が広がる中、実際に各社から新たなニーズに対応したさまざまな商品が発売されています。従来のプロテイン(粉末)だけでなく、そこから派生して、オフィスで間食として食べられるバーや、朝食に向いた消化の良いヨーグルトなどもあります。

裾野が広がったプロテインの特徴をまとめると、以下のようなものとなります。図表内のオレンジ色の網掛けの従来の商品から、青の網掛けの新興の商品が派生しています。

こうして見ると、一部のコアな層向けだったプロテインが、さまざまな層向けの幅広い商品群となって活躍しているのが分かります。

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1)プロテイン(粉末)

プロテイン(粉末)は、既に広く普及している商品です。従来、ボディービルダーやアスリートなどが筋肉の増強を目的に飲んできました。近年ではライト層にも普及しており、それに合わせて、飲みやすいようにヨーグルト味や各種のフルーツ味などが登場したり、筋肉の増強よりも体の引き締めを主な目的とした商品などが登場したりしています。国内では、1980年に発売された明治の「ザバス」シリーズが大きなシェアを占めています。

■明治 ザバス■
https://www.meiji.co.jp/sports/savas/

2)サプリメント

サプリメントは、筋肉の増強に不可欠なたんぱく質を構成するアミノ酸を効率的に摂取できます。既にたんぱく質よりも細かな単位まで分解されているため、プロテインよりも早く体内に吸収されます。アミノ酸には、体内で生成が可能なグルタミン酸やグリシンなどの「非必須アミノ酸」と、食物などから摂取する必要があるバリンやロイシンなどの「必須アミノ酸」があります。多くのサプリメントは、両者が最適なバランスで配合されています。

DNSなどの、プロテインを主な商品として製造、販売する企業が比較的多くのラインアップを取りそろえています。

■DNS■
https://www.dnszone.jp/index.php

3)プロテイン(ドリンク、お菓子など)

従来のプロテイン(粉末)にありがちなイメージ、「作る手間が面倒」「粉っぽくてまずい」「気軽に買えない」などの弱点を克服するような商品として、近年急速に普及しているタイプです。また、パッケージもカジュアルなものが多く、ドリンク以外にも朝食や間食にできるヨーグルトやシリアルバーなども販売されています。

多くの商品が、たんぱく質を5~15グラム程度含んでいるため、普段の食事で不足するたんぱく質をカバーすることができます。この商品群には、明治などのプロテインを長年製造、販売してきた企業だけでなく、食品メーカーや製菓メーカーなども数多く参入しています。

■明治 ザバス MILK PROTEIN■
https://www.meiji.co.jp/dairies/milk_drink/savas-milk/#top
■アサヒグループ食品 1本満足バーシリーズ■
https://www.asahi-fh.com/products/balanced-food/1pon-manzoku/#protein

4)機能性表示食品

プロテインや高たんぱく質の商品の中には、機能性表示食品をアピールするものも登場しています。機能性表示食品とは、事業者の責任で、科学的根拠に基づいた機能を表示した食品で、販売前に食品の安全性や機能性に関する情報を消費者庁長官へ届け出る必要があります。

マツモトキヨシは、プライベートブランド「matsukiyo LAB」から、日本初とされる機能性表示食品のプロテインバーを2020年9月から販売しています。このプロテインバーは、肥満度を表す指標であるBMI(ボディ・マス指数)の数値を下げる効果があるローズヒップ由来のティリロサイド(ポリフェノールの一種)を含んでいます。

■マツモトキヨシ matsukiyo LAB■
https://www.matsukiyo.co.jp/mkc/matsukiyolab/index.html

5)高たんぱく 調味料

普段の食事に加えることで、たんぱく質を効率的に取ることができる調味料も販売されています。この調味料は、さまざまな料理に応用することができます。

例えば、美容や健康に対する意識の高い消費者向けに植物由来のプロテインなどを販売するソライナは、えんどう豆から抽出した「えんどう豆プロテイン」をふりかけとして販売しています。「納豆風味」「味噌風味」「カレー風味」の3種類があり、米に不足する必須アミノ酸のリジンを摂取することができます。

また、UHA味覚糖も、糖質を抑えたノンオイルの高たんぱくドレッシング「プロドレ」を販売しています。

■ソライナ■
https://solaina.jp/
■UHA味覚糖 プロドレ■
http://prodre.com/

6)高たんぱく 食品

近年のプロテインブームを背景に、日本人になじみのある食品が、高たんぱく質食品としてのイメージを打ち出しています。コンビニで販売されている「サラダチキン」が、高たんぱく食品として注目を集め、健康意識の高いサラリーマンなどのランチとして販売されています。

また、一昔前までは、つまみのイメージがあったサバ缶や魚肉ソーセージなどにも注目が集まっています。魚介類が原料のため、たんぱく質やカルシウム、DHAなどの栄養が豊富に含まれています。

例えば、吉永鰹節店(高知県)は、カツオを使った生節「超鰹力」(ちょうかつりょく)を販売しています。従来の生節と異なり、若者に受け入れられやすいイラストを採用し、高たんぱくや低脂肪、DHA含有などをアピールしています。

■吉永鰹節店(ウェブサイト「土佐のかつお屋」で販売)■
https://www.tosano-katsuoya.co.jp/

4 プロテイン市場の拡大要因

最後に、プロテイン市場の拡大要因を整理し、グラフで市場規模を確認してみましょう。

1)さまざまな要因で市場拡大

プロテイン市場拡大の背景には、フィットネスブームや健康意識・環境意識の高まり、プロテインの品質向上など、さまざまな要因があります。

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2)「コンビニプロテイン」が市場をけん引

日本国内のプロテインの市場規模は、各市場調査会社によりばらつきがあるものの、数百億円規模といわれています。

明治のプレスリリースによると、日本国内のプロテインの市場規模は次の通りです。なお、同社の資料では、プロテインの区分が明示されていないため、本稿で紹介する商品が含まれていない可能性があります。

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同社は、2019年の市場規模を555億円と推計しています。特に、2015年以降は拡大が急ピッチに進んでいることが分かります。2015年は、同社がそれまで販売してきたプロテイン「ザバス」シリーズ初となるプロテインドリンク「ザバス MILK PROTEIN」が市場に投入されました。

この商品は、1本当たり15グラムのたんぱく質を含んだプロテイン(ドリンク)で、プロテイン(粉末)の「袋から粉末をカップで計量し、容器に入れて水と混ぜる」手間をなくすことができました。さらに、コンビニなどの一般消費者の目に付く店舗で販売をしたことで、ライト層の認知度が高まり、急速に広まりました。

同社によると、2019年のザバス MILK PROTEINなどの「ザバスミルク」の売上高は134億円に達しています。ザバスミルクのみで、プロテインの市場全体の約24%を占めていることになります。

明治の動向から、ザバスミルクのような「コンビニプロテイン」が市場の中で大きなシェアを占めてきているといえるでしょう。

以上(2020年11月)

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画像:pexels

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